孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・エルドアン大統領  独自の強硬姿勢を変えず強権化する政権、深まる分断

2021-08-03 22:59:44 | 中東情勢
(キプロスの分断された首都ニコシアの北側で、パレードを行うトルコ・エルドアン大統領(左から2人目、2021年7月20日撮影)【7月22日 AFP】 キプロス問題でも欧米の強い批判を浴びていますが・・・)

【独自路線を貫くエルドアン大統領】
トルコ・エルドアン大統領が対外的にはシリアやリビアへの軍事介入、アゼルバイジャンへの軍事支援、東地中海のガス田問題での周辺国との対立など、積極・強硬路線をとっており、国内的にはクーデター未遂事件関係者やクルド人勢力への強権的対応、イスラム主義への傾斜など、欧米的価値観とは相容れぬ方向に向かっていることは、これまでもしばしば取り上げてきました。

そうしたエルドアン大統領の“独自”路線はゆるぎないもののようです。

かねてより欧米から批判を浴びていた、かつて自分自身が首相としてイスタンブールでの国際合意に尽力した「DV防止条約」からの脱退も正式なものとなりました。トルコの(イスラム的な)家族観にそぐわないということのようです。(3月20日ブログ“トルコ・エルドアン大統領  自らが制定に重要役割を果たした女性へのDV防止条約から脱退”)

****DV防止条約、トルコが正式離脱 女性保護に懸念****
トルコのエルドアン政権は1日、欧州評議会の「女性への暴力およびドメスティックバイオレンス(DV)防止条約」から正式に離脱した。欧州中心に批准が進んできた条約だが、脱退は初めて。女性保護の後退が懸念される。支援団体は抗議を続けている。
 
エルドアン大統領が3月、大統領令で脱退を決定し、欧州評議会に破棄を通告した。条約の規定により、7月1日に破棄の効力が発生した。
 
トルコは、条約が同性愛擁護に利用されており、トルコの家族観に合わないとして脱退を決めた。保守層の支持を固める狙いがあるとみられる。【7月1日 共同】
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エルドアン大統領のイスラム主義推進を象徴する施策でもある世界遺産アヤソフィアのモスク化も引き下げる考えはないようです。

****ユネスコ、アヤソフィアのモスク化を非難 トルコは反論****
トルコは24日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)がイスタンブールにある歴史的建造物アヤソフィアのモスク(イスラム礼拝所)化を非難したことを受け、「偏見があり政治的」だと反論した。
 
アヤソフィアはキリスト教国家のビザンツ帝国時代に大聖堂として建造されたが、その後モスクに改造され、1935年からは博物館として公開されていた。
 
トルコが昨年、アヤソフィアを再びモスクにすると、国際的な反発を招いた。
 
ユネスコの世界遺産委員会は23日、トルコに対し、来年はじめまでにアヤソフィアの保存状態に関する報告書を提出するよう要請。また、モスク化の影響に「深刻な懸念」を示した。
同委員会はモスク化をめぐる「対話と情報共有の不足を誠に遺憾に思う」と述べた。
 
一方、トルコ外務省は「イスタンブールの歴史的建造物に関する世界遺産委員会の決定は偏見と政治的動機によるものと理解される。決定の関連事項を拒否する」と反論した。
 
また、アヤソフィアは国有財産で「非常に注意深く」保護されていると述べ、ユネスコはトルコの内政に干渉していると非難した。 【7月25日 AFP】AFPBB News
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アメリカとの関係で問題となっているロシア製ミサイル導入の件も、相変わらず歩み寄りはないようです。

****米、対トルコ制裁維持にコミット ロシア製ミサイル購入巡り****
バイデン米大統領が、トルコによるロシア製地対空ミサイル「S400」購入を巡り、米国の「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」に基づく対トルコ制裁を維持することにコミットしていると、ヌーランド米国務次官が21日、議会証言で明らかにした。

