孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  通貨リラ攻防戦 低金利に拘るエルドアン大統領、リラ建て預金保護措置の「奇策」も 

2022-01-01 22:26:23 | 中東情勢
(買い物客がまばらなイスタンブールの市場。市場関係者は「値段が高くなって客が減った」と話す=27日【12月29日 時事】)

【エルドアン大統領 イスラムの教えから高金利に抵抗感?】
トルコ・エルドアン大統領が通貨下落・急速なインフレにもかかわらず、「金利引上げ」という経済常識の逆の低金利政策に固執しているという件は、昨年12月15日ブログ“トルコ 通貨安・インフレでも、経済を刺激する低金利政策に固執するエルドアン大統領の「ばくち」”でも取り上げました。

通貨リラぼ暴落で、生活物資の多くを輸入に頼るトルコでは急速なインフレが進み、市民生活が困窮しています。
“トルコの名物シミットが半分に切って売られる時代 ‐ トルコリラ暴落”【12月16日 Newsweek】
“通貨暴落で薬局から消えた薬 トルコ【12月22日 AFP】

“トルコのインフレ率は公式には 21% と発表されています(トルコ統計局の数字)。が、実質的にはインフレ率は 30% またはそれ以上であろうというのが一般的な見方。ある独立した団体の調査によると、実際のインフレ率は 58% だということです。”【12月16日 Newsweek】

エルドアン大統領が金利引上げを拒むのは低金利政策による成長戦略を重視する云々以前に、イスラムで禁じられている「利子」というものに対する嫌悪感があるのでは・・・と思っていましたが、実際そういう面があるようです。

“イスラムの教えでは高金利の金銭貸借を禁じているとされ、エルドアン氏は「イスラム教徒として、教えが求めることを行い続ける」と主張している。”【12月22日 産経】

イスラム世界における「利子」については、以下のようにも。

****金利の設定が禁じられている「イスラム金融」が成り立つ理由****
金利の概念はないが、金利に影響を受ける場合も・・・
イスラム金融は世界中でいくつかの課題に直面している。一番大きな課題は、金利が物を言う国際市場でイスラム金融の可能性をいかに知ってもらうかだろう。イスラム法であるシャリーアによれば金利は望ましくないもの、あるいは禁じられたもの(ハラーム)と見なされるため、イスラム金融では金利を課すことも支払うこともない。

イスラム法学者によれば、リバー(アラビア語で利子・高利の意味)の禁止は、他の大半の宗教の教えと矛盾しない。聖書には「兄弟に利息を取って貸してはならない。金銭の利息、食物の利息などすべて貸して利息のつく物の利息を取ってはならない」と書かれており、コーランには「アッラーは商売はお許しになった、だが利息取りは禁じ給うた」と綴られている。また他の大半の宗教も、他人を搾取してはならないこと、約束は予定通りに守ることを説いている。

一般的な銀行は融資に利子を課し、預金する顧客にはそれより低い金利をつけて返金する。その差額が銀行の収益となり、銀行の運用コストに充てられる。

一方で、イスラム銀行では利害関係者が利益も損失も分配することになっている。そのため、一方的であるリバーは禁じられているのだ。そこでイスラム銀行では、マークアップ方式による価格設定やリース、パートナーシップの形態でビジネスを行っている。

しかし金利という存在がないにもかかわらず、実はイスラム銀行は利率や相場に影響を受ける可能性がある。イスラム金融機関のいくつかは原価に利益を乗っけて価格設定を行うマークアップを、一般の銀行の利率基準に合わせてしているのではと言われている。このため特に一般的な銀行とイスラム銀行の両方が存在する国では、イスラム教徒であっても、従来の銀行の模倣に過ぎないとしてイスラム銀行に距離を置く人々もいる。(後略)【2015年12月17日 幻冬舎GOLD ONLINE】
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中央銀行も存在して日本と同じような金融制度が存在するトルコで(ただし、エルドアン大統領の低金利政策に従わない中央銀行総裁の首を何回も切っていますが)利息がどのように扱われているのかは知りませんが、(少なくともエルドアン以前は)世俗主義をとるトルコですから、一般銀行においては日本同様の金融が行われているものと想像しています。ただ、エルドアン大統領の頭の中では割り切れない思いがあるのでしょう。

【預金保護措置の「奇策」で国民不満をなだめるも・・・・】
いずれにしても、放置していては通貨安・インフレが亢進し、国民の不満が高まるばかりですので、通貨リラの外貨に対する下落率が預金の金利水準を上回った場合、差額を政府が補塡するという預金保護措置の「奇策」を打ち出しました。

****トルコ「預金補填」の奇策 通貨リラ急落で…「利上げはイスラムに反する」****
通貨リラの暴落が続くトルコで、エルドアン大統領がリラ建て預金を保護する「奇策」を打ち出した。リラの外貨に対する下落率が預金の金利水準を上回った場合、差額を政府が補塡(ほてん)する内容だ。

