
(【2月3日 日経】 リラ相場が昨年末に激しく上下しているのは、昨年12月にリラ建て定期預金の価値を外貨換算で保証する仕組みを導入した関係。 いったん大きく改善したレートはすぐに元へ戻し、その後は横這いのようです。政権側は「リラ安の歯止めにつながった」と評価しています。)
【イスラム的価値観重視を強めるエルドアン大統領】
トルコ・エルドアン大統領が野党勢力からは強権政治とも批判される“強烈な”指導力で、批判勢力を力で封じ込め、かつての世俗主義国家トルコをイスラム主義の方向に向かわせていることはこれまでも再三取り上げてきました。
****トルコのエルドアン大統領、「有害」なコンテンツを扱うメディアには報復すると脅す****
エルドアン大統領は、高金利がインフレの原因になると、従来の経済学の考え方とは正反対のことを主張
アンカラ:土曜日、トルコのエルドアン大統領は国内メディアに対し、国の基本的価値観を損なうコンテンツを発信した場合は報復すると脅した。これは、報道分野におけるさらなる検閲の前兆かもしれない。
官報に掲載された通知の中でエルドアン大統領は、トルコの「国民文化」を保護し、「文字、音声、映像のあらゆるメディアにおける有害なコンテンツにさらされた結果、子供たちの成長に悪影響が及ぶこと」を防ぐための措置が必要だと述べた。
大統領は、そのようなコンテンツが何であるかは明らかにしていないが、「国家的・道徳的価値を損ない、家族や社会構造を崩壊させることを目的とした、メディアを通じた公然または隠然とした活動」に対しては、法的措置が取られると述べた。
エルドアン大統領は20年近く政権を維持しており、自身が率いる公正発展党(AKP)が信奉するイスラムの価値観から外れたメディアコンテンツをしばしば批判してきた。
トルコでは近年、メディアに対する監視体制を強化しており、主要メディアの約90%が国または政府に近い組織によって所有されている。
欧米の同盟国や批評家たちは、エルドアン氏が2016年に起こったクーデター未遂事件を利用して反対意見を封じ込め、社会的権利や寛容さを侵食していると指摘している。
政府はこの指摘を否定し、今回の措置はトルコが直面する深刻な脅威に対処するために必要であり、かつて強い世俗主義体制を保っていたこの共和国で、宗教的表現の自由が回復したと述べている。
メディア規制監督機関の「ラジオ・テレビ高等機構(RTUK)」は、すべてのオンラインコンテンツを包括的に監視し、削除する権限を持っている。
RTUKは、トルコの価値観に反すると判断した「性的」とされるミュージックビデオや、大統領を侮辱していると判断したコンテンツについて、テレビ局に罰金を科している。
後者に関する法律では、何万人もの人々が起訴されている。その中には、先週、エルドアン大統領の宮殿に関する風刺を彼女自身のTwitterアカウントに投稿し、それを野党のテレビチャンネルでも言及したことで、裁判を待つ状態で投獄されている有名ジャーナリスト、セデフ・カバス氏も含まれている。(後略)【1月30日 ARAB NEWS】
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【相変わらずの低金利政策固執 20年ぶりの高インフレ】
イスラム的な価値観を重視する保守層からは強い支持を得てきたエルドアン大統領の政権基盤を揺るがしているのが、通貨リラの下落、止まらないインフレによる市民生活の困窮です。
保守的・イスラム重視の施策は、こうした支持層の生活困窮をなだめ、離反を食い止めるためにも政治的に必要とされているのでしょう。
この経済的苦境にあって、エルドアン大統領は通常の経済学の教科書が教える施策とは真逆の金利引き下げに固執しています。
エルドアン大統領の主張は、利下げ・リラ安によって国内生産は拡大し、輸出・観光客が増加して、結果経済は好転する・・・というもののようですが・・・。高金利へのイスラム的拒否感もあるようです。
****トルコ大統領、金利引き下げでインフレ低下すると持論展開****
トルコのエルドアン大統領は29日、金利は一段と引き下げられ、それによってインフレ率も低下するという独自の経済理論を再び説き、高インフレに見舞われているトルコ経済は苦境を乗り切るとの考えを示した。
中央銀行の大幅利下げに伴う通貨リラの急落を背景に、昨年12月のインフレ率は36%と、エルドアン政権下の19年間で最高の水準に達した。
最新のロイター調査では、2月3日に公表される1月のインフレ率は47%と、約20年ぶりの高水準を記録すると予想されている。
エルドアン氏は支持者らに対し、「私の金利との闘いは知っての通りだ。われわれは今後も金利を引き下げる。インフレ率もそれによって低下する」と発言。「為替レートは安定し、インフレ率は低下、物価も下落するだろう」と語った。【1月31日 ロイター】
