孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ政治  上院改選を控えて混乱の予兆か 上院グループがセター首相の解任を憲法裁に求める

2024-05-23 22:40:39 | 東南アジア

(セター首相 【5月23日 日経】)

タイで上院改選が行われることは、5月11日ブログ“タイ 6月に上院改選 改選内容・改選後の動きに対する軍部の対応は? 混乱の可能性も”で取り上げました。

従来は選挙による公選制であった上院議員は、2007年憲法で一部に上院議員選出委員会による「選出」が取り入れられ、軍事政権下の2017年憲法では、完全に非公選となり、下記のような方法で選出されることになっています。

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被選挙権を有する者はすべて行政,司法,農民,産業,公衆衛生,女性,高齢者・障害者などの10のグループに分けられ,いずれかのグループから誰でも立候補することが認められる。

選出は,各グループの代表から選出された候補者の互選による。つまり候補者が自分以外の者に投票することによって選出される。

まず郡レベルで候補者のなかから選出が行われ,各郡で選出された者のなかから県レベルの候補者が選出される。最終的には,全国レベルで上院議員200人が選出されるというものである【2020年 JETRO 今泉慎也氏 「タイ2019年総選挙 : 軍事政権の統括と新政権の展望」】
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ただし、現在の上院議員は経過措置的に軍部が選出した者が任命された形で、軍の意向を代弁する形で議会での首相指名選挙に参加し、実質的に軍部の政治支配の装置ともなっています。

それが、6月に初めて上記のような2017年憲法規定による候補者間の互選による選出が行われることになっています。

軍事政権が定めた憲法による国民の直接の選挙によらない形であるにしても、経過措置としての現在の上院に比べると、必ずしも軍の意向に沿う者が選出される保証はないこと、かつ、新たな上院は首相指名選挙には加わらないことで、軍の上院・政治への影響力は薄まります。

可能性としては、現在親軍勢力との大連立で政権を形成しているタクシン支持派の「タイ貢献党」が、革新的な「前進党」と組んで(解党命令が出ていなければの話ですが)、軍を排除した政権を樹立することも可能になります。

そうした上院の改正は2017年憲法制定を主導した軍部も承知のことですので、軍も一応上院改選に関しては規定どおり粛々と臨むのだろうかとも思っていましたが、話はやはりそう簡単ではないようです。

親軍勢力は国民の大きな支持は得られず、タクシン派は依然として大きな力を持ち、何よりも王制改革を掲げるような革新的な前進党が急拡大した・・・といった現状は、2017年当時に軍事政権が想定していたものとは大きく異なるものだったでしょう。

****タイ憲法裁、セター首相の解任求める上院議員らの申し立て受理****
タイの憲法裁判所は23日、倫理規定違反を理由にセター首相の解任を求める上院議員グループの申し立てを受理した。ただ、判断が出るまで、首相の職務遂行を認めた。
憲法裁は声明で、同首相が先月の内閣改造で犯罪歴のあるピチット氏を閣僚に任命したことは、憲法の倫理基準に対する重大な違反だと主張する上院議員40人による訴えの審理を行うと発表した。

首相解職の申し立ては6対3で受理され、5対4でその間の職務停止への反対が決まった。

ピチット氏は首相府相に任命されたが、同氏にそうしたポストに就くため必要な資格がなかったと上院議員グループは主張。ピチット氏は21日に辞任し、セター首相を法的トラブルに巻き込みたくないと表明。辞任により、ピチット氏は審理の対象にはならないと憲法裁は説明している。【5月23日 Bloomberg】
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“ピチット氏は、タクシン元首相が関与したラチャダー土地事件の公判中に、現金200万バーツが入ったバッグを賄賂として裁判所の事務官に引き渡したとして、懲役6カ月の有罪判決を受けています”【5月23日 タイニュース クロスボンバー】

セター首相はタクシン派のタイ貢献党に所属しています。

犯罪歴のあるピチット氏を閣僚に任命したことで、セター首相の解任を求める、いささか無理筋の訴えのように思えますが、憲法裁はこれまで軍部の意向を受けた判断をしてきていますので・・・・

親軍勢力がどこまで本気でセター首相の“首”を狙っているのかはしりませんが、こうした動きの背景には冒頭の「6月上院改選」があるとのことです。

“6月の上院議員選挙を前に政権内の勢力争いが激しくなっており、判決次第で政情が混乱する可能性がある。”【5月23日 日経】

親軍勢力としては、タイ貢献党・セター首相に圧力をかけることで、今後の動きを牽制した・・・ということでしょうか。

ただ、仮にセター首相が失職しても、タイ貢献党にはタクシン元首相の次女ペートンタン・シナワット氏という本命首相候補がいますので、致命傷にはならないようにも思えます。

もっとも、前述の革新的な「前進党」と組んで軍を排除した政権樹立ということでは、前進党が解党されそうな状況(憲法裁判所が審理中)なので難しいところも。

来月の上院改選の前後、タイ政治には大きな混乱もありそうな状況です。

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