孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイとカンボジア  総選挙に向けた政治状況 タイは親軍勢力の「分裂選挙」 独裁色強めるカンボジア

2023-02-23 23:21:50 | 東南アジア

(タイの首都バンコクで、新内閣の写真撮影の際に高級時計を垣間見せた、軍事政権ナンバー2のプラウィット・ウォンスワン副首相兼国防相(2017年12月4日撮影、資料写真)【2018年1月24日 AFP】 この人物が総選挙後の政局のカギを握っているようです。)

【タイとカンボジアの近親憎悪的関係】
一般に隣国関係というのは、侵略したり、されたりという歴史、あるいは経済的競合などもあって「近親憎悪」的な関係にあることが珍しくありません。(“珍しくない”というより、“そういうことの方が多い”と言うべきかも)

日本に関しても思い当たるところはありますが、それはさておき、タイとカンボジアもそうした近親憎悪的関係のひとつ。

両国は隣国であるだけでなく、言語的にも非常に近いという文化的類似性がありますが、カンボジア側からすれば圧倒的なタイの経済力に対する屈折した思いもあります。

2008年に始まった国境に位置するプレアビヒア寺院の帰属をめぐる両国の国境紛争も、そうした複雑・屈折した関係を背景としてのものであり、また結果的に、複雑な関係を更に複雑化させるものでもありました。

そうしたカンボジア・タイ関係ですが、独裁色を強めるカンボジアのフン・セン政権と、タイの軍事政権・プラユット政権という似た者同士ということもあってか、近年は順調なようです。

****カンボジアとタイを結ぶ鉄道、45年ぶりに開通****
カンボジアとタイを結ぶ鉄道が22日、45年ぶりに正式に開通した。隣り合う両国間の移動時間の縮小と貿易の促進が狙いだ。
 
カンボジアのフン・セン首相とタイのプラユット・チャンオーチャー首相は、タイ側の国境で開かれた調印式に出席した。両首相はその後、タイ政府が寄付した車両に乗りカンボジアのポイペトへ移動。列車から降りた2人は、固く握り合った手を掲げ、両国旗を振る群衆の歓声を受けた。
 
フン・セン首相は、今回の2人の旅を「歴史的」と評し、タイ政府による、両国を結ぶ鉄道復旧の取り組みに感謝の意を表した。さらに、この鉄道がカンボジアと他の隣国との関係を深め、経済と貿易を拡大させることに期待も寄せた。
 
カンボジア政府は昨年、首都プノンペンからタイ国境へ向かう全長370キロの鉄道の、最終区間の運行を再開していた。 【2019年4月23日 AFP】
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ただ、複雑な両国感情はそう簡単に払拭されるものでもなく、折に触れ噴出することにもなります。

****「ムエタイ」ではなく「クンクメール」 タイとカンボジアが対立****
タイ政府は24日、格闘技「ムエタイ」について、5月にカンボジアで開催される東南アジア競技大会(SEA Games)でタイ語の名称ではなくカンボジア語の名称を使用する計画があることに反発し、大会をボイコットすると発表した。
タイ政府当局者は、同国の国技であるムエタイをカンボジアは自らの国技であるとして「クンクメール」という名称を使おうとしていると非難している。

一方、カンボジア政府は、世界的にはムエタイという名称の方が知られているが、競技の発祥地はカンボジアだと主張している。カンボジアが同大会を主催するのは初めて。

タイのオリンピック委員会のチャルーン・ワタナシン副委員長は、国際オリンピック委員会(IOC)はクンクメールという名称を承認していないと指摘。AFPの取材に対し、「国際的な規則に違反しており、タイからのムエタイ選手の参加は見送る」と述べた。

カンボジアの東南アジア競技大会組織委員会の幹部バット・チャムロン氏は、「開催国には競技名をクンクメールに変える権利がある。競技はクメール発祥で、われわれの文化だ」と、AFPに説明した。

世界プロムエタイ連盟(IFMA)のステファン・フォックス事務局長はAFPに対し、「柔道が空手ではないように、クンクメールはムエタイではない。似ている点はあるかもしれないが、クンクメールには公認の連盟がない」と述べた。【1月25日 AFP】
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【タイ 5月7日総選挙 親軍勢力の「分裂選挙」 選挙戦は野党がリードするも、カギを握るのはプラウィット副首相】
でもって、ともに総選挙を控えた両国の最近の政治情勢。
先ずタイの話。タイでは5月7日の総選挙に向けて「政治の季節」に突入しています。

