孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

五輪への道を閉ざされたパレスチナ・ガザ地区の女性ランナー ガザ地区で進む高層住宅建築

2021-08-08 23:03:24 | パレスチナ
(5月11日、イスラエル軍の空爆を受け、パレスチナ自治区ガザに立ち上る黒煙(ロイター=共同)【8月8日 47NEWS】)

【オリンピックと政治状況】
いま、TVでは東京オリンピックの閉会式をやっています。それを横目で眺めながら・・・

当然ながらスポーツも政治がもたらす現実とは無縁ではなく、大会期間中も様々な政治の影響が見られました。

イスラエルとアラブ諸国・イランとの関係などは7月30日ブログ“東京オリンピック・柔道試合に見る「変わらぬ中東」と「変わる中東」 新たな関係に動く中東情勢”でも取り上げましたが、一番大きな話題となったのはベラルーシのツィマノウスカヤ選手に対するルカシェンコ大統領の圧力、ポーランドへの亡命でした。

****亡命希望のベラルーシ選手が出国 ポーランドへ****
東京五輪陸上女子ベラルーシ代表で、チーム側による強制帰国を拒否し亡命を求めていたクリスツィナ・ツィマノウスカヤ(24)が4日、人道的査証(ビザ)を発給したポーランドに向かうため、経由先とみられるウィーン行きの航空機に搭乗し成田空港を出発した。

ツィマノウスカヤは200メートルに出場予定だったが、経験がない1600メートルリレーへの出場をコーチに一方的に決められたと会員制交流サイト(SNS)で批判。

強制的に帰国させられそうになったが、1日夜に羽田空港で搭乗を拒否し、警察などに保護された。

2日夕からとどまっていた在日ポーランド大使館(東京都目黒区)を4日朝に車で出発し、関係者らに付き添われて成田空港に到着した。空港には国内外の記者ら数十人が集まり、声を掛けたが終始無言だった。【8月4日 産経】
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今回亡命事件は、ベラルーシ・ルカシェンコ政権の強権支配をあらわにする結果ともなっています。

いま丁度表彰式をやっていますが、男子マラソンでは混乱が続くソマリアからの難民選手の活躍が見られました。

****振り返り励ます「ついて来い」 マラソン、ソマリア難民が銀と銅****
8日の東京五輪男子マラソンで銀メダルに輝いたオランダのナゲーエ(32)がゴール直前、後方のベルギーのアブディ(32)を何度も振り返り「ついて来い」と励ますジェスチャーを繰り返し、注目を集めた。

アブディは銅メダルを獲得。ともにソマリア難民で若い頃に母国を離れた。今は代表する国こそ違うが、固い絆が表彰台につながった。
 
2人は残り1キロを切ったところで、ケニアのチェロノ(33)と2、3位争いを展開。やや先行したナゲーエが後ろのアブディを振り返り、右手を振って鼓舞するかのようなしぐさを見せた。
 
ゴールし、2人は抱き合った。アブディは「これまで彼とは励まし合ってきたんだ。チームメートのようにね」と感謝した。【8月8日 共同】
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上記シーンは私も観ましたが、途中から観たため事情がわからず、しきりに手を振るナゲーエ選手に「変わったフォームだね・・・」なんて思っていました。

【オリンピックへの道を閉ざされたガザ地区の女性ランナー】
いろんなドラマ・事件がありましたが、そのオリンピックに至る道を政治の現実によって閉ざされた選手も少ないでしょう。

その一人がパレスチナ・ガザ地区の女性ランナー、イナス・ノファルさん。

****東京五輪への夢阻んだ「天井のない監獄」 ガザ最速の女性ランナー、次への意気込み****

(でこぼこの芝の上でランニングをするイナス・ノファルさん=6月、パレスチナ自治区ガザ)

東京五輪には、205カ国・地域と難民選手団を合わせて約1万1千人の選手が参加した。だが、政治的な理由で出場がかなわなかった選手もいる。パレスチナ自治区ガザの女性ランナー、イナス・ノファルさん(20)もそんな1人。

