(タリバーンとアフガン治安部隊の戦闘の後で立ち上る黒煙を眺める人々=カンダハル【8月14日 CNN】
こういう多くの人々にとっては、現在の政権でも、タリバンでも、どっちでもいいのでしょう。女性の権利、市民の自由云々は部外者のたわごとか・・・)
【「無血開城」的に急拡大するタリバン支配】
動きが急激なアフガニスタン情勢、8月11日ブログ“2009年時点でアフガニスタンを見限ったバイデン大統領 士気も低く、装備の持続性もない政府軍”で取り上げたばかりですが、事態は更に切迫、加速度的に動きを早めています。
この8日間でタリバンは全国の34州都の半数にあたる17州都の制圧を宣言しています。
軍閥がいない州都では目立った戦闘もなく陥落するケースが続いています。州知事らが水面下でタリバンと交渉し、タリバンの要求する「無血開城」を受け入れたようです。
西部ヘラート州のように一定に抗戦した州においても、事前に宗教指導者らに「根回し」を行い、州指導部に「無血開城」を提案するなどの交渉を水面下で行ってきました。
提案を拒否したヘラート州に対し、米軍が完全撤退に向けた動きを本格化させてから攻勢をかけ、最初に農村部、次いで国境検問所や物流拠点を押さえ、最後に州都を包囲する周到な戦略を進めてきました。
対するアフガン政府軍や警察は、薄給で士気が低く、武器のタリバン側への横流しが蔓延しています。
また、州都陥落とともに、米軍が買い与えた武器がタリバンに渡っています。
これまでは政府軍が地上戦でタリバンに押されても、米軍の援護で失地を取り戻せていましたが、米軍が去るなかでそれもできなくなりました。
前回ブログに書いたように、バイデン大統領は早くからアフガニスタン政府を見限っており、今更アフガニスタン政府の延命のためにアフガニスタンに戻る考えはないようです。
政権側にとっての問題は、体を張ってタリバンを押しとどめようとする力が弱いこと。自分の身の保全のためにはタリバンへの“寝返り”も少なくないこと。
国際的にはタリバンの“イスラム原理主義”が問題視されますが、現地勢力にとっては思想的にはタリバンとさほど差異はなく、「寝返り」も無理からぬところでしょう。
****ヘラート陥落後、知事や軍幹部らタリバーンに「寝返り」か****
駐留米軍の撤収が進むなかアフガニスタンで支配地を拡大し続ける反政府勢力タリバーンは14日までに、前日に陥落させた西部の要衝ヘラート市で現職や元職の州知事、情報機関「国家保安局」の責任者やアフガン軍の軍団司令官らがタリバーン側に加わったと主張した。
この中には、ヘラート州知事や中央政府の閣僚も務めた経験を持つ著名な軍閥指導者のムハンマド・イスマイル・カーン氏も含まれた。タリバーンが公開したビデオ映像には、同指導者がタリバーン戦闘員のそばで話す姿も映っていた。
ヘラートは国内第3の都市。タリバーンの報道担当者は13日、記者団に同州政府の内務省幹部や数千人規模の治安部隊もタリバーンに合流したと述べた。
これら主張の真偽は不明。ただ、CNNはカーン氏がタリバーン戦闘員らと一緒にいる映像は確認した。【8月14日 CNN】
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タリバンへの抗戦を指揮していた「ヘラートのライオン」とも呼ばれるイスマイル・カーン氏は市内にとどまっているもののタリバンの拘束下にあるとの情報もあり、タリバンに同調したのかどうかは不明です。
【首都へ11km 数日内に首都到達? 焦点となるガニ大統領の去就】
主要都市が次々に陥落、それも無血開城的にタリバン支配に堕ちていくなかで、もはや、アフガニスタン政府が持ちこたえられるかではなく、首都カブールの陥落、タリバンのカブール進攻が“いつ”になるか、あるいは停戦のためのガニ大統領の去就が焦点。
米政権高官は11日、CNNに対し、カブールは30〜90日以内にタリバーンの手に落ちる可能性があると述べていましたが、“米政府高官によると、タリバンが数日以内にカブールに到達する可能性があるという懸念も台頭しているという。”【8月14日 ロイター】という状況に。
****タリバン、首都カブールまで11キロに迫る…米大使館は退避へ機密書類など廃棄を通達****
AP通信によると、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンは14日、首都カブール南方約50キロにあるロガール州の州都プリアラムを制圧した。タリバンはさらに北上し、カブールまで約11キロの地区へ戦線を前進させた。
タリバンはカブール州に隣接するロガール州全体を掌握した。プリアラムを含め、タリバンが占拠した州都は全34州中18州となった。
