(イラン核合意再建に向けた協議 2021年12月撮影【1月21日 ロイター】)
【国内経済は物価上昇や高失業率など厳しい状況が続く】
欧米による経済制裁に苦しむイラン国内状況については最近ほとんど情報を目にしません。
やや古い記事になりますが、昨年11月段階のJETROによれば、GDP成長率は比較的堅調だったものの、前年同月比で50%台後半~60%を超えるような物価上昇や11%前後の高失業率 など厳しい状況が続いているようです。
****イラン経済状況*****
2020年のイランの実質GDP成長率は、米国による経済制裁や新型コロナウイルス感染症拡 大の影響を受けつつも、1.5%のプラス成長となった。一方で、国内経済は物価上昇や高失業率など厳しい状況が続いている。(中略)
■プラス成長も、インフレなど混乱が続く国内経済
(中略)世界銀行はプラス 成長の背景について、イラン経済が過去 2 年間で既に12%も縮小していたことから、新型コロナによ る生産の損失が他国ほど顕著ではなかったとしている。
また、通貨リアルの下落により国内生産品の 競争力が高まり、製造業が非石油部門の回復を牽引し、特に第 3 ~ 4 四半期は、石油部門と非石油部 門ともに予測よりも景気回復が進んだとしている。
為替レートは、市場レートが2020年10月18~19日に 1 ドル=31万9,000リアルとなり、 1 ドル= 4 万2,000リアルの公定レートとの乖離が約7.6倍にまで広がった。(中略)
通貨下落の結果、輸入価格の上昇などのインフレ圧力が高まり、イラン統計センターが発表した 2020年度(2020年 3 月20日~2021年 3 月20日)の消費者物価上昇率は、通年で36.4%となった。
2020 年は特に後半以降に大きく上昇し、2020年 9 月以降は40%超で推移した。2021年に入ると 6 月まで40%台後半が続き、 7 月23日~ 8 月22日も43.2%と、引き続き高い値となっている。特に2020年11月ご ろからは食品・飲料品の値上がりが激しく、前年同月比で50%台後半~60%を超える月が続いている。
(中略) 2021年 8 月 5 日には、穏健改革派のハサン・ローハニ大統領に代わり、保守強硬派のイブラーヒー ム・ライーシー大統領が就任した。汚職撲滅や新型コロナ対策に加え、インフレの抑制と人々の生活保障を新政権の最優先事項として強調している。
新型コロナ拡大は、人との接触の多いサービス業な ど、多くの労働集約的な仕事や収入に深刻な影響を与えている。IMFは2020年の失業率を10.8%、 2021年は11.2%と推計(2021年 4 月時点)しており、経済状況の改善が喫緊の課題となっている。【2021年11月24日 JETRO】
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物価上昇や高失業率の一方で、賃金は上がらない・・・ということで、国民の不満も高まっているようです。
****教職員の抗議デモ(イラン)*****
イランでは、確か数年前に各種職能組合が抗議デモデモまたは座り込み等を行い、その中には教職員組合も含まれていたように記憶しますが、al sharq alawsat net は31日、首都テヘランの他複数都市で教職員による経済情勢に対する抗議のデモがあったと報じています。
記事によるとテヘランでは、彼等は議会の前に集まり、政府及び議会の空約束に抗議したとのことですが、その他特にイスファハン及びシラズでは多くの教員が、文部大臣の罷免を要求したとのことです。
記事によるとテヘランでは、彼等は議会の前に集まり、政府及び議会の空約束に抗議したとのことですが、その他特にイスファハン及びシラズでは多くの教員が、文部大臣の罷免を要求したとのことです。
彼らはイランのインフレ率が60%にもなるのに給料等が上がらないことに抗議している由【2月1日 「中東の窓」】
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【停滞する核合意再建協議】
こういう経済情勢にありますので、反米・保守強硬派のライシ大統領としても、核交渉において何とか制裁解除を取り付けたいという思いは強いでしょう。
トランプ前大統領が合意から離脱したアメリカとイランの間を他の参加国とEUが仲介する形で協議が行われています。
