孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

格差社会への処方箋としてのベーシックインカム

2021-08-07 22:46:10 | 民主主義・社会問題
(超格差社会シリコンバレーでホームレスの人々に水や食料を届けるバットマンの格好をした男性【8月6日 GLOBE+】)

【1990年以降、所得の不平等は世界の3分の2以上の国々で拡大】
格差社会という言葉が耳慣れた言葉になって久しいですが、「富裕層が富むことで経済が活発になり、貧しい人も含む社会全体に富が行き渡る」とする経済理論・トリクルダウンに基づき先進国各国で取られた富裕層への減税は、結果的には豊かになったのはお金持ちだけで、格差を助長したきたとの調査結果も。

****富裕層への減税は社会のため? いいえ、富むのはお金持ちだけでした。最新研究が「トリクルダウン」を否定****
お金持ちに減税すると、豊かになるのは結局お金持ちだけ――。

過去50年の間に、様々な国で導入された富裕層への減税。
その背後にあるのが「富裕層が富むことで経済が活発になり、貧しい人も含む社会全体に富が行き渡る」とする経済理論・トリクルダウンだ。

しかしイギリスの経済学者たちによる最新研究から、富裕層の減税に社会全体を豊かにする効果はなく、むしろ富裕層だけが豊かになってきたことが明らかになった。   

豊かになるのは富裕層だけ
(中略)研究者たちは1965〜2015年の50年間に、日本やアメリカ、イギリスなど18の先進国で実施された富裕層への大幅減税を調査した。そして、それぞれの減税が所得不平等や、経済成長、失業率にどんな影響を与えるかを調べた。

その結果、大幅減税の後、上位1%の人たちがシェアする税引前の国民所得が0.8%増加していた。この効果は、短期間と中期間続いた。

一方で、国民1人あたりのGDPや失業率に変化はなく、トリクルダウンによる社会全体への経済効果は見られなかった。

研究者たちは「富裕層への大幅減税は、所得の不平等を引き起こしていた」「それと比較して、減税は経済成長や失業率には大きな効果はなかった」と指摘する。

様々な研究が問題視する、富裕層への減税
富裕層への減税は、特に1980年代以降に、様々な国で何度も実施されてきた。
アメリカのレーガン政権やイギリスのサッチャー政権が導入した減税がよく知られているが、日本でも安倍政権下で法人税率が引き下げられ、大企業や富裕層を優遇する政策が取られてきた。

しかし近年、様々な研究が「富裕層への減税は富裕層の収入を増やすものの経済発展にはほとんど効果がない」と指摘している。研究者たちは「今回の研究もそれらの関連する研究結果と合致する」と述べる。

研究者の1人、リンバーグ氏はCBSのインタビューで「研究から、富裕層の税率を低くする経済的に正当な理由はないと言えます。実際に歴史を振り返ってみると、戦後の富裕層への税率が高かった時代の方が、経済成長率は高く、失業率は低かった」と語っている。【2020年12月18日 HUFFPOST】
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コロナ禍の経済打撃も、超富裕層には関係ないようです。

****コロナ渦中、超富裕層の総資産額は過去最高に 7月末で1080兆円****
2020/10/08 20:02
保有資産が10億ドル(約1060億円)を超える資産家、いわゆるビリオネア(超富裕層)の総資産額は今年、世界的な新型コロナウイルス危機をよそに、過去最高を記録した。スイス金融大手UBSと国際監査法人プライスウォーターハウスクーパースが7日、報告した。(後略)【2020年10月8日 AFP】
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一方で、税に関する不公平感を助長する現実も。

****米富裕層「ほぼ税金を払ってない」 アマゾン創業者ら上位25人の納税記録入手、報道****
非営利の米報道機関プロパブリカは8日、アマゾン・コム創業者のジェフ・ベゾス氏ら富裕層の納税記録を入手したと発表した。上位25人の総資産は2014〜18年に計4010億ドル(約43兆円)増加したが、連邦所得税の支払額は136億ドルにとどまったと分析。膨大な資産を保有しながら「ほぼ税金を払っておらず、納税ゼロの年もあった」と指摘した。【6月9日 産経】
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昨年初頭の国連報告でも、各国で所得格差が拡大していることが示されています。

****世界の3分の2の国で所得格差が拡大 国連が報告書****
国連は、日本を含む先進国やアジア・アフリカ諸国など世界の3分の2の国で所得格差が広がり不平等が進行しているとする報告書を発表し、各国政府に対してデジタル格差の解消や社会保障の普及に取り組むべきだと勧告しました。

