孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

台湾  オリンピックでの活躍で高揚する台湾人意識 難しい日本の台湾問題への対応

2021-08-04 23:04:52 | 東アジア
(31日、バドミントン男子ダブルスで、中国(左)を破り、金メダルを獲得した台湾ペア=AP【8月1日 読売】)

【メダルラッシュで高揚する台湾人意識】
台湾において、「中国人」ではなく「台湾人」意識が高まり定着しつつあることは今更の話です。

****調査に「自分は台湾人」63% 民主化受け意識定着****
台湾の国立政治大学は22日までに、台湾住民を対象にした世論調査を発表、自分を「台湾人」と答えた人は63.3%で、「台湾人でも中国人でもある」は31.4%、「中国人」は2.7%だった。1980年代からの民主化を受け、台湾人意識が定着していることを示した。
 
中台関係について「現状維持がよい」との回答が55.7%。「台湾独立がよい」は31.4%で、「統一がよい」は7.4%だった。「現状維持」の中で「永久に」は27.5%、「当面」は28.2%。「独立」で「直ちに」は5.6%、「独立に向かう」は25.8%だった。【7月22日 共同】
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開催中の東京オリンピックで台湾選手は「金2個、銀4個、銅5個」と、アジアでは中国、日本、韓国に次ぐ、世界でも20位のメダル数を獲得して、その活躍が続いています。

国別のメダル数を競うのは本来の姿ではない・・・という議論は今はさておき、WHOからの締め出し、国交を有する国の減少など、国際社会で何かと中国による「いじめ」的な扱いを受けいる台湾としては、この台湾選手の活躍は「台湾人」意識を高揚させる機会ともなっているようです。

ましてや、決勝で中国を破って金メダルとなれば・・・

****中国破ってバドミントン「金」、台湾の蔡総統「我慢できずに東京に電話かけた」****
東京五輪のバドミントン男子ダブルスで7月31日、台湾ペアが中国ペアを破り、台湾にバドミントンで初の五輪金メダルをもたらした。蔡英文ツァイインウェン総統は自身のフェイスブックに「我慢できずに東京に電話をかけた」と記し、歴史的勝利を自ら祝福したことを明かした。
 
台湾では、卓球男子シングルス準決勝で台湾選手が中国選手をあと一歩のところまで追い詰め、人々が熱狂した。台湾が東京五輪で獲得したメダル数は過去の五輪で最高の成績となっており、台湾メディアは快挙を大々的に報じている。
 
一方、中国版ツイッター・微博ウェイボーでは、敗れた中国ペアをふがいないと批判する投稿や、「台湾は中国なのだから、中国の勝利だ」と主張するものなどがあった。【8月1日 読売】
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そもそも、台湾をどのように扱うか、どのように呼称するかは極めて微妙な政治的問題ですが、オリンピックにあっては、これまでの経緯から「中華民国」や「台湾」ではなく、「チャイニーズ・タイペイ」という名称で参加していますが、表彰式で台湾の国歌・国旗を使用することは認められていません。

****香港選手が金メダルで中国国歌、ではマカオや台湾は?=中国メディア****
中国メディア・北京青年報は27日、東京五輪で香港の選手が中国復帰後初の金メダルを獲得したことについて「マカオや台湾の選手が金メダルを取ったときにはどういう扱いになるのか」とする記事を掲載した。
 
記事は、香港の張家朗選手が26日にフェンシング男子フルーレ個人で優勝し、香港として五輪で史上2つめ、1997年の香港返還以降では初めての金メダル獲得となったことを紹介。表彰式では前回の金メダル獲得時に英領香港旗の掲揚、英国国歌の演奏が行われたのとは異なり、香港特区の区旗が掲げられ、中国の国歌が流れたと伝えた。
 
その上で、香港としての五輪参加について、香港返還時の英中両国による取り決めと五輪憲章などに基づき、単独の地域の五輪委員会メンバーとして五輪に参加する事が認められており、金メダルを獲得した際には特区旗の掲揚、中国国歌の演奏が行われることになっていると説明した。

