孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  人民・大手IT企業、更にはウイルスさえも管理・統制する習近平指導部

2021-08-12 23:20:01 | 中国
(党創立100年の式典に現れた習近平氏。左端は李克強首相、右端は胡錦濤前主席【7月8日 JBpress】)

【市民生活から経済活動まですべてを管理・統制・指導する国家・党】
中国共産党の結党100周年を迎え、自身の長期政権に向けて3期目を狙う習近平国家主席が、最近とみに文化大革命当時を思わせるような社会引き締めを図っていること、国内ではそれに呼応する偏狭とも言えるナショナリズムが台頭していることなどは、6月9日ブログ“中国 結党100周年 習近平氏を「核心」とする長期支配体制の強化 ネット上には現代の紅衛兵も”でも取り上げました。

そうした党指導による社会引き締めの一環と思われるのが下記の違法内容カラオケ禁止措置

****中国、違法な内容のカラオケ曲を禁止へ****
 中国の文化観光省は、全土のカラオケ施設で10月1日から禁止対象となる「違法な内容」のカラオケ曲のリストを作成する方針を明らかにした。

同省はウェブサイトに掲載した文書で、国家の結束や主権、領土の一体性を危険にさらすものや、カルトや迷信を拡散する内容で国の宗教政策に違反する曲、賭博や麻薬のような違法な活動を奨励するものが禁止対象に含まれると説明した。

カラオケ施設にコンテンツを提供する業者は、カラオケ曲を選別する責任を持つことになるとしている。中国にある娯楽施設は5万近くあり、収録曲数は10万を超えているため、施設運営者が違法なカラオケ曲を特定するのは難しいと説明した。

コンテンツ提供業者には「健康的で気持ちを高めさせる」曲を提供するよう促した。【8月11日 ロイター】
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まあ、社会政治体制の違いと言ってしまえばそれまでですが、“「健康的で気持ちを高めさせる」曲を提供するよう促した”というのは、個人的には“うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ!”と思えます。

カラオケだけでなく、ネットゲームも。

****ネットゲームは「電子薬物」「精神アヘン」、中国政府系メディアが指摘―独メディア****
2021年8月4日、独国際放送局ドイチェ・ヴェレの中国語版サイトは、中国の政府系メディアがオンラインゲームを「アヘン」と形容したことで、株式市場でゲーム関連株が大きく下落したと報じた。

記事は、新華社系の「経済参考報」が3日に発表した文章の中で、騰訊のオンラインゲーム「王者栄耀」を名指しした上で、オンラインゲームは未成年者の健全な成長に看過できない影響を及ぼし、その危害に警戒すべきだと評するとともに、「オンラインゲームの危害はますます社会の共通認識となっており、しばしば『精神的アヘン』『電子麻薬』などと称されている」と論じたことを伝えた。(後略)【8月5日レコードチャイナ】
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こうした社会の引き締めの風潮は、別の言い方をすれば政治だけでなく、経済・市民生活の全てを国家・共産党が管理・統制・指導するという発想のなせるわざでもあります。

最近、国家・共産党が管理・統制・指導することを根底にした施策が目立ちます。

経済面では、巨大企業への締め付けが加速しています。

****中国 ネット業界の企業の取り締まり強化へ****
中国政府は26日、今後半年間でネット業界の企業を対象にした取り締まりキャンペーンを行うと発表しました。中国ではアリババなどIT大手への取り締まりが続いていますが、さらに圧力が強まりそうです。

中国の工業情報省は26日、インターネット業界を対象にした新たな取り締まりのキャンペーンを始めると発表しました。

取り締まりを強化する分野として「市場の秩序」や「利用者の保護」などをあげていて、IT大手による市場の独占や広告サイトへの悪質な誘導などへの監視を強める方針です。

中国ではこれまでもネット大手、アリババグループやテンセントなどへの取り締まりが相次いでいますが、中国当局の統制がネット業界全体に波及しそうです。

習近平指導部は、政府の統制を超えて存在感を増すIT大手企業を警戒し、圧力を強めています。【7月27日 日テレNEWS24】
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“中国、ネット配車サービスへの監視強化 一部企業を問題視”【7月30日 ロイター】
“中国当局、肥料会社を調査 価格つり上げの疑いで”【8月5日 ロイター】

