孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ危機  ロシアにとってのメリットは侵攻より威嚇 危機を煽るアメリカの思惑は?

2022-02-21 23:14:05 | 欧州情勢
(203mm 2S7Mマルカ自走砲(ロシア国防省公式YouTubeより)【2月21日 FNNプライムオンライン】
核砲弾を18〜37km先に発射出来るとされている兵器で、ウクライナ国境に向けて移動しているとの情報も)

【緊迫する現状】
ウクライナ情勢については、主にアメリカから事態の緊迫を伝える情報が発信されています。
“バイデン大統領 “数日以内にロシアが侵攻も”ウクライナ東部で混乱”【2月18日 NHK】
“バイデン氏「プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断と確信」”【2月19日 日テレNEWS24】

ロシア側は、アメリカのこういう情報を「ウソ」と批判しています。
“ロシア 米バイデン大統領発言を非難 「見え透いたうそ」”【2月19日 NHK】

このあたりのやりとりについて、下記のような揶揄も。
“プーチン大統領がどんなに「ウクライナに侵攻するつもりはない。ウクライナがNATOに加盟することによってNATOが東方拡大することを阻止したいだけだ」と否定しても、(アメリカ・バイデン大統領は)「いや、騙されるな。プーチンは絶対にウクライナを侵攻してくる」と断言し、しまいには「プーチンはウクライナを侵攻する決断をすでに下した!」と、プーチンの心を見通すことができる「超能力」ぶりを発揮して「ウクライナ侵攻」を譲ろうとしない。”【2月20日 遠藤誉氏 Newsweek】

まあ、「超能力」のような判断の根拠は一応下記のような情報とされています。

****「ロシア軍司令官にウクライナ侵攻命令」の情報 米当局が把握****
ロシア軍にウクライナ侵攻の命令が出されたとの情報を、米当局が把握していることが分かった。米当局者2人と、情報当局の事情に詳しい人物1人が語った。
ロシア軍の戦術司令官と情報工作員に向けた命令とされる。米紙ワシントン・ポストが最初に報じた。

米国はロシアの侵攻準備が最終段階に入ったかどうかを見極めるため、このような命令に注目してきた。

一部の情報筋によると、侵攻の兆候としてはほかに電波妨害や広範に及ぶサイバー攻撃も考えられるが、これらは今のところ確認されていない。同情報筋は、侵攻命令が撤回される可能性や、米国や同盟諸国のかく乱を狙った偽情報である可能性も指摘した。

別の米当局者によると、米国は先週の時点で侵攻命令の情報を入手していた。最近のバイデン大統領やブリンケン国務長官の発言は、この情報に基づいているという。

バイデン氏は18日、ロシアのプーチン大統領が侵攻の決断を下したと発言。ハリス副大統領やブリンケン氏も同様の見方を示している。

ハリス氏はミュンヘン安全保障会議の場で各国首脳らと会談した後、20日に「大統領の言う通り、プーチン氏は決断を下した」と記者団に語り、外交解決への道は「狭まってきている」との見方を示した。

ブリンケン氏は同日、CNNとのインタビューで「プーチン氏が決断を下したとの確信がある」と述べる一方、ぎりぎりまで外交努力を続けると表明した。

オースティン国防長官も19日、訪問先のリトアニアで、ロシアは攻撃態勢に入ったと述べた。
バイデン氏は20日に国家安全保障会議(NSC)を開き、ハリス、ブリンケン、オースティン各氏やサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)らとウクライナ情勢について協議した。【2月21日 CNN】
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今は、真偽織り交ぜ様々な情報が、様々な意図で流れているようですので、この種の情報の判断は素人には無理ですが、アメリカ大統領がそれに基づいて「プーチン氏が決断を下したとの確信がある」と発表するのですから、それなりの確度のある情報なのでしょう。

ロシア軍の配備も、先日の一部撤収発表にもかかわらず、以前の10万人規模、あるいは15万人規模から、現在はむしろ増強されているとも。
“ウクライナ国境、ロシア軍19万人か 米大使見解、ロイター報道”【2月18日 毎日】
“ウクライナ国境のロシア軍、40%以上が攻撃態勢 米高官”【2月19日 AFP】
“通常戦力の75%集結か=ロシア軍、ウクライナ周辺に―米報道”【2月21日 時事】