これは国連が21日発表したもので、1990年から2016年までの各国の所得水準の推移を見ると、欧米や日本など先進国の多くと中国やインド、それにアフリカ諸国の一部など世界の3分の2の国で格差が広がり、社会の不平等が進行していると指摘しています。

このうち途上国ではデジタル技術が教育や保健サービスの普及を促進した反面、インターネットの普及率が先進国の87%に対し19%にすぎないとして、デジタル格差が深刻だと分析しています。

地球温暖化の影響については、このまま進めば温暖化のリスクにもろい国や地域と、そうでない国や地域との経済格差を広げると警告しています。

そのうえで報告書は各国政府に対して、国際協力を通じたデジタル格差の解消や、社会環境の変化に対応した職業訓練への投資の拡充、それに誰もが受けられる社会保障制度の構築に取り組むべきだと勧告しています。

記者会見した国連のハリス事務次長補は「社会の不平等を緩和するため政府がまずすべきことは、すべての人が機会を得られるようにすることだ」と話しています。【2020年1月22日 NHK】
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【日本 「1億総中流の平等な国だ」という誤った認識が対応を遅らせる】
日本においても格差が進行していますが、その対策はやや鈍いようにも。
背景には“「日本は1億総中流の平等な国だ」という誤った認識が定着してしまったこと”がるとの指摘が。

****日本の格差対策を遅らせた「1億総中流」幻想 今からでもできることは何か****
1990年以降、所得の不平等は世界の3分の2以上の人が暮らす国々で拡大している。国連が昨年公表した報告書は格差の現状をこう分析し、事務総長のアントニオ・グテーレス氏は「所得格差と機会の欠如が世代を超えた不平等、いらだち、不満の悪循環を生み出している」と指摘した。

国家間の所得格差はこの数十年、中国やインドなどの新興・途上国が急速に経済発展する中で縮小した。一方で、それぞれの国内では格差が広がっている。
この問題を浮き彫りにしたのが、フランスの経済学者トマ・ピケティが2013年に刊行し、世界的ベストセラーとなった「21世紀の資本」だ。欧米などの100年以上にわたる税務記録を分析し、富裕層に富が集中していくことを示した。

先進国では第2次大戦で一気に所得格差は縮小したが、80年代ごろから富裕層への富の偏在が強まった。
日本で「格差社会」が流行語となったのは15年前。現状はどうなっているのか。日本の格差の実態を見つめ続けてきた早稲田大学の橋本健二教授(62)に話を聞いた。(聞き手・中村靖三郎)

――歴史的に見ると、今の日本の格差はどんな状態にあると見ていますか。
敗戦直後は富が破壊され、富裕層ほど失う財産が多く、農地改革などでも格差は縮小しました。ところが1950年代半ばから経済復興が加速すると、格差は拡大に転じた。

その後、高度経済成長が本格化すると、今度は人手不足となって雇用が改善し、格差は縮小し、1975年前後に底に達しました。

しかし、高度成長が終わると、格差は拡大に向かい、それが現在までずっと続くんです。近年は拡大は止まっていますが、数十年続いた格差拡大が高止まりになっていると言えます。(中略)

――なぜこれほど長く格差拡大が続いてしまったのですか。
高度経済成長が終わり格差が拡大しやすくなった時期に、何も対策がとられなかったことに起因します。高度成長が終わった後、70年代後半にパート主婦を中心に非正規労働者が増加し、非正規労働者を大量に雇用する素地ができた。その後、バブル期にも正社員はあまり増えず、非正規労働者は増加した。そしてバブル崩壊で大企業は新卒採用を大幅に減らしました。

その後の金融危機で非正規労働者はさらに増え、氷河期世代が生まれた。次のリーマン・ショックでも企業は正社員の採用を減らし、非正規に切り替えた。このように日本経済はこれまで、危機を迎えるたびに正社員が非正社員に置き換えられるということが繰り返されてきたのです。

――非正規労働が増えたことで、どんな問題が生まれていますか。
たくさんありますが、最大の問題は、日本の労働者が正規と非正規に完全に分断されてしまったということです。非正規労働の賃金では自分1人が生存するのにぎりぎりの賃金しか受け取れず、家族を養うのも難しい。

家族を持てず次世代を生み育てることができない人々が構造的に生み出されるようになったというのは極めて深刻な問題です。

今後、バブル期に初めて生まれたフリーターと呼ばれる人々が高齢期を迎えて、無年金の高齢者となっていく。70歳をすぎても生活するために非正規労働者として働き続けるしかない人が多く生まれかねないのです。

――なぜこんな事態になってしまったのでしょうか。
非正規労働者の増加という形で格差拡大が放置された背景には、「日本は1億総中流の平等な国だ」という誤った認識が定着してしまったことがあります。

