
(ウリベ・コロンビア大統領(右)と言葉を交わすサントス国防相(新大統領) いかにもラテン系のチャベス・ベネズエラ大統領と比べると、ちょっと“こわもて”の感も。
“flickr”より By a-ser-definido http://www.flickr.com/photos/36488424@N03/3367325606/)
【誘拐も213件と大幅に減少】
世界最悪の誘拐多発国として知られた南米・コロンビアでしたが、南米の数少ない右派・親米政権であるウリベ大統領が国内の反政府左翼ゲリラや麻薬組織への強力な掃討作戦を進め、劇的な治安回復を実現したことは周知のところです。
6月20日の大統領選挙においても、当初の接戦予想を覆して、ウリベ大統領の後継者であるサントス前国防相が圧勝しました。国民は、変革よりは、ウリベ政権の成果の継続を選択した形です。
****伸びる海外からの投資=治安改善のコロンビア―出遅れ目立つ日本企業*****
殺人や誘拐の多発国として悪名高かったコロンビアの治安が急速に改善し、海外からの投資が活発化している。しかし、日本企業はまだ及び腰で、現地駐在員の間からは「バスに乗り遅れる」と懸念の声も強い。
◇事件大幅減で投資3倍に
コロンビアでは反政府左翼ゲリラや麻薬組織などによる暴力がはびこり、ウリベ大統領就任前の2001年には殺人が2万7841件、誘拐も2917件発生。人口10万人当たりの発生率では世界最悪レベルとなっていた。同大統領は国軍や警察の規模を拡大・強化し、09年には殺人件数を1万5817件、誘拐も213件と大幅に減少させることに成功した。
治安の改善に伴い各国はコロンビアへの進出を急ぎ、中央銀行によると、海外直接投資は世界不況にもかかわらず、09年は72億ドルと01年に比べ約3倍に増大した。
寺沢辰麿駐コロンビア大使は、米国にとってコロンビアが4番目の援助国であり、反米政権の多い南米諸国の中で、同国が米国と良好な関係を維持していることは「投資家にとっての担保になっている」と指摘。さらに、労働の質の高さ、民間企業の国有化の実例がないことも外国企業の進出には有利に働くと述べている。【7月22日 時事】
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2001年の「殺人が2万7841件、誘拐も2917件」から、09年の「殺人が1万5817件、誘拐も213件」ですから、“劇的な改善”であることは間違いありません。
ただ、09年の数値も、治安には定評のある日本の感覚からすると、まだ「とんでもない数字」ではあります。
日本企業が二の足を踏むのももっともです。
3月23日には南西部カンデラリア在住の筒井雅夫さんが犯罪グループに誘拐されていますが、その後、FARCに身柄を売り渡された可能性があるとも言われています。
【報奨金目当ての軍によるゲリラねつ造・処刑】
いずれにせよ、“劇的な治安改善”を実現したウリベ政権ですが、その強権的性格、軍の横暴には批判があることも事実です。
****消えた若者 突然「戦死」*****
南米コロンビアで、ある突然町から消えた若者が、遠く離れた土地で「戦闘で死んだゲリラ」として遺体で見つかる事件が相次いでいる。多くが、報奨金目当ての軍兵士の犯行とされる。2002年からのウリベ政櫓下で治安は大幅に回復。しかし、軍による人権侵害事件への懸念は高まっている。(ボゴタ=平山亜理)
「ゲリラだった」軍ねつ造?
