孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

フィリピン 「積極広報」で中国の南シナ海進出に対抗 一方、中国との関係を深めるマレーシア

2024-06-21 21:31:12 | 東南アジア

(19日、マレーシア東海岸鉄道ゴンパック駅の着工式で、鉄の棒を押して工事を始動させる李強総理(左)とアンワル首相【6月19日 新華社】)

【フィリピン 「積極広報」で中国側の“暴挙”を国際世論に訴える リスクも】
南シナ海の領有権をめぐる中国とフィリピンの対立が先鋭化し、トラブルも多発、連日報道がなされています。

(【6月20日 ABEMA NEWS】 双方の船が入り乱れての大混乱)

(【同上】フィリピン側ゴムゴートにナイフで穴を開ける中国側)

****比軍兵士の指切断し銃押収と報道 中国、南シナ海で先鋭化****
南シナ海のアユンギン礁周辺で17日に起きた中国とフィリピンの船舶衝突で、フィリピンメディアGMAは18日、中国による攻撃的行動でフィリピン兵8人が負傷し、うち1人が指を切断したと報じた。銃8丁を押収されたという。

一方、中国メディアは18日、中国海警局が新法令に基づき「フィリピン船への初の臨検を実施した。さらに強力な措置も可能だ」と報じた。中国による威圧的行動が先鋭化し、摩擦が高まっている。

GMAが報じた関係筋の情報によると、中国はフィリピンのボート4隻を一時拿捕した。交渉の末に解放されたが、中国側は穴を開けた。【6月18日 共同】
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指切断・・・下記のような状況で起きたもののようです。

****おのvs素手 南シナ海での中国「臨検」 フィリピンが動画公開****
フィリピン軍は19日、南シナ海で中国海警局が比軍の船に実施した臨検の様子を撮影した動画や写真を公開した。中国側がおのなどの刃物を比軍の船員に向ける中、同軍は「(武器を持たずに)素手で応じた」という。

臨検は、フィリピンが軍事拠点を置くアユンギン礁(英語名セカンドトーマス礁)付近の海域で、中国海警局の公船と比軍の補給船が衝突した後、実施された。

比軍の説明によると、中国側のボートが比側のゴムボートに衝突した際、比軍隊員の親指が切断された。中国側は、比側の他のゴムボートをナイフなどでパンクさせたり、搭載された通信機器などを破壊したりした。

比軍のブラウナー参謀総長は19日の記者会見で「海賊がすることだ」と、中国側の行動を批判した。中国側は比側から複数のライフル銃を強奪したといい、比側は返還や損害への補償を求めている。【6月20日 毎日】
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“中国側の行為は「海賊」のようなものだと非難。海軍船から奪った武器などの返還と、損傷した装備に対する損害賠償を求めた。
中国外務省はこれに対し、フィリピンの人員に対しては「直接行動」に出ていないと否定している。”【6月20日 AFP】

フィリピン軍は衝突当時の映像を公開して「海賊行為」だと非難を強めていますが、このような「積極広報」はマルコス政権の国際世論を見方につけて中国へ圧力をかける対中国戦略となっています。ただ、それだけに中国側の反発がエスカレートするリスクもあります。

****南シナ海問題で「積極広報」に転じたフィリピン、試される中国****
昨年2月、フィリピン大統領府の危機管理室に集まった政府高官は、数日前に撮影された写真を前に厳しい選択を迫られていた。写真には、フィリピンと中国が領有権を巡って対立する南シナ海の海域で、中国の戦艦がフィリピンの巡視船に軍用レーザーを照射したとされる様子が写っていた。

写真を公開して中国政府の怒りを買う危険を冒すのか、巨大な隣国を刺激することを避けるのか──。国家安全保障担当顧問で南シナ海タスクフォースのトップを務めるエドゥアルド・アニョ氏の決断は、「国民は知る権利がある。写真を公表せよ」だった。

レーザー照射問題を巡るこの会合は重要な転換点となった。会合の内容が明らかになったのは今回が初めて。これを契機にフィリピン政府は南シナ海における領有権争いの激化に注目を集める広報活動に乗り出した。

会合出席メンバーで、当時のやり取りを明かした国家安全保障会議のジョナサン・マラヤ報道官は「あの会合が転機になり、透明性を重視する政策に転じた」と述べた。新たな政策は「最終的に中国の評判やイメージ、地位に対して厳しい圧力を掛けるのが狙いだった」と言う。

