孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ウクライナ問題  ロシア軍に一部撤収の動き とりあえずは危機回避か?

2022-02-15 23:08:05 | 欧州情勢

(15日、ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島バフチサライで、鉄道で輸送されるロシア軍の装甲戦闘車両(ロシア国防省提供の映像より)【2月15日 時事】)

【ウクライナ大統領「16日が攻撃の日という話を聞いている」】
今回の「危機」はピークを超えて、とりあえずの緩和方向に動き出した・・・と推測できる報道が数時間前から流れています。まだロシアの動きなど詳細はわかりません。

ウクライナでは、欧米側の明日にでもロシア軍のウクライナ侵攻が起きると煽るような姿勢への皮肉も込めて、ゼレンスキー大統領が、「16日が攻撃の日という話を聞いている」と発言するなど、緊張はギリギリのところまで高まっていました。

****ウクライナ大統領、16日の「国民結束」呼び掛け 侵攻の報道巡り****
ロシアが16日にウクライナ侵攻を開始する可能性があると一部の欧米メディアが報じる中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、この日に国旗を掲げ、国歌を斉唱して結束を示すよう国民に求めた。

当局者らの説明では、攻撃の日を予測しているわけではなく、報道への懐疑的な見方を表す意図があるとのことだが、緊張は一段と高まった。

米政府当局者らは、ロシアのプーチン大統領が攻撃を命令する具体的な日について、見通しを示すつもりはないとの立場を表明。ただ、いつでも起こり得ると繰り返し警告している。。

ゼレンスキー大統領は、国民へのビデオ演説で「16日が攻撃の日という話を聞いている。われわれはこの日を結束の日にする」と強調した。

「軍事行動を始める具体的な日を示すことで、われわれの恐怖心をあおろうとしている」とした上で「この日に国旗を掲げ、黄色と青のバナーを着用し、全世界にわれわれの結束を示そう」と呼び掛けた。

大統領首席補佐官の助言役であるMykhailo Podolyak氏はロイターに、大統領の対応は攻撃開始日に関する報道への皮肉も込められていると説明。「『侵攻開始』がまるでツアー日程のように報じられているので、皮肉を込めざるを得ない」と述べた。

一方、米国防総省のカービー報道官は記者団に「具体的な日に言及するつもりはないし、それは賢明ではない。(ロシアのプーチン大統領が)ほとんど、もしくは全く警告を出さずに動くことは十分あり得る」とコメントした。

同氏は先に、プーチン氏が日ごとにウクライナ国境周辺で軍部隊を増強し、軍事力を高めているという認識を示した。

米国はウクライナの首都キエフにある大使館から職員の大半を退避させている。ブリンケン国務長官は14日、「ロシア軍部隊増強の劇的な加速」を踏まえ、米大使館に残っている職員を首都キエフから西部リビウに移転させると発表した。

ロシアのラブロフ外相はこの日、プーチン大統領の質問に答える形で「即座に解決が必要な問題について際限なく交渉を続けることは容認しないと、われわれは何度も警告した」と述べた上で「多くの可能性がまだ残されている。現時点では(交渉を)継続し、構築し続けることを提案する」と語った。両氏の会話はテレビで放送された。

緊張緩和に向けた米欧の外交努力は継続しており、ドイツのショルツ首相は15日にモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談する予定。【2月15日 ロイター】
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また、ロシア軍の「本格準備」を伝える報道も。

****露軍の戦車「ウクライナ国境まで約20キロに移動」…侵攻「本格準備」か****
ロシア軍が、ウクライナ周辺に集結させている13万人規模とされる部隊を、ウクライナとの国境付近に徐々に接近させている。侵攻の「本格準備」に入ったとの見方が出ている一方、軍事圧力を最大限にして米欧との交渉を有利に進める狙いともみられる。
 
軍の動向を調査している露独立系団体「CIT」は13日、露軍の戦車が、ウクライナ東部ハリコフ州との国境まで約20キロ・メートルの地点に移動したとツイッターで指摘した。
 