それぞれの施策はそれぞれの理由・背景(「市場の秩序」や「利用者の保護」など)があってのことですが、共通する背景としては、近年急成長し、奔放・自由な活動を広げるアリババ・テンセント・滴滴出行など中国民間企業に対し、「社会を動かすのは民間企業ではなく、国家・共産党による指導である」ことを改めて突きつけているように思えます。

下記のビットコインマイニングの全面禁止も、デジタル人民元という国家の通貨政策とのバッティング、電力大量消費など個々の事情はありますが、根底にあるは、国家・共産党の指導の及ばない通貨の存在は認められないという発想でしょう。

****中国の採掘業者、壊滅も ビットコインで全面禁止令****
暗号資産(仮想通貨)の代表格である「ビットコイン」の運営に、大きな地殻変動が起きている。必要なコンピューター処理を行い、新たな仮想通貨を生み出すマイニング(採掘)という作業を中国の習近平政権が全面禁止したためだ。

背景には世界的な普及を狙うデジタル人民元との競合を避けたい思惑がある。中国の採掘業者はかつて世界全体のコインを生み出す能力のうち4分の3を占めるなど運営を牛耳ってきたが、壊滅に追い込まれる可能性が出てきた。(中略)

地元当局との間でウィンウィンの関係だったはずの採掘事業を、中国当局が切り捨てるのはなぜか。仮想通貨に詳しい近畿大の山﨑重一郎教授は「豊富な電力資源を利用して手っ取り早く外貨を稼ぐという段階が終わり、デジタル人民元(の普及)に軸足を移すようになった」と分析する。

中国が発行準備を進めるデジタル人民元と、民間が運営するビットコインなどの仮想通貨。中国政府にとっては国民の決済情報を直接把握できるデジタル人民元と比べて、ビットコインなどの仮想通貨は法規制が及びにくく、取引価格の乱高下が金融リスクにもつながりかねない目障りな存在だ。

電力消費も注視
(後略)【8月12日 産経】
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【ウイルスもコントロールする「ゼロコロナ」】
中国では、完璧に近い状態で抑え込んでいたはずの新型コロナ市中感染が再び広がっており、当局は神経を尖らせ、市民全員のPCR検査・封鎖といった、“中国ならでは”の大規模かつ強硬な対策などを行っています。

ただ、その感染レベルは1万人を超す新規感染者が毎日出ている日本などからすれば、「そのくらいは・・・」というレベルですが、社会の全てを国家・共産党が管理・統制・指導するという発想からすると、その対象はウイルスにも及び、ウイルス任せの「ウィズコロナ」という発想ではなく「ゼロコロナ」になってしまうのでしょう。

そうした硬直した発想への批判は国内にもあるようですが、当局側は「ゼロコロナ」を譲らないようです。

****感染再拡大の中国で「コロナとの共存」を訴える声が出てきた理由****
中国で新型コロナウイルス・デルタ株の感染がじわじわ広がっている。国家衛生健康委員会の発表では、8月9日だけで新たな本土感染確定診断例(確診)は全国で108人。この3カ月以来、全国での新たな確診例が100を超えたのは初めてだという。
 
日本は東京都だけで1日数千人の新規感染者を数えているのだから、なんだ、たった100人か、と思うかもしれない。だが、そのわずかな感染者のために、中国は国民の生活と経済を犠牲にした徹底したロックダウンや全市民を対象としたPCR検査を実施して、「ゼロ感染」を目指している。(中略)
 
コロナとの共存を訴える意見に多くの支持
中国がここまで徹底してゼロ・コロナにこだわるのは、来年(2022年)2月の北京冬季五輪を有観客で東京五輪よりも華々しく立派に開催したい、という野望もあろう。

また中国製ワクチンの予防効果がファイザーやモデルナよりかなり低いという問題もある。中国のワクチン接種率は40%を超えているが、実のところ2回接種後も感染が確認された例は枚挙にいとまがない。

結局、中国政府としては、ワクチン接種率に関係なく、大量PCR検査とロックダウンによる徹底管理方式を取らざるを得ない、ということになった。これは、日本は真似したくてもやれない。権威主義国家の暴力的なまでの統制力があってこそ可能な方式だ。
 