中央銀行の大幅利下げに伴う通貨リラの急落を背景に、昨年12月のインフレ率は36%と、エルドアン政権下の19年間で最高の水準に達した。
最新のロイター調査では、2月3日に公表される1月のインフレ率は47%と、約20年ぶりの高水準を記録すると予想されている。
エルドアン氏は支持者らに対し、「私の金利との闘いは知っての通りだ。われわれは今後も金利を引き下げる。インフレ率もそれによって低下する」と発言。「為替レートは安定し、インフレ率は低下、物価も下落するだろう」と語った。【1月31日 ロイター】
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上記記事にある予測どおり、1月のインフレ率は前年比48.69%上昇で、2002年以来約20年ぶりの大幅な上昇となりました。
****トルコCPI、1月は前年比+48.7% 20年ぶり上昇率****
トルコ統計局が3日発表した1月の消費者物価指数(CPI)は前年比48.69%上昇で、2002年以来約20年ぶりの大幅な上昇となった。一連の利下げと昨年末のリラ急落が影響し、予想以上の伸びとなった。(中略)
リラは昨年44%下落した。通貨急落などを理由にトルコは今年、ガスや電気料金、道路通行料、バス料金などの管理価格を引き上げた。
1月は輸送費が前年比68.9%、食品・飲料は55.6%上昇した。
指標発表後リラは対ドルで下落し、前日終値比約0.4%安の1ドル=13.5420リラとなった。
スイスクオートのシニアアナリスト、Ipek Ozkardeskaya氏は「政策金利は14%で、インフレ率は48%だ。政府は為替差損を補填するとしている。長期的に見て良い組み合わせとは言えない」と指摘。
「実施すべき対策と実際の対策の間に深刻な乖離(かいり)がある。現時点ではリラ相場が統計に反応していないことに驚いている」と述べた。
一部のアナリストは、第1・四半期のインフレ率が前年比50%を超え、年内の多くの期間で40%を上回った後、年末に鈍化すると予想している。【2月3日 ロイター】
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【政権の意に沿わない者の首切りを厭わない大統領】
こうした数字を発表するのは統計局ですが、そのトップが発表直前に辞任を迫られています。
****トルコ大統領、新法相を指名 統計局トップも交代****
トルコの官報によると、エルドアン大統領は、辞任したギュル法相の後任に、2度の法相経験のあるベキル・ボズダー氏を再び指名した。また、統計局のトップも交代した。
ボズダー氏はエルドアン氏の率いる与党・公正発展党(AKP)のメンバーで、2013─15年と15─17年に法相を務めた。ギュル法相の辞任理由は明らかにされていない。
統計局のトップだったディンサー氏は任命から1年足らずで交代することになった。後任は銀行監督当局の副責任者を務めていたエルハン・チェティンカヤ氏。
最新のロイター調査では、2月3日に公表される1月のインフレ率は47%と、約20年ぶりの高水準を記録すると予想されている。
野党などからは統計局が政治的理由からインフレなどの公式データを改ざんしているとの批判が出ているが、統計局はこれを否定している。【1月31日 ロイター】
ボズダー氏はエルドアン氏の率いる与党・公正発展党(AKP)のメンバーで、2013─15年と15─17年に法相を務めた。ギュル法相の辞任理由は明らかにされていない。
統計局のトップだったディンサー氏は任命から1年足らずで交代することになった。後任は銀行監督当局の副責任者を務めていたエルハン・チェティンカヤ氏。
最新のロイター調査では、2月3日に公表される1月のインフレ率は47%と、約20年ぶりの高水準を記録すると予想されている。
野党などからは統計局が政治的理由からインフレなどの公式データを改ざんしているとの批判が出ているが、統計局はこれを否定している。【1月31日 ロイター】
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上記記事にもあるように、野党などからは“統計局が政治的理由からインフレなどの公式データを改ざんしているとの批判が出ている”とのことですが、同時に政権側からも政権にとって不利な数字を公表しているとして強いプレッシャーがかけられているとかで、インフレ率の数字が政治的に極めて敏感なものになるなかで両サイドからの批判・圧力にはさまれて“覚悟”の発表・辞任だったようです。
エルドアン大統領は、同氏の低金利政策に従わない中央銀行総裁の首を何回もすげ替えていますが、今回人事もそうした人事のひとつのようです。
