(COVAXワクチンの第1便を受け取るタンザニアの閣僚ら=タンザニア・ダルエスサラームで7月24日【8月6日 毎日】)
【COVAXへの依存度が高いアフリカでは深刻なワクチン不足】
欧米諸国に比べて非常に遅れている日本のワクチン接種率は、8月9日時点で少なくとも1回接種が46.9%、2回接種が34.0%(日経集計 NHKでは43.40%と33.13% この差が何なのかは知りません)と、ようやく一定のレベルまで上がってきたようです。
65歳以上の高齢者では81.6%が2回摂取を終了(日経)ということで、このたりが最近の感染爆発にもかかわらず、死者数があまり増えない状況の背景にあるのではとも思われます。
(【ロイター】)
ただ、1日あたりの接種回数は、一時は150万回ぐらいまで増加した後、最近はその半分レベルにまで低下してきているのが心配されるところです。
(【日経】)
世界を見渡すと、アフリカなどの途上国ではワクチン獲得の資金力がなく世界的な配布枠組み「COVAX(コバックス)」に頼っていますが、その接種は全く進んでいません。
*****COVAX、ワクチン供給遅れで苦境に アフリカで接種進まず*****
世界保健機関(WHO)などが主導する新型コロナウイルスワクチンの世界的な配布枠組み「COVAX(コバックス)」が苦境に立たされている。
当初は7月までに途上国を中心に8億7000万回分を配布する計画だったが、実際の供給量はその2割にとどまる。COVAXへの依存度が高いアフリカでは深刻なワクチン不足が続いている。
COVAXには日本を含む世界約190カ国・地域が参加。複数のメーカーからワクチンを一括・大量購入して途上国などに平等に配布することを目指している。
供給は2月に始まり、当初は年内に約20億回分の配布を見込んでいた。だがこの半年間で配布できたのは1億8000万回分(計138カ国)にとどまっている。
誤算だったのはワクチン製造大国のインドで3月以降、デルタ株が猛威を振るったことだ。感染者急増を受けてインド政府は国内での接種を優先し、輸出を制限。COVAXはインド製造分で計11億回分を確保する計画だったため、供給に大きな遅れが生じた。
特に影響を受けているのが、COVAXからの供給に頼るアフリカ諸国だ。英オックスフォード大の研究者らが運営する「アワー・ワールド・イン・データ」によると、アフリカで1回以上接種を受けた人の割合は8月4日現在で3・8%にとどまっている。
アフリカでもデルタ株による感染拡大が続いており、WHOによると8月に入り1週間当たりの死者が過去最多を更新した。
ジンバブエの首都ハラレに住む男性(47)は毎日新聞の取材に「近所の診療所で接種できると聞いて朝6時から昼まで並んだが受け付けてもらえなかった。並んでいる間に感染するリスクもあり、怖い。早く接種を受けたい」と話した。ジンバブエは政府が中国から独自調達するなどして一般への接種を始めたが、絶対量が不足している状況だ。
ただ、COVAXからの供給は今後改善するとの見方もある。COVAXの担当者は7月6日のWHOの会合で、ワクチンの安定確保に向けて仕入れ先の多様化に努めていると説明し、「今年第4四半期にかけて提供できるワクチンが非常に増える」との見通しを示した。
南アフリカ・ウィットウォーターズランド大の研究者で、アフリカ連合・疾病対策センター(アフリカCDC)のワクチン配送計画にも携わるサフラ・アブドル・カリム氏は、自国での接種が一段落した先進各国が余剰分をCOVAXに寄付するなど改善に向けた動きがあることを挙げ、「次の段階でより成功を収める可能性がある」と指摘する。
ただ、途上国ではワクチンの低温保存や配送態勢が依然として不十分なため、受け入れの準備をさらに進める必要があるとしている。
一方、途上国のワクチン入手の懸念材料となっているのが、一部の先進国による「3回目接種」だ。イスラエルは8月から3回目の接種を開始し、ドイツも9月からの実施を決めた。
こうした状況が続けば途上国分が圧迫される恐れがあり、WHOも3回目接種の一時停止を求めている。カリム氏は「アフリカで医療従事者の接種も終わっていない中で、富裕国が3回目接種を行うことは非倫理的で人権の侵害だ」と批判する。
日本政府もCOVAXを通じたワクチン寄付を表明しており、これまでにカンボジアに約33万回分、イランに約110万回分、バングラデシュに約25万回分などを送っている。【8月6日 毎日】
