孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ危機  安保理でロシア非難決議を棄権したインド・UAEの事情

2022-02-27 23:16:55 | 欧州情勢
(【2月27日 BBC】26日、東部ドニプロの公園で火炎ビンづくりを行う市民 主婦から弁護士・教師まで多くの女性が参加しています。 白いものは雪ではなく、発砲スチロールをおろし金ですりおろしたもの)

【戦時大統領として評価が上がるゼレンスキー大統領】
昨日ブログで取り上げた西側の対ロシア制裁措置としての国際銀行間通信協会(SWIFT)からのロシア排除が実施されることになったのは報道のとおり。

ウクライナのゼレンスキー大統領はコメディアン出身ということや、改善しないウクライナ政治状況などで、これまでその政治的資質に疑問が持たれていましたが、アメリカの退避勧告を拒否して、圧倒的軍事力のロシア軍を相手に想定以上に抵抗を続けているということで、西側での評価が上がっているとか。

****ウクライナ大統領、米の避難支援・勧告を「拒否」…「独立を守る」****
米国は、ロシア軍に逮捕され殺害される危険に直面しているウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に対し「避難」などの方案を準備しているが、ゼレンスキー大統領はこれを拒否したと、25日(現地時間)ワシントンポスト(WP)が報道した。 

この報道によると、米国は最近までゼレンスキー大統領に対し「ロシアがゼレンスキー大統領を、最優先の除去対象としている」という警告を伝えてきた。 

今月1月、米中央情報局(CIA)のウィリアム・バーンズ長官はウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領に先のような問題を言及したとされている。 

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は今月24日の明け方、東部ドンバス地域に対する特殊軍事作戦開始の決定を知らせ「この8年間、ウクライナ政府の嘲弄(ちょうろう)と大量虐殺被害に苦しめられた人たちを保護するためのものだ」と語った。 

しかし西側諸国は「今回の攻撃の究極的目標には、現ウクライナ政権指導部を追い出し親露人物たちによる政権樹立も含まれている」とみている。 

そのようなことから米国は「ロシアがゼレンスキー大統領を逮捕すれば、彼を外部から遮断したり譲歩を強要する恐れがある」と懸念している。 

また、ウクライナ政府の持続性を担保するため「ゼレンスキー大統領が最も安全な場所にとどまること」を含めた多数の方案を論議しているものとみられる。 

米ホワイトハウスの報道官は「ゼレンスキー大統領と連絡をとっており、彼に多様な支援を提供するため努力している」と伝えた。 (中略)

このように自身への脅威が迫っている中、ゼレンスキー大統領は政府の責任を果たすため「首都キエフに残り続ける」という立場を明らかにしている。 

ゼレンスキー大統領は「我々がもっている情報によると、ロシアは私を第1の標的とし、私の家族を第2の標的にしている」とし「彼らは国家元首を除去することで、政治的にウクライナを破壊しようとしている」と語った。 また「我々は皆ここにいる。我々の独立と国家を守っており、これからも続けていく」と語った。【2月26日 WOW! Korea】
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****コメディアンから戦時大統領に ゼレンスキー氏高まる評価****
ロシア軍の侵攻を受けるウクライナのゼレンスキー大統領の評価が欧米メディアで高まっている。「私はここにいる」と首都キエフを離れていないことを強調し、場所を転々と変えて動画を公表。軍や国民を勇気づけるメッセージを発信している。

欧米メディアでは「戦時大統領」(英BBC放送)になりつつあるとの見方も出ている。
米CNNなどによると、ゼレンスキー氏は26日、1人で日中の街中に立っている30秒足らずの自撮り動画を公表し、「私はここにいる。武器を捨ててはいない。国を守り続ける。われわれの土地、国を守る。ウクライナに栄光あれ」と訴えた。

25日に公開された動画では、夜間の街頭に首相ら側近とともに立ち、「みんなここにいる。独立を守る」と明言した。スーツを脱いだ軍服姿で国民を鼓舞するメッセージを発信した。

プーチン露大統領は25日、ゼレンスキー政権を「麻薬中毒者とネオナチの集団」と呼び、露メディアでは侵攻を正当化する報道が続いている。ゼレンスキー氏はロシアの情報戦にインターネットを駆使して応戦している形だ。

人気コメディアン出身のゼレンスキー氏の支持率は露の侵攻直前、19%台に落ち込んでいた。しかし、ロシア軍が首都に迫り、自身が「ロシアの1番目の敵」であることを認識しながらも、一歩も引かない姿勢に信頼を寄せるウクライナ市民もいる。

