(香港の明愛医院の外に並べられた、患者を乗せたベッド(2022年2月15日撮影)【2月16日 AFP】)
【路上にベッドを置いて治療】
香港では、昨年末まて約3カ月にわたって市中感染ゼロと新型コロナを抑え込んていましたが、ここにきて「オミクロン株」の感染が急拡大し、医療体制が逼迫、病院の外までベッドが設置される事例も見られる状況にもなっています。
*****香港、感染患者あふれ屋外に病床 過去最多の1日4200人超****
香港で新型コロナウイルスの感染が急拡大している。病院は患者を収容し切れず、路上にベッドを置いて治療せざるを得ない状況となっている。
香港当局は16日、1日あたりとしては過去最多の4285人の新規感染者を確認したと発表した。
香港政府は新型ウイルスのオミクロン変異株による感染第5波を食い止めるのに苦慮していると認めている。ただ、香港全土を封鎖する可能性は排除している。
入院を待つ人の数は1万人を超えている。専門家たちは1日の感染者数が今後、2万8000人にまで急増するおそれがあると警告している。当局によると、過去24時間に3歳の女児を含む9人が死亡した。
人口約750万人の香港では新型ウイルスのパンデミック開始以来、約2万6000人が感染し、200人超が死亡している。同規模のほかの都市と比べるとはるかに少ない。
パブやジム、教会などの公共施設の閉鎖や厳格な渡航制限といった措置に耐えてきた住民の間では、疲労感が高まっている。
また、香港政府はワクチン接種を受けるよう市民を説得するのに苦慮している。特に高齢者の接種率が相対的に低い。(後略)【2月17日 BBC】
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都市国家ですので、日本全体より東京と比較するのがいいかと思いますが、東京(人口1396万人 今日17日の新規感染が1万7,864人)の人口に換算すると、香港の4285人は約8千人相当ということで、まださほどのレベルではないように思えますが、そのレベルで“病院の外までベッドが設置”というのは、医療体制に問題があるようにも。
【習主席が香港政府に事実上の指示を行ったことが公表される異例の事態】
それはともかく、「ゼロコロナ」を維持している中国政府からみたらゆゆしき事態で、習近平主席が香港政府トップの林鄭月娥行政長官に“異例の指示”をすることにもなっています。
実際のところは中国政府の香港当局への指示は異例でも何でもなく“今更”のことでしょうが、そういうことが公表されることになったことが、香港の現状を示していると言えます。
****習近平氏、香港に異例の感染対策指示…「最優先の任務に」****
中国の香港出先機関、駐香港連絡弁公室(中連弁)は16日、習近平シージンピン国家主席が香港政府トップの林鄭月娥りんていげつが行政長官に、急拡大する新型コロナウイルス感染の対策で「感染状況の安定とコントロールを最優先の任務とする」よう求めたと発表した。
香港は今でも「高度な自治」が認められる「一国二制度」を維持しているとしており、習氏が香港政府に事実上の指示を行ったことが公表されるのは異例だ。
香港では16日発表の新規感染者が過去最多の4000人超となるなど感染状況が悪化し、習政権は危機感を強めているようだ。
発表によると、習氏は、「動員できる全ての力と資源を動員し、香港社会全体の安定を確保しなければならない」と韓正ハンジョン筆頭副首相を通じて林鄭氏に伝えた。中国政府は香港政府に中国本土と同様の「ゼロコロナ」政策を求めており、感染拡大防止の失策をとがめる意味合いがあるとみられる。
香港の医療態勢は逼迫ひっぱくしており、香港紙・明報によると、中国本土から1000人以上の医療チームら支援隊が派遣される見込みという。香港から本土へ避難する人もおり、入境時に予約が必要な隔離施設は連日満室となっている。【2月16日 読売】