「中流」言説は1967年公表の「国民生活白書」にさかのぼり、70年代後半から急速に広まり始めました。当時は確かに国際的に見ても日本の格差は小さかった。

しかし、80年代には格差が広がり始め、そうした指摘も多くあったのに、政府は全くそれに耳を傾けなかった。そして、90年代の終わりに、首相の諮問機関「経済戦略会議」が、「日本経済再生への戦略」という答申をまとめます。

そこでは、日本経済再生のためには「過度に結果の平等を重視する日本型の社会システムを変革し」、「個々人の自己責任と自助努力をベースとする健全で創造的な競争社会を構築」することが必要だと提言します。

これがその後の政府の政策の方向性を決めました。つまり、格差拡大が続き、もうここで手を打たないと取り返しがつかないというタイミングで、政府は規制緩和に大きくかじを切り、事態を深刻化させたのです。

――コロナ禍によって今後、どうなると見ていますか。
これまで繰り返されてきた、正規労働者の非正規への置き換えがもう一度やってくる可能性があります。

ただ、一方で、今は非正規労働者への置き換えが限界まで来ている。例えば、飲食店などは店長1人だけが正規で、あとはみんな非正規ということが多く、これ以上、非正規労働者の雇用を増やす余地がもう、あまりなくなってきている。

そうすると、コロナで職を失った非正規労働者が、職を取り戻すことができないまま、失業、あるいは半失業者として滞留する事態を考えておかなければいけないと思います。

日本の失業統計は基準が非常に厳しく、統計上「失業者」とは捉えられていない事実上の失業者がたくさんいる。野村総合研究所は今春、コロナ禍でシフトを減らされ勤務時間や賃金が大幅に減らされた労働者が多数いるとの調査結果を発表しました。こうした統計上は表に出ない事実上の失業者や無業者がかなり増えてきているのが現状です。

――著書「アンダークラス2030」では、「根本的な対策を考えない限り、氷河期世代に起こったことは、今後のすべての世代に起こるだろう」と指摘されています。どんな対策が必要ですか。
企業はすでに人員の一定比率を非正規労働者で雇用するという経営スタイルを確立している。仮に非正規労働者の誰かが頑張って就職活動して、正規に転換できたとしても、その分を他の人が埋めるだけ。もう誰かが努力すれば正規に移動できるという個人の問題ではなく、完全に構造的な問題と言わなければならない。

短期的には、コロナ禍の中でも、氷河期世代が生まれた金融危機やリーマン・ショックのときのように新規採用を大幅に減らした間違いを繰り返さない。

長期的には非正規労働者が正規に転換できるように、正社員の労働時間を減らして、ワークシェアリングを一般化させる必要がある。ワークシェアリングを強力に進めることで、全体的に格差が縮小し、貧困問題を解決することにつながるだろうと思っています。【8月1日 GLOBE+】
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【すべての人に最低限の生活の土台を保障するベーシックインカム】
日本以上に格差が深刻なアメリカ、そのアメリカで無条件でお金を配り、すべての人に最低限の生活の土台を保障するベーシックインカムの実験が行われています。

****巨大ITとホームレス 超格差社会シリコンバレー、ベーシックインカム実験が始まった****
グーグルやアップルといった巨大IT企業が集中する米カリフォルニア州のシリコンバレー。6月のまだ日が高い土曜の夕方、中心都市サンノゼの街に突如、紫色のマントをはためかせたバットマンが現れた。
(中略)バットマンが向かった先は、中心部から歩いて10分ほどのハイウェーの高架下。ホームレスの人たちが集まって寝泊まりしているエリアだ。「タコスはどう?」。そんな声をかけながら、水や食料をつめこんだカートをひいてテントを一軒ずつ訪ねて回り、安否を気遣った。

普段は大学に通う男性(20)がこの活動を始めたのは3年前。あまりに非人間的な境遇を目の当たりにし、「自分にできることを」と駆り立てられた。バットマンに変身するのは、少しでも問題に目を向けてほしいからだ。

この3年でホームレスの人たちを取り巻く状況は「かなり悪化している」。公園などからは閉め出され、パンデミック後はこれまで以上に公的支援が届きにくくなったと感じる。

一番の気がかりは子どもたちだ。親が仕事を解雇され、家賃を払えなくなった――。そんな子を何人も見てきた。「この子たちは何も悪くない。胸が張り裂けそうになる」

米住宅都市開発省の報告書(2020年)によると、サンノゼのホームレスは9605人と全米トップクラス。シリコンバレーの平均年収は約15万ドルと全米平均の2倍を超すともいわれる一方で、あらゆる物価が上昇し、住まいを追われる人が続出している。