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土曜日に発表された政令によると、昨年のインフレ率が36.1%19年ぶりの高水準に達したというデータが発表された後、エルドアン大統領は国家統計機関のトップを解任した。
このサイト・エアダル・ディンサー氏の解任劇は、2019年7月以降、3人の中央銀行金融政策委員会メンバーを解任しているエルドアン氏による一連の経済的解雇の最新例にすぎない。
エルドアン大統領は、同氏がインフレの原因になると考える高金利を猛烈に非難しているが、これは従来の経済思想とは正反対のものだ。
ディンサー氏が発表した2021年のインフレ率の数字は、親政府派と野党派の両方を怒らせた。
野党側は、この数字は過小に報告されているとし、実際の生活費の上昇は少なくとも2倍以上であると主張した。
一方、エルドアン大統領は、トルコ経済の不振を誇張していると思われるデータを発表したとして、統計局を私的に批判したと報じられている。そしてディンサー氏は、自分の運命を感じていたように思われる。
彼は今月初め、経済紙「ドゥニャ」のインタビューで、「私は今このオフィスに座っていますが、明日には別の人が座っているでしょう」と語った。
「誰がトップであろうと関係ありません。何百人もの私の同僚が、自分たちが導き出した数字とは全く異なるインフレ率が発表されることに我慢したり、黙っていたりすることができると想像できるでしょうか」「私には、8,400万人の人々に対する責任があるのです」と彼は語った。
エルドアン大統領は、トルコの銀行規制機関の副会長を務めたエルハン・チェティンカヤ氏を新たに国家統計局長に任命したことについては説明しなかった。(中略)
統計局は2月3日に1月のインフレ率を発表する予定である。12月には、野党党首のケマル・クルチダルオール氏がアンカラの統計局本部に入ろうとしたところ、ディンサー氏との面会を拒否され、警備員に追い返されている。
同氏は、統計局が政府の政策の影響を隠すために数字を「捏造」していると非難し、エルドアン氏の大統領官邸になぞらえて「もはや国家機関ではなく宮殿機関だ」と非難した。
また、エルドアン大統領は土曜日に、新しい司法大臣として、与党のベテラン議員アブドゥルハミト・グル氏に変わり、ベキル・ボズダグ前副首相を任命した。
グル氏はツイッターに、「2017年7月19日から務めてきた法務省の職務を辞任しました」と投稿した。
「私の要請を受け入れてくれたことに……感謝の意を表したいと思います」と付け加え、自分の決断については説明していない。
与党である公正発展党を離党し、民主主義進歩党(DEVA)を設立した元副首相のアリ・ババジャン氏は、ツイッターでこの交代劇に対する怒りを露わにした。
「司法大臣は交代し、統計局TUIKの会長はインフレ率のデータが発表される前に解任された。理由は誰にもわからない」【前出 1月31日 ロイター「トルコのエルドアン大統領、「有害」なコンテンツを扱うメディアには報復すると脅す」】
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【目立つ積極外交 アルメニアとの関係正常化にむけた動き】
国内的には通貨安・インフレという難題に政権基盤を揺さぶられているエルドアン大統領ですが、外交面では積極的な姿勢が目立ちます。
シリア・リビアへの介入、対イスラエル政策などエルドアン大統領の積極外交はかねてよりのものですが、内政面で危機的状況にある権力者は外交での成果を求めるという古今東西の“常識”に沿ったものでもあるでしょう。
その積極外交のひとつが、第1次大戦中のアルメニア人虐殺という歴史問題、また近年ではアルメニア対アゼルバイジャンの紛争によって長年の対立関係にあったアルメニアとの関係修復。
****国交樹立へ一歩、トルコとアルメニアが協議 歴史認識では対立根深く*****
約30年にわたって事実上の断交状態にあるトルコとアルメニアの代表が14日、モスクワで関係正常化に向けて協議した。両国外務省は「建設的だった」と評価し、国交の樹立に向けて対話を継続する意向を表明した。ただ、歴史認識などをめぐる対立は依然根深い。
協議は、ロシアが仲介した。トルコ側は前駐米大使のクルチ特使、アルメニア側はルビニャン副議会議長が代表として出席し、約1時間半続いた。終了後、両国の外務省はそれぞれ、「前向きで建設的な雰囲気で、完全な関係正常化に向けて前提条件なしで協議を続けることで合意した」とする声明を出した。
ロシア外務省は、「地域の安定や経済発展のための接点の探求を続けることで合意した」と評価した。欧州連合(EU)も同日の声明で、協議を歓迎した。
トルコは1991年、ソ連崩壊で独立したアルメニアを国家承認した。だが、トルコが「兄弟国」と見なすアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ地域をアルメニアが実効支配したことに反発し、93年に国境を閉鎖した。
