孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  「プーチンの戦争」で大きく政策転換 安保・エネルギー政策など 変わったのは独以外にも

2022-02-28 22:09:02 | 欧州情勢
(ショルツ首相(連邦議会、2月27日)【2月27日 Bloomberg】  正直なところ、あまり派手さは感じさせない風貌のショルツ首相ですが、ドイツ政治をあっという間に大きく転換させています。)

【次々に発表される政策転換】
メルケル後のドイツは中道左派社民党(SPD)のショルツ首相が環境政党の「緑の党」、企業寄りの自由民主党(FDP)との連立政権を率いていますが、今回のウクライナ危機にあって、天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働手続き停止、ウクライナへの武器支援、ロシアのSWIFT排除への同意、国防費の増額、石炭火力発電所と原子力発電所の運用期限を延長する可能性・・・・などのこれまでと異なる施策を次々に明らかにしていま。

****独首相 ロシア産天然ガス パイプライン稼働手続き停止する考え****
ドイツのショルツ首相は22日、ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部の親ロシア派が事実上、支配している地域の独立を一方的に承認したことを受けて、ロシア産の天然ガスをドイツに送る新たなパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働に向けた手続きを停止する考えを示しました。

ショルツ首相は記者会見で、ウクライナ情勢について「状況は根本的に変わった」と指摘し、稼働に必要な手続きを停止するよう担当部局に指示したことでパイプラインは稼働できなくなると説明しました。

「ノルドストリーム2」をめぐってはウクライナ情勢が緊迫する中で、アメリカがロシアに対する制裁として稼働の停止を繰り返し強調し、ロシアとの経済的な結びつきの強いドイツの対応が問われていました。【2月22日 NHK】
*********************

****ドイツ一転、ウクライナに武器支援 露のSWIFT排除にも前向き****
ドイツのショルツ首相は26日、ウクライナに対戦車兵器1000基、携帯型地対空ミサイル「スティンガー」500基を供与すると発表した。これまではウクライナへの武器供与を拒否してきたが、方針を転換した。

ショルツ氏は、「ロシアの侵攻が転機になった。露軍に対するウクライナの自衛支援は、われわれの責務」とする声明を出した。

ドイツはこれまで、「紛争地には殺傷兵器を送らない」として、ウクライナへの軍事支援は自衛用ヘルメットの供与にとどめていた。発表を前に26日、ベルリンを訪れたポーランド、リトアニア両国首脳は、ショルツ氏に対し、ウクライナに対する武器支援を強く求めていた。

ドイツは26日、国際資金決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)のネットワークからロシアを排除する金融制裁にも、限定的に応じる姿勢を見せた。ベーアボック外相が、「SWIFT排除による巻き添え被害をどう抑えるかを検討中」だと声明を出した。

SWIFT排除は、ロシアが石油やガス輸出で得た外貨送金を遮断する手段。25日の欧州連合(EU)外相理事会で、対露追加制裁の一つとして検討されたが、ロシア産ガスに依存するドイツが難色を示し、見送られた。【2月27日】
***********************

****ドイツ、国防費をGDP比2%超に大幅引き上げへ****
ドイツのショルツ首相は27日、連邦議会(下院)で演説し、国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げる方針を表明した。ロシアによるウクライナ侵攻を受けた政策転換の一環。

ショルツ氏は「自由と民主主義を守るために、わが国の安全保障にもっと資金を投じなければならない」と述べた。

ショルツ氏によると、政府は2022年の予算から1000億ユーロを国防費に充てることを決めた。21年の防衛予算は全体で470億ユーロだった。

米ロッキード・マーチン製のF−35戦闘機を購入し、老朽化している「トーネード」に置き換えることが可能だという。

ドイツは歴史的な経緯や国民の強い平和主義を背景に、国防費の対GDP比を2%に引き上げるよう求める米国などからの要請に長い間抵抗してきた。

北大西洋条約機構(NATO)の統計によると、ドイツの21年の国防費の対GDP比は1.53%と見込まれている。【2月28日 ロイター】
*********************

****ドイツがエネルギー政策を大転換 ロシアのウクライナ侵攻で****
ドイツのショルツ首相は27日、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、ロシア産ガスへの依存度を引き下げるためにエネルギー政策を大きく転換する方針を示した。ウクライナ危機に対処するため開かれた臨時国会で表明した。石炭火力発電所と原子力発電所の運用期限を延長する可能性がある。

ドイツは他の西側諸国からロシア産ガスへの依存度を引き下げるよう求める圧力を受けているが、石炭火力発電所を2030年までに段階的に廃止し、原子力発電所を今年末までに閉鎖する計画では、ほとんど選択肢がない状態となっている。