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形骸化した「一国二制度」の実態を示す事例にもなっていますが、中国本土の地方政府だったら、とっくにトップの首が飛んでいるところですので、それに比べたらまだ「一国二制度」の残滓が残っていると言うべきでしょうか。
【コロナ対策に透ける「一国二制度」の実態】
香港政府も感染対策(それと責任逃れ)に躍起になっていますが、その責任を負わされたのがキャセイパシフィックとハムスター。
****オミクロン株、ハムスター犯人説でペットを殺処分した香港の惨状****
ウイルス対策・防疫を口実にますます進む統制・管理社会
ゼロコロナ政策を掲げ、厳格な入国規制と強制隔離、強制検疫を実施したことで、昨年末まで感染拡大をほぼゼロに抑え込んでいた香港だが、年明けからオミクロン株とデルタ株の感染が拡大し、執筆時点の2月11日には新規感染者が1500人と過去最高に達した。
年明け早々から夜18時以降の店内飲食は禁止され、2月10日からは理髪店・美容室と各種宗教施設も強制閉鎖(営業禁止)された。24日からはワクチン未接種者は、飲食店はおろかスーパーやデパートにまで立ち入りが禁止される事態である。
補償の有無を含め事前に十分な説明もなく次から次に打ち出される強制措置に、市民も不満を口にしながらあきらめ顔だ。国家安全法施行以来、香港政府による相次ぐ強制措置になすすべなく翻弄される香港社会はどうなっていくのか、現地からの最新レポートをお届けする。
香港では、昨年末まで約3カ月にわたって市中感染ゼロと新型コロナを抑え込んでいたが、キャセイパシフィックの乗務員が強制隔離規則を無視して「家族と外食した」ことから、オミクロン株の感染拡大が始まったと香港当局は断定している。
行政長官のキャリー・ラムはキャセイの責任者を呼びつけ厳しく叱責したためか、感染した乗務員2名は即刻解雇。主要メディアも「キャセイ犯人説」を大々的に報じた。
海外の例では、検疫前の乗客が利用する空港内施設で働く清掃作業員や乗客の手荷物を扱う空港職員からもオミクロン株感染が確認されており、キャセイのクルーにすべての責任を押し付けるのはどうかという見方もネット世論では出ていた。だが、政府見解に公に疑義を唱えるメディアは見当たらなかった。
ハムスター犯人説でペットを殺処分した香港政府
香港初のオミクロン株市中感染が確認された数日後、今度は感染源不明のデルタ株の市中感染が確認された。陽性確認されたのは香港有数の繁華街、コーズウェイベイにあるペットショップの店員で、その店の利用客にも感染が拡がった。
結局、その店で扱っていたハムスターからウイルスが見つかり、小動物から人間に感染するのか否かの科学的な根拠も曖昧なまま、香港政府は「ハムスター犯人説」を採用。市民に対して、各家庭で飼育しているハムスターを「人道的処分」のため政府に提出せよとの命令がくだされた。
そして、香港市内のペットショップは全て強制閉鎖。香港市内のハムスター約2000匹やチンチラなどの小動物が「人道的処分」の名目で殺処分された。可愛がっていたペットを取り上げられて泣きじゃくる子どもたちの様子をニュースで見て心が痛んだものだ。
「キャセイ犯人説」にせよ「ハムスター犯人説」にせよ、その根拠は必ずしも明確ではなく、どうもスケープゴートにされた感もなくはない。
ただ、そうではあっても、検証や説明で時間を費やすことなく即断即決で強制的措置をとらねばコロナ対策などできない、と香港政府は開き直っているようだ。
堂々と政府批判の論陣を張っていたリンゴ日報はもはやなく、議会で政府を追及していた民主派議員も議席を失い多くは獄中にいる。国安法施行後、政府を批判することは「国家転覆」「国家反逆」と見なされ逮捕・拘束されるのだから、あれでだけ風刺まみれで政府を批判していた香港市民も口を閉ざすしかない。
香港を牛耳る英資本に不満を持つ習近平政権