さらに、トルコ政府がロシアから主要な武器システムの一段の購入に動けば、米国はトルコに追加制裁を科すとも表明した。【7月22日 ロイター】
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【利害得失は計算したうえでの強硬姿勢】
こうして並べると、エルドアン大統領が(良し悪しは別として)自己の信念に沿って行動しているかのようにも見えますが、下記のイスラムの大義を棚上げして中国との関係を重視する対応を見ると、当然ながら損得勘定はしっかり計算しているようにも思えます。

国内的な強硬姿勢・イスラム主義にしても、対外的な軋轢にしても、損得勘定のそろばんをはじいたうえで、メリットが大きいと判断してのことでしょう。

****トルコ大統領と中国国家主席が電話会談、ウイグル族巡り議論****
トルコのエルドアン大統領は13日、中国の習近平国家主席と電話会談した。エルドアン氏は、ウイグル族のイスラム教徒が中国国内で「平等な市民」として平和に暮らすことはトルコにとって重要だが、中国の国家主権を尊重すると習氏に伝えた。トルコ大統領府が発表した。

大統領府の声明によると、エルドアン大統領は習氏と二国間および地域の問題について協議した際、この発言をした。

国連や人権団体の推定では、中国の新疆ウイグル自治区ではここ数年、トルコ語を話すウイグル族や少数派のイスラム教徒など100万人以上が収容所に収容されている。

中国は当初、収容所の存在を否定していたが、その後収容所は職業訓練センターで、過激派に対応するためのものだと主張し、少数民族への虐待を否定している。

トルコ大統領府は「エルドアン大統領は、ウイグル人が中国の平等な市民として豊かに、そして平和に暮らすことがトルコにとって重要だと伝えた。また、中国の主権と領土保全に対するトルコの敬意を表明した」としている。

エルドアン氏は、トルコと中国の商業・外交関係に大きな可能性があることを伝え、エネルギー、貿易、輸送、健康などの分野について習氏と協議したという。【7月14日 ロイター】
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【“執念”とも見えるクーデター未遂事件関係者摘発 反体制派排除の根拠として利用し、支持基盤引き締めを狙う】
こうしたエルドアン大統領の言動にあって、個人的に驚嘆するのはクーデター未遂事件への“執念”とも言えるような徹底した関与者摘発の姿勢です。

****トルコクーデター未遂5年 強権政治が加速、欧米関係も冷却化****
トルコで政府転覆を図るクーデター未遂事件が起きてから15日で5年となった。エルドアン政権は政府機関を引き締めるために厳しい摘発を進め、ロイター通信によると公務員15万人以上が解雇もしくは停職となった。事件は政権が強権化を加速する契機となり、報道機関も9割以上が体制寄りになったといわれる。

2016年7月15日、軍の一部が政府転覆を狙って反乱を起こし、政権や治安部隊の呼びかけに応じた市民が反乱勢力と衝突した。反乱は16日、鎮圧されたが、市民ら250人以上が死亡、2000人以上が負傷したとされる。

トルコの裁判所は昨年11月、事件をめぐる裁判で、500人近い被告のうち337人の軍幹部らに無期懲役の判決を言い渡した。一度の判決としては最大規模で、政権はなお追及の手を緩めていないようだ。

エルドアン政権は在米イスラム指導者ギュレン師が事件の「黒幕」だと断定、身柄引き渡しを求めているが、米国は応じていない。同師は社会奉仕を行う「ギュレン運動」を主導し、軍や警察など各界に多くの支持者がいた。報道機関も同様だった。

国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」によると、事件後の非常事態宣言の下、大手を含む179の報道機関が閉鎖に追い込まれた。昨夏にはネット空間の異論を封じるSNS(会員制交流サイト)規制法も成立した。

トルコのフリージャーナリスト(55)は、「エルドアン氏は今も事件を反体制派排除の根拠として使っている。政権支持の大手メディアは同氏の宣伝を展開しており、反体制メディアは大きな圧力にさらされている」と話した。