ガザ境界を管理するイスラエルが渡航許可を出さないため、国際大会に出場できない。「ガザ最速」と言われながら、五輪代表選考の場にさえ立てなかった現実を前に、悔しい思いで東京五輪を見つめた。「海外に行けるチャンスがほしい。パレスチナ代表として五輪に出るのが夢なんです」と訴える。

 ▽渡航できず
ガザ中部マガジに暮らすイナスさんが脚光を浴び始めたのは2017年。16歳のときに参加した7キロの大会で優勝、大学生以上の選手を圧倒した。その後もガザでは、800メートルや1万メートルの大会で次々1位となった。

海外からも注目されるようになり、ドイツやデンマーク、アラブ首長国連邦(UAE)の大会の招待選手に選ばれたが、いずれも渡航できず、参加できなかった。
 
背景には、イスラエルが続けるガザの境界封鎖がある。イスラム組織ハマスが2007年にガザを武力制圧、実効支配を開始して以降、イスラエルは境界を封鎖する。物資の搬出入に加え、人の出入りも厳しく管理、それゆえガザは「天井のない監獄」と呼ばれる。
 
イナスさんはこれまでに10回以上、イスラエル軍当局に海外への渡航許可を申請したが、却下され続けている。「実は許可が出たことはあるんです。けれど、大会が終わった後でした」とイナスさんはあきれる。「それでは、何の意味もありません」。

イスラエル軍当局は不許可理由を具体的に説明しないが、父ムハンマドさん(55)は「国際大会でパレスチナの旗が振られるのが嫌なのだろう」と推測する。

ドイツの大会から招待された2017年秋には、イスラエル軍当局に渡航許可を申請し査証(ビザ)や航空券を入手、荷造りも終えた。「ひたすら自宅で電話が鳴るのを待っていました。

飛行機に乗るため出発しなければならない時刻にイスラエル軍当局から電話があり、『渡航許可は出さない』と伝えられたんです」。イナスさんは悔しそうに、ドイツ当局発行の4年前のビザを見つめる。

 ▽二人三脚
小さいころから走ることが好きだったイナスさんは15歳のときに陸上競技を始めた。「女性ランナーが主人公だったトルコのドラマにはまってしまって…。当時学校の英語の先生だったサミ・ナティールさんが陸上選手で、私をトレーニングしてくださいと頼んだんです」と振り返る。

ガザでの大会で優勝すると、自信を深め練習にも熱が入る。硬いアスファルトやでこぼこの芝の上、ときには砂浜のビーチ。ガザに専用の陸上競技施設はなく、厳しい環境で日々続けるトレーニング。合成ゴムでできた本格的な陸上トラックで走るのに憧れていると話す。
 
ガザは男性優位の保守的な社会で、女性スポーツへの偏見もある。「どうして父親は女の子を路上で走らせるのかしら」と嫌みを言う年配の女性。「イスラム教では、男性が女性を指導するのはタブーだ」とコーチのナティールさんを叱責(しっせき)する高齢男性…。

それでもムハンマドさんは、自身が大学時代サッカー選手だったこともあり、イナスさんのスポーツへの挑戦を支援。練習の送り迎えをし、練習中はイナスさんの様子を録画する。

そんなひたむきな親子の姿が地域の人たちをも変えつつある。「なぜ娘を走らせるのかと父を批判していた人たちが『がんばって』と応援してくれるようになったんです」とイナスさんは笑った。

 ▽空爆の影響
ガザを取り巻く環境の変化もある。ガザ南部ラファの検問所を管理するエジプト政府が最近、検問所を開放する日を増やしているのだ。ガザのパレスチナ人がイスラエル側からではなく、エジプト経由で海外渡航できる機会が増え始めている。
 
エジプトのシシ政権はハマスと関係の深いイスラム組織ムスリム同胞団と対立し、ハマスをも敵視してきたが、最近は関係を修復しつつある。発足から7年がたち、シシ政権の基盤が安定し始めたことが背景にあるとも指摘される。
 