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【供給余力のある中国は品質に疑念 アメリカは供給戦略がない】
欧州も日本、そして比較的高評価のスプートニクVを持つロシアも自国の対応で精一杯というのが実情で、供給余力があるのはアメリカと中国。
中国・習近平国家主席は8月5日、中国が主導し、23カ国がオンラインで参加した「ワクチン協力国際フォーラム」において、「中国は世界、特に発展途上国へのワクチン提供と生産協力を積極的に進めている。今年は世界に年20億回分を提供する」と発言、また、“国際的枠組み「COVAX」への1億ドル(約110億円)の資金拠出も発表。王毅国務委員兼外相が「中国は100カ国以上に7・7億回分のワクチンを提供した」と、世界への貢献をアピールした。これには有償提供も含まれる。”【8月8日 朝日】と「ワクチン外交」を加速させる構えです。
ただ、中国製ワクチンに関しては信頼性に不安も。
****「中国頼み」の国々で起きた惨状****
インドネシアの首都ジャカルタ。過去一年以上、何とか感染爆発を抑えてきた国が七月、最大の危機を迎えた。一日の新規感染確認が五万人を超え、世界的ホットスポットになってしまった。首都ではインドと同様、酸素ボンベ不足が深刻化した。
ジャカルタの病院では、誰もがある変事に気づいていた。ワクチン接種を済ませた医療スタッフが次々と新型コロナで倒れ、死んでいった。
在ジャカルタ外交筋によると、「民間団体のまとめでは、インドネシア全土の医師の死者数は六月で約五十、七月は中旬までに百十を超えた」という。
死亡した医師は全員、感染前に中国のシノバック製ワクチンを二度接種した。二ヵ月足らずで、ワクチン接種完了の医師がこれだけ多く死亡するのは、尋常なことではない。インドネシア政府は七月上旬になって、米モデルナ社のワクチンを「三回目ワクチン」として導入すると決めた。
同じ現象はタイでも起きた。シノバック製ワクチンを二回接種した医療従事者の死者数が、七月上旬までの非公式推計で約六百人に達した。タイ政府は七月、英国アストラゼネカ製ワクチンを、やはり「三回目ワクチン」として投与することを決めた。
タイのプラユット首相、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領の二人は、「親中」で知られている。
新型コロナ禍では、中国の強い働きかけもあり、早々に中国製ワクチン導入を決めた。タイの反政府派は「何もかも中国頼みにした失政だ」と批判した。
インド洋の島国セーシェル、南米のチリでも中国製ワクチン接種が進んだ後で、感染拡大が起きた。韓国紙のあるコラムニストは、「中国製は水ワクチンか」と、きつい皮肉を飛ばした。
シノバックのワクチン製造では、同じ中国のシノファームと同様、不活化ウイルスを使う。新型コロナの前から、試されたワクチン製造手法だ。これに対し、米国のファイザー、モデルナ両社は「メッセンジャーRNA(mRNA)」を利用する、画期的新技術を使った。
世界保健機関(WHO)など各種の治験データでは、シノバック製の発症予防効果は五〇%程度で、米二社の九〇%以上に比べると、見劣りがする。世界各地のワクチン接種状況を見ると、米ワクチンが次々と、中国ワクチンとの差を示している。
中国外務省は、この種のワクチン比較を「悪質な誹誇」と非難する。だが、東南アジア各国にとっては、政治問題ではなく、国民の生命に関わる重人事案なのだ。
中国ワクチンは七月までに百か国以上に供給された。南米大陸と東南アジアの大半、アフリカ大陸の多くが供給先だ。今回のような事態は今後も頻発するだろう。【「選択」9月号 “世界混沌の「ワクチン分配”】
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一方、アメリカも自国のワクチン接種がトランプ前大統領の支持者が多い南部を中心に「壁にぶつかった」状況にあり、また、ワクチン供給を戦略的に進める中国に対し、アメリカは世界へのワクチン供給に関する戦略がないとも指摘される状況。
【WHOは3回目「ブースター接種」の一時停止を要請も、欧米・イスラエルは従わない姿勢】
こうした状況で“COVAXからの供給は今後改善する”【前出 毎日】と楽観視できる状況でもなさそうですが、問題は【毎日】でも指摘されている一部の先進国による「3回目接種」。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は7月12日の記者会見で「ワクチン供給は著しく不公平になっている」と述べ、地域間の供給格差に懸念を示し、医療従事者や高齢者への新型コロナウイルスワクチン接種が進んでいない国がある中で、富裕国が3回目接種を検討していることは良識のない「強欲」だと強く非難しています。