・・・・町では、行方不明になった青年が「軍との戦闘中に死んだゲリラ」として遺体で見つかる事件が相次いでいた。08年以降14人。サイズが全く合わないゲリラの制服を着ていたり、左利きなのに右手に拳銃を持って死んでいたり、不自然なことが多かった。
・・・・ボゴタ市の宣房長だづたクララ・ロペスさんが、ボゴタと周辺の若者が相次いで遺体で見つかっていると報告を受けたのは08年10月のことだ。
みな18~25歳の若者で「戦闘中に死んだゲリラ」とされ、行方不明になってわずか1、2日後に遺体となって安置所に運ばれていた。
「たとえ本当にゲリラにリクルートされたとしても、翌日に戦闘現場で死ぬなんてあり得ない」。ロペスさんの告発は反響を巻き起こした。
国防省が05年、戦闘中にゲリラを殺害した兵士に報奨金を与えるガイドラインを示していたことも明らかになった。ロペスさんは「山奥でゲリラと闘うより、普通の若者を殺して『ゲリラ』にすることを選んだ兵士もいただろう。その方が楽だから」などと話す。
犠牲者数については諸説あるが、検察当局者は「(全国で)1300件を捜査中」と明かす。コロンビア政府は個別の事件に兵士が関与したことは認めるが、あくまでも「軍内の腐った一部の人関による犯罪」との立場。多くの兵士が告発されながら、有罪判決に至った例はごくわずかだ。
ソアチヤのオンブズマン、エスコバルさんと遣族たちは、地元の小中学校や高校をまわって少年らに被害に遭わないよう訴える。被害者に共通するのは、学歴が低く、貧しいことだ。軍の兵士が職のあっせんを装って若者に近づく例も報告されている。
失業率はボゴタの倍近く。実際、町には左翼ゲリラ組織「コロンビア革命軍」(FARC)などがリクルートに来る。だから、兵士たちはこの町の若者に目をつけた、とエスコバルさんは考える。
国際的にも懸念の声
02年就任のウリベ大統領はFARCに対する武力制圧を進め、大幅に治安を回復。6月の大統領選決選投票では、後継者のサントス前国防相が圧勝した。
ただ、軍による人権侵害をめぐっては国際的にも懸念の声が上がる。昨年6月には国連人権理事会の委嘱を受けた報告者が軍による一連の市民殺害の調査に入り、今年3月報告書を提出。事件の背景について、軍内に「ゲリラ対策で『成果を見せなければならない』とのプレッシャーがあった」と指摘した。コロンビア政府には全事件を調査し、戦闘中の殺害に対する報奨金を禁止するよう求めた。
8月に新大統領に就任するサントス氏は一連の事件が表面化したときの国防相。大統領選の対立侯補、緑の党のモックス元ボゴタ市長はその責任を追及した。サントス氏は「軍内部でこんな事件が起きたのを知った時、胸が張り裂けそうだった」とする一方、FARCに対する強硬姿勢は崩さず、「一切の譲歩はない」とゲリラ制圧作戦を強める構えだ。【7月23日 朝日】
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国防相だったサントス新大統領の「軍内部でこんな事件が起きたのを知った時、胸が張り裂けそうだった」という発言は、あまりにも“見え透いて”います。
それでも、遺族・関係者以外の国民にとっては治安改善が優先するというのも、すさまじい殺人・誘拐の横行を考えると理解できるところでもあります。
サントス新大統領が人権面での配慮も見せることを願います。
【チャベス大統領、また対コロンビア断交】
ところで、そのコロンビアに対し、隣国ベネズエラの反米左翼政権・チャベス大統領が“また”国交断絶を宣言しています。
****ベネズエラのチャベス大統領、コロンビアとの断交を宣言****
ベネズエラのチャベス大統領は22日、コロンビアとの関係を断絶すると発表した。コロンビア政府は米州機構(OAS)の会議で、1500人のコロンビア反政府左翼ゲリラがベネズエラに潜伏しており、同国が黙認していると指摘。
これを受けチャベス大統領は、コロンビアの主張は米国に触発された「侵略」と批判、コロンビアとの国境に最大の警戒態勢を取る姿勢を示した。
ベネズエラのマドゥロ外相はコロンビアのボゴタにあるベネズエラ大使館を閉鎖するとともに、ベネズエラ国内のコロンビア政府高官に72時間以内に出国するよう命じた。さらに、コロンビアへの航空便の運行を一時的に停止するなどの措置も検討していることを明らかにした。【7月23日 ロイター】