そして、香港同様に特別行政区の形を取っているマカオや、中国が「一国二制度」を主張している台湾の扱いについても言及。

まず台湾に関しては1979年に国際五輪委員会が中華人民共和国五輪委員会を正式に承認して以降、台湾は「チャイニーズタイペイ五輪委員会」の名称で国際五輪委員会の中にとどまることが認められる一方で、中華民国という名称やその国旗、国歌を用いることは許されておらず、表彰式ではチャイニーズタイペイ五輪委員会の旗と委員会歌を使用することが中国大陸側との協議によって決定していると伝えた。
 
一方、マカオについては国際五輪委員会が今後地域五輪委員会の新規参加を認めない決定を下した時点で独立した五輪委員会を持っていなかったため、香港とは異なり「マカオ代表」として五輪に出場することはできないと指摘。アジア大会ではマカオ代表としての出場が認められており、その際にはやはりマカオ特別行政区の旗が掲揚され、中国国歌が演奏されたと紹介している。【7月30日 Searchina】
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香港については、現在の「中国直接統治」の政治情勢が進めば、そのうち独自チーム派遣ではなく、中国チームに吸収されるのかも・・・・。

それはともかく、そうした「微妙」な台湾について、今大会の開会式で入場の際にNHKのアナウンサーが「台湾です」と紹介したが、台湾で大きな話題になっているとか。

****開会式の「台湾です」に大反響 香港、中国国歌にブーイング****
東京五輪で台湾選手が大活躍し、好成績が相次いでいる。7月31日に行われたバドミントン男子ダブルス決勝で、李洋、王斉麟組が中国人選手ペアを下し、金メダルに輝くと、全土は大興奮に包まれた。

しかし、表彰式の中継映像を見て、ため息をついた台湾人は少なくなかった。一番高く掲揚されたのは、台湾の旗「青天白日満地紅旗」ではなく、台湾のオリンピック委員会の旗だった。演奏されたのも一般の台湾人にはなじみがない「国旗歌」という曲だった。1984年のロサンゼルス五輪以降、繰り返されている光景だ。

台湾が正式な「国号」とするのは「中華民国」で、「国歌」もある。しかし「台湾は中国の一部」と主張する中国が国際社会で影響力を拡大した70年代以降、台湾は国際大会で「中華民国」で参加できなくなった。

中国は同時に「台湾独立」勢力台頭を阻止するため、「台湾」の名前での参加も認めていない。台湾は76年と80年の2大会に参加せず、中国や国際五輪委員会(IOC)などと交渉を重ねた結果、84年の大会から「チャイニーズ・タイペイ」という名称で五輪に参加するようになった。

しかし、「タイペイ」(台北)は台湾の一都市で、台北出身ではない選手もたくさんいる。「いつか台湾の名前で五輪に参加したい」というのが、多くの台湾人の悲願だ。

このため、開会式の中継で、「チャイニーズ・タイペイ」チームが入場した際、NHKのアナウンサーが「台湾です」と紹介したことは台湾で大きく報道され、「やっと自分の名前で呼んでもらえた」と反響を呼んだ。(後略)【8月1日 産経】
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日本では「台湾」という呼称は一般的に使用していますので、NHKアナの発言もごく普通のことだったのでしょうが、台湾にとっては特別の感慨があったようです。

いずれにせよ、台湾選手の活躍、表彰式での「残念」な思いは、台湾人としての意識を更に高揚させることにもなっているようです。

****台湾で五輪の参加名義巡る議論再燃、メダルラッシュで****
台湾が東京五輪での前例のないメダルラッシュに沸く中、現在の「中華台北(チャイニーズ・タイペイ)」の名義ではなく「台湾」名義でのオリンピック参加を目指すべきとの議論が再燃している。

バドミントン男子ダブルスの決勝で中国を破り、同競技で台湾に史上初の金メダルをもたらした王斉麟選手は勝利後、フェイスブックに「私は台湾代表だ」と投稿した。

「一つの中国」原則を掲げる中国に配慮し、国際組織は台湾を「チャイニーズ・タイペイ」などの名称で呼んできた。一方、台湾では五輪での台湾選手の大活躍に政治家や著名人から歓喜の声が上がり、ソーシャルメディアで「チーム台湾」や「台湾は台湾」といったハッシュタグが使われている。

ある投稿者は王選手の投稿に「チャイニーズ・タイペイはもういらない」と反応し、「台湾の名での五輪参加を支持しよう!世界に台湾の名前を見てもらおう」と訴えた。王選手の投稿には100万人以上が「いいね!」ボタンを押した。