****タイ首相、3月の下院解散表明 総選挙5月7日の公算****
タイのプラユット首相は21日、3月に下院を解散すると表明した。総選挙は5月7日となる可能性が高い。

プラユット氏は、選挙委員会が日程で合意するには今月末まで時間が必要だと指摘。3月の下院解散により候補者準備に十分な時間が取れると説明した。

記者団から選挙は5月7日になるのかと問われると「もちろんだ」と答えた。

選挙戦は既に始まっており、世論調査によるとプラユット氏(68)は、タクシン元首相の娘のペートンタン氏(36)にリードされている。ペートンタン氏は、最大野党「タイ貢献党」を代表することになる。

プラユット氏は2019年の総選挙では「国民国家の力党」の首相候補だったが、今回の選挙では新党「タイ団結国家建設党」に加わり続投を目指す。

一方、国民国家の力党はプラウィット副首相(77)を首相候補とする方針。同氏はプラユット氏の陸軍時代の上官に当たる。

政府報道担当官はこの日の会見で、総選挙は5月初旬に実施し、結果は7月上旬に発表される見通しだと述べた。

7月末までに新議会が首相を選出し、組閣は8月上旬になるとし、それまではプラユット政権が暫定的に政権運営を行う予定だと説明した。【5月22日 ロイター】
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上記記事もあるように、プラユット氏は与党「国家の力党」を離脱して、独自の新党を結成、一方与党「国家の力党」はプラウィット副首相を首相候補として戦うという軍人政党の“分裂選挙”となっています。

一方で、選挙戦をリードするのはタクシン元首相の娘のペートンタン氏が牽引する「タイ貢献党」です。ただ、野党「タイ貢献党」が選挙で第1党になっても、軍部が政権を維持できる制度になっています。

****タイ次期首相、軍出身2人が競う 権力争いが激化****
5月までに下院総選挙が実施予定のタイで、親軍派の権力争いが激化している。国軍出身のプラウィット副首相が親軍最大与党「国民国家の力党」から次期首相候補として正式に指名され、続投を目指して新党から出馬するプラユット首相と対決する構図になった。多数派形成に向けて、双方による政治家の引き抜きが活発になっている。

「首相になる準備はできている」。力党の党首でもあるプラウィット氏は1月末、政治資金パーティーで意欲を示した。同氏はプラユット氏が2014年に軍事クーデターを決行した時からナンバー2として支えてきた。19年の下院総選挙後にプラユット氏は力党の支持で首相に就いたが、党務はプラウィット氏が取り仕切ってきた。

プラウィット氏はプラユット氏の元上官で「兄弟」と呼ばれる間柄だ。調整力にたけており政財界に強い影響力を持つ。首相を目指す決心をしたのは、有権者の人気が低下するプラユット氏では選挙に勝てず政権を失う可能性があるためだ。

力党の後押しを得られなくなったプラユット氏は、自身の支持派が立ち上げた新党「タイ団結国家建設党」に参加して首相続投を狙う。水面下で力党所属の下院議員などに移籍を呼び掛けている。

力党は19年の下院選で定数500議席のうち116議席を獲得したが、相次ぐ離党で足元では70議席程度まで減った。

プラウィット氏は巻き返しに動いている。政治資金パーティーを開いた日に、20年に離党したウッタマ前党首の復党を発表した。学者出身のウッタマ氏は財務相を務めていたが、党内の閣僚ポストを巡る争いに巻き込まれ辞職した。その後、自ら政党を立ち上げた同氏をプラウィット氏が再び招き入れた。

世論調査ではタクシン元首相派の最大野党「タイ貢献党」に勢いがあるが、下院選後も親軍政権が続く可能性は高い。首相指名選挙は下院議員(定数500)と、軍政下で任命された上院議員(定数250)の合同投票となる。上院議員は国軍の意向に従うとみられ、親軍派に有利な仕組みのためだ。

下院選後のシナリオは大きく2つある。一つは親軍政権を維持するための力党と建設党の連立。もう一つは力党と貢献党の連立だ。貢献党はタクシン派政権をクーデターで倒した張本人であるプラユット氏とは組めないが、プラウィット氏なら許容できるという見立てだ。「今後はプラウィット氏を中心として政局が動く可能性が高い」(外交筋)との見方が出ている。【2月7日 日経】
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前にも書きましたが、タクシン支持「タイ貢献党」と親軍「国民の力党」の大連立・・・以前は考えられない仇敵同士の組み合わせですが、そんなことがあるのでしょうか。