米国防総省のジョン・カービー報道官は13日の記者会見で、タリバンの行動について、「国境に通じるルートや主要な幹線道路を押さえ、カブールの孤立化を狙っている」と分析した。「彼らはこれまでも州都を孤立させ、(アフガン政府軍を)無抵抗で降伏させることに成功してきた」と指摘し、タリバンがカブールでも兵糧攻めを狙っているとの見方を示唆した。
米政府は12日、米大使館員らの退避を支援するため、米軍約3000人をカブールに派遣すると発表した。カービー氏は、カブールが「現状で差し迫った危機に直面している訳ではない」としつつ、「我々は状況を深刻に受け止めている。だからこそ増派の判断に至ったのだ」と語った。増援部隊の大半は、週末にかけてカブールの空港に到着する見通しだという。
米政治専門紙ポリティコは13日、国防総省が、カブールにある米大使館の全職員を退避させる計画を策定し始めたと報じた。事実であれば、カブールの陥落も想定した動きと言えそうだ。
ポリティコによると、米大使館の幹部は13日、機密性の高い書類などを破棄するよう職員に通達した。大使館にある米国旗も、「(奪われた場合に)プロパガンダに使われる恐れがある」として廃棄対象に指定されたという。【8月14日 読売】
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タリバンはガニ大統領の辞任と権力の移譲を求めています。
****タリバン、首都カブールの孤立化狙う? アフガン政府も対決姿勢****
(中略)アフガンのメディアによると、ガニ大統領は14日、テレビ演説で「治安部隊の再動員が最優先だ」と述べ、対決姿勢を強調した。首都を巡る戦闘の激化が懸念されている。
情勢の緊迫化を受け、タリバンの政治事務所があるカタールのドーハでは、米国や中国などの代表がアフガン政府やタリバン側と打開策を協議。だが、タリバン側は攻撃の手を緩めておらず、即時停戦で合意する可能性は低い。
タリバンは13日、カブールに隣接する東部ロガール州の州都プリアラムを制圧。カブールとの直線距離は約50キロで、首都への侵攻が現実味を帯びてきた。取材に応じたタリバン幹部によると、タリバンはガニ氏の辞任と権力の移譲を求めているという。
長年タリバンの後ろ盾と指摘されてきたパキスタンのカーン首相は、毎日新聞などとのインタビューで「ガニ氏が辞任しない限り、タリバンは(対話による)政治的な解決を受け入れない」とも指摘している。
タリバンは新たに支配下に置いた地域で、政府側に拘束された戦闘員らを刑務所から次々と解放し、政府軍が残した武器も入手。またタリバン幹部は、2020年2月の米国とタリバンの合意に沿ってアフガン政府が解放した捕虜約5000人の多くが、再び戦場に戻ったと明かした。
捕虜解放は、タリバンがアフガン政府と和平協議を始める条件とされたが、結果的に戦力の底上げにつながった。
一方、アフガン政府も強気の姿勢だ。地元民放トロテレビなどによると、ガニ氏は14日のテレビ演説で「さらなる不安定化や暴力、国民の避難を抑えることに集中する」と語り、国際社会とも協議していると明かした。
これに先立ち、サレー第1副大統領は13日、ガニ氏が議長を務める国防に関する会議で「タリバンのテロリストに対し、信念と決意を持って強い姿勢で挑むことを決めた」とツイッターに投稿していた。
地方都市ではこれまで、市街戦による流血の事態を避けるため、政府軍がタリバンに投降したり、無抵抗で撤退したりするケースも少なくなかった。だが、タリバンがカブールに攻め込めば、政府側も防衛せざるを得ず、市民が巻き込まれる可能性がある。(後略)【8月14日 毎日】
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一連の動きを見ていると、アフガニスタン政権側に本気で首都防衛に取り組む覚悟があるかは疑問にも。
そこで注目されるのがガニ大統領の去就。
****ガニ大統領の去就焦点=攻勢タリバン、辞任を要求―政府停戦模索か・アフガン****
駐留米軍の大部分が撤収したことを受けて大攻勢に出ているアフガニスタンの反政府勢力タリバンは、14日も作戦を継続した。タリバンの部隊は首都カブール近郊まで迫っており、政府側は首都での戦闘と現政治体制の完全崩壊を阻止するため、停戦を模索しているもようだ。タリバンはガニ大統領の辞任を要求しており、ガニ氏の去就が焦点に浮上している。
ガニ氏は14日の国民向け演説で、「さらなる不安定、暴力や避難民を防ぐため、国内外で広範な協議を開始した。まもなく結果を国民と共有できるだろう」と述べ、国民の懸念払拭(ふっしょく)に努めた。ただ、軍や治安部隊の「再動員」にも言及し、抗戦の構えは変えなかった。