バットマンは言った。「ここでは最低賃金では生活できず、本当に多くの人が追い詰められている」(中略)

この街で昨年、ある試験事業が始まった。サンノゼを含むサンタクララ郡が里親制度を終えた若者に無条件で毎月現金を配るベーシックインカム(BI)だ。24歳の72人に昨年7月から月1000ドル(約11万円)が給付されている。

90万ドルの予算があてられた。背景に里子の約半数がホームレスになるという過酷な現実がある。事業のきっかけを作ったNPO代表のジゼル・ハフさん(85)は「彼らは、他の若者が持っている家族のサポートがまったくなく、人生に立ち向かう準備ができていない。このお金で初めて自分の人生を選択する機会を得られる」とBIの必要性を強調する。(中略)

郡は6月、1年間だった給付期間を半年延ばすことを決定。恒久的な制度にするかを今後検討するという。カリフォルニア州議会は7月、郡の取り組みを受け、州全域の元里子らにBIを給付するプログラムを承認した。

デンバー、オークランド、コンプトン……、自助努力を重んじてきた全米で今、BIに試験的に取り組む自治体が続々と出ている。

背景には、従来のセーフティーネットは資産要件や就労など様々な条件をつけて対象を狭く絞り込み、本当に必要な人に支援が届かないとの問題がある。

数々のプロジェクトに携わる非営利調査会社「ジェイン・ファミリー・インスティテュート」のスティーブン・ヌニェス主任研究員は「既存の制度は貧しい人や非正規雇用の移民たちを不信感を持って扱い、多くの人を置き去りにしてきた」と話す。

BIはこれまでフィンランドやカナダなどでも導入が検討されたが、本格的に実現した国はない。無条件でより広く支給するには多額の財源が必要になるほか、「お金を渡せば、働かなくなるだけ」「酒やたばこに消える」といった批判も根強い。

しかし、ヌニェスさんはこれらを「誤解」と言い切る。数十年にわたる様々な実証研究では、BIによって働かなくなるのはごく一部で、むしろ職業訓練や子育てなどに多くの時間が割かれた。

19年から2年間、試験実施したカリフォルニア州ストックトンでは、初めの1年でフルタイムの仕事につく人の割合は28%から40%に上昇。支出先も食費や日用品がほとんどで、酒やたばこは1%未満だった。

暴力や犯罪が減ったことが示された実証結果もある。もはや研究の焦点はBIの効果の有無から、最も効果的な水準や頻度、既存のセーフティーネットとの組み合わせ方に移っている。

無条件でお金を配り、すべての人に最低限の生活の土台を保障する。そんなBIは、まずは本当に必要な人からお金を配る形で実現を模索し始めている。全米に広がり、格差問題を解く鍵となっていくのか。(中略)

ベーシックインカム(BI)
同志社大学の山森亮教授によると、「すべての個人が、権利として、無条件で、普遍的に、一定の金額を定期的に受け取ることができる制度」と定義される。生活を維持できる以上の金額まで保証するものを「完全BI」、その水準は満たさないものを「部分BI」と呼ぶ整理もある。

米国では公民権運動の指導者マーチン・ルーサー・キング牧師らがより包括的な概念として「guaranteed income(保証所得)」を訴えた。元里子など、特定のグループに対する無条件の給付もBIと呼ぶ事例もある。

BIの起源は18世紀末にさかのぼるとされ、1970年代の英国での労働者階級の女性の解放運動などを通して確立されていった。所得制限など様々な条件をつける従来の福祉制度では給付漏れや人権侵害にあたるような受給者調査が避けられず、「公正な制度にするには、すべての個人が自動的に給付を受けられる仕組みが必要という考え方が出てきた」(山森教授)という。

近年はグテーレス国連事務総長、フランシスコ教皇、米フェイスブックのザッカーバーグCEOなどが次々とBIの必要性を提唱。コロナ禍以降、日本の特別定額給付金(1人10万円)など各国で現金給付の実施が相次ぎ、BIの機運が高まっている。【8月6日 GLOBE+】
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日本でも竹中平蔵氏がBIを提唱しています。
“【竹中平蔵】低所得者に「もらえる税」を ベーシックインカム議論、もう避けられない”【8月7日 GLOBE+】

ただ、新自由主義者のこの人が言うと、弱者救済と言うよりは、生活保護制度の廃止など社会保障制度のスリム化が目的で、「(それだけでは生活できない)一定額を配るからあとは自助努力で何とかしろ」という話にも、あるいは、格差社会に対する不満のガス抜きとしてのBIにも思えてしまいます。
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