ロシアが2014年に併合したウクライナ南部クリミアの飛行場跡地に、軍用ヘリコプター約50機が集結したとされる衛星写真も出回っている。クリミア沖では露海軍が、揚陸艦など30隻以上による演習を実施している。【2月15日 読売】
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【ロシア軍に一部撤収の動き 当面の危機回避か】
こうした緊張状態のなかで、ロシア軍の一部撤収が報じられています。
この動きが今後も続くなら、今回の危機はとりあえずは脱した・・・と判断できます。

****ロシア軍部隊が一部撤収開始 米欧との交渉継続方針で緊張緩和か****
ロシア国防省は15日、ウクライナ国境に接する西部と南部の両軍管区で一部の部隊が演習を終え、撤収を開始したと発表した。

プーチン露大統領は14日、欧米と安全保障問題で交渉を継続するとしたラブロフ外相の提案を了承しており、関連した動きの可能性がある。ただ、全ての部隊を撤収させるのかどうかは明らかにされておらず、緊張緩和につながるかはまだ不透明だ。
 
ウクライナ国境付近では昨秋以降、10万人以上のロシア軍部隊が集結し、ウクライナへの軍事侵攻が懸念されており、バイデン米政権は今週中にも侵攻が始まる可能性があるとの見方を示してきた。
 
しかし、露国防省の発表によると、西部と南部の軍管区に展開する一部の部隊はすでに列車や車両への装備の積載に着手し、元の駐屯地への移動を始めているという。ロシアのショイグ国防相は14日、プーチン氏に対し「一部の演習はすでに終わり、他の一部も近く終了する」と報告していた。
 
また、ラブロフ氏も14日、北大西洋条約機構(NATO)の不拡大などを求めるロシアに対する米欧の回答が「満足いくものではなかった」と改めてプーチン氏に報告。プーチン氏は「(米欧と)重要な問題で合意するチャンスはあるのか」といら立ちも示したが、ラブロフ氏は「チャンスはいつもある」と応じ、「際限なく交渉を続けるべきではないが、現段階では交渉を続け、発展させることを提案する」と述べ、プーチン氏も了承した。
 
ロシア軍はウクライナの隣国ベラルーシでも20日まで合同演習を行い、南岸の黒海でも19日まで艦艇などによる演習を続ける予定。

タス通信によると、プーチン氏は今週末までにベラルーシのルカシェンコ大統領と会談する予定で、ベラルーシに展開するロシア軍部隊の撤収時期を協議するとみられる。

プーチン政権はこれまで演習後の撤収を明言してきたが、米軍などの東欧への増派やウクライナ軍の「挑発行為」への懸念も繰り返し表明しており、米欧やウクライナへの対抗として一部の部隊を残す可能性も指摘されている。
 
一方、米国務省のプライス報道官は14日の記者会見で、ラブロフ氏がプーチン氏に交渉継続を提言したことについて「留意している。ただし、緊張緩和に向けた具体的な兆しがこれまで全く見られない」と強調した。「我々は一貫して外交による解決の道を追求している。ロシアにも同様の姿勢を求めているが、そのような状況はまだ見られない」と、警戒感を示した。【2月15日 毎日】
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ロシア軍の動きが報じられてからまだ間がないため、ウクライナ側の反応も「ロシア側からはさまざまな発言が出ている。われわれは、目で見たことを信じることにしている。(ロシア軍の)撤収を実際に見ることができれば、緊張緩和を信じる」(ウクライナのクレバ外相)と一部懐疑的な部分はあるようです。

ただ、下記報道にもあるように、ロシア外務省が「勝利宣言」的なコメントを出していますので、“勝利”かどうかともかく、そうした総括的コメントがなされるということは、一連の動きに一応の“区切り”がつけられたということでしょう。

****ロシア、部隊の一部を撤収と ウクライナは「見たら信じる」****
ロシア国防省は15日、ウクライナ国境付近に集結させている部隊の一部を撤収させていると発表した。ウクライナは証拠を待つとしている。

ロシア国防省は、各地で実施中の大規模な軍事演習は継続するものの、一部の部隊は基地に帰還していると述べた。
国防省のイゴール・コナシェンコフ報道官は、「戦闘訓練の演習が計画通り行われた」と話した。ベラルーシで行われている大規模軍事演習などは、20日まで続く予定。

