
(フランス イスラム教徒の墓に落書きされたカギ十字 “flickr”より By screen miracle http://www.flickr.com/photos/39091037@N06/4813103603/)
【あいつぐ極右政党の躍進】
昨日は南アフリカの移民排斥の動きを取り上げましたが、そこでも触れたように、南アだけでなく欧州各国でも反移民感情の高まりが見られます。
4月に行われたハンガリー総選挙では、これまで国会の議席を持たなかった極右政党「ヨッビク」が26議席(定数386)と躍進しました。
“同国は、世界的な金融危機の影響を受け景気が低迷。08年には国際通貨基金(IMF)から緊急融資を受けたが、失業率は現在、約11%に達する。(過半数を制した中道右派の)フィデスは雇用創出や減税を訴え、与党への批判票を集めた。ヨッビクは国民の反感が根強い少数民族ロマ人による「犯罪」の取り締まりを強調し、国民の不満を取り込んだ。”【4月12日 読売】
なお、政権へ返り咲いたフィデスは「中道右派」とは言いながら、「ユダヤ資本」が「世界をむさぼり食おうとしている」と攻撃している政党です。
オランダでは、3月の地方選で、イスラム教徒排斥を唱える極右の自由党が主要都市で躍進して話題となりましたが、6月の下院総選挙においても、「オランダのイスラム化阻止」を掲げる極右・自由党、現有9議席を24議席(定数150)とし第3党に躍進しました。
“「オランダ人は犯罪、移民、イスラムの少ない国を選んだ。我々は政権に加わる用意がある」。ウィルダース自由党党首は9日深夜、ハーグ郊外での集会で宣言した。昨年の欧州議会選挙、今年3月の地方選に続く勝利。06年の結党から4年強で政権参加への足がかりをつかんだ。
勢力拡大の背景には移民の増加がある。オランダ南西部ロッテルダム(約60万人)では16年に住民の半分を外国系が占めるようになると予測されている。地方政党「住みよいロッテルダム」のソレンセン党首は「オランダは移民の受け入れに年間70億ユーロ(約7700億円)も費やしている。流入を阻止すべきだ」と主張する。”【6月10日 毎日】
オランダで第一党となった中道右派の自民党も「社会保障に全面依存するような、経済的に恵まれない移民の流入は止める」と表明しており、反移民の方向では極右・自由党と一致しています。
【「ブルカ」着用禁止法案】
こうした極右政党の台頭以外にも、ベルギー・フランス・スペインなどで、イスラム女性の“ブルガ”を禁止する法律制定の動きが進んでいます。
****フランス:「ブルカ」着用禁止法案を可決 下院*****
フランス下院は13日、イスラム教徒の女性が使う、顔や全身を覆う衣服「ブルカ」の着用を全面的に禁止する法案を賛成335票、反対1票で可決した。9月に上院で審議予定だが、その後、法律の違憲審査を行う憲法会議が違憲とする可能性もあり、法案の成立は微妙な状況だ。下院の判断には、人権団体などから「宗教・表現の自由への侵害だ」などの批判が出ている。
禁止法案は学校など公共の建物のほか、一般の道路や商店、交通機関など、社会のほぼすべての場所でのブルカ着用を禁止。また妻など女性にブルカを強制的に着用させた男性に対しても、最高で1年間の禁固と3万ユーロ(約350万円)の罰金刑を科した。
サルコジ大統領は昨年以降、ブルカを「女性の隷属の象徴」などと批判。政府が今年、全面禁止の法案を提出していた。国民の半数以上が禁止を支持するとの世論調査もある。
だが、イスラム教徒が約600万人と国民の約9%を占めるフランスの場合、ブルカ着用者は約2000人と少なく、「法の実効性がない」との批判が出ている。また、野党第1党の社会党は、多くの議員が公共の建物などでの部分的な禁止を求めており、この日の議決でも大部分が棄権した。
さらに、国内のイスラム団体からは「ブルカ禁止はイスラム批判につながる」との懸念が噴出。新法案の是非を政府に助言する国務院も3月、ブルカ全面禁止法案について「人権侵害の可能性がある」と指摘してもいた。