注目されていたベラルーシでの合同軍事演習終了後もロシア軍部隊は残留するようです。

****ロシア軍、演習終了後もベラルーシ派遣継続…マクロン氏は侵攻回避へプーチン氏と会談****
ウクライナ情勢を巡り、ベラルーシのビクトル・フレニン国防相は20日、同日まで行われていたロシア軍との合同軍事演習について、演習や露軍部隊の派遣を継続する方針を示した。ウクライナ周辺からの露軍撤収を求める米欧側に対抗する姿勢を明確にした動きだ。

一方、フランスのマクロン大統領が20日、ロシアのプーチン大統領と電話会談し、侵攻回避に向けて外交努力を続けた。

ベラルーシで行われたロシア軍との合同軍事演習(19日、AP) フレニン氏は「ベラルーシとロシアの大統領は、(両国部隊の)対応力の点検を続けることで合意した」と述べた。理由として、北大西洋条約機構(NATO)による「(両国の)国境近くでの軍事活動の強化」と、「ウクライナ東部情勢の緊張の高まり」を挙げた。

また、「我々の近隣諸国に最新兵器が急いで投入されている」と述べ、NATOがウクライナや東欧諸国の防衛を強化していることに対抗する姿勢を強調した。

ロシアは合同軍事演習で約3万人の部隊をベラルーシに派遣していた。フレニン氏は派遣継続の規模などについては言及していない。
 
ロシアの国防省は今月中旬、ウクライナ周辺の露軍部隊の一部撤収を発表したが、米欧は逆に増強しているとみている。米高官は18日、露軍の勢力がウクライナ内外に最大約19万人いると指摘している。
 
一方、米ホワイトハウスは19日、ウクライナ情勢について声明を発表し、「ロシアは引き続き、いつでもウクライナを攻撃することが可能だ」と改めて強調した。バイデン大統領は20日、国家安全保障会議(NSC)を開き、ウクライナ情勢を巡る対応を協議するという。
 
英紙サンデー・タイムズ(電子版)は、英国の情報機関も米国と同様、プーチン氏がウクライナ侵攻計画を承認したと分析していると報じた。首都キエフに電撃的な攻撃を仕掛けることが想定され、攻撃に使う巡航ミサイルの配備も済んでいるという。
 
緊張が高まる中、マクロン氏はプーチン氏との電話会談で事態を沈静化させる糸口を探った。(後略)【2月21日 読売】
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また、親ロシア派武装勢力が実効支配するウクライナ東部の状況に関しても緊張状態・戦闘再開を伝える情報が飛び交っています。もっとも、ウクライナ政府軍、新ロシア派ともに相手側の攻撃を主張しています。

“親ロシア派地域緊張、避難続く ウクライナ軍「6人死傷」発表”【2月20日 共同】
“ウクライナ緊迫 親露派地域で砲撃応酬か 露軍はベラルーシ残留”【2月20日 産経】

こうした緊迫した状況で、東部地域からは住民避難も始まっており、ロシアも難民受入れを表明しています。
ただ、この種の情報は「相手側の非道な攻撃で住民が危険にさらされている」ということをアピールするためでもありますので、その解釈には注意が必要です。

“親露派、住民をロシアに避難 ウクライナは攻撃否定”【2月19日 産経】
“ウクライナ避難住民の保護指示=東部から「70万人」計画も―ロシア大統領”【2月19日 時事】
“緊張のウクライナ、市民は西部へ苦渋の避難…アパート需要増・企業の一時移転も”【2月20日 読売】
“ロシアへの避難民4万人超に ウクライナ東部紛争地緊張”【2月20日 共同】

【ロシアがウクライナに侵攻して何の得があるのか?】
ざっと概観しただけでも上記のように一触即発の危機的状況にあるようにも見えますが、個人的にわからないのは「一体何のためにロシア・プーチン大統領は軍事進攻するのか?何のメリットがあるのか?」ということ。

卑近な例えで恐縮ですが、万引き・かっぱらい・強奪の類は誰も見ていないところでやるもの、あるいは見ていても、すぐには対応できないように瞬時に行うもの。

一方で現在の状況は「さあ、ロシアが侵攻するぞ!プーチンが今からやるぞ!」と全世界が注視している状況。

こんな状況で侵攻しても「侵略者」のレッテルを貼られて、厳しい制裁で西側社会からは完全に切り離され、ただでさえ脆弱なロシア経済はもはや「軍事大国」を支えることができないほどに弱体化することも予想されます。ロシアの終焉です。