今回、やり玉にあげられたキャセイパシフィックの経営状況は非常に悪い。香港の航空路線はすべてが国際線なので徹底した入国制限で旅客数は激減しているうえ、1月から米国、英国、豪州など8カ国からの旅客機の香港空港着陸は禁止されたままで運行便数は激減している。
しかも、乗務員に対する厳格な検疫と長期間の強制隔離を嫌ってパイロットの離職が相次ぎ、唯一の稼ぎ手である貨物便すら減便を余儀なくされている。
キャセイパシフィックは香港を代表する航空会社で、香港のフラッグキャリアだ。今でこそ中国国際航空が約3割の株式を保有しているが、母体は45%の株式を持つスワイヤー・グループで、言うまでもなくその歴史は英国の植民地資本から始まる。
スワイヤーは今でも香港を本拠地に不動産や貿易、海運・空運と様々な事業を展開しており、香港地場の砂糖「TaikooSugar」はシェア100%だし、香港や台湾で販売しているコカ・コーラ事業も同社の傘下にある。
中国返還から25年になる香港だが、その経済はまだまだ植民地時代から脈々と続く英国の植民地資本が大きな影響力を持っている。このスワイヤーとジャーディン・マセソンが両巨頭と言えるだろう。(中略)
このように依然として香港経済に厳然たる影響力を持つ英国系資本に対し「中華民族の偉大な復興」を掲げる習近平政権が快く思っていないのは想像に難くない。真の意味で「香港回帰(香港を取り戻す)」を成し遂げるには、植民地支配の残滓である英国資本を放逐し、香港の経済社会を民族資本に変えていこうとする意図があるのは間違いない。
キャセイ叩きに透けて見える「香港の文化大革命」
曖昧な根拠でキャセイパシフィックを叩く香港政府の本音も、この脈絡で考えればつじつまが合う。キャセイを窮地に追い込み、100%民族資本の「大湾区航空」に香港のフラッグキャリアの座を変えようという意図があると見なしても、大げさではないだろう。
香港について語る時、中国にとって香港、そして香港人とは何なのか考えてみると見えてくるものがある。150年にわたる英国統治によって中国とは別の歴史、文化を育んできた香港は、中国にとってはアヘン戦争以降の屈辱的歴史の象徴だ。香港人も、中国人のくせに英語を使って西洋かぶれしている目障りな連中、自由だの民主だの悪しき西洋思想に染まった好ましからぬ連中、そうした視点が間違いなくある。
そこまで明確ではないにせよ、中国人の持つ香港人に対する一般的な印象は必ずしも良くない。2019年に吹き荒れた抗議デモへの容赦なき徹底弾圧や国安法施行とともに進められた愛国(愛党)教育推進、メディア統制もそうした香港社会や香港人を根本から変えていこうという「香港版文化大革命」の要素があると筆者は感じている。
これまで香港の学校教育では英語が重要視されてきたかが、今やそれに代わって多くの時間を中国語(北京語)で行われている。教科書の内容も大きく変わった。
最近は街角で、小中学生同士が香港の母語である広東語ではなく北京語で会話している様子を見かけることも珍しくなくなった。いずれ日常使われる漢字もこれまでの繁体字から中国で使われる簡体字にとって代わられる日が来るかもしれない。
そうなれば、香港はこれまでの「ホンコン」ではなく、北京語発音の「シャンカン」と呼ばれるようになるだろう。そうしてこそ、中国の狙う真の意味での祖国統一、香港返還が成し遂げられるからだ。(後略)【2月14日 平田 祐司氏 JBpress】
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当局の対応に批判の声をあげることができなくなっている香港社会というのは、コロナ対策以上に重要なことでしょう。
また、その香港社会で進む「香港版文化大革命」・・・その実際については詳しくを知りませんが、指摘のような動き・意図があるとしたら、これも中国の言う「一国二制度」の実態を示すものとして注視する必要があります。