7月に五輪開会式がNHKで放送された際、「台湾」の代表選手と紹介されたことも台湾で大きな反響があり、参加名義を巡る議論が再燃するきっかけとなった。

ただ、台湾は2018年に五輪への「台湾」名義での参加を問う住民投票を実施し、否決された。名義変更が成立すれば中国を刺激し、台湾の参加阻止に動くとの懸念があった。

報道によると、活動家などは、2024年のパリ五輪を前に、住民投票の再実施を呼び掛ける構えを見せている。【8月4日 ロイター】
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【日本は台湾の独立を支持するのか】
国際政治の話となると、米中対立の最前線としての台湾問題に関して、日本も台湾へのワクチン供与など、台湾支援の方向での関与を強めています。

****「防衛白書」に台湾情勢初明記 「緊張感持って注視必要」*****
政府は13日午前の閣議で、2021年版「防衛白書」を了承した。中国軍機による台湾南西空域への進入など、中国が台湾周辺で軍事活動を活発化させていることを挙げ、「台湾をめぐる情勢の安定は、わが国の安全保障にとって重要」と初めて明記した。

台湾への支援を鮮明にする米国と、台湾を「核心的利益」と位置づける中国の対立が「一層顕在化する可能性がある」と指摘し、「緊張感を持って注視していくことが必要」と警戒感を示した。
 
白書は、米中の対立が深まっていることを踏まえ、米中関係に関する項目を新たに設けた。台湾問題や香港問題、新疆ウイグル自治区を巡る人権問題などにより政治や経済、軍事分野で「米中において相互にけん制する動きがより一層表面化している」と分析した。(後略)【7月13日 毎日】
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****麻生氏、台湾有事なら「日米一緒に台湾を防衛」=中国で反発「狂言」、台湾ネット民「ありがとう」****
麻生太郎副総理兼財務相が台湾有事の際に集団的自衛権を行使する可能性があるとの認識を示したことが、中国や台湾で注目を集めている。

報道によると、麻生氏は5日、東京都内で行った講演で「(台湾で)大きな問題が起き、日本にとって次はとなれば、存立危機事態に関係してくるといっても全くおかしくない。そうなると、日米で一緒に台湾を防衛しなければいけない」と述べた。また、香港問題に触れ「同じことが台湾で起きない保証はないと考えると、台湾の次は沖縄」との考えを示した。

この発言は中国で注目を集めており、黒龍江省社会科学院東北アジア研究所の笪志剛(ダー・ジーガン)氏は網易新聞への寄稿文で麻生太郎が「台湾が有事となれば、日本は必ずや集団的自衛権を行使しなければならない」と述べたとし、「妄言」「狂言」という言葉を用いて批判した。

中国版ツイッター・微博(ウェイボー)では複数のアカウントが麻生氏の発言を紹介しており、ネットユーザーからは「日本をたたく理由ができたぞ」「言ったからには、実際にそうなった時はきちんと果たしてもらおう」「甲午戦争(日清戦争)以来、日本が中国で犯してきた犯罪行為を徹底的に清算する時だ」など、過激な声が相次いでいる。このほか、「これもまた、『個人の発言で日本政府の立場を代表するわけではない』ってことになるのか?」「明日には『個人の見解です』って発表がありそう」といった声も見られた。

一方、台湾メディアも相次いで報じており、ネット上でも話題になっている。自由時報の記事には「ありがとう」「米国と日本の協力に感謝します」「誰が敵で誰が友かはっきりしている」「日本政府は変わった。以前はこういう話は中国を恐れてできなかった」との声が寄せられる一方、「米国も日本も台湾と国交を結ばないうちはすべてが空論」との指摘や、中国のネットユーザーと同様に「日本は『麻生氏個人の発言で日本を代表するものではありません』的なことを言うだろう」との声も上がっている。【7月6日 レコードチャイナ】
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「台湾海峡の平和と安定」という表現は、今年の日米首脳会談やG7でも使用された表現で、国際海峡の安全に関与する当然の権利の主張とも言えますが、「台湾をめぐる情勢の安定」となると、中国に対抗する直接的な台湾支援と理解できる表現です。

そこには、大きな政策変更があるのか?