ロシア産ガスはドイツのエネルギー需要の約半分を賄っている。

ショルツ氏は「ここ数日の動きにより、責任ある、先を見据えたエネルギー政策が、わが国の経済と環境のみならず、安全保障のためにも決定的に重要であることが明らかになった」と指摘。「わが国は個別のエネルギー供給国からの輸入に依存している状況を克服するため、方針を転換しなければならない」と訴えた。

新たな方針には、ブルンスビュッテルとビルヘルムスハーフェンの2カ所に液化天然ガス(LNG)ターミナルを建設する計画が盛り込まれている。

ショルツ氏によると、天然ガス備蓄施設の容量を長期的に20億立方メートル増やし、欧州連合(EU)と協力して天然ガスを世界市場で追加購入する。

またハーベック経済・気候保護相(緑の党)は、同国のエネルギー供給を確保する手法として、現在も稼働している原子力発電所の運転期限延長を検討していると明らかにした。

ハーベック氏は既存原発の運転延長を認めるかとの質問に対して、「その質問に答えるのはわが省の任務であり、考え方は否定しない」と語った。

また、石炭火力発電所を計画よりも長く稼働させることも選択肢の1つと指摘。「検討においてタブーはない」と強調した。【2月28日 ロイター】
********************

SPD・ショルツ首相の方針転換はともかく、「緑の党」が原子力発電所の運転期限延長を検討するというのは随分と現実対応が進んだようにも。

【「プーチンの戦争」で「状況は根本的に変わった」】
上記の施策はいずれもこれまでドイツが躊躇・反対していた施策で、ウクライナ情勢が「状況は根本的に変わった」ことで、従来の政策とは大きく異なる方向に踏み出しています。

ドイツ自身もまた「状況は根本的に変わった」ということになるのか。

****ドイツが劇的な政策転換 「プーチンの戦争」きっかけに****
2月27日はドイツにとって、本当に歴史的な日だった。オラル・ショルツ首相は昨年12月に就任したばかりだが、この日1日で、現代ドイツの外交政策を一変させた。

連邦議会の緊急審議で、ショルツ首相は2022年予算から1000億ユーロ(約13兆円)を国防費に追加し、連邦軍の装備強化などに充てると報告した。集まった議員はざわめき、一部は拍手したものの、ブーイングの声も出た。呆然とした表情の議員もいた。

議場の反応にひるむことなく、ショルツ首相は続けて、1週間前には考えられなかった大胆な措置を次々と発表した。国防費を国内総生産(GDP)比で2%以上へと大幅に引き上げると確約し、ドイツがウクライナに武器を直接供与する方針も示した。

これまで他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国は長年、ドイツの国防費引き上げを求め続てきたがドイツはそれに応じなかった。他のNATO加盟国のこの長年の目標を、プーチン大統領は数日で実現したことになる。
戦後ドイツで外交政策がこれほど大転換したケースは、ほとんどない。

ロシアが24日にウクライナに侵攻するまで、このような軍事的姿勢は、ほとんどのドイツ人に受け入れられなかっただろう。

戦後のドイツ政府は長年、軍事力ではなく外交と対話を重視してきた。そしてロシアとドイツの間には歴史的に、深い経済と文化の結びつきがある。

多くのドイツ人はロシアが好きだし、ロシア文化に魅了されている。そのため、ロシアに関する政治議論で飛び交う意見は常に多様で、繊細なニュアンスを伴うものだった。ドイツ人の多くは、ロシア政府の視点を少なくとも理解しようと努力していた。

しかし、ロシアのウクライナ侵攻はドイツの政府と有権者に、強い衝撃を与えた。政府も有権者も、ロシアが引き起こした事態に当初はぼうぜんとしていた。

ドイツ社会民主党(SPD)の元党首で今ではロシア・エネルギー業界のロビイストとなったゲルハルト・シュレーダー元首相をはじめ、ロシア政府と親しい著名人を、国民の多くは問題視するようになった。左派党のザーラ・ヴァーゲンクネヒト副党首のようについ先週まで、ウクライナに関するプーチン氏の主張に理解を示していた政治家は今では、自分たちが間違っていたと認めている。

ロシア国民への支持は続いている。ショルツ首相が27日の議会で、反戦を訴えるロシアの人たちの勇気をたたえると、議員たちは長いことスタンディングオベーションを続けた。

しかし、ロシア政府に対してわずかでも残っていた共感は、ドイツ人が「プーチンの戦争」と呼ぶようになったもののせいで、打ち砕かれてしまった。

ドイツ外交政策の劇的な転換は、現在の連立与党の顔ぶれを思えば、なおさらこれはすごいことだ。今の連立政権を担う政治家たちは、軍事予算を増やして喜ぶ、タカ派の冷戦戦士とは程遠いからだ。

中道左派のSPDは伝統的に、ロシアとの対話の力を信じてきた。SPDは時に、ノスタルジックなまでにロシアが好きで、ベルリンの壁崩壊とドイツ再統一を可能にしたのは軍事的な圧力よりも、しつこいまでの冷戦外交だったと深く信じている。