米国務省は12日、ブリンケン長官らがガニ氏と電話会談し、在アフガン米大使館の人員縮小などについて説明したと発表した。これに関しアフガン情勢に詳しい在米ジャーナリストは「ブリンケン氏が停戦と(タリバンを含む)暫定政権の樹立に向け、ガニ氏に辞任を打診した」とツイッターに投稿。アフガン大統領府高官は13日、「誤りだ。その議論はしていない」と火消しに追われた。
インターネット上では、この他にも報道関係者によるガニ氏の去就をめぐる情報が飛び交う。タリバンが首都に肉薄する中、防衛のための選択肢として現実的なのは停戦だという認識が浸透しつつあるためだ。
ガニ氏は米主導の和平プロセスの進展に慎重で、テロなどが起きるたびにタリバンを名指しで批判してきた。和平交渉に参加するタリバン幹部は7月の米メディアとのインタビューで、対立をあおることで自らの地位を保とうとしている「戦争商人」だとガニ氏を批判し、辞任しなければ交渉に応じないと述べた。
タリバンは今月12日から13日にかけて人口第2位の南部カンダハル、3位の西部ヘラート、首都から約50キロのプリアラム、14日には東部シャランと、州都を相次いで奪取した。9日間で34州都中19カ所を押さえ、カブールを包囲するように部隊を進めている。【8月14日 時事】
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【再び奪われるのか女性の権利 国際社会の現実的課題は難民受け入れ】
南ベトナム政権同様に、腐敗と汚職にまみれた統治能力のないアフガニスタン政権が消えていくのは止む得ない流れではありますが、旧タリバン政権崩壊以来、少しずつではありますが拡大してきた女性の権利など、国民の自由・人権がタリバン支配復活で再び奪われてしまいかねないのは悲しいことです。
****タリバン、支配地域で女性の権利制限 国連事務総長****
国連のアントニオ・グテレス事務総長は13日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンが、支配地域で女性の権利を著しく制限していると明らかにした。
タリバンは支配地域を拡大しながら首都カブールに迫っており、2001年に米主導の連合軍の攻撃で崩壊したタリバン政権復活への懸念が高まっている。
グテレス氏は記者団に対し、「タリバンが支配地域で、特に女性と記者に対して人権を厳しく制限している初期の兆候が見られることに深く心を痛めている」と述べた。「特にアフガンの少女や成人女性が苦労して獲得した権利が奪われているという報告を目にするのは、恐ろしく、胸が張り裂けるような思いだ」
さらに、「民間人への攻撃を指示することは、重大な国際人道法違反であり、戦争犯罪に当たる」と警告した。
前線では、政府側が個人または部隊、師団単位で投降し、多くの車両や軍用装備品がタリバンの手に渡っており、電撃的な速度での勢力拡大に拍車をかけている。 【8月14日 AFP】
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タリバンの復活・台頭は結局のところアフガニスタン国民の選択だったと言えばそれまでですが、何ともやりきれない思いも。
今後の国際社会の現実的課題は難民受け入れです。
****カナダ、アフガン難民を最大2万人受け入れへ****
カナダ当局は13日、アフガニスタンの旧支配勢力タリバンの脅威にさらされている女性指導者や政府関係者ら、アフガン難民を最大で2万人受け入れると発表した。タリバンは、国内各地で主要都市の制圧を続けている。
カナダのマルコ・メンディチーノ移民相は記者会見で、「アフガニスタンの現状は痛ましく、カナダは傍観し続けることはしない」と述べた。
カナダが受け入れる難民はアフガン国内にとどまっている「特に脆弱(ぜいじゃく)」な市民をはじめ、隣国に逃れた人も対象となる。また女性指導者や政府関係者のほか、人権活動家や迫害されている少数民族、ジャーナリストも含まれる。
メンディチーノ氏によれば、難民認定申請者らを乗せた複数の航空便がすでに出発しており、13日には最初の便がトロントに到着した。【8月14日 AFP】
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カナダはすでに、同国のために働いた現地の通訳や家族ら数千人の受け入れ方針を明らかにしています。
日本政府は例によって、難民には固く門戸を閉ざすのでしょうか。今回はコロナ対策という格好の名目もあることですし・・・。