****WHO、ワクチン追加接種の一時停止を要請 9月末まで****
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は4日、スイスのジュネーブで記者会見し、新型コロナウイルスワクチンの追加接種(ブースター接種)を少なくとも9月末まで停止するよう求めた。
テドロス氏は会見で、追加接種の一時停止を求める理由について、「各国の人口の少なくとも10%がワクチン接種を受けられるようにするため」と説明。「これを実現するには、ワクチンの世界供給網を支配する一握りの国や企業をはじめ、あらゆる人の協力が必要になる」と述べた。
テドロス氏はさらに「億単位の人々がいまだ1回目の接種を待つ一方で、一部の富裕国は追加接種の実施に向け動いている」とも指摘。これまでに世界で40億回分以上のワクチンが投与されたが、その80%以上は世界人口の半分に満たない高所得国や高中所得国に供給されたと述べた。
ドイツや英国、イスラエルはすでに、高齢者に追加接種を行う計画を発表している。
テドロス氏は変異株「デルタ株」から自国民を守りたいという各国政府の考えに理解を示しつつも、「世界の最も感染リスクの高い人々が依然として感染から守られていない中、すでに世界のワクチン供給の大半を使用した国がさらに多くのワクチンを使用することは受け入れられず、受け入れるべきでもない」と述べた。
テドロス氏は5月、各国が9月までに国民の少なくとも10%にワクチンを投与できるよう、世界に支援を求めていた。この目標日までの折り返し地点を過ぎたが、達成が見込める状況ではないという。
目標の発表時、高所得国は人口100人あたりのワクチン接種回数が約50回だったが、現在はその数字が倍増し、同100回近くに上る。一方で、低所得国では供給不足のため、100人あたり1.5回の接種にとどまっている。【8月5日 CNN】
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しかし、当然と言えば当然ながら、各国とも「自国優先」の姿勢。
****独仏、9月にワクチン3回目「ブースター接種」実施へ WHOの先送り要請従わず****
ドイツとフランスは9月から新型コロナウイルスワクチンの追加接種(ブースター接種)を実施する。世界保健機関(WHO)は追加接種を最低でも9月末まで見送るよう呼び掛けているが、それには従わない方針だ。
フランスのマクロン大統領は高齢者や感染リスクの高い人々に対する3回目のワクチン接種を9月から実施することに取り組んでいると表明。自身のインスタグラムのアカウントで「全ての人にすぐにというわけではないが、いずれにしても高齢者や感染リスクの高い人には3回目の接種が必要になるだろう」と述べた。
一方、ドイツ保健省は9月から免疫不全の患者や高齢者、介護施設の居住者に追加接種を行うと発表。「国内の感染リスクの高いグループに予防的な3回目のワクチン接種を提供すると同時に、世界のできるだけ多くの人々のワクチン接種を支援する」とし、少なくとも3000万回分のワクチンを貧困国に寄付するとした。
フランスとドイツでワクチンを少なくとも1回接種した国民の割合はそれぞれ64.5%、62%。2回目のワクチンを接種した割合はそれぞれ49%、53%となっている。
こうした中、イスラエルのベネット首相は、政府が先月、追加接種キャンペーンを開始したことに触れ、高齢者の感染リスクを強調。「60歳以上でまだ3回目の接種を受けていない人は6倍も重症化しやすく、死亡する確率も高い」と述べ、追加接種を行うよう促した。【8月6日 Newsweek】
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3回目「ブースター接種」をすでに開始しているイスラエル・ベネット首相は下記のような「弁解」も。
****イスラエル首相、3回目に理解を 接種で「知見で世界に貢献」****
新型コロナのワクチンの3回目接種を巡り、既に開始したイスラエルのベネット首相は5日、「接種効果に関する知見で世界に貢献する」と述べた。ワクチン公平供給の観点から世界保健機関(WHO)が3回目接種の一時停止を訴える中、理解を求めた。