そこまでのリスクを犯してウクライナに侵攻して何の得があるのか。

そもそもロシア・プーチン大統領はウクライナ東部についてすら、これまでその独立を容認してきませんでした。
もし独立したら、その面倒はすべてロシアがみる必要がありますが、今の状態ならウクライナに押し付けておくことが可能です。

ましてやキエフ侵攻でウクライナ全土を占領するなど・・・ヒトラー並みの侵略者の汚名を着せられたあげく、反ロシア勢力のレジスタンスという厄介ものを抱え込むだけです。欧州全体は反ロシアで強固に結束するでしょう。

ロシア・プーチン大統領のウクライナに関する基本戦略は、東部地域を自主権を持たせた状態で今のままウクライナに残し、その東部への影響力行使を「梃」にしてウクライナ全体へ影響を行使すること、具体的にはこれ以上の西側接近、NATO加盟を阻止することでしょう。

ウクライナを占領しても何のメリットもありません。

【アメリカにとっての「ウクライナ危機」の効用】
一方のアメリカについては、以下のような指摘も。

****なぜアメリカは「ロシアがウクライナを侵攻してくれないと困る」のか****
ロシアがウクライナを侵攻してくれると、あるいは侵攻しそうな様子を見せてくれると、アメリカにはいくつものメリットがある。米軍のアフガン撤退の際に失った信用を取り戻すと同時に、アメリカ軍事産業を潤すだけでなく、欧州向けの液化天然ガス輸出量を増加させアメリカ経済を潤して、秋の中間選挙に有利となる。

アフガン撤退で失ったNATOからの信用を取り戻す
昨年8月のアフガンにおける米軍撤退の仕方が、あまりにお粗末であったために、アフガン占拠と統治に20年にわたり協力してきたNATOは、まるで梯子を外されたように戸惑い、アメリカの信用は地に落ちた。(中略)

そこでロシアが例年の軍事演習をウクライナ周辺で行っていることを利用して、「ロシアがウクライナに侵攻してくる!さあ、みんなで結束してロシアのウクライナ侵攻を食い止めよう!」と、尋常ではない勢いで国際社会に呼び掛け始めた。

この作戦は見事に当たって、多くの西側諸国が「ウクライナ侵攻」を信じる方向に向かわせることに成功した。
ブリンケン国務長官が目の色を変えて「一に結束、二に結束!」と叫ぶのは、「NATOの結束」をアメリカに向かう方向に取り戻したいからだ。(中略)

アメリカは液化天然ガス(LNG)輸出を増やし、ロシアに勝ちたい
欧州のエネルギーの多くはロシアの天然ガスに頼っている。(中略)およそ3分の1ほどを、ロシアからのパイプラインを通して輸入している。(中略)(LNGを加えても)ロシアの割合はかなり大きい。

世界はクリーンエネルギーを求めて動いているので、炭素排出量の少ない天然ガスは人気の的だ。特に脱原発を掲げるドイツは、早くからロシアと協力してノルドストリーム2の建築を進めていた。

しかしトランプ元大統領はそれを面白く思わず、親露に傾いていたメルケル元首相とは犬猿の仲であったことは有名だ。なんとかドイツにノルドストリーム2を思いとどまらせたいのは、バイデンも同じなのである。

そのためには、どうするか?
「ロシアはウクライナに侵攻しようとしているので、ロシアに制裁を加えなければならない」と欧州諸国に呼び掛けるのは、恰好の題材だろう。

そうすれば欧州諸国はロシアからパイプラインを通した天然ガスを購入せず、アメリカから液化天然ガス(LNG)を購入するしかなくなるので、アメリカのLNG関係者が潤い、今年秋の中間選挙でバイデン陣営に投票してくれる選挙民が多くなるだろうという計算なのである。

もちろん「オオカミが来るぞ――!」と声高に叫び続けていれば、ウクライナの周辺諸国は自己防衛のためアメリカから武器を買ってくれるので、アメリカの武器商人も潤うという計算だ。(中略)

ウクライナはNATOに加盟できない
プーチンのウクライナに対する要求は「NATOに加盟するな」ということに尽きているが、しかし、そもそも現状ではウクライナはNATOには加盟できない。(中略)

ウクライナがロシアと紛争を起こしているとすれば、ウクライナはNATOに加盟する資格はない。どのNATO加盟国も、(語弊があるが、小国)ウクライナのために、自国がロシアとの「戦争」に巻き込まれるのは「ごめんだ」と思っているのが正直なところだろう。(中略)