リラを支えて下落に歯止めをかけ、物価高に苦しむ国民の不満を鎮める狙いがある。しかし、実現を疑問視する向きもあり、低迷する政権の支持回復に結び付くかは不透明だ。

新たな政策は20日夜、エルドアン氏がテレビ演説で発表した。同日の外国為替市場は1ドル=18リラ台の史上最安値を記録したが、異例の経済政策の発表を受けて13リラ台まで急騰した。

リラは対ドルで年初から4割以上も下落し、トルコでは外貨と交換する動きが広がっていた。エルドアン氏は「その必要はない」と強調。物価高は数カ月で沈静化し始めるとし、リラ建ての預金を促した。

補填が必要となれば、国庫に悪影響を及ぼす恐れがあるほか、通貨政策が為替相場に従属しかねないとの批判が出ている。

新たな政策がいつ、どんな預金者を対象に実施されるかなど詳細は明らかになっていない。このため、識者の間では、一時的に大統領への支持を回復させ、2023年実施予定の大統領選を前倒しする狙いだとの観測も浮上している。

10月発表のエルドアン氏の支持率は約39%、不支持は約56%で、与党「公正発展党」(AKP)も支持離れに悩んでいる。最大野党「共和人民党」(CHP)の党首は21日、政府は持っていない金を払うと国民に保証したと非難した。

トルコの物価上昇率は通年で21%に達し、来年は30%になるとの予測もある。最大都市イスタンブールの男性会社員(50)は電話取材に「生活必需品から自動車まで、すべて値上がりしている。エルドアン氏の言うことは突然変わり、多くの国民は安定した将来を描けない」と批判した。

通貨安に歯止めをかけるには利上げを行うのが一般的。だが、エルドアン氏は低金利を維持して輸出を伸ばし、経済成長を実現するとして利上げに強く反対してきた。

トルコ中央銀行は16日、政策金利を1%引き下げて14%にすると決めた。利下げは4カ月連続。イスラムの教えでは高金利の金銭貸借を禁じているとされ、エルドアン氏は「イスラム教徒として、教えが求めることを行い続ける」と主張している。

エルドアン氏は近年、意に沿わない中銀総裁を相次いで更迭し、市場の信頼を失った。今年11月にはイスタンブールなどで物価高に抗議するデモが発生。12月初めには財務相が辞任し、エルドアン氏に対する不満が理由だとの見方も出た。【12月22日 産経】
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預金保護政策の「奇策」でいったん持ち直したリラは、年末再び下落に転じています。

低金利維持のため預金保護を打ち出したことを受けて、銀行の預金獲得競争が起こり、金利が上昇するという現象も出ているとか。

****トルコの銀行が金利引き上げ、預金争奪戦で****
複数の銀行筋などによると、トルコ政府がリラ建て預金の保護策を発表したことを受けて、国内銀行がリラ建て預金を集めるため、金利を引き上げている。資金を借り入れる企業は、予想外の金利上昇に見舞われる可能性がある。

預金金利は1週間前の17─18%から20%以上に上昇。一方、資金調達コストの上昇を受けて、中小企業向けの融資金利は30%以上に上昇した。金利は数週間前から上昇していたが、銀行筋によると、過去1週間で上昇ピッチが加速した。

エルドアン大統領は20日、リラ建て預金の為替差損を補填する預金保護策を発表した。

ある銀行筋は「どの銀行もリラ建て預金を失いたくない。年末が近づいており、バランスシートを良く見せかける必要がある。(預金保護策で)競争が増し、過去1週間で預金金利が上昇した」と述べた。

中央銀行のデータによると、企業向けの融資金利は今月17日時点で平均20.91%と、1週間前の19.63%から上昇した。

ある繊維会社の会長は「低金利の長期融資が必要だ。1月半待っている。中銀が利下げしたので金利環境が改善すると予想していたが、金利は上昇する一方だ。長期の融資をしてくれる銀行が見つからない。銀行は金利が設定できないと言っている。待つしかない」と述べた。

中銀は21%を超える高インフレにもかかわらず、エルドアン大統領の圧力を受けて、政策金利を9月以降500ベーシスポイント(bp)引き下げ14%とした。市場は政策が転換されると予想。債券利回りと企業向け融資金利は上昇している。

銀行は資金調達コストの上昇と依然として多いドル化を受け、リラ準備を積み増すために、リラ建て預金の金利を引き上げている。【12月27日 ロイター】
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【支持率低下に苦しむエルドアン氏・与党 大胆奇策で選挙対策】
エルドアン大統領は上記の預金保護と同時に、最低賃金50%引上げも行っています。
こうした極端な政策は経済実態を無視した「人気取り」的な印象も否めません。すべては「選挙」のためでしょう。