協議が決裂すれば、核開発再開の勇ましい動きとは裏腹に、国内的には制裁継続で市民生活困窮が続き、政権を揺るがす不満爆発にもなりかねません。
ただ、反米・保守強硬派としても立場というか、メンツもありますので、一方的譲歩はできません。
逆に、アメリカから譲歩を引き出し、経済回復の流れを作ることができれば、ライシ大統領はかねてより囁かれているハメネイ師の後継たる次期最高指導者への道もひらけることになります。
そんなこんなの状況で行われているイラン核協議ですが、進んでいるのか、動きがないのか・・・よくわからない状況。
よくわからないのは当事国も同様なようで、欧米側にはこれ以上の引き伸ばしには応じられない、もう決着を着けないと・・・という苛立ちもあるようです。
先月20日段階で、「このような遅々としたペースで協議を継続することはできない」「2月は間違いなく決定的な月になるだろう」との声が出ていました。
****核合意再建協議、数週間以内に「決定的」局面迎える=欧米高官****
米国および欧州の高官は20日、イラン核合意再建に向けた米イラン間接協議について、今後数週間で「決定的な」局面を迎えるとの見方を示した。
ブリンケン米国務長官はベルリンで英仏独の閣僚と会談。その後の記者会見で「われわれはまさに決定的な瞬間にいる」とした上で、緊急性は高まっており、今後数週間のうちに核合意の相互順守に戻れるかが決まるとの見解を示した。
また、ドイツのベーアボック外相は「協議は今、決定的な局面を迎えており、極めて緊急に進展が必要だ。そうでなければ核不拡散という重要な問題に十分な付加価値をもたらすような合意に達することはできない」と語った。
フランスのルドリアン外相は核合意再建協議の進展は限定的とし緊急性を強調。「部分的かつゆっくりとした進展が見られるが、イランによる核開発が急速に進む中で、このような遅々としたペースで協議を継続することはできない」と述べた。
フランスの外交筋は、進展は見られたが「協議の中心にある」最も重要なテーマはカバーされていないと指摘。「アプローチを変える必要がある。2月は間違いなく決定的な月になるだろう」とし、現在のような状況を5月まで続けるつもりはないとした。【1月21日 ロイター】
ブリンケン米国務長官はベルリンで英仏独の閣僚と会談。その後の記者会見で「われわれはまさに決定的な瞬間にいる」とした上で、緊急性は高まっており、今後数週間のうちに核合意の相互順守に戻れるかが決まるとの見解を示した。
また、ドイツのベーアボック外相は「協議は今、決定的な局面を迎えており、極めて緊急に進展が必要だ。そうでなければ核不拡散という重要な問題に十分な付加価値をもたらすような合意に達することはできない」と語った。
フランスのルドリアン外相は核合意再建協議の進展は限定的とし緊急性を強調。「部分的かつゆっくりとした進展が見られるが、イランによる核開発が急速に進む中で、このような遅々としたペースで協議を継続することはできない」と述べた。
フランスの外交筋は、進展は見られたが「協議の中心にある」最も重要なテーマはカバーされていないと指摘。「アプローチを変える必要がある。2月は間違いなく決定的な月になるだろう」とし、現在のような状況を5月まで続けるつもりはないとした。【1月21日 ロイター】
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1月28日には協議は一時中断となり、交渉参加各国がそれぞれ論点を持ち帰って検討することに。
【アメリカ側の動きもあって、交渉継続か否か、大詰め段階に】
2月4日、米国務省高官は対イラン経済制裁一部免除の「復活を決めた」と明らかにしましたが、イラン側は「不十分だ」としています。
****イラン制裁の一部免除復活=米、核合意再建へ詰め****
米国務省高官は4日、対イラン経済制裁一部免除の「復活を決めた」と明らかにした。これにより欧州や中国、ロシアの企業が、イラン国内の核燃料の搬出事業などに参加することが再び可能となる。この免除措置はトランプ前政権が2020年に更新を終了させていた。
国務省高官は、今回の決定について「イランにおける『核不拡散』の活動に第三者を関与させられる」と指摘。「最終局面にある核合意再建交渉で必要な技術的議論を促すことになる」と説明した。