また、トルコとアルメニアの間には、歴史認識をめぐる国際社会を巻き込んだ深い対立がある。トルコの前身であるオスマン帝国では、第1次世界大戦中の15年から150万人のアルメニア人が殺害されたといわれる。だが、トルコ側は死者数は過大で、一部のアルメニア人が当時の交戦国ロシアの配下で戦闘に加わったことなどが原因だと主張し、「ジェノサイド(集団殺害)」を否定する。
両国は2009年にも国交樹立協定を結んだが、歴史認識の溝を埋められず、アゼルバイジャンの反対もあって頓挫した。今回の関係正常化の機運は、20年のナゴルノ・カラバフ紛争後、地域安定化を目指すロシアの仲介でアルメニアとアゼルバイジャンの和平協議が進むなかで生まれた。
アルメニアは、トルコとの関係正常化で貿易などを活性化させ、苦しい経済の立て直しにつなげる期待がある。一方のトルコは、歴史認識をめぐって昨年4月にバイデン米大統領が「ジェノサイド」と認定するなど、この問題が米トルコ関係の支障の一つとなってきただけに、今回の動きを通じて米国との関係も改善したい思惑がある。また、ナゴルノ・カラバフをめぐる紛争後の地域での影響力を固める狙いもあるとみられる。
ただ、一昨年のナゴルノ・カラバフ紛争で事実上敗れたアルメニアの国内では、アゼルバイジャンを全面的に支援したトルコに対する激しい怒りがある。今後の国交正常化の協議がアルメニア国内で理解を得られるかは不透明だ。【1月15日 朝日】
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【ウクライナ問題仲介にも意欲 ロシアの反応は不明】
もうひとつは、目下の国際関係の最大懸念事案であるウクライナ問題の仲介。
****トルコ、ウクライナ仲介に意欲 露は不信感も****
ロシアによる軍事侵攻が懸念されるウクライナのゼレンスキー大統領は3日、首都キエフでトルコのエルドアン大統領と会談した。エルドアン氏は「緊張緩和のためにあらゆる努力を惜しまない」と述べてウクライナとロシアの間を仲介する意向を示し、ゼレンスキー氏は「申し出に感謝したい」と応じた。タス通信などが伝えた。
エルドアン氏はゼレンスキー氏とプーチン露大統領をトルコに招いて3首脳による会談を開きたいとの意向も表明したが、ウクライナ寄りの姿勢を示すエルドアン氏にロシアは不信感を抱いており、仲介が奏功するかは不透明だ。
ゼレンスキー氏とエルドアン氏は会談で、トルコ製の高性能攻撃ドローン(無人機)「バイラクタルTB2」の生産拠点をウクライナに建設し、同国への無人機供給を拡大することで合意した。ウクライナは昨年10月下旬、同国東部を実効支配する親露派武装勢力への攻撃にこの無人機を初めて使用し、ロシアは「停戦合意違反であり挑発だ」と反発した経緯がある。
また、エルドアン氏は訪問に際し、「クリミアを含むウクライナの主権と領土保全を支持し続ける」と改めて言明した。
2014年にロシアが一方的に併合を宣言したウクライナ領クリミア半島には、トルコと民族的に近い先住少数民族クリミア・タタール人がおり、エルドアン政権が連帯を表明してきたこともロシアをいらだたせている。
トルコは近年、民族上のつながりを軸に南カフカスや中央アジアの旧ソ連諸国への影響力浸透を図っている。アゼルバイジャン領ナゴルノカラバフで20年に起きた同国とアルメニアとの軍事衝突でも、言語などの面でトルコとの関係が深いアゼルバイジャンに無人機などを供与して支援した。
一方、トルコとロシアは友好と対立が入り交じる複雑な関係にある。エルドアン政権は対米関係のきしみを受けてロシアから地対空ミサイルS400を購入したほか、トルコではロシア企業の原発建設も進む。半面、両国はシリアやリビアの内戦で互いに敵対する勢力を軍事支援した。
露大統領府は、プーチン氏がエルドアン氏との会談のために2月のトルコ訪問を検討中だと明らかにしている。ただ、トルコは今回の首脳会談でウクライナと自由貿易協定(FTA)を結ぶことでも合意するなど関係を強化する方針を示しており、エルドアン氏が計画する3者会談をロシアが受諾するかは見通せない。【2月4日 産経】
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上記記事にもあるようにトルコのウクライナへのドローン供与が現在の一触即発状態の原因の一つにもなっているだけに、そのトルコが仲介を買って出るというのは、意外と言うか、「ようやるよ」といった感も。
それにしてもトルコとロシアは長年露土戦争を戦ったオスマントルコ・帝政ロシア時代からの宿敵ですが、、これも上記記事にあるように昨今の関係は協力関係と敵対関係が入り混じる複雑なものになっています。