東部ドニプロに住む女性(27)はSNS(会員制交流サイト)での産経新聞の取材に、「(ゼレンスキー氏は)できることをすべてやっていると思う。開戦後は顔つきまで変わってきた」と評した。【2月27日 産経】
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ウクライナ軍が持ちこたえているのは、クリミア併合を許した2014年当時と異なり、西側からの軍事支援で強化されていること、紛争を受けて大幅に強まったウクライナ人としての自覚が指摘されています。また、ウクライナ東部での戦闘が続いていたことで、ある程度実戦慣れしていることも想像されます。

ロシア軍の侵攻の遅れも取り沙汰されており、ドイツが武器支援に転じるなど西側からの武器支援も拡大していますが、首都キエフもハリコフも危機的状況が続いていることは変わりません。

【安保理のロシア非難決議 中国・インド・UAEが棄権】
こうした状況で国連が現実的な調停機能を果たせていないのは相変わらずですが、ロシアの拒否権は承知の上で、ロシアの孤立を世界に示すためのロシア撤退を求める安保理決議採決が25日に行われました。

****ロシア非難決議否決=日本など80カ国超賛同も―国連安保理****
国連安全保障理事会は25日午後(日本時間26日午前)、ロシアによるウクライナ侵攻を非難し、即時撤退を求める米国主導の決議案を採決に付したが、ロシアが拒否権を行使し否決された。

理事国15カ国中、米欧など11カ国が賛成し、中国、インド、アラブ首長国連邦(UAE)は棄権した。
 
米国は否決を見据え、決議案への賛同を示す共同提案国を理事国以外にも広く募り、日本を含む80カ国以上が名を連ねた。ロシアの国際的孤立を強調するのが狙いだ。
 
トーマスグリーンフィールド米国連大使は、採決前、「簡単な投票だ。国連憲章を支持するなら『イエス』、ロシアの行動に同調するなら『ノー』か棄権だ」と迫った。
 
結果、動向が注目された中国だけでなく、日米オーストラリアとの連携枠組み「クアッド」の一角であるインドも棄権に回った。インドのティルムルティ国連大使は「外交の道が断念されたのは遺憾だ」と理由を説明した。
 
ウクライナのキスリツァ国連大使は会合での演説中、出席者に犠牲者への黙とうを要請。約10秒間祈りをささげた後、議場からは自然と連帯を示す拍手がわき上がった。ロシアのネベンジャ国連大使は鼻で笑ったが、ロシアの孤立を印象付けた。
 
安保理決議案は否決されたが、米欧などは意思表示のため、国連総会で同内容の決議採択を目指している。ただ、総会決議に法的拘束力は無い。
 
安保理は2014年にも、ウクライナ南部クリミア半島のロシア併合をめぐる住民投票を無効とする決議案採択を目指したが、ロシアが拒否権を発動して否決された。その際も中国は棄権している。【2月26日 時事】
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棄権した中国は24日ブログ“中国 ロシア・プーチン大統領をどこまで支援すべきか慎重に見極め中”でも取り上げたように、対米対決のパートナーであるロシアを支援する立場にあるものの、内政不干渉という原則的立場、ウクライナ危機に巻き込まれる形で欧米との関係を悪化させたくない思惑、ウクライナともこれまで良好な関係を維持してきたこと・・・等々のことがあって、一歩引いて様子見の姿勢です。

今後の中国の対応がロシアの動向に大きく影響します。
(と言うか、これまでもアメリカは中国を通じてロシアを抑制するように働きかけてきたようですが、プーチン大統領がまさか本当に侵攻するとは考えていなかった中国指導部はこの要請を無視し、今になって慌てているといったところのようです。【2月26日 “読み誤った習氏、ロシア侵攻でまさかの不意打ち” WSJ】)

欧米や中国の陰に隠れて目立たないものの、ロシアとの関係で苦慮しているのが、やはり棄権したインド。

【棄権したインドの事情】
インドは、ロシアのウクライナ侵攻について目立った批判を手控えています。自由主義陣営のメンバーとして日米豪との協力枠組み「クアッド」の一角を占める一方で、ロシアとも伝統的な友好関係を維持しているためです。

インドは旧ソ連時代から軍事面でロシアとの関係が特に密接で、2016〜20年のインドの武器輸入の約半分をロシアが占めています。また2018年にはアメリカの反対を振り切ってロシア製地対空ミサイル「S400」の導入契約を結んでいます。【2月24日 産経より】