一方で、核合意再建に向けて相互理解に達しつつあることを意味しないと指摘し「イランへの譲歩ではない」とも強調した。【2月5日 時事】
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****米、イラン制裁免除を復活 イラン外相「不十分」****
イランのアブドラヒアン外相は5日、イラン関連制裁の免除を復活させる米国の動きは不十分だと指摘し、2015年のイラン核合意立て直しに向けて米国は政治や経済などの分野で保証を提供すべきだと述べた。(中略)
イラン国内メディアが伝えたところによると、アブドラヒアン外相は記者団に「紙に書かれている内容は良いが、十分ではない」と指摘。
核合意立て直しに向けたウィーンでの協議における主要問題の一つは、「西側諸国から義務を果たすという保証を得ることだ」と述べた。「われわれは、政治、法律、経済の分野で保証を要求している。一定の合意は既になされている」と語った。【2月7日 ロイター】
イラン国内メディアが伝えたところによると、アブドラヒアン外相は記者団に「紙に書かれている内容は良いが、十分ではない」と指摘。
核合意立て直しに向けたウィーンでの協議における主要問題の一つは、「西側諸国から義務を果たすという保証を得ることだ」と述べた。「われわれは、政治、法律、経済の分野で保証を要求している。一定の合意は既になされている」と語った。【2月7日 ロイター】
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イラン側は「不十分」としてはいますが、一応の「動き」が出たことで、これで合意の方向に向かうのか否か、ダメなら「見切り」の声も取り沙汰されるなかで、協議は大詰めを迎えているようです。
一時中断した交渉は8日に再開される予定です。
****イランとの核協議が山場に 米国は今月中にも「見切り」か****
核合意の復活を探る米国とイランの間接協議が山場を迎える。イランが核開発の制限に合意し、交渉が妥結するのか、決裂して米国が圧力を強めるのか。米国側は、今月中にも交渉の継続に見切りをつける方針だ。
米国とイランの代表団はウィーンで間接協議を続けてきたが、1月末に一時帰国して今後の方針について検討を進めている。イラン外務報道官は7日の定例会見で「8日にウィーンに戻って協議を再開する予定だ」と明らかにした。協議の再開後、数週間の内に結論を出すとされる。
イランのアブドラヒアン外相は5日、地元メディアに「米側から具体的な保証を必ず得る」と述べた。イランでは昨年8月に保守強硬派のライシ政権が発足。11月末、5カ月ぶりに協議の場に戻ると、米国に強く譲歩を迫ってきた。
イランは米国に対し、トランプ前政権が科したすべての制裁を一斉解除することに加え、核合意が復活した後の経済的な利益が確保されることや、米国が合意を二度と破らない確約といった「保証」を求めてきた。
核合意は2016年1月、イランと米英仏独中ロが履行した。しかし、18年5月にトランプ前政権が一方的に離脱し、イランへの経済制裁を再開。イラン側は19年5月から核合意の制限を超える核開発に着手した。昨年4月には、核兵器の原料になるウランを濃縮度60%まで高めた。
昨年1月に就任したバイデン米大統領は核合意に復帰する意向で、4月に間接協議が始まった。米イランの間を核合意の他の参加国と欧州連合が仲介する。
しかし、双方の条件がかみ合わず、協議は年越しに。米政府高官は先月末、「交渉の期限は数週間しか残されていない。イランは政治的な決断が必要な時だ」と促した。合意に応じない場合には「経済、外交、その他の手段によって圧力を強めることが必要になる」と警告した。
協議の行方は事実上、イランの要求次第となりそうだ。テヘランの外交筋は「イランは自らに非がないと認識しており、譲歩する姿勢を見せれば、米側に貸しがつくれると考えているだろう」と話す。
イランは制裁の影響で物価の高騰や若年層の高失業率といった課題に直面する。核合意の復活を経済再建の足がかりにできれば、最高指導者ハメネイ師の後継者の最有力候補でもあるライシ大統領にとって大きな実績になる。【2月7日 朝日】
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