一方、ウクライナ政府は「実際に撤収を目にした時点で、緊張緩和を信じる」と述べた。

イギリス政府筋は、どの程度の規模の撤収なのかを確認する必要があると指摘。ロシアがウクライナを侵攻できるだけの装備の規模が、有意に変わらなくてはならないとしている。

ロシアは、旧ソヴィエト連邦構成国で社会的・文化的にロシアと結びつきが深いウクライナが、北大西洋条約機構(NATO)に加盟するのは容認できないと主張。西側に対し、NATOへの加盟を認めないことを確約するよう求めている。NATO側はこれを拒んでいる。

それぞれ「勝利」主張
ロシアとウクライナの両政府はそれぞれ、自国の「勝利」を主張している。
ウクライナのディミトロ・クレバ外相は、「我々は協力国と共に、ロシアがこれ以上事態をエスカレートさせないよう、抑止することができた」と述べた。

ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、この日は「西側の戦争プロパガンダが失敗した日として、歴史に残る。一発の発砲もないまま、西側は恥をかき、破壊された」と述べた。

ロシアはウクライナとの国境付近に10万人以上の規模の部隊を集結させている。だが一貫して、ウクライナ侵攻の計画はないとしている。

対して数十カ国がこれまでに、ウクライナにいる自国民に退避を強く呼びかけ、一部は大使館を退避・移動させている。

アメリカは、空爆が「いつでも」始まり得るとしているとして、ロシアがウクライナを侵攻した場合は深刻な制裁を課すと警告している。

ロシア議会はウクライナ東部の独立を
こうした中、国境沿いの部隊の動きとは別に、ロシア下院は同日、親ロシア勢力が実効支配するウクライナ東部で独立を主張する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」について、独立を承認するようウラジーミル・プーチン大統領に要請する決議案を可決した

ロシアはこれまで、両地域で少なくとも72万人にロシア市民権を認めている。
プーチン大統領が、両地域の独立を認めた場合、それは2014年のクリミア半島併合を機にしたロシアとウクライナの停戦協定に違反することになる。【2月15日 BBC】
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【今回の危機で誰が得をしたのか】
今回の危機で、誰が勝利を手にしたか・・・勝利と言えないまでも、誰が得をしたのか・・・というあたりは、明日以降多くの分析がなされるところでしょう。

ロシアとしては、ウクライナのNATO加盟を認めないという最重要事項で、原則論の立場からロシア要求を拒否する西側の明確な同意は表向きなされていないものの、今回のような軍事行動を見せつけることで、実質的にウクライナのNATO加盟に歯止めをかける“実効”は得られたのかも。

****ウクライナ大統領、NATO加盟希望は「不変」と強調…米欧の譲歩をけん制か****
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は14日に記者会見し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を引き続き希望するとの立場を強調した。NATO不拡大の確約を求めるロシアとの交渉に当たっている米欧が譲歩しないよう、けん制したものとみられる。
 
ゼレンスキー氏は、ウクライナを訪問したドイツのショルツ首相との会談後に記者会見。「ウクライナのNATO加盟希望は憲法で定められており、不変だ。我々は自分で選んだ道に従う必要がある」と主張した。
 
ウクライナ情勢を巡っては、12日の米露首脳電話会談でも溝は埋まらなかった。米欧はこれまで、NATO加盟を希望するウクライナの意思を尊重する立場で結束してきたが、フランスのマクロン大統領は7日のプーチン露大統領との会談で、ロシアに歩み寄る内容の提案をしたとみられている。
 
ゼレンスキー氏としては、米欧とロシアとの交渉で、自らの頭越しに、NATOへの加盟を見合わせる議論が強まることに危機感があるとみられる。【2月15日 読売】
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ただ、ロシア国内にも、今回のような軍事行動をちらつかせる“危険”な行動に対する批判はあるようです。

****「全ロシア将校協会」衝撃の公開書簡****
「全ロシア将校協会」という団体があります。要するに、将校がつくる協会。2月初め、その公式HPに衝撃的な内容が掲載されました。【プーチンの辞任を要求する公開書簡】です。

何が書いてあるのでしょうか?全部訳すのは大変なので、重要ポイントを要約しておきます。

ロシアの脅威とは?
この書簡で、「全ロシア将校協会」のイヴァショフ会長は、これまでのソ連やロシアの戦争は、他に選択肢がなくなった時の「正義の戦争」だったと強調します(彼の念頭にあるのは、ナポレオンがロシアに攻め込んできたとき、あるいはヒトラーがソ連に攻め込んできたときなどでしょう。要するに「自衛戦争」だったと。しかし、1979年からのアフガン戦争のように世界的に非難された戦争もありました)。