マラヤ氏によると、マルコス大統領は領有権問題について「軍事色を薄め、国際化」するよう担当者らに指示。担当者らは沿岸警備隊を活用し、外国人ジャーナリストに警備活動への同行取材を定期的に認めることでそれを達成した。「こうした取り組みはフィリピンに対する国際的な支持を構築する上で重要な要素となった」

今回、フィリピンや中国の高官、アジア地域の外交官、アナリストなど20人にインタビューし、フィリピン政府の対中政策の転換やその影響が明らかになった。取材では、中国側の行動を知らしめることは、フィリピンが米国との軍事同盟を深めていることと相まって、中国政府のエスカレートに対する歯止めになっている一方で、中国から経済的な報復を受け、米国の関与を招くリスクを高めている、との指摘が聞かれた。

シンガポールのISEASユソフ・イシャク研究所のイアン・ストーリー氏は「米比相互防衛条約の発動を招き、中国と米国の軍事衝突を引き起こさずに済むようなエスカレートの選択肢を、中国はほとんど有していない」と述べた。

南シナ海は石油と天然ガス資源が豊富だ。この海域を通過する貿易は年間約3兆ドル(約474兆円)。米国によるフィリピンの基地へのアクセスは台湾有事において重要な意味を持つ可能性がある。

オランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年、フィリピンの訴えによる裁判で、中国が主権を唱える独自の境界線「九段線」に国際法上の根拠がないと認定した。しかし中国はフィリピンの船舶が係争中の海域に不法侵入していると主張。22年6月に大統領に就任したマルコス氏に対し、状況を見誤るべきではないと警告している。

フィリピンの法学者のジェイ・バトンバカル氏は「これは瀬戸際外交であり、ポーカーだ。瀬戸際外交は物事をギリギリの状態に持っていき、誰が怖気づくのか試す。ポーカーはハッタリと欺瞞(ぎまん)のゲームだ」と述べた。

米国務省の報道官は、透明性を重視するフィリピン政府の対応は、国際法を無視し、フィリピンの軍人を危険にさらす中国の行動に対する関心を高める上で成果があったと述べた。米軍関与のリスクについてはコメントしなかったが、フィリピンが中国から経済的締め付けに直面した場合、米国はフィリピンを支援すると述べた。(中略)

一方でフィリピン政府は中国による経済的な報復は避けたいと望んでいる。10年ほど前には中国が税関検査を長引かせ、フィリピン産バナナが中国の港で腐る事態が起きた。

フィリピンにとって中国は第2位の輸出市場で、昨年の輸出額は約110億ドル。全輸出額に占める比率は14.8%に達する。輸入は第1位で、石油精製品と電子機器が主力だ。

駐米大使のロムアルデス氏は、フィリピン政府は中国が「問題の平和的解決を図りながら、われわれとの経済活動の継続に価値を見出す」ことを望んでいると述べた。

フィリピン大学のエドセル・ジョン・イバラ氏は、マルコス氏は中国を刺激し、非関税障壁や観光規制といった「より強硬なアプローチ」に追い込みかねないと指摘した。

フィリピン政府の積極的な広報活動は近隣諸国を驚かせている。フィリピンと同じように中国との間で海洋紛争を抱えるベトナムとマレーシアは、衝突事案の公表についてより慎重な姿勢だ。

アジアのある外交官は「誰もが(フィリピンの対応)を注視し、意見を交わしている」と述べた。【6月20日 ロイター】
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今回衝突についてアメリカは「挑発的で無謀だ」と中国を非難しています。

****「挑発的で無謀」アメリカ政府は中国を非難 中国海警局の船がフィリピンの船に対し臨検 負傷者が出たとみられることについて****
中国海警局の船が領有権を争う南シナ海で、フィリピンの船に対し臨検を行い負傷者が出たとみられることについて、アメリカ政府は「挑発的で無謀だ」と非難しました。

アメリカ カービー大統領補佐官 「このような行動は挑発的であり、無謀であり、不必要だ」

南シナ海のアユンギン礁周辺で17日、中国海警局の船がフィリピンの補給船に対し臨検を行ったことについて、アメリカ政府のカービー補佐官は「誤解や誤算を招き、より大きな事態につながる可能性がある」と批判しました。(中略)