だからウクライナがNATOに加盟することは現状ではありえないと考えていい。
となると、ロシアは何も頑張ってウクライナ周辺で大規模軍事演習をする必要はないわけで、ただ単に「威嚇のため」でしかないことは明らかだろう。

ウクライナとドイツがアメリカに「煽らないでくれ」とクレーム
肝心のウクライナのゼレンスキー大統領はこれまでに何度も「ロシアのウクライナへの侵攻の可能性は非常に低い」と言っており、「もし本気で侵攻してくるのならば軍隊規模が小さすぎ、現在の規模は毎年の軍事演習の規模と変わらない」と繰り返してきた。

2月19日にも、ミュンヘンで開催されている安全保障会議でゼレンスキーは「ロシアが侵攻してくると、これ以上、煽らないでくれ」という旨の訴えをしている(Zelenskyy urges calm amid standoff with Russia)。(後略)【2月20日 遠藤誉氏 Newsweek】
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【常にありうる「不測の事態」 最悪のシナリオ「核戦争」は?】
もちろん物事には常に「不測の事態」「思わぬ方向への展開」はありますので、このままロシア・親ロシア派、ウクライナ政府のいずれかが暴発する事態もあり得ます。

最悪の展開は「核の使用」でしょう。
****ウクライナ情勢と“恐怖の均衡” 外交交渉の裏に漂う“核兵器の影”****
(中略)2月7日、フランスのマクロン大統領はモスクワに飛び、プーチン露大統領との会談に臨んだ。

プーチン大統領「ロシアの核保有」を強調
会談後の記者会見で、プーチン露大統領は「ウクライナがNATOに加盟し、軍事的手段でクリミアを取り戻すことを決定した場合、欧州諸国は自動的にロシアとの軍事紛争に巻き込まれることをご存知ですか?」と問いかけた。

つまり、ウクライナ情勢はロシアと欧州諸国の戦争に直結しうることを仄めかしたのである。(中略)そして、プーチン大統領は「しかし、勝者はいないだろう」と核戦争の危険性に敢えて触れた。(中略)

ロシアの最近の戦略核兵器部隊の演習
ロシア国防省は2022年1月24日に、ウクライナの東、ヴォルガ河沿岸のエンゲルス空軍基地所属の複数のTu-95MSベアH大型爆撃機の訓練映像を公開した。Tu-95MS爆撃機は250キロトン級核弾頭を内蔵し、最大射程4500km級のKh-102巡航ミサイルを運用できることで知られる。

また、2月2日には、Yars大陸間弾道ミサイル部隊の訓練映像も公開し、ウクライナというより、ウクライナを支援する米国やNATO諸国を牽制したようにも見えた。

ロシアの核砲弾発射可能な自走砲は展開したのか?
(中略)陸軍や地上兵器の情報サイト、Army Recognition(2月10日付)は「2月8日、ロシア軍は、ウクライナとの境界からわずか17kmの町である(ロシア南部ベルゴロド市)ベセラロパンの近くに203mm 2S7マルカ自走砲を配備した」と報じた。

(中略)2S7Mマルカ自走砲が注目を集めるのは、3BV2核砲弾を発射出来ること。この核砲弾を18〜37km先に発射出来るとされている。(中略)

米軍の核兵器運用可能部隊の動き
2月5日、バルト三国の一つ、リトアニアのアマリ空軍基地に米空軍のF-15Eストライクイーグル戦闘攻撃機が展開していることが映像で確認された。(中略)ストライクイーグルは、爆弾やミサイルを11トンも搭載出来るが、B61核爆弾も運用できる。(中略)

2月14日、英国のフェアフォード空軍基地を離陸した米空軍のB-52H爆撃機2機が、大西洋を南下し、地中海に入って、その内の1機はイスラエル空軍のF-15A戦闘機と共同訓練を行ったという。(中略)

いざという場合に核弾頭を搭載する巡航ミサイルの「発射指示」を受信するアンテナがついているB-52H大型爆撃機であるということだ。(後略)【2月21日 FNNプライムオンライン】
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なかなか物騒な話ですが、こういう物騒な代物の出番がないことを願うばかり。プーチン、バイデン両氏とも、そうした展開が両国のみならず世界の破滅につながるシナリオであることは承知しているでしょうが・・・。

フランスのマクロン大統領の仲介でバイデン大統領とプーチン大統領が20日、首脳会談を行うことを原則受け入れた、と発表されました。当面は、この会談の成り行きが注視されます。
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