強権に傾くエルドアン政権は昨夏、東地中海で海底資源探査を行い、ギリシャなどが権益を侵されたとして反発し欧州との関係が冷え込んだ。バイデン米政権も、北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているトルコがロシア製防空システムを購入した問題などで懸念を強めている。

エルドアン氏のこうした外交手法には、「欧米を敵と位置づけて国内の支持基盤を引き締めるのが狙い」(トルコの政治評論家)との指摘もある。

ただ、新型コロナウイルス対策の行動制限などで経済は低迷。エルドアン氏への評価を問う世論調査も、最近は「支持」と「不支持」が拮抗(きっこう)しているのが実情だ。【7月16日 産経】
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「欧米を敵と位置づけて国内の支持基盤を引き締めるのが狙い」「事件を反体制派排除の根拠として使っている」という“そろばん”をはじいた上での“なお追及の手を緩めていない”という姿勢でしょうが、本来は責任を問われる立場にないような者までを巻き込んで摘発が続いています。

****トルコ・クーデター未遂5年、息子の無実信じて****
トルコで5年前、軍の一部が起こしたクーデター未遂事件で、関与を疑われて終身刑を受けた人々の中には10代の軍士官学校の学生もいた。「無実に違いない」と信じる母親たちは、我が子の釈放を待ちわびている。

「息子は3歳の頃からパイロットになるのが夢でした」。主婦のエミネ・ウヤヌクさん(47)はそう言って、息子への思いをとつとつと語り始めた。

空軍士官学校の学生だった末っ子のユスフさん(24)はクーデターが起きた日の夜、上官の指示で駐屯地から仲間とともにバスで最大都市イスタンブールに向かった。入学から約10カ月後。当時は19歳だった。

エミネさんによると、ユスフさんらを乗せたバスは、クーデターに抵抗する群衆に止められた。そのときに初めて、事件が起きたことを知ったユスフさんは、武器を捨ててバスの外に飛び出し、国への連帯を示そうと群衆と国歌を歌った。

だが翌朝、他の学生とともに警察に連行された。上官の命令に従ったものだが、武器を持って駐屯地を離れたことが、クーデターへの加担行為とされたとみられる。

「僕は裏切り者じゃない」。10日ほど後、刑務所でついたて越しに面会した息子は泣きながら訴えた。すぐに釈放されると信じたが、2018年にあった判決で終身刑を言い渡された。

クーデター未遂事件後の2年間の非常事態宣言下で、17年末までに免職された軍人や警察官、教員などの公務員は15万2千人以上、逮捕者は約16万人に上った。

AFP通信によると、野党議員の一人は、ユスフさんのように終身刑となった軍学校の学生は350人を超えると指摘。学生らの弁護を担当するオーズ・キャーウッチェ弁護士(40)は「家族は深く傷つき、子どもが無実だと信じ続けている」と訴える。(中略)

 ■強権化する政権、深まる分断
(中略)トルコでは事件以降、エルドアン政権の強権化が進み、社会の分断が深まった。17年には大統領の権限を強化する「実権型大統領制」を国民投票で実現。首相職を廃して、閣僚の任命や非常事態宣言の発令などの権限を握った。

事件の「首謀者」と名指しする在米のイスラム教指導者ギュレン師の信奉者や批判勢力を徹底的に封じ込めた。各国の社会の自由度を数値化している米NGOの「フリーダムハウス」は、18年にトルコを「部分的自由」から「不自由」に格下げした。

こうした動きには反発も広がった。19年に行われた地方選では、与党はアンカラやイスタンブールの市長選で野党候補に敗れた。元首相らAKPのメンバーが新党を結成するなど、エルドアン政権の足元から離反の動きがある。

サバンジュ大のエルシン・カライジュオール教授(政治学)は「民主主義が衰退したのは明らかだ。(エルドアン氏)個人に偏った意思決定は国の不安定化を招く」と警鐘を鳴らす。【8月3日 朝日】
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エルドアン大統領には、分断の融和を図るという発想はないようです。
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