(タイ・バンコクで、ファンタジー小説「ハリー・ポッター」をテーマにした反政府デモに参加する人(2020年8月3日撮影)【8月4日 AFP】)
【若者ら中心に再開した反政府行動】
民主主義を標榜している国にあっても、民主主義、そのもとでの自由や人権といったものを“厄介なもの”“面倒なもの”と見なしているのでは・・・と思われるような政権もあります。
そうした政権は、緊急時の非常事態宣言などで、そうした“厄介なもの”“面倒なもの”を制限できる権限を得ると、なかなかその権限を手放そうとしない・・・ということも。
7月1日ブログ“タイ コロナウイルスよりも問題は「事実上の軍政継続」政権と国民に不人気な国王”でも取り上げたように、軍事政権を引き継ぐタイ・プラユット政権もそうした政権のひとつのようで、新型コロナ市中感染は70日以上確認されていないと、とっくに沈静化していますが、いまだに非常事態宣言を継続しています。
そうした新型コロナ沈静化を受けて、しばらく休止していた反政府抗議行動が復活しています。
****タイで反政府集会が再燃 民主的な憲法制定求める****
新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着きを見せているタイで、プラユット政権に対する抗議集会が再燃している。総選挙や民主的な憲法制定を求める動きが、大学生や高校生など若者を中心に広がっており、収束の兆しは見えない。
「民主主義は勝つ」。7月31日午後、バンコクにある高校の中庭に200人近くの生徒が集まり、声を合わせた。求めているのは議会の解散や、軍の影響力行使を可能にしている憲法の見直しだ。学校側の方針で集会の直接取材は認められなかったが、参加した学生の一人は電話取材に「この政権に正統性はない。憲法の内容も不公平な選挙制度を含め不当だ」と話した。
その前日には、バンコクのキングモンクット工科大でも数百人が反政府集会を開いた。3年生の男子学生(20)は「できるだけ早く総選挙をすべきだ。若い世代の新たな動きが、タイの政治を変えられると信じている」と話した。
タイでは昨年3月、軍事政権からの民政移管に向けた総選挙が行われたが、軍政トップだったプラユット元陸軍司令官が、親軍政党などに支持されて首相に就任。
反軍政を掲げて第3党になった新未来党が今年2月、軍や保守派の影響下にあるとされる憲法裁判所によって解党されると、学生らを中心にした反政府集会が各地に広がった。
その後、コロナの感染拡大で3月末に非常事態宣言が出され、集会も下火になったが、感染状況が落ち着く中で7月中旬以降になって再燃。政権が非常事態宣言の延長を繰り返していることにも「批判的な動きを封じ込めようとするものだ」と反発の声が上がり、地方でも連日、集会が開かれている。
一方で、30日にはバンコクで学生らに対抗する集会が開かれ、主催者は「一部が間違った情報を流し、王室批判もしている」と非難した。双方の活動が続き、衝突が起きることを懸念する声も出始めている。
政治分析を担当するタイ駐在の外交官は「反政府側の要求は政権にとって受け入れがたいだろうが、対応を間違えば、集会がさらに広がって政治的な緊張が高まる可能性がある」と指摘する。【8月3日 朝日】
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【ハム太郎やハリポタ、不敬罪関連法に反対するプラカードも】
抗議行動には、参加者の親近感を狙ったハム太郎やハリポタも。
****タイの学生による反政府デモ、「ハム太郎」がシンボルに****
タイで最近始まった民主化を求める学生による反政府デモのシンボルに日本のアニメ「とっとこハム太郎」のキャラクターが使われている。若年層の支持獲得が狙いという。
タイでは2週間ほど前から大学生や高校生がほぼ毎日、抗議集会を開催。議会の解散のほか、政府批判への嫌がらせをやめること、政治における軍の影響力維持につながるとされる憲法の改正を求めている。
ここ1週間では「ハム太郎」をテーマにした集会が3回開かれ、参加者がハムスターの回し車のように輪になって走り続ける姿や、同アニメの主題歌を政府批判の替え歌として歌う姿が見られた。
活動家のある学生は「ハム太郎のアニメは毎朝テレビで流れているため、親近感を持ちやすい」と語った。