しかし、一筋縄ではいかないのがパレスチナの現実だ。イナスさんはエジプトのスポーツクラブから、多くの陸上選手が集まる5月中旬から1カ月のトレーニングキャンプに招待された。

「海外の選手と競える初めてのチャンスだ」と胸を躍らせ、エジプトの首都カイロに行く準備をしていたが、同月10日からイスラエル軍とハマスが戦闘を開始した。エジプト政府は急きょラファの検問所を閉鎖、キャンプ参加は幻になった。

激しい空爆にさらされた11日間。練習どころか、自宅にこもり、空爆におびえる日々を余儀なくされた。「自宅から500メートルのところにも爆撃がありました」。イナスさんは唇をかんだ。「戦闘さえなければカイロでキャンプに参加できたのに」
 
戦闘は5月21日に停戦となり、ガザは現在、復興に向けて歩みを進める。エジプト政府はラファの検問所を週に4日開放。イナスさんは「今なら、エジプト経由で国際大会に出られます」と、国際大会やトレーニングキャンプからの新たな招待を心待ちにする。
 
「娘はガザでは最速だが、世界にはもっと速いアスリートがたくさんいる。国際大会やキャンプにどんどん参加して、例えば一流の選手がどんな食事をしているのか、そういうところまで学んできてほしい」とムハンマドさんはイナスさんにエールを送る。
 
これまで長距離も含めて練習を重ねてきたが、最近は取り組む種目を800メートルなどに絞り、本格的に五輪を目指すと意気込むイナスさん。

「イスラエルという障害が大きければ大きいほど、闘争心が芽生えてきます」と力を込めた。「東京五輪には間に合いませんでしたが、次の五輪にはパレスチナ代表として出場したい。そのためにも多くの国際大会に出て実績を積みたいんです」【8月8日 47NEWS】
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ぜひ次回大会のパリでは、イナスさんの活躍が見たいものです。

【住宅難のガザ地区で高層住宅建築ラッシュ】
その「天井のない監獄」ガザ地区に関する“意外な”記事が。

過密人口で住宅難のガザ地区で、古い建物が高層住宅に建て替えられているという内容ですが、上記記事にもあるように厳しいイスラエルの包囲下にあるガザで高層住宅用の建築資材が入手出来るというのも意外ですし、何より、頻繁に砲火にさらされるガザでそんな新たな本格的建築物をつくって大丈夫なのか? すぐに空爆で壊されてしまう危険はないのか?という疑問も。

****過密に悩むガザ、歴史ある住宅も取り壊して高層化****
築60年以上、床の装飾タイルと木製のよろい戸が特徴の頑丈なガザの住宅が、アドナン・ムルタガさん(69)の生まれ育った家だ。だが、人口密度の高い飛び地であるガザでは住宅が不足しており、この家もまもなく高層住宅に建て替えられてしまう。

この物件はガザ市内でも人気の高いリマル地区にあり、海からは数分の距離だ。ムルタガさんは、父親の建てたこの家に愛着はあるものの、売却の決意を固めたと話す。(中略)

面積365平方キロメートルのガザ地区では人口が増加しており、新たな住宅需要も高まっていると当局者は語る。今年初めにイスラエルとパレスチナ人武装勢力のあいだで戦闘が11日間続き、住宅が破壊されたため、復興需要もあるという。

ガザ市のヤヒヤ・アル・サラジ市長は、旧市街の中心にあるオフィスで「世帯数は増え続けている。現在ガザ地区の人口は220万人で、年間3.2%のペースで増加している」と語った。このあたりには露天市場の屋台も集まり、交通渋滞も激しい。

<保存対象に含まれず>
ガザは世界で最も古い都市の1つで、その歴史は5000年前にさかのぼると推定されている。

今日でも、ガザ市を特徴付ける存在として約320カ所の歴史的建造物が残っている。100年以上前に建設されたものは保存の対象となっており、一部にはマムルーク朝やオスマン帝国にまでさかのぼるものもある。