だが、最近になって中国で、この「ゼロ・コロナ」志向に疑問を呈する意見が出てきた。復旦大学附属華山医院感染科主任の張文宏が7月末、中国のSNSの微博で「“コロナと共存”の準備をする方がいい」と提言。これが、中国のネット民から強い支持を得た。
 
張文宏は、「世界は新型コロナ感染のコントロールに失敗しており、中国はウイルスとの共存を準備すべきだ。これまで経験したことは、最も困難なことではない。さらに困難なのは、長期にウイルスと共存する智慧を絞ることだ」という。

張文宏は南京でデルタ株の感染が拡大していることを踏まえて、「ワクチンではウイルスは完全に防御できない。ただ重症化率を下げるだけなのだ」と訴えていた。
 
これに対し 元中国衛生部長の高強は人民日報への寄稿を通じて強烈に反駁した。高強は、世界でパンデミックが収まらないのは、英国や米国が感染者が増えているにもかかわらず、ワクチン接種率の高さに頼って、感染コントロール措置を解除したり緩和したりして、いわゆる「ウイルスと共存する」方向にあることが原因だ、と批判する。
 
さらに「ウイルスと共存など絶対にありえない。ウイルスと人類は、お前が死ぬか俺が死ぬかの関係でしかない」「驚くべきことに、私たち専門家の中にもデルタ株の脅威について語りながら、国家に“ウイルスとの長期共存”戦略を提案する人物がいる」として、名指しこそしなかったが張文宏を批判した。
 
張文宏の発言は、読みようによっては、徹底したロックダウンとPCR検査による今の中国当局の「ゼロ・コロナ」政策を批判しているようにも受け取れる。このことから、ネット民の中には「張文宏は政治的に危ないかもしれない」と心配する声も出ている。

大きすぎる経済的犠牲
中国が、権威主義体制の暴力性を利用した徹底的な管理コントロールによってゼロ・コロナ作戦を展開してきた中、突如こういう意見が現れネットで盛り上がる背景には、この中国方式の「コストの高さ」への懸念が表出してきたからだ。(中略)
 
経済をとるか、ゼロ・コロナをとるか。だが、米メディアのラジオ・フリー・アジアによれば、張文宏を支持する意見がSNSなどで削除されているという。中国当局としては当面、「コロナと共存」路線に転換するつもりはなさそうだ。
 
もし、米国やその他の西側社会が、ワクチンの力で重症者や死者の増加を抑えつつも、ある程度の感染拡大を容認し、経済活動や人の往来を認める方向に動き、一方で中国がゼロ・コロナ政策を貫くならば、これは人的往来のデカップリングにもつながり、本当に中国の鎖国時代が到来するかもしれない。

実際、中国は不要不急の出国を控えるようすでに国民に通達し、一部ではパスポートの更新を拒否されるビジネスマンや留学生もいるという。
 
中国が「ゼロ・コロナ」にこだわるのは、新型コロナの封じ込めが目的のように見えて、実は中国国民を西側社会から遠ざけ、その移動や動静をより厳しく管理したいという政治的な思惑があるのかもしれない。
 
日本の場合は、水際管理も国内管理もグダグダのまま五輪を開催するも、6割以上の国民が開催してよかったと感じ、ステイホームを呼びかけるも、もはや人出を抑えることはできない状況になっている。

あげく、いっそコロナは季節性インフルエンザのようなものと考えてみようと、感染症としての危険度を2類相当から5類に変えるべきかという議論も始まっている。

思えば、最初から、なし崩し的に「コロナと共生」だ。中国人から見れば相当クレイジーに見えるかもしれない。だが、人も気候もウイルスまでも、完全にコントロールしようとする中国共産党が支配する社会よりはまだ過ごしやすい世の中ではないか、と思ったりもするのだった。【8月12日 福島 香織氏 JBpress】
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ちなみに気候のコントロールというのは、“中国共産党100周年記念式典が開かれた今年7月1日の北京・天安門広場。この日は降雨が予想されていたことから、中国当局は式前夜と、当日早朝、上空の積乱雲に向けて数百発の降雨ロケットを打ち上げたという。降雨を早めることによって、式典開会中の降雨を避けるのが狙いで、実際に式典の最後のころには晴れ間も広がっていった。”【7月21日 吉村 剛史氏 JBpress】といった対応をさすのでしょう。