****トルコ大統領、経済措置で早期選挙に道筋=アナリスト****
 トルコのエルドアン大統領は、最低賃金の50%引き上げと自国通貨暴落防止のためのリラ建て預金保護措置という2つの大きな発表を行い、事実上早期選挙への扉を開いたと政治アナリストは指摘した。

12月20日にトルコリラが1ドル=18.4リラという記録的な安値を付けて通貨危機がピークに達し、経済や家計を大きく揺るがした後、それぞれの発表は5日の間に行われた。

大統領・議会選挙は2023年半ばに予定されているが、エルドアン大統領と政権与党の公正発展党(AKP)幹部は、これより早く実施されることを繰り返し否定している。

しかし、エルドアン氏の支持率が長期低迷する中、来年の最低賃金引き上げと1ドル=12リラへの急反発は、選挙前倒しの可能性を示唆している。

今回のエルドアン氏の発表についてアナリストらは、過去に見られたような選挙前の指導力誇示と同様と受け止めている。大統領候補者を決めていない野党連合にとっては、今回の選挙で不利になる可能性がある。

今月実施されたメトロポールの調査によると、長年にわたる2桁のインフレ率と自国通貨安による収入圧迫により、エルドアン氏の不支持率は2015年以来の水準にまで達している。

他の世論調査では、エルドアン氏が野党候補者との決選投票で負けるという予想もある。【12月30日 ロイター】
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最低賃金の50%引き上げと自国通貨暴落防止のためのリラ建て預金保護措置という大胆な策で下記のような状況が改善されるのか・・・選挙はそれ次第です。

****リラ暴落で海外からトルコに買い物客が殺到、国民はインフレで安いパンに行列****
<トルコの経済危機の背景には、インフレなのに金利を下げるというエルドアン首相の経済失政がある>

ブルガリアとギリシャから今、大勢の買い物客がトルコに押し寄せている。原因はトルコの通貨リラの急落だ。
トルコは現在、経済危機に直面しており、インフレ率(物価上昇率)は21%を超えている。通貨リラは、12月20日には1ドル=18.36リラまで下落し、2021年の年初来60%以上の下落を記録した。

27日にはひとまず1ドル=11.46リラにまで回復したが、インフレは、食品からガソリンに至るまで、あらゆるものの価格に影響を及ぼしている。

この状況を好機と捉えているのが、近隣諸国の人々だ。年末年始の休暇に向けて、大勢の人がトルコ北西部のエディルネにある市場や食料品店に押し寄せている。

ブルガリア人の女性、ハティジェ・アミドバはAP通信に対して、クリスマス・イブの午前3時に起きて、トルコ行きのバスに乗ったと語った。

エディルネのウルス・バザール共同組合の会長であるブラント・レイソグは、エディルネを訪れる外国人観光客の数は、この数週間で4倍に増えたと語る。

スーツケースいっぱいの買い物
「駐車場はブルガリアの車だらけで、エディルネやイスタンブールのナンバープレートはほとんどない」と彼は述べ、さらにこう続けた。「彼らは狂ったように買い物をする。何を買っているのかも分からないまま、同じものを5個、10個と買っていく。後から売ればいいとか、これを逃したらもう買えないと考えているのだ」

クリスマス・イブには、同市内の市場や小売店はブルガリアからの買い物客で大混雑。外国人買い物客はまず両替所に行って安いリラを大量に手に入れ、その後、市場や食料品店に向かう。

子どもや孫のためのプレゼントを買いに来たというグルフィエ・オシノバ(60)は、ブルガリアで同じものを買えばずっと高くつくと語った。

ブルガリア人の買い物客にとって、トルコの食料品店はかなりのお買い得で、彼らはスーツケースが一杯になるまで買い物をして帰っていく。

隣国ギリシャからも、ユーロをリラに両替して買い物に訪れる人が大勢いる。ギリシャからトルコに買い物に来たエスラ・モラは、家族と自分にプレゼントを買うことができて嬉しいと語った。

トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は12月20日、リラ安を阻止するために預金保護措置を発表。おかげでリラの対ドル相場は反発し、1ドル=10.83リラで先週の取引を終えた。

それでもまだ、リラの2021年に入ってからの下落率は40%近くに達している。エルドアンが金利の引き下げにこだわっているせいだ。経済学ではインフレのときは金利を引き上げるのが普通だが、エルドアンはその逆を主張している。彼が経済政策で目指すのは、低金利で利用できるクレジットと、輸出の促進と大幅成長だ。

12月の寒空のなか、安いパンを買うために長い行列に並ぶトルコ国民の姿は、彼らの購買力の低下と物価の高騰をはっきりと示している。

エルドアンはトルコの各企業に対して、リラ相場が安定した分、商品価格を引き下げるよう要請しているが、エディルネの街を埋め尽くすブルガリア人買い物客が姿を消すまでにはまだしばらく時間がかかりそうだ。【12月28日 Newsweek】
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