「ハム太郎」のライセンスを管理する小学館は、ロイターの取材に対し、タイの抗議デモでの同キャラクターの利用に関するコメントを差し控えた。
学生団体によると、ほかにも日本アニメの「NARUTOーナルトー」、「ハリー・ポッター」などのキャラクターを運動のシンボルに採用することも計画している。【8月3日 ロイター】
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****タイでハリポタテーマの反政府デモ、民主主義の「魔法」を****
タイで3日、主に若者数十人が、ファンタジー小説「ハリー・ポッター」に登場するキャラクターの格好を模して政府デモを行い、民主主義の「魔法を掛けよう」と訴えた。
同国では若い世代を中心に、影響力の強いエリート層を批判する運動が拡大している。各地の大学や市庁舎では過去2週間以上ほぼ連日、軍寄りのプラユット・チャンオーチャー政権に抗議するデモが行われている。
非常に繊細な問題とされる不敬罪関連法に反対するプラカードを掲げる参加者も、最近ではみられるようになった。タイの同法は世界でも特に厳格なものとして知られる。
同法が、君主制と巨額の資産を持つマハ・ワチラロンコン国王を批判から守っており、国王について公然と批判的な議論を交わすことは実質的に不可能だ。
しかし若者たちは足並みをそろえてさらに踏み込み、王党派の軍事政権の負の遺産とみなされているプラユット首相に対する不満の声を上げ始めている。
3日の日没後、主催者の1人が「ハリー・ポッター」のあらすじを読み上げると、民主主義の「魔法を掛ける」ために集まった抗議デモの参加者らは、熱心に聞き入った。
グリフィンドールのしま模様のマフラーと黒いマントを身につけた著名法律家、アノン・ナムパー氏は警官数十人が監視する中、登壇するとプラユット首相を激しく非難した。
タイの厳格な不敬罪関連法では、1件につき最大禁錮15年を科すことができる。また、タイを拠点とするすべてのメディアはいかなる批判も報じることを禁止されている。
専門家らは、ワチラロンコン国王と国王に近しい強硬な王党派軍人らによる統治下で、タイが絶対主義に逆戻りする危険があると指摘している。 【8月4日 AFP】AFPBB News
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「ハリポタ」演出で一見マイルドな印象を与えますが、不敬罪関連法に反対するプラカードとなると、これまでのタイの反政府活動にもなかった過激な主張です。
上記記事にもあるように、最大禁錮15年の刑罰を受ける可能性が強くある危険な行為でもあります。
これまでも、定義があいまいな不敬罪は、国家権力によって反政府的なものを封じ込めるために恣意的に運用されてきました。
そういう微妙で危険な行為に駆り立てるほどに若者たちの閉塞感が募っているのと同時に、7月1日ブログでも取り上げたワチラロンコン国王の不人気も影響しているのでしょう。
【新型コロナ沈静化後も非常事態宣言を継続するプラユット政権】
プラユット政権は新型コロナで導入した非常事態宣言を継続することで、こうした反政府行動を封じ込める姿勢のようです。
****タイで政府への抗議活動が拡大 コロナ非常事態宣言を「弾圧に利用」****
民政に復帰して1年が経過したタイで、学生らによる政府への抗議デモが激化している。軍の影響が強いプラユット政権の退陣や軍政下で作られた憲法の改正などを求めるものだ。デモ活動を支持する声もあり、プラユット首相が対応を誤れば国内の混乱につながりかねない事態だ。
抗議デモは7月中旬ごろから、首都バンコク市内の大学などで相次いで起きている。タイでも人気の日本のアニメ「とっとこハム太郎」のテーマソングをもじるなどして批判を展開。政府や政治家を「ヒマワリの種ではなく、税金を食べつくすハムスター」と揶揄(やゆ)している。映画「ハリー・ポッター」に登場するキャラクターに模しての抗議も行われた。
デモの背景にあるのが軍の影響力が残る政権への不満だ。タイは2014年5月のクーデターで軍事政権が成立したが、昨年3月の総選挙を経て民政に移管された。