欧州ではベルギーが同様の法案を審議中で、スペインも禁止法を検討。オランダなども公共建物など一部の場所で禁止している。【7月14日 毎日】
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この“ブルカ”やスカーフの問題は、治安上の問題(全身を覆うブルガの下に武器・爆発物を隠しているかもしれない・・・)、女性の権利の問題、政教分離の問題なども絡んできますが、底流には増大するイスラム系移民への恐怖、文化的軋轢からの嫌悪感などが存在しているであろうことは想像に難くありません。
スイスでは昨年11月、イスラム教モスクのミナレット(尖塔)建設を国内で禁止する憲法改正案の是非を問う国民投票があり、大方の予想を覆して禁止賛成が多数を占めました。
【氏名を隠して履歴書を審査】
こうした反移民・反イスラムの風潮が拡大するなかで、注目されたのがドイツの取り組みを伝える下記の記事です。
****公平な人材採用でサッカー代表に続け、氏名を伏せて審査 独大手5社*****
2010年サッカーW杯南アフリカ大会のドイツ代表チームは、23人の登録選手中11人が移民系という多様性が功を奏し、3位という好成績を収めた。
だが、ドイツの労働市場で活躍を望む移民系ドイツ人たちには厳しい環境が続いている。多くの国では企業が求職者に配偶者の有無や誕生日、国籍などの個人情報を求めるのはタブーとされているが、ドイツでは求職者がこれらの情報に加え、自分の写真まで添えて求人に応募するのが一般的だ。
■多い移民系、根強い採用時の偏見
最新の統計によると、ドイツの人口の約20%は移民系が占めている。ドイツで最大の少数民族はトルコ系で、約300万人が暮らしている。その多くが、いわゆる「ガスト・アルバイター」として1960~1970年代にトルコからやってきた外国人労働者の子どもたちだ。
ドイツ連邦非差別局のクリスティン・リューデルス局長は、トルコ系の求職者が面接までたどりつく割合はほかの人たちより14%も低いと指摘する。
ボンの民間調査機関、労働力研究所が2010年に実施した調査によると、この傾向は特に中小企業で強い。従業員が50人未満の企業では「ファティーフ」や「セルカン」などトルコ系の名前よりも「デニス」や「トビアス」といったドイツ系の名前の人に積極的な対応をするという回答は24%に上った。
■氏名を隠して履歴書を審査
そこでドイツ連邦非差別局が企業に呼びかけ、氏名を隠して履歴書を審査する試みが2011年秋までの1年間にわたって試験的に行われることになった。家庭用品大手プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)や化粧品大手ロレアルなど大手企業5社が自主的に参加する。
リューデルス局長は、無意識な差別意識に採用活動が影響を受けることで、実は大きな犠牲を払っていることを企業に気づいてほしいと語る。
新たな試みの恩恵をうけるのは移民系の人びとだけではない。障害のある人や、幼い子どもがいる女性の求職者にとってもこの試みは有利になるはずだとリューデルス局長は話す。すでにフランス、スイス、オランダ、スウェーデンでなどでは、同様の試みが行われているという。【7月20日 AFP】
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“ドイツの人口の約20%は移民系が占めている”というのも、日本からするとすごいことですが、“氏名を隠して履歴書を審査する試み”というのも日本では考えられない取り組みです。
もちろん、こうした取り組みがどれだけ社会全体に影響を持つものかどうかは定かではありません。
単に、一部企業のイメージアップ戦略的な取り組みなのかもしれません。
ただ、とにもかくにもP&Gやロレアルといった大企業がこうした取り組みに参加するというのは、反移民の風潮とはまた異なる欧州・ドイツの側面を観る思いがします。