法令による保存対象は100年以上を経た建造物だが、サラジ市長によれば、訴追を受ける恐れがあるにもかかわらず、そうした建造物が取り壊されてしまう例もあるという。

ムルタガさんの家のように保存対象外の建造物は、新しくもっと高層のものに建て替えるために取り壊されてしまう場合が多いと市長は言う。

「さら地に建設する場合もあるが、それ以外は古い建物を取り壊すことになる。そのほとんどは市の中心部に立地し、道路や電気、水道も通っているからだ」

家族が増えて元の家では手狭になった世帯が、持ち家を売却し、代わりに新たに建設された集合住宅を複数戸購入する例もある。失業率が約50%にも達する中で、自ら新築住宅を建てる、あるいは高額の家賃を払う余裕のある世帯はほとんどない。

こうした住み替えの取引は、開発事業者にとっても初期費用の削減になる。

ガザでは何年にもわたり、新規の住宅需要に供給が追いついていない。住民の70%が難民で、多くは難民キャンプで暮らしており、未完成の高層住宅があちこちに見られる状況だ。

建設関係者によれば、供給不足の一因は、イスラエルの封鎖措置によって人と、建設資材を含む物資の流れが制限されており、そのうえエジプトによる制限もあるからだという。

イスラエル、エジプト両国は、ガザ地区を実効支配するハマスに武器が流入する懸念を理由として挙げている。

「輸出入ともすべて厳しく規制されており、住宅市場にも影響を与えている」。そう語るのは、ムルタガさんの家からも遠くない7階建てビルの建設を監督している、建設請負業者のアブ・イブラヒム・ラルマバイアド氏だ。

市外では、破壊された建物から回収した古い金属棒をまっすぐに延ばしたり、がれきから新たなレンガを作ったりしている光景も見られる。

だがサラジ市長によれば、建設資材や資金の確保といった面で課題があるにもかかわらず、ガザ地区では新規の高層住宅建設が昨年だけで約100件も開始されたという。

<建築遺産>
今年に入ってからの武力衝突により、ガザ地区の住宅事情はさらに打撃を受けた。パレスチナ側の死者は256人、2200戸以上の住宅が破壊された。

ガザ市当局では、戦闘中のイスラエル側の砲撃によって、これとは別に3万7000戸の住宅に被害が出ているとしており、人道支援機関は最新の復興費用を5億ドルと試算している。

イスラエル側でもロケット弾による攻撃で13人が死亡。生活は混乱し、人々はシェルターに避難した。(後略)【8月8日 ロイター】
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高層住宅というのが、どの程度の規模のものなのかは知りませんが、“破壊された建物から回収した古い金属棒をまっすぐに延ばしたり・・・”って、大丈夫かな?という心配も。

今年も“2200戸以上の住宅が破壊された”という地域に、多額の資金を投下して高層住宅を建築して、すぐに空爆されたりしたらどうするのか? という心配も。

ただ、現実は部外者が想像するよりずっと逞しいのでしょう。また、ガザ地区と言っても、全てが戦火にさらされている訳でもなく多くの地域で普通の生活が営まれているのでしょう。
(ガザから空爆の廃墟を連想するのは、日本全体が福島原発に汚染されているかのように想像する短絡的発想の類かも・・・)

パレスチナをめぐっては、以下のような記事も。
“入植地めぐりイスラエル軍と衝突、パレスチナ人140人超負傷”【7月24日 AFP】
“ガザ戦闘で「戦争犯罪」 国際人権団体が報告書”【7月28日 共同】

また、今後のパレスチナ情勢に影響を与えそうな話題としては、以下の記事も
“ハマス最高指導者にハニヤ氏再任 対イスラエル戦指揮で評価”【8月2日 毎日】

対イスラエル強硬派のハニヤ氏率いるハマスがパレスチナ自治政府でも大きな力を持つことになれば、イスラエルとの交渉は更に難しくなるかも。
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