総選挙での第1党は反軍政のタクシン元首相派の政党だったが、多数派工作を経て7月に誕生したのは、親軍政党を軸としたプラユット連立政権。プラユット氏は元陸軍司令官で軍政でも首相を務めており、軍が政治に影響力を行使する構図は変わらなかった。
今年2月に憲法裁判所が、政権批判の急先鋒(せんぽう)だった野党に解党命令を出すと、抗議活動が起きた。新型コロナウイルス流行で一時下火となったが、感染拡大が収まったことで再燃した形だ。
タイでは新型コロナの市中感染は70日以上確認されていない。しかし、感染状況が安定する中でも、政府は大規模集会を禁じる非常事態宣言を4度延長しており、抗議の参加者は「反対派弾圧のために非常事態宣言を利用している」と反発している。
地元調査機関のアンケート(18歳以上、1250人対象)では、54%がデモ活動実施に賛成するなど一定の支持もある。プラユット氏は今月4日、「抗議は法の下での権利だが、法とルールを尊重しなければならない」と発言してデモの沈静化を呼びかけたが、収束に結びつくかは未知数だ。
また、ロイター通信によると、一部の抗議者はプラユット政権の反対派弾圧に対して、王室が「行動を起こしていない」などと非難している。タイでは王室批判はタブーとされ、不敬罪も存在する。こうした動きに王室を支持するグループが反発する姿勢を示しており、事態は複雑さを増している。【8月5日 産経】
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【「刑務所は貧困層だけのものなのか」】
若者らの反エリート・反政府の意識に強く影響しそうなのが栄養ドリンク「レッドブル」創業者の30代の孫が2012年にフェラーリで起こしたひき逃げ事件の「金持ち優遇」と思える扱いです。
****レッドブル創業者の孫訴追せず 市民反発「金持ち優遇」****
栄養ドリンク「レッドブル」創業者の30代の孫が2012年、バンコクでひき逃げ事件を起こしながら、タイの捜査当局が訴追の取り下げを決めていたことが明らかになった。市民の間に「金持ち優遇の二重基準だ」との反発が広がっている。
ウォラユット・ユーウィッタヤー容疑者は、高級車フェラーリを運転中にバイクに乗っていた警察官をはねて死亡させ、そのまま逃げた疑いが持たれている。その後、再三の出頭要請にも応じず、自家用機で国外に逃亡した。
だが、捜査当局は今年6月に、危険運転致死などによる訴追の取り下げを決めた。地元報道によると、警察官側にも過失があったとの新たな目撃証言が出てきたことなどを理由に挙げているという。関係は明らかではないが、新たな証言者の1人は7月30日、タイ北部で交通事故死した。
7月下旬に訴追取り下げが報じられると、ソーシャルメディアに批判の声があふれ、レッドブル不買の呼びかけも広がった。野党議員からは「刑務所は貧困層だけのものなのか」との批判も出た。
反発の広がりに、プラユット首相は司法などの信頼性にかかわるとして、事件を調査する委員会の設置を決定。議会も関係者を呼んで聴取に乗り出すなど対応に追われている。【8月2日 朝日】
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絵にかいたような露骨な「金持ち優遇」にも思えますが、さすがにプラユット首相も「このままではまずい・・・」と思ったのでしょう、捜査が再開されたようです。
ただ、訴追見送りの決め手となった「目撃者」が交通事故で死亡したというのも・・・「本当かね・・・」って感じがします。おそらくタイの人々も同じような印象を持つでしょう。
****レッドブル創業者孫の捜査再開=「新証拠」を発見―タイ****
(中略)検察はウォラユット氏が時速170キロで運転していたとする専門家の分析結果が新たに明らかになったと説明した。また、検査でウォラユット氏が当時、コカインを使用していた疑惑も浮上。検察は「新証拠により捜査再開は可能」と強調した。
一方、訴追見送りの決め手となったとみられる「時速80キロ以下で走行していたフェラーリの前に警官のバイクが飛び出した」という証言をした男性が7月末、交通事故で急死。事件との関連を疑う見方も出ている。【8月5日 時事】
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