ロシア製ミサイル「S400」はNATO加盟国トルコがやはり導入して、アメリカとの間で制裁を含む大きな問題となっています。

****ロシア製ミサイル配備を決めたインドの深刻な事情****
米国とロシアの関係が悪化する中、インドをめぐって1つのミサイルの取引が問題視された。インドがロシアからS-400地対空ミサイルを購入したことである。

米国は、トルコがS-400地対空ミサイルを購入した際には制裁を課しており、インドに対しても制裁を課すのではないか、それが米国とインドの関係に大きく影響するのではないか、と危惧された。

そして、2021年12月には最初のS-400地対空ミサイルがインドに到着し、22年2月にはインドのパンジャブ州で最初のS-400地対空ミサイルの部隊が創設される予定だ。

実際には、米国はまだインドに制裁を課していない。しかし、制裁を課すのではないかという危惧はかなり以前から議論されていた。
 
ここで疑問がわくのは、インドと米国が中国対策で協力するようになる中、なぜインドは、米国から制裁をかけられるかもしれない状態でも、S-400地対空ミサイルの購入を強行したのか、である。(中略)

インド軍の武器の60%はソ連・ロシア製
なぜインドがS-400 地対空ミサイルの取引を強行したのか。最初に思い当たるのは、インドにとってロシアからの武器供給が重要だから、ロシアとの関係が痛まないように配慮した、というものである。
 
たしかにインド軍の武器の60%が旧ソ連およびロシア製の武器で占められている。武器は高度で精密なのに乱暴に扱うものだから、常に整備・修理して使うものだ。弾薬も消費する。そうすると、修理部品や弾薬を供給してくれるロシアの重要性は、インドにとって大きい。
 
ただ、インドの武器輸入に関して近年の傾向を見てみると、ロシアの重要性は低下している。(中略)過去10年くらいを見ると、ソ連やロシアが占めるシェアが急速に落ち、米英仏イスラエル各国からの武器輸入額がロシアを上回るようになっていることがわかる。
 
だから、依然として武器供給国としてのロシアの存在は、現在でも一定程度重要であるものの、将来を見据えると、ロシアよりも米国やその同盟国との関係の方が、インドにとってより重要になっていく傾向にある。

だからS-400地対空ミサイルの購入に際し、インドがロシアに一定の配慮を示した側面はあるだろうが、それだけで説明できるほど、強い要因とはいえないだろう。では、インドは、なぜS-400地対空ミサイル購入を強行したのだろうか。

パキスタン対策に必要
インドがS-400地対空ミサイル購入を強行した背景には、外国(この場合は米国)の圧力に屈したようにみせるわけにはいかない、といった主権国家としての威信に関わる問題があるものと思われる。ただ、それだけではない。そもそもS-400地対空ミサイルが、インドにとって魅力的だったからである。
 
どれほど魅力的だったのか。インドがS-400地対空ミサイルの部隊を創設した位置から、その意図が読み取れる。インドがS-400地対空ミサイルをパンジャブ州に配備しようとしていることは、パキスタン対策に必要だったことを意味しているからだ。(中略)

パキスタンは、1971年の第3次印パ戦争でインドに敗れて以後、インドに対抗するためにいくつかの戦略を考えた。その一つは核兵器を保有することであり、もう一つは、テロリストを支援してインドの国力を削ぐ、「千の傷戦略(どのような大きな国も、テロによって小さな傷をたくさんつければ力を削がれる、という戦略)」であった。インドは対応を迫られたのである。(中略)

つまり、(インドの対パキスタン戦略)「コールド・スタート・ドクトリン」を実効性あるものにするとしたら、パキスタンの核弾頭を搭載した弾道ミサイルないし巡航ミサイルを、ミサイル防衛システムで迎撃しなければならないのである。そこで、インドはS-400地対空ミサイルが欲しくなったのである。
 
インドには弾道ミサイルを迎撃するミサイル防衛システムはあるが、巡航ミサイルを迎撃するミサイル防衛システムはない。S-400地対空ミサイルは、巡航ミサイルの迎撃に優れる。射程も長いから、パンジャブ州に配備すれば、インドの戦車部隊がパキスタン領内に侵入したときでも、その上空を守ることができるのである。
 
米国製のミサイルではだめか。米国製のミサイルでは、例えば高高度防衛ミサイル(THAAD)や地対空誘導弾パトリオット(PAC-3)、イージスアショアのようなミサイルがあるが、射程が短かったり、必要な場所に移動できなかったり、高価であったり、する。