ベネット氏は、フェイスブックで発表した映像声明で「イスラエルが利用する数は少なく、全体のワクチン数に大きく影響しないが、知見は十分価値がある」と語った。
世界有数の速さで接種を進めるイスラエルでは、1日から60歳以上の市民を対象に本格的に3回目接種を開始した。【8月6日 共同】
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やはり3回目「ブースター接種」を検討しているアメリカは、WHO要請に「やるべきことはやっている」という趣旨の反論。
****ブースター接種「用意ある」=WHOの自制要請に反論―米****
サキ米大統領報道官は4日の記者会見で、新型コロナウイルスのワクチン接種を終えた人に対する追加の「ブースター接種」について「食品医薬品局(FDA)が(必要だと)勧告すれば、その用意がある」と述べた。FDAや疾病対策センター(CDC)は、現時点で勧告を出していない。
ブースター接種をめぐっては、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が9月まで自制するよう呼び掛けたが、サキ氏は「(自制は)間違った選択だ」と主張。
テドロス氏が自制の理由とした低所得国とのワクチン格差拡大に関しても「わが国は1億1000万回分以上のワクチンを世界に提供しており、これは他国の提供分をすべて合計したより多い」と反論した。【8月5日 時事】
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日本も3回目「ブースター接種」実施の検討を始めています。
****ワクチン22年の追加接種を検討 政府が確保進める、変異株を懸念****
政府は6日、新型コロナウイルスワクチンについて、2回の接種を終えた人に対する2022年の追加接種の検討を始めた。時間の経過に伴いワクチンの効果が低下する可能性が指摘されることや、感染力が強い変異株への対応を念頭に置く。
既にメーカーとの間で来年分を確保する契約などを進めており、感染状況や諸外国の動向を見ながら判断する。
政府は7月、米モデルナ製の新型コロナワクチンについて、22年初頭から5千万回分の追加供給を受ける契約を同社などと締結。米バイオテクノロジー企業ノババックスのワクチンも同年初頭から1億5千万回分の供給を受けるように武田薬品工業と協議している。【8月6日 共同】
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自分自身についても、5月に2回の接種を終え、半年以上が経過する来年初頭には3回目「ブースター接種」を受けたい・・・というのが本音。
【求められる生産拡大】
限られた供給量ではパイの奪い合いで無理がありますので、現実的な解決策としては日本を含めた世界各国がワクチン生産を大幅に拡大することでしょう。
これまでの生産体制については、以下のようにも。
****中国、2カ月で工場 米、2兆円投資****
外交だけでなく、ワクチンの開発でも、米中は国を挙げて急速に進めた。
中国では、習氏が昨年2月、「大学や研究所、企業を動員してワクチン研究と開発のスピードを速めよ」と指示。2カ月で年産1億2千万回分の能力を持つ工場を完成させ、同年7月には緊急使用が始まった。
米国では、トランプ前政権が180億ドル(約2兆円)を投じ、官民一体で開発を進めた。昨年3月に臨床試験を開始。同年12月には米食品医薬品局(FDA)から緊急時使用許可を得た。
米国はもともと、ワクチン開発を安全保障の一環としてとらえてきた。米国防総省の傘下にある国防高等研究計画局(DARPA)は2013年、モデルナに2500万ドル(約27億円)超の資金を提供していた。
一方、日本は開発で出遅れた。国産ワクチンは、第一三共などが臨床試験(治験)を進めているが、実用化は来年以降になりそうだ。
国内のワクチン産業は以前から停滞していた。感染症はいつ起きるかわからず、製薬会社はリスクの高いワクチン開発を敬遠した。1970年ごろから、天然痘のワクチンの予防接種後に死亡するなど社会問題化。厚生労働省は安全性を重視する一方で、政策立案や投資には消極的になった。
政府は7月、経済産業相、防衛相らが加わる関係閣僚会議を発足。安全保障や産業育成の観点も踏まえ、ワクチンの製造拠点の整備など、長期戦略づくりを進める。【8月8日 朝日】
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こうした生産体制を更に拡充・加速する必要があります。