政局の中心にいるプラウィット副首相は表舞台に名前が出ることは少なかったのですが、唯一話題になったのは2018年の“高級腕時計”

****タイ副首相、未申告の高級時計25個所持? 友人から借りたと釈明****
タイ軍事政権ナンバー2のプラウィット・ウォンスワン副首相兼国防相が多数の高級時計を未申告で所持している疑いが浮上し、政権に対するあからさまな批判が珍しい同国で、辞任や徹底追及を求める声が高まっている。
 
12月以降、プラウィット氏が身に着けている腕時計を数えているフェイスブック(Facebook)ユーザーのページによると、高級腕時計は25個に上っている。

内訳はロレックス(Rolex)11個、パテックフィリップ(Patek Philippes)8個、リシャール・ミル(Richard Milles)3個などで、総額120万ドル(約1億3000万円)相当。

これらの時計は就任時に公開された資産目録には含まれておらず、比較的質素な公務員給与でどうやって高級時計を入手できたのか疑問が生じているが、プラウィット氏本人は、友人からの借り物ですでに返却したと説明している。【2018年1月24日 AFP】
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野党「タイ貢献党」の首相候補に担がれたタクシン元首相の次女ペートンタン氏は妊娠中で、丁度投票日の頃が出産予定日。

****タクシン元首相の娘、「タイ貢献党は未完の仕事やり遂げる」****
5月に予定されているタイ総選挙で最大野党「タイ貢献党」からの出馬が見込まれる、タクシン元首相の次女ペートンタン・シナワット氏(36)はロイターのインタビューで、タイ貢献党は2001年以来3度にわたり政権の座に就きながら裁判所の判決やクーデターで中断し、未完となっている仕事をやり遂げると決意を示した。

ペートンタン氏が総選挙を控えて外国メディアの正式なインタビューに応じたのは初めて。

シナワット家はタクシン元首相やインラック元首相などを排出した富豪の一族で、大衆迎合的な政策を掲げ、選挙で大きな勝利を上げてきた実績を持つ。

ペートンタン氏は地滑り的大勝利でタクシン氏やインラック氏を政権の座に押し上げた熱気を再び巻き起こそうと、タイ貢献党の地盤である地方で懸命に選挙戦を展開中。昔を懐かしむ労働者階級からの支持を集め、有力候補に浮上している。

タイ貢献党の政策について「政権を握った最初の年に全て解決しようとしたが、その4年後にクーデターで追放され、やり残していることがある」と指摘。「だから私たちの政策がいかに人々の生活を変えることができるかを各段階で伝える。安定した政治によってのみ人々の生活の持続的な変化は可能になる」と訴えた。

自身が妊娠7カ月目であることについては「大丈夫だ。2度目の妊娠で自分のことは分かっている。無理はしない」と述べた。【2月20日 ロイター】
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前回総選挙で躍進した、タクシン対反タクシン・軍部の構図からの脱却を目指す“第3極”の「新未来党」は2019年にタナトーン党首が議員資格をはく奪され、翌20年には憲法裁による解党命令を受けましたが、後継政党である「前進党」がタナトーン氏とともに新未来党結党に参画したピタ氏を首班候補に立てて戦う形になっています。

【カンボジア 7月23日に総選挙 独裁色を強めるフン・セン首相、次男を後継者として政権批判メディアへの圧力を強める】
カンボジアの方は7月23日に総選挙が予定されています。
カンボジアに関しては情報が限られていますが、フン・セン首相の独裁傾向がいよいよ強まり、自身の長男を後継者にすることを目論んでいるようです。政権に批判的なメディアへの圧力も強まっています。

****最後の言論の自由が奪われる 総選挙控えたカンボジア首相、独立系メディアの免許剥奪****
<事実上の一党独裁体制がより堅固なものになるのか......>

カンボジアのフンセン政権は2月13日、政府批判など国民の立場に立った言論活動を続けていた独立系ネットメディア「ボイス・オブ・デモクラシー(VOD=民主主義の声)」のメディアとしての免許を停止することを関係機関に命じた。これにより14日以降VODのウェブサイトへアクセスできない事態に陥っている。