また、アメリカ国務省は声明で「緊張を高める無責任な行動だ」と中国を非難するとともに、「フィリピンの公船への武力攻撃は、アメリカとフィリピンの相互防衛条約で定められた防衛義務の適用対象になる」と警告しました。【6月18日 TBS NEWS DIG】
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もっとも、アメリカも本音としては“防衛義務”云々といった事態は避けたいところで、南シナ海の緊張には内心穏やかでないものもあるのではないでしょうか。

【李強首相訪問で中国と関係を深めるマレーシア 南シナ海問題でも中国の求める2国間直接協議に方針転換】
一方、“衝突事案の公表についてより慎重”とされるマレーシア。
中国の李強(り・きょう)首相のマレーシア訪問を受けて、改めて両国関係強化が明らかになっています。

****マレーシアと中国の企業が幅広く提携へ、28億ドル投資も****
マレーシアと中国の複数の企業が20日、エネルギーや銀行、教育などの幅広い分野で提携に関する取り決めに調印した。マレーシア産業貿易省が発表した。提携により132億リンギット(28億ドル)相当の投資が生まれる可能性があるという。

調印は中国の李強首相のマレーシア訪問に合わせて行われた。

産業貿易省によると、合意にはマレーシアのゲンティング・オイル・アンド・ガスとそのインドネシア子会社が中国のウィソン(恵生)・エネルギーと組み、インドネシアで浮体式液化天然ガス施設を設計・建設する計画などが含まれている。【6月21日 ロイター】
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マレーシア・アンワル首相は南シナ海問題への対応についても、中国が求めてきた2国間で協議する方針に転換した模様です。

****マレーシア、中国と直接協議へ=南シナ海問題で方針転換****
マレーシア、中国両政府は20日、前日に両国首相が行った会談を受け、共同声明を発表した。それによると、南シナ海の領有権問題に関して「海洋を巡る対話と協力を促進するため、できる限り早期に対話を開始する」として、2国間の対話枠組みを設けることで合意した。

中国は、マレーシアが油田開発を行っているボルネオ島の沖合まで領有権を主張。マレーシアは「南シナ海問題は東南アジア諸国連合(ASEAN)で取り組むべき課題」との立場だったが、中国が求めてきた2国間で協議する方針に転換した。今後、ASEAN内で同様の動きが広がるきっかけになる可能性もある。【6月20日 時事】
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(中略)単独では交渉力が弱いASEANは長く団結を重視してきたが、2国間交渉を好む中国側の切り崩し策が奏功した形だ。

李氏の訪問では、中国側は多数の経済協力を約束。来年のASEAN議長国マレーシアへの影響力を確保する狙いもあるとみられる。【6月20日 共同】
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【“いわくつき”のマレーシア東海岸鉄道でも中国・マレーシア関係強化をアピール】

(【2019年4月13日 日刊工業新聞】

マレーシア歴代政権を巻き込んだ“いわくつき”の事業ともなっているマレーシア東海岸鉄道についても、李強首相とアンワル首相がそろって駅の着工式に参加、その関係強化をアピールしています。

マレーシア東海岸鉄道は、開発が遅れたマレー半島東部一帯と首都クアラルンプールがある西部までの688キロ区間を結ぶ計画で、中国との関係を強化したナジブ首相時代の2017年、総工費の85%を中国が融資し、中国企業が工事を受注して着工されました。

中国にとっては「一帯一路」の主要プロジェクトでもあります。

しかし、2018年、ナジブ前首相は総選挙で敗れ、中国マネーが絡んだ巨額資金流用疑惑で背任の有罪判決を受けて収監されました。鉄道建設の中国側への発注が、疑惑に絡んだ便宜供与だった疑いも浮上しました。

後任のマハティール元首相は、東海岸鉄道の事業費を中国から高利で借り入れていることや、工事に従事する労働者が中国から送り込まれていることを問題視。「計画はマレーシアに何のメリットもない」として、昨年7月に工事の中断を命令しました。

マハティール元首相はその後、中国側に建設費を大幅に下げさせて、計画を再開しました。

そうした“いわくつき”の事業について、両国首相が駅着工式にそろって参加・・・中国の東南アジア進出戦略の勝利にも思えます。

中国としては、このマレーシア東海岸鉄道と中国ラオス鉄道、中国タイ鉄道との連結も進めていきたい思惑です。
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