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親米コロンビアのウリベ大統領と、反米の急先鋒ベネズエラ・チャベス大統領は、コロンビア国内の左翼ゲリラをめぐって、ことあるごとに衝突しています。
2007年11月28日には、左翼ゲリラFARCが拘束する人質45人の解放をめぐるコロンビア政府とFARCとの交渉仲介役から外されたことをチャベス大統領が怒り、「ウリベ大統領が大統領職にある限り彼やコロンビア政府といかなる関係も持たない」と宣言しました。
また08年3月には、コロンビア軍がエクアドル領内のジャングルにあるFARC基地を越境攻撃し、FARCのマルランダ最高司令官の後継者と目されていたラウル・レイエス副官を殺害した事件で、チャベス大統領は対コロンビア国境に陸軍10個大隊を終結させるとともに、コロンビアとまたも断交しています。
この越境攻撃で、コロンビア側は、チャベス大統領がFARCを資金援助していた事実をつかんだと言われています。
こうした経緯もありますし、日頃のチャベス大統領の言動から、「またか・・・」という感もあります。
チャベス大統領は、08年1月に議会で演説を行い、欧州や中南米各国の政府に、コロンビアの左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」などをテロ組織指定から解除するよう要請しました。
その際、「FARCやELNはテロ組織ではなく、コロンビアに領地を持つ正規軍として承認されるべきで、我が国で尊重される『21世紀の社会主義』的な政治思想を持った反乱軍だ」と語っています。
その信条からして、ベネズエラ国内にFARCが潜伏し、ベネズエラ政府の支援を受けていたとしても、何ら不思議ではありません。
政治的には対立を繰り返す両国ですが、隣国とあって経済的には緊密な関係があります。チャベス大統領の「断交宣言」もそう長く続かないのではないでしょうか。
【「21世紀の社会主義」を掲げるも・・・・】
ベネズエラ経済の状態は悪化しています。
****ベネズエラ 行き詰まる国営化戦略 中小への拡大、混迷深める恐れ *****
南米ベネズエラの反米左翼、チャベス大統領は2日、「国境なきブルジョアジー(資本家階級)に対する経済戦争」を宣言した。「21世紀の社会主義」を掲げる同大統領は、これまでも電力、エネルギー、通信産業など、インフラ部門を中心に国営化を進めてきた。最近、経済統制は小売業を含めて、さまざまな産業分野に及び、中小企業も接収の対象となっている。しかし、こうした政策は同国の経済発展に逆効果であり、経済危機をさらに深める恐れがある。(中略)
国有化の推進によって経済危機が深まり、暴動が起きる恐れも高まる。既存の国営部門、特に公的インフラ部門は、投資の不足や上限価格の設定、貧弱な経営のために、供給不足や停電を起こすなどして、業績はお粗末だ。国営企業の深刻な問題として、官僚主義、先見性の欠如、不透明な会計手続きがみられ、生産性が低く、汚職が起きやすい脆弱(ぜいじゃく)な体質となっている。(中略)
ベネズエラ政府は、経済を石油産業への依存から脱却させ、多角化を図ることに成功していないばかりでなく、経済転換のための効果的な政策を持っていない。一段と国有化を推進し、私的財産権に改めて挑戦することを通じて、供給不足に対処しようとしているが、チャベス大統領が進める資本家階級との「経済戦争」は、激烈な反資本主義感情を内包しており、同国の経済危機をかえって深める恐れが大きい。【6月10日 オックスフォード・アナリティカ】
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「21世紀の社会主義」「国境なきブルジョアジー(資本家階級)に対する経済戦争」といったもの言い、世界の潮流に逆らう国有化政策拡大・・・何やら北朝鮮の金政権とも似ているような・・・。
外交面での問題提起は、国内経済の行き詰まりを糊塗するためでは・・・とも勘ぐられます。あるいは、経済悪化を断交のせいにしようというのでしょうか。