VODは政府による言論弾圧が続くカンボジアで唯一残されたメディアといわれ、過去約20年間にわたって社会の不正や政府の腐敗を鋭く追及。国民や国際社会から注目されたメディアだった。

フンセン政権は7月23日に総選挙を控えており、選挙前にメディアによる政権批判を封じ込めようとの思惑が今回のVOD閉鎖命令になったとみられている。

引き金は首相の息子批判
今回の免許取り消しはフンセン首相の長男であるフンマネット国軍副司令官に関わる報道が直接的なきっかけになったとされている。

それは2月9日にフンマネット氏がトルコ・シリア地震被害に対する政府支援金として1万ドルの政府支出を承認したことが「重大な権限違反」としてVODが報道したことにあるという。カンボジアの法律ではこうした対外援助を承認できるのは首相のみとされている。

フンセン首相は自分が不在だったため息子が代わって承認したもので「なんら問題ない」とフンマネット氏の承認を正当なものであると主張している。

フンマネット氏はフンセン首相の後継者の最有力候補であり、身内でもあることからカンボジアではフンセン首相とならんで「アンタッチャブル(触れることのできない)」な存在となっており、VODの報道はその一線を越えてフンセン首相の怒りを買ったとの見方が有力だ。

独裁政権への歩み フンセン首相
カンボジアは一部の独立系メディアを除いて報道の自由は存在しないマスコミ暗黒の国とされてきた。それはとりもなおさず1998年から続く長期独裁政権を続けるフンセン首相の強権弾圧政治の反映でもある。

実質的な1党独裁国家ともいわれるカンボジアはフンセン首相による政敵排除と反政府系メディア弾圧が特徴とされている。

2017年にはフンセン首相の専制を批判する野党救国党のサム・ランシー党首を逮捕、告訴(名誉棄損)などで辞任させ、後継者のケム・ソカー氏も逮捕するなどして救国党を解散に追い込み、フンセン首相の人民党の実質1党支配が現在まで続いている。

サム・ランシー氏はフランスに亡命しており現在もカンボジアへの帰国ができない状況が続いている。

フンセン首相は元々ポルポト率いるクメール・ルージュの下級指揮官だったが、ポルポトの極端な政策に嫌気をさしてベトナムに亡命、ベトナムがカンボジアに侵攻してポルポト政権を倒すと同時にカンボジアに帰国。以後、政治家として着実に地歩を固め、連立政権を組んでいたフンシンペック党のラナリット殿下が外遊中の1997年に軍事クーデターを起こし最終的に実権を掌握したという過去がある。

各国政府や人権団体が一斉に政権批判
今回のVODの閉鎖命令に対し各国政府や人権団体などから大きな批判を浴びている。

プノンペンの米国大使館は声明を出して「自由で独立した報道機関は民主主義が機能するうえで重要な役割を果たし、国民が意思決定するに際して事実を提供し政府に説明責任を負わせる」とメディアの存在意義を強調してVOD閉鎖の再考を求めた。

またカンボジアの「欧州連合(EU)」代表団は声明を出し「情報へのアクセスと言論の自由は民主主義の社会の基本的心情であり、自由で公正な選挙の基盤でもある」とフンセン首相の決定を批判した。

英ロンドンの人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は「今回の措置はカンボジア国内の独立系メディアの残された者に扉を閉めようとする露骨な試みであり、総選挙前に批判的な声に明確な警告を発した」と批判した。

仏パリに本部を置く「国境なき記者団」は2022年の世界各国の報道自由度ランキングでカンボジアを180カ国中142位に位置づけている。事実、フンセン政権は2017年にも「カンボジア・デイリー紙」と米系の「ラジオ・フリー・アジア」、「ボイス・オブ・アメリカ」など少なくとも15のラジオ局を閉鎖させている。

こうしたメディア弾圧の動きは翌2018年に総選挙が実施されることを前提にして行われたとされ、今回のVODの閉鎖も総選挙前という一致点がある。裏を返せばフンセン首相がそれだけ独立系メディアの存在が総選挙に与える影響力を懸念していることの表れともいえるだろう。【2月22日 大塚智彦氏 Newsweek】
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フン・セン首相が中国との関係を強化しているのは周知のところであり、カンボジアはASEANにあって中国の代理人的存在にもなっています。そうしたフン・セン首相にすれば、欧米の批判などとるに足らないものでしょう。
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