では、今のロシアに、生存を脅かすほどの脅威があるのでしょうか?イヴァショフは、脅威はあるが内政にかかわるものであるとしています。「国家モデル」「政権の質」「社会の状況」に問題がある。今のような状態では、「どんな国でも、長く生存することはできない」と主張します。

では、プーチンが強調する、「外からの脅威」はどうでしょうか?イヴァショフによると。外からの脅威は存在するが、ロシアの生存を脅かすほどではない。(中略)

イヴァショフは、ウクライナ侵攻によってロシアは「独立国家の地位を奪われる」としています。
それはともかく、国際社会で孤立し、厳しい制裁によって、ロシア経済がボロボロになることは間違いないでしょう。

ウクライナ侵攻、真の目的は?
ここからが興味深い。
イヴァショフは、プーチンも政府もロシア国防省も、これらの結果を理解しているとしています。悲劇的な結果を理解しているのなら、なぜロシアの大軍はウクライナ国境に集結しているのでしょうか?イヴァショフさんの結論は、衝撃的です。

指導者たちは、国をシステム危機から救うことができないことを理解している それ(システム危機)は、民衆の蜂起と政権交代を引き起こす可能性がある 指導者たちは、新興財閥、腐敗した官僚、マスコミと軍人、警察、諜報機関の支援を受け、ロシア国家の最終的破壊、ロシア国民を絶滅するための政治路線を活性化させる決定をくだした

このことと「ウクライナ侵攻」のつながりは?
戦争は、しばらくの期間、反国家的権力と、国民から盗んだ富を守るための手段だ。われわれは、他の説明を提示することができない。そして、全ロシア将校協会は、プーチンの辞任を要求しています。(後略)【2月13日 MAG2NEWS「ついに内部崩壊か。全ロシア将校協会がプーチンに辞任要求の衝撃」】
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「全ロシア将校協会」とか、そのイヴァショフ会長とかいう存在がそのようなものか知りませんので、コメントは控えますが、今回危機で、ロシア・プーチン大統領の軍事力をもてあそぶ危険な体質を世界に印象付けたことは間違いないでしょう。

それによって、NATOの内部結束を強め、欧州のロシアへの警戒感を高め、焦点のウクライナをNATO側に追いやることにもなっています。全体的・長期的に見て、あまりロシアの利益になっていないようにも思えます。

ウクライナ・ゼレンスキー大統領は危機をしのいだもとで、求心力を高める結果になったようにも。

ただ、前出のようにロシア下院が親ロシア勢力が実効支配するウクライナ東部で独立を主張する「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」について、独立を承認するようウラジーミル・プーチン大統領に要請する決議案を可決したということがありますので、今後も東ウクライナの緊張は続き、対応を迫られます。

また、憲法にも定めるNATO加盟は当面難しくなったように思われます。

フランス・マクロン大統領はロシア・ウクライナの間を行き来し、次期大統領選挙に向けて国内外に欧州のリーダーとしての存在感を示したようにも。

逆に、ドイツ・ショルツ首相は、ウクライナへの武器支援拒否や、制裁措置としてのロシアから天然ガスを供給するパイプライン閉鎖を巡る問題でアメリカとの不協和音が目立ち、やや精彩を欠いた感があって、メルケル引退後の指導力発揮に疑問が出たようにも。

一方のアメリカは、アフガニスタンでの悪夢の再来という最悪の事態は回避できました。

今回の「危機」で、一番その危機を煽っていたのはロシアでも、ウクライナでもなくアメリカだったということは、そこに何らかの政治的意図があった・・・とも推測されます。

ロシアが軍事進攻して、結果的に「破滅の道」を転がり落ちることを期待したのか?
あるいは“米国はウクライナ危機を煽っている?背後に「SDGs潰し」の思惑か”【2月15日 川島 博之氏 JBpress】といった資源・エネルギー戦略があったのか?

そこらは今後詳しく報じられることにもなると思いますので、また別機会に。

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