【3期目続投に向け進む習近平体制強化】
といったように管理体制を強化する習近平指導部ですが、その基盤は教育からということで・・・・

****習主席の政治理念を学ぶ授業、必修に 中国*****
中国政府は今年の秋から、学校の授業に、習近平国家主席の政治理念を学ぶ授業を必修とすることを決めました。長期政権を目指す習主席の権威をさらに高める狙いがありそうです。

中国教育省は、習主席の政治理念「新時代の中国の特色ある社会主義思想」を若者に浸透させるため、小学生から大学生に向けた教材をあわせて5冊作成しました。今年秋に始まる新学期から、小中学校などで必修教材として正式導入されるということで、中国教育省の担当者は「新時代の魂を込めた傑作だ」と強調しています。

習主席は来年の党大会で異例の3期目続投を目指すとみられ、権威を高めため次々と打ち出される措置が子どもの教育現場にまで及び始めたかたちです。【8月12日 日テレNEWS24】
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「新時代の魂を込めた傑作だ」・・・・共産党管理社会を生き抜くための言いぐさでしょうか、それとも本気? 本気だったら怖い。

“習氏の文化遺産政策を異例特集 人民日報、進む権威づけ”【8月2日 朝日】なんてものもあります。

でもって、その3期目続投に向けた布石が行われるのが、中国共産党の指導部や長老が毎夏、河北省の避暑地に非公式に集まって重要政策や人事などを議論する「北戴河会議」

****習氏、3期目へ布石探る 北戴河会議開幕か 重要政策・人事議論****
中国共産党の指導部や長老が毎夏、河北省の避暑地に非公式に集まって重要政策や人事などを議論する「北戴河会議」が今年も始まった模様だ。

5年に1度の最重要会議である党大会を来年に控え、習近平(シーチンピン)総書記にとっては慣例を破る3期目を実現するため、指導力をアピールする重要な機会になるとみられる。(中略)
 
習氏自身は総書記の2期目を終える来年以降の進退を明言していないが、実権を握り続けることが有力視されている。課題になるのが、最高指導部は党大会の年に67歳以下なら残留し、68歳以上は引退するという不文律、いわゆる「七上八下(チーシャンパーシア)」の存在だ。
 
共産党は、毛沢東への個人崇拝が文化大革命の混乱を生んだとする反省から、国家指導者の地位には憲法で2期10年の任期制限を、党指導者の地位には「七上八下」の定年制を設けてきたとされる。2017年の前回党大会では、習氏は当時69歳だった盟友の王岐山氏を最高指導部に残そうと試みたものの、定年制のために実現しなかったとされる。
 
18年の憲法改正で国家主席の任期撤廃に成功した習氏だが、定年制については考えを示さないまま今年6月、68歳を迎えた。指導者の定年撤廃が「終身制」につながることへの懸念は根深く、習氏であっても覆すのは容易ではない。
 
権力集中を強める習氏に、足元では不満もあるようだ。河南省の豪雨で大きな被害が出ていることが明らかになり始めた7月21日、習氏が視察に向かったのは河南省ではなくチベット自治区だった。23日になってこの視察が報道されると、SNSでは被災地へ自ら足を運んだかつての指導者らの記事や写真が複数投稿された。
 
習氏が続投するためには、説得力のある理由が必要だ。習氏を「核心」と位置づけた16年の中央委員会全体会議では、直前に地方幹部が「大国には指導の核心が必要だ」などと演説し、筋道をつくった。党幹部養成機関の元教授は「習氏の続投を求める声を党幹部に表明させ、定年制を打破する糸口をつくる可能性がある」と話す。【8月3日 朝日】
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北戴河や中南海で繰り広げられる権力闘争の行方は・・・中国ウォッチャー・専門家を含め部外者には全くわかりません。自分が続投するつもりのせいか、習近平氏の後継者も次の首相も明確ではなく、習近平氏本人も党も、来年秋に開催予定の第20回党大会での指導者交代の可能性について沈黙しています。

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