そのSPDと連立する緑の党は、平和主義政党を自認している。党としてのルーツは1960〜70年代の西ドイツで起きた平和運動にある。3つ目の連立与党、自由民主党(FDP)は企業寄りの政党で、減税と政府の支出削減、貿易拡大と経済成長を重視する。

それでも、ロシアとの外交は行き詰まったと27日についに宣言したのは、SPDから出た首相だった。そしてショルツ氏は、かつてないほどタカ派的な対ロ政策を宣言した。

緑の党から政権入りしているアンナレーナ・ベアボック外相は議会で、ドイツは確かにウクライナに武器を供与すると確認した。

リベラル派のクリスティアン・リントナー財務相は議会に、最上級の制裁が必要だと呼びかけた。たとえドイツ経済に大打撃を与えるとしても。
「それでも私たちはその代償を負わなくてはなりません。それが自由の代償だからです」と、リントナー氏は言った。

平和維持活動についてドイツに根強くあった政治的な固定概念には、疑問符が付き始めている。左派政治家や多くの有権者は、武器調達費の拡大に否定的だ。

それでも、ウクライナ侵攻が始まって以来、もしウクライナで成功したら、プーチン氏はそこでやめないかもしれないという気づきが広まっている。

それゆえドイツ政界の主流派は、ドイツが軍事費を増やす必要があると受け入れた。NATOの同盟諸国を守るため。そして自分たちを守るため。ウクライナはいきなり、とてもベルリンに近く感じられるようになった。

それに気づくのが遅いと批判する声は、ドイツ内外にある。しかし今週になるまで、これほど強力で大胆な行動を、ドイツではほとんどの有権者も政治家も、絶対に受け入れなかったはずだ。これほどタカ派的な姿勢をとれば、かえって紛争を悪化させかねないという心配が、つきまとったはずだ。
しかし、「プーチンの戦争」が、すべてを変えた。【2月28日 BBC】
*********************

【変わったのはドイツ以外にも】
「プーチンの戦争」で変わったのはドイツだけではありません。

****スウェーデン、国是破りウクライナに武器供与へ****
スウェーデンは27日、紛争当事国に兵器を供与しない国是を破り、ウクライナに対戦車砲などの軍事物資を送ると発表した。
 
マグダレナ・アンデション首相は、「ロシアに対するウクライナの防衛力を支援することが、今やわが国の安全保障にとって最善だというのが私の結論だ」と記者団に語った。
 
アンデション氏によると、ウクライナに提供するのは対戦車砲AT45000門や戦闘食糧13万5000食、ヘルメット5000個、防弾ベスト5000着など。スウェーデンが武力衝突の起きている国に武器を送るのは、1939年にフィンランドがソビエト連邦(当時)の侵攻を受けて以来初めてという。
 
これまでにウクライナ政府の緊急要請に応じて武器を提供した国は、米国、カナダ、欧州19か国に上る。 【2月28日 AFP】
*********************

「変わった」ということでは、以下のような現象も。

****ウクライナ脱出の難民36万人 東欧が積極受け入れ 「移民嫌い」返上?****
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は27日、ウクライナから国外に脱出した難民は36万8000人に上ったと発表した。かつてソ連圏にあった東欧のポーランドやハンガリーは、ウクライナ難民支援で欧州連合(EU)の先頭に立っている。

ポーランドのモラウィエツキ首相は27日、「国民の連帯感に感動している。難民20万人がポーランドで宿舎を得た」とツイッターで発信。ハンガリーにも27日までにウクライナから6万人以上が入国し、政府は難民申請を受け付けている。

東欧諸国は2015年、シリア内戦時の難民流入では受け入れには否定的だった。ポーランドは昨年、ベラルーシが国境に送り込んだ中東移民を鉄条網で退けた。

だが、ウクライナ侵攻は、旧ソ連による民主主義弾圧の歴史と重なり、東欧各国で難民支援の輪が広がっている。EUは27日の司法内務理事会で、ウクライナ難民受け入れで連携する方針を確認した。【2月28日 産経】
*******************

まあ、この「難民受入れ」については“変わった”のか、それとも、従来の難民への反発は結局のところアフリカ・中東系難民への反発だったのか・・・そこらはまた機会があれば取り上げます。

もうひとつ「変わった」のは「核兵器」を取り巻く状況。
従来は潜在的な脅威であっても、表だって核兵器使用で相手国に圧力をかけるということはあまりありませんでしたが、そのあたりがプーチン大統領の核態勢強化を巡る発言で変わってきています。

プーチン大統領は今回危機で繰り返し「核保有」を強調し、ロシアが威力を見せつける形で小型の核兵器を使用するのでは・・・と言う話が囁かれていました。

一方でプーチン発言と同日、安倍元首相の核共有発言も。

核の問題は取り上げると長くなりそうなので、また別機会に。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする