孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  批判を許さない言論統制的な動き

2021-08-30 23:26:56 | 東アジア
(25日未明、「言論仲裁法」改正案をめぐる韓国国会・法制司法委員会の審議で、最大野党「国民の力」の議員が欠席するなか単独採決に踏み切って可決を祝う与党「共に民主党」の議員ら=2021年8月25日【8月27日 朝日】)

【いわゆる「尹美香保護法」は撤回】
昨日ブログでは北朝鮮における韓流文化など文化、更に社会・経済生活の様々面での「締め付け」政策を扱いましたが、今日は韓国での批判を許さない言論統制的な動きに関する話題。

最初は、旧日本軍の慰安婦被害者や関連団体に対する名誉毀損を禁止する内容を盛り込んだ慰安婦被害者法改正案。

*****「尹美香保護法」が論争に 与党「党として議論していない」=韓国****
韓国与党「共に民主党」の一部議員が発議した、旧日本軍の慰安婦被害者や関連団体に対する名誉毀損(きそん)を禁止する内容を盛り込んだ慰安婦被害者法改正案と関連し、同党は24日、党として成立を目指している法案ではないとの立場を明らかにした。

所属議員が発議した法案について、党の方針をメディアに向けて説明するのは異例。

改正案を巡っては、慰安婦被害者支援団体「日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯(正義連)」への寄付金を流用した罪などで起訴された同団体前理事長で国会議員(無所属)の尹美香(ユン・ミヒャン)被告を保護するものとする批判が野党側から出ている。

また、共に民主党がメディアの故意・重過失による虚偽報道に対して損害賠償を請求できる「言論仲裁法」改正案の成立を目指していることもあり、与党が言論統制を進めているとの批判が野党を中心に強まっていることから、火消しに走ったものとみられる。

共に民主党の李素永(イ・ソヨン)報道官は「該当の改正案は個別の議員レベルで発議された法案」とし、党レベルで推進する法案と報じた一部記事は事実ではないと指摘した。また、「党として公式に議論していない」と述べた。

同改正案は共に民主党所属の印在謹(イン・ジェグン)議員が13日に発議。被害者や遺族を誹謗(ひぼう)することを目的とした慰安婦被害者に関する事実の指摘、虚偽事実の流布による被害者、遺族、慰安婦関連団体の名誉の毀損などを禁止する条項が盛り込まれた。

被害者や遺族だけでなく慰安婦関連団体に対する事実の指摘を禁止していることに加え、尹氏が共同発議者として名を連ねていることで論議を呼んでいる。【8月24日 聯合ニュース】
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同案には「被害者や遺族を誹謗する目的で日本軍慰安婦被害者に関する事実を摘示したり、虚偽の事実を流布したりして被害者、遺族または日本軍慰安婦関連団体の名誉を毀損してはならない」との条項が盛り込まれており、虚偽事実を流布した場合は5年以下の懲役または5000万ウォン(約470万円)以下の罰金に処し、新聞や雑誌、放送、討論会、記者会見などにおける発言も処罰対象に含まれていました。

これに関しては、「尹美香保護法だ」との批判があり、また、元慰安婦の女性も批判していることもあって撤回に追い込まれています。

****慰安婦“批判”禁止法案撤回、当事者らの反発受け****
韓国の与党「共に民主党」議員が、国会に提出していた元慰安婦への名誉棄損(きそん)を禁じる法案を撤回したことが26日、分かった。複数の韓国メディアが報じた。

法案は、元慰安婦支援団体も保護の対象とし、団体前トップで寄付金などを流用した罪で起訴された尹美香(ユン・ミヒャン)議員も共同提案者になっていたことから「尹美香保護法だ」との批判が噴出し、元慰安婦の女性も批判に加わっていた。

議員関係者は、メディアの取材に「被害者のおばあさん方の反発を考慮した」と法案撤回を認めた上で「再提出する計画も今のところはない」と説明した。【8月26日 産経】
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****批判続出の”元慰安婦保護法”が撤回、発議した韓国議員は「残念だ」と落胆=韓国ネット「面の皮が厚い」****
(中略)これに対し野党からは「尹美香セルフ保護法だ」「いっそのこと犯罪者保護法、恐喝犯優待法をつくったほうが底意に合致する」「元慰安婦と遺族を守るふりして関連団体を守っている」などと批判の声が上がっていた(尹議員は現在、正義連をめぐる寄付金流用事件で、補助金管理法違反や詐欺、業務上横領などの罪で起訴され裁判中)。

さらに、尹議員をめぐる疑惑を告発した元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さんも「私が真実を話したことも罪になるのか」と反発していた。

同案が撤回されたことについて、尹議員は26日、自身のSNSで「残念だ」と述べた。

また「法的な保護は、虚偽によりおとしめられた弱者が頼れる最終手段だ」とし、「歴史と事実を歪曲(わいきょく)し、被害者の名誉を傷つける行為を傍観していてはいけない」と訴えた。その上で「韓国の法体系が歴史的事実を守るためにどんな努力をしたか、いつか歴史が評価するだろう」とし、「慰安婦問題解決に向けより一層精進していく」との考えを示したという。

これに対し、韓国のネットユーザーからは「面の皮が厚い」「慰安婦被害者が反対する慰安被害者保護法なんておかしい」「こんな人が国会議員をしていることを歴史はどう評価するのか」「いつか歴史が評価する前に、国民が今すぐ尹議員を断罪する」「まずは慰安婦被害者の利用を阻止する法律からつくってほしい」など、尹議員への批判的な声が数多く上がっている。【8月27日 レコードチャイナ】
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【メディアの虚偽報道に対して損害賠償を請求できる「言論仲裁法」改正案 採決は9月以降】
「尹美香保護法」は断念されましたが、「言論統制」の中核は前出【聯合ニュース】に“「共に民主党」がメディアの故意・重過失による虚偽報道に対して損害賠償を請求できる「言論仲裁法」改正案の成立を目指している”ともある「言論仲裁法」改正案です。

25日に国会法制司法委員会で強行採決されました。

****韓国で「言論懲罰法」可決 誤報認定されれば、5倍の賠償請求も「民主主義国家じゃない」の声***
日本のお隣、韓国で「言論の自由」を巡り、大きな騒動が巻き起こっている。韓国与党・共に民主党が8月25日午前4時前に、「言論仲裁法改正案」を国会法制司法委員会で強行採決した。野党・国民の力が反発して議場を退場後、共に民主党が単独で法案を可決した。

同法案は故意と重過失による虚偽、歪曲された報道で不利益を受けた場合、メディアに最大で損害額の5倍の賠償請求ができるようになることが明記されている。また、誤報には訂正報道を義務付け、誤りがあった報道と同じ時間や分量を割いて訂正する必要があるという。問題となった報道が閲覧できないように請求できる権利も盛り込まれている。

与党の共に民主党は「被害者をフェイクニュースから保護する」と意義を強調しているが、野党側やメディアは「表現の自由が損なわれる」と反発。

韓国紙・中央日報によると、野党の大統領候補・尹錫悦前検察総長が自身のフェイスブックで「政権延長のために言論の自由を後退させた」と批判した上で、「改正案は本当に国民のためのことか、それとも一部の権力者と与党のための『憂さ晴らし法案』か。問わざるを得ない」と糾弾したという。

「今、韓国国内ではこの話題で一色です。文政権は有力な政治家がスキャンダルや不正をメディアに糾弾されて失脚しています。政権批判を封じ込め、次期大統領選を見据えた法案なのではないかと揶揄されています。今回の『言論懲罰法』により、SNS上では『もはや民主主義国家ではない』、『北朝鮮のような社会主義国家になるつもりか』など批判の声が上がっています。強行採決したことでさらに風当たりが強くなっています」(韓国に駐在する通信員)

日本にとっても決して対岸の火事ではないという。

「この法律はフェイクニュースの線引きがあいまいなんです。韓国は日本と違ってその時の国民感情を配慮して法律は運用されるケースが多い。その時の政権や韓国国民に渦巻く日本への感情で、日本を擁護するような記事が『フェイクニュース』と適用される恐れがある。メディアが政府に異論を唱えられない状況になり、独裁政権になる可能性もゼロではありません」(同前)

例えば、19年7月に韓国で発売され、「反日種族主義」は日本の朝鮮統治時代について、韓国で流布していた「植民地として搾取された」という通念を真っ向から否定し、ベストセラーになった本だ。

慰安婦問題、徴用工問題、竹島問題などを実証的な歴史研究に基づいて論証し、「韓国にはびこる嘘の歴史」と指摘して大きな反響を呼んだ。

文政権で法務大臣を務めた曺国氏は自身のフェイスブックで痛烈に批判した。

「日帝植民支配期間に強制動員と食糧収奪、 慰安婦性奴隷化等反人権的、反人倫的蛮行はなかったと主張している」として、「へどが出る本」と酷評した。著者の1人である韓国・落星台経済研究所の李宇衍研究委員がソウルの日本大使館近くで集会を開いていたところ、サングラスの男に襲われた事件も起きた。

言論仲裁法改正案が政府に恣意的に運用されれば、こうした政府の意にそぐわない異論が「フェイクニュース」と抹殺される危険がある。法案は可決されたが、反発の声は高まっている。騒動はしばらく続きそうだ。【8月27日 AERAdot.】
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この「言論仲裁法」改正案(「言論懲罰法」とも、あるいは「メディア懲罰法案」とも)強行採決に関しては、大統領周辺にも慎重論があるようです。ただ、明確な賛否は明らかにしていません。

****韓国大統領府「メディア懲罰法案」に沈黙 与党の採決強行には懸念****
韓国青瓦台(大統領府)内部で、メディアに対する懲罰的な損害賠償を可能にする「言論仲裁法」改正案の与党「共に民主党」による国会採決強行に懸念の声が上がっていることが、27日分かった。

言論仲裁法の改正案はメディアの故意・重過失による虚偽・ねつ造報道に対し、損害賠償を請求できると定めている。これに対し、最大野党「国民の力」などは権力維持を目的とした言論封殺だとして強く反対している。

青瓦台はこれまでこの問題に対して「国会で議論する事案」として静観の構えを示していたが、与党単独での採決強行は文在寅(ムン・ジェイン)大統領の任期終盤の国政運営に負担になりかねないとして、水面下で慎重論が広がっている。

青瓦台関係者は聯合ニュースの取材に対し、「法案の是非について青瓦台が言及するのは適切でない」としながらも、「通常国会が始まろうとしている時期にこの問題で国会が空転し、政局が混迷することが懸念されるのは事実だ」と述べた。

別の関係者も「青瓦台としての立場はない」と距離を置きつつ、「昨日、共に民主党のワークショップで反対意見がかなり出たと聞いた。今後の議論を左右する可能性があるのではないか」と指摘した。

青瓦台でのこうした動きは、非公式に与党議員らにも伝えられたという。(後略)【8月27日 聯合ニュース】
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同法案のメディアには「外国メディアも含まれる」(与党「共に民主党」のメディア革新特別委員会の金容民(キム・ヨンミン)委員長)とのこと。【8月27日 聯合ニュースより】

野党側の徹底抗戦姿勢もあって、本会議の採決は9月以降とのこと。

****韓国「言論統制法」採決9月以降に****
誤報やフェイクニュースへの罰則を強化する韓国の「メディア仲裁法」改正案について、最大野党「国民の力」は30日までに、法案が上程されれば長時間の演説で議事進行を遅らせる「フィリバスター」を行う方針を表明した。同日に予定されていた国会本会議での採決は、9月以降に延期される見通しとなった。

韓国国会法の規定により、フィリバスターは臨時国会が閉会する31日に期限を迎え、9月1日の通常国会開会後は議席の約6割を占める与党「共に民主党」側による強行採決が可能となる。

一方、国内外で「言論統制」法案に対する非難が強まる中、与党内でも強行採決への懸念を示す声が上がっており、同党は30日、議員総会を開催し今後の方針を協議した。

報道による人権侵害の救済策などを定めた「メディア仲裁法」の改正案は、「故意や重過失」による虚偽・捏造(ねつぞう)報道に対し、損害額の最大5倍の賠償を報道機関に命じるなどと規定。故意性や過失の定義が抽象的で、「恣意(しい)的な判断が下されるおそれがある」との懸念が広がっている。【8月30日 産経】
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【日米などからも批判が】
日本からすれば、いささか熱しやすい情緒不安定にも見える韓国社会でこの種の誤報やフェイクニュースへの罰則強化は、記事にもあるように「恣意的」な運用が強く懸念されます。

****韓国のメディア法改正案 言論統制につながる恐れ****
韓国の与党がメディア関連法の改正を進めようとしている。フェイクニュースによる被害の救済が目的だと主張するが、言論統制につながる恐れがある。
 
メディアへの懲罰的な措置を盛り込んだ「言論仲裁法」改正案だ。故意や重大な過失による報道で名誉を毀損(きそん)された人が、多額の損害賠償を請求できるようにする。

問題は、故意や過失の有無を判断する基準があいまいなことだ。しかも、メディア側に厳しい立証責任を負わせている。
 
賠償額の算定に当たっては、訴えられた企業の売上高なども考慮される。来年3月の大統領選を控え、政権に批判的な大手報道機関をけん制しようという意図が読み取れる。

法曹界や市民団体などは「民主主義の根幹を脅かす」と批判している。だが、与党は採決を強行する構えだ。
 
メディア規制の動きは各国で強まっている。権威主義的な国ではフェイクニュース対策を名目にした抑圧的な動きが目につく。

しかし言論の自由は最大限に尊重されなければならない。民主主義国家である韓国では、当然守られるべき基本的人権のはずだ。
 
軍事独裁時代、韓国メディアは厳しい検閲を受けていた。国による言論統制を批判し、民主化を求めて戦ってきた人々が、文在寅(ムンジェイン)政権の中枢を占めている。

にもかかわらず、現政権は自らへの批判には不寛容だ。大統領批判のビラを配ったことを理由に侮辱罪で告訴された男性もいる。
 
昨年春の総選挙で与党が圧勝してからは、言論の自由をないがしろにするような法律の制定が相次いでいる。
 
金正恩(キムジョンウン)体制を批判するビラを北朝鮮に向けて散布することを禁じた。1980年に起きた民主化運動の光州事件に関する「虚偽情報」の流布を罰する法律も作った。いずれも、野党の反対を押し切って成立させた。
 
文氏は言論仲裁法改正案について沈黙を続け、野党やメディアから批判されている。
 
人権派弁護士出身の文氏はこれまで、言論の自由が大切だと繰り返してきた。それならば、改正案を撤回するよう与党に働きかけるべきである。【8月29日 毎日】
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アメリカやフランスからも批判が

****米記者協会「韓国の言論仲裁法に極めて失望」…「こういう法律は非独裁の民主国家では初めて」****
(中略)
米国記者協会(SPJ)国際コミュニティーのダン・キュービスケ共同議長は29日、チャンネルAのインタビューに対し、「民主主義国家でこんなことをする初の事例になるだろう。独裁国家はよくやることだ。極めて失望感を覚える」と述べた。

キュービスケ議長は韓国の言論仲裁法改正案が成立すれば、「周辺国家がまず影響を受けるが、全世界が影響を受けることになる。香港がそういう法律の制定を検討していると聞いている」と懸念した。  

キュービスケ議長は「こうした法律は記者に自己検閲をさせることになる。一般的に政治家はメッセージのコントロールを望み、これがそうした方法だ」と批判した。また、「米国では(メディアに対する)訴訟のハードルがとても高く、法律の文言はとても具体的だ。ところが、(韓国の)この法案は具体的ではない。それがとても恐ろしい」と語った。  

仏日刊紙ル・モンドは27日、韓国の言論仲裁法改正推進を伝え、「行き過ぎた法律の制定で多数党である民主党への信頼を脅かしている」と評した。(後略)【8月30日 朝鮮日報】
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韓国は情報量としてはアメリカ・中国の次に多いのですが、“反日”“嫌韓”みたいなものには関わり合いたくないので、普段あまり韓国の話題はとりあげません。
珍しく今回韓国を取り上げたところ、もう少し書きたいことも。ただ、長くなるので、別機会に。
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