****専門家が首をかしげた、防衛白書のある記述****
(中略)

■日本の関心は「台湾」か「台湾海峡」か
防衛白書の公表後、日本の中国専門家の一人は首をかしげた。白書が記述した「台湾をめぐる情勢の安定は、わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要」という表現に違和感を覚えたという。「なぜ、台湾海峡ではなくて台湾をめぐる情勢なのか」

日本は3月の日米外務防衛閣僚級協議(2プラス2)での共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調した。この表現は、4月の日米首脳会談や6月の主要7カ国(G7)首脳共同声明でも踏襲されていた。中国外交部の趙立堅報道官は13日の記者会見で防衛白書の記述について「極めて間違った無責任なことだ。中国は強烈な不満を表し、断固として反対する」と反発した。

この専門家によれば、日本にとって「台湾海峡」と「台湾」とでは、天と地ほどの違いが生まれる。日本政府は従来、「台湾は中国の不可分の一部」とする中国政府の立場について「十分理解し尊重する」という立場を取ってきた。

「台湾海峡」という記述は、国際海峡の安全に関与する当然の権利を主張しているだけで、「従来の台湾政策の変更ではない」という意味を込め、日本を非の打ちどころのない立場に置くことができるという。

だが、「台湾をめぐる情勢の安定」という記述は、中国側に「日本は台湾の独立を支持するのか」という疑念を芽生えさせかねない。実際、防衛省幹部や自民党有力政治家から、この疑念を裏付けるような発言が相次いでいた。

ロイター通信によれば、中山泰秀防衛副大臣は6月の米ハドソン研究所でのオンライン講演で「我々は民主主義国家としての台湾を守る必要がある」と主張した。

麻生太郎副総理兼財務相も今月5日の講演で、中国が台湾に侵攻した場合、安全保障関連法が定める存立危機事態として認定する可能性があるという考えを表明した。存立危機事態になれば、日本が直接攻撃は受けなくても、米国など「我が国と密接な関係にある他国」に対する武力攻撃が発生し、一定の要件を満たせば、集団的自衛権を一部行使できる。

中国外交部は両氏の発言に激しく反発した。加藤勝信官房長官が記者会見で、政府として決まった方針があるわけではないという考えを示して火消しに追われた。先の専門家は中国政府の思惑について「日本の政府高官から似た発言が相次いだため、防衛白書の表現は政策変更の結果なのかと疑っているようだ」と語る。

日本が政策を変更したと中国が判断すればどうなるのか。台湾有事の際、中国が在日米軍基地などを攻撃目標に加えるリスクがあると以前から言われてきた。「中国領土である台湾に直接介入するなら自衛権を行使する」として、中国が日本攻撃を正当化する口実を与えてしまうかもしれない。

では、現実はどうなのか。防衛省・自衛隊内部で、台湾に関する防衛政策に変更はないようだ。関係者らによれば、台湾有事の際、米国が日本に求める可能性が高いのが、米軍に対する燃料や武器弾薬の補給、台湾在留米国人らの退避などで、自衛隊が米軍と一緒に中国軍と交戦することまでは想定していないという。防衛省・自衛隊もこうした状況を前提に政策の検討を行っているとみられる。

結局、今回の「台湾をめぐる情勢の安定」という表現は、中国を批判する世論の高まりを意識した政治家や防衛省関係閣僚の考えを尊重した結果だったようだ。世論に耳を傾けることは政治家の大事な仕事である一方、防衛白書の記述変更は、日本の安全保障政策を、誤解を招かないよう正確に対外発信することの重要性を政府に改めて問うことになったと言える。【7月21日 GLOBE+】
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結論としては、“自衛隊が米軍と一緒に中国軍と交戦することまでは想定していない”とのことのようですが、いざ有事となったとき、それで済むのか・・・という問題も。

“中国共産党創建100周年の記念日を迎え、習近平主席は演説の中で、台湾問題を解決し「祖国の完全な統一を実現することは、党の歴史的な任務である」と表明した。そして、平和的な統一を進めると強調しつつ、「いかなる台湾独立のたくらみも粉々に粉砕する」と強調した。習はそのスピーチの中で「一つの中国の原則」といわゆる「1992年コンセンサス」を台湾の平和的統一の手段として堅持する、と述べた。”【7月27日 WEDGE】

中台間の緊張が高まることは今も、これからも、台湾にとってはもちろん、日本にとっても悩ましい問題です。
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