そのため、インドのニーズに合わない。S-400地対空ミサイルは、適切な選択で、インドはパキスタン対策として、とても欲しかったのである。

実は中国が握る主導権
ただ、このようなインドの思惑は、今は、有用だとしても、近い将来、崩されてしまうかもしれない。それは、中国がS-400地対空ミサイルを突破できる極超音速ミサイル、例えばDF-17ミサイルをパキスタンに提供する可能性があるからだ。
 
実は中国は過去、パキスタンのミサイル開発を継続的に支援してきた。表はパキスタンが保有・開発中のミサイルの一覧である。これをみると、ガズナビ、ナスル、シャヒーンといったミサイルは、中国が開発を支援しているミサイルとみられている。

中国はパキスタンのミサイル開発に深く関与しているのだ。そのため、インドのS-400地対空ミサイル対策についても、中国が関与する可能性が高い。

中国は自国でS-400地対空ミサイルを保有しており、突破する方法についても熟知しているものとみられる。具体的には、中国が現在保有するDF-17極超音速ミサイルをパキスタンに提供する可能性があることが指摘されている。(後略)【2月21日 WEDGE】
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前出のロシア非難の安保理決議に際しては、アメリカはインドへの働きかけを行ったようですが、「賛成」への説得はうまくいかなかったようです。

****米、ロシア対応でインドと協議 バイデン氏「結論出ず」****
バイデン米大統領は24日、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議案が国連安全保障理事会で採決されるのを前に、非常任理事国であるインドとのロシアへの対応を巡る協議は「結論が出ていない」と明らかにした。

決議案はロシアに即時の無条件撤退を求める内容で、米政府高官によると、25日に採決される可能性が高い。常任理事国のロシアの拒否権行使で不採択となることは確実だが、米国は理事国15カ国のうち少なくとも13カ国の賛成を取り付け、ロシアを孤立化させたい考え。ロシアに近い中国には棄権するよう働き掛けている。

インドはこれまでのところ、ウクライナ侵攻を巡りロシアを非難することはせず、モディ首相はロシアのプーチン大統領との電話会談で暴力の停止を求めるにとどめた。インドはここ数年で米国と緊密な関係を築いたが、防衛装備品の主要な調達先であるロシアとの関係は昔から強い。

バイデン氏は「ロシアのウクライナに対するあからさまな侵略を容認するいかなる国も、その付き合いによって汚名を着せられるだろう」と警告。

インドが米国と完全に歩調を合わせているかとの質問には「インドとは協議を行っている。まだ結論は出ていない」と語った。

一方、米国務省は声明で、ブリンケン国務長官がインドのジャイシャンカル外相と24日に電話会談し、「ロシアの侵攻を非難し、即時の撤退と停戦を求めるための強力な集団的対応の重要性を強調した」と明らかにした。

ジャインシャンカル氏は、ブリンケン氏とはウクライナ情勢の影響について話し合ったとツイッターに投稿。また、ロシアのラブロフ外相とも電話会談し、「対話と外交が最善の道筋と強調した」と述べた。【2月25日 ロイター】
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【UAEの事情は?】
ただ、“(ロシア・中国以外の)少なくとも13カ国の賛成を取り付け”ということでは、インドはともかく、UAEの棄権も想定外だったということでしょうか。

UAEが棄権した事情は知りません。OPECプラスの同じ有力産油国としてロシアと利害を共通するものが大きいのでしょうか。UAEは昨年末に武器購入でアメリカとトラブっているという報道はありました。

****アメリカからの武器購入を中断したUAEに中国の影****
アラブ首長国連邦(UAE)は12月15日、アメリカから武器を購入する計画を凍結すると発表した。総額230億ドルにのぼる取引の対象には、次世代戦闘機「F35ライトニング2」、高性能武装ドローン、空対空および空対地ミサイルが含まれていた。

(中略)UAEの複数の当局者はその理由として、戦闘機使用の場所や方法について、アメリカ側が制限を設けてきたことを挙げ、UAE側としてはこれが主権の侵害にあたると考えていると述べた。

(中略)UAEは長年、対テロ作戦でアメリカに協力し、2021年夏に米軍のアフガニスタン完全撤退に伴って混乱が生じた際には、同国から脱出した大勢のアフガニスタン人を受け入れた。だが一方で、UAEが中国との協力関係を強化させていることをめぐり、アメリカとUAEの緊張は高まっていた。

12月9日にはUAEの高官が、アブダビ港で建設が進められていた中国の施設について、アメリカから軍事基地だとの指摘を受けて、UAE政府が建設を停止させたことを認めた。(後略)【2021年12月16日 Newsweek】
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