孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン ともにアメリカの圧力を受ける中国と接近 国内的には批判も

2020-08-25 22:56:39 | イラン

(訪中したイランのザリーフ外相を迎える王毅外相(2019.8.26)【7月12日 YAHOO!ニュース】)

 

【経済が低迷する中で不利な条件で協定を結び、中国の影響下に立たされるとの懸念も】

アメリカと中国が対立を深めるなかで、アメリカはイラン敵視政策を続ける・・・となれば、ともにアメリカと対立するイランと中国が接近するというのは誰しも考えるところで、実際にそういた動きがみられます。

 

****中東地政学を変え得るイラン中国同盟はなされるのか****

最近、イランと中国の接近に注目が集まっている。

 

報じられているイランと中国の協定案は、投資と安全保障に関する25年間の包括的戦略パートナーシップを語っている。

 

具体的には、中国はイランの空港、港湾、電気通信、運輸、石油・ガス田、インフラ、銀行に投資し、イランから25年にわたり、1日1000万バレルに達する需要を満たす大量の原油を値引いて受け取るという。

 

報じられているイランと中国の協定は、両国の経済にとって重要であるのみならず、地政学的にも大きなインパクトを持ちうる。

 

中国が今後25年にわたりイランから一日1000万バレルの需要を満たす石油を輸入することは、トランプ政権から最大限の圧力をかけられているイランにとってまさに生命線であり、中国にとっては経済の運営に不可欠な石油を確保することになる。

 

中国によるイランの港湾などインフラへの投資はイラン経済に活を入れることになるであろうし、中国は資機材などの輸出で経済の活性化にプラスとなる。兵器開発や情報共有など軍事面でも関係を強化するという。

 

中東の地政学への影響について、フィナンシャル・タイムズの国際問題編集長デイヴィッド・ガードナーによる8月3日付けの論説は、「サウジアラビア、エジプト、UAEとバーレーンは3年以上カタールを封鎖してきたが、ここにきて米国はサウジなどにカタールの封鎖を止めるよう言っている。それはイランと中国の同盟の見通しが強まったためである。

 

中国が、バーレーンの米国第5艦隊の基地、カタールのアルウデイドの中東最大の米空軍基地のすぐそばのイランのペルシャ湾岸への進出を考えているとしたら、アラブ諸国の対立は有害である」と解説している。

 

ただ、協定はまだ草案の段階である。イランは元来大国との付き合いに慎重であり、どこまで中国との関係に深入りするか分からない。

 

米大統領選挙の民主党候補に確定しているバイデンは、イラン核合意に復帰すると明言しており、バイデンが次期大統領になれば米国の対イラン制裁が再び解除され、イランの西側との経済関係が復活することが予想される。しかし、選挙結果は分からず、イランとしては双方の可能性にヘッジする必要がある。

 

イランの慎重さは2015年のイラン核合意の際にもみられる。核合意締結に際してのイランの第一の選択肢は西側との経済関係の再建であったと思われる。しかし、その一方で、イランは核合意の翌年の2016年に習近平を招聘し、中国との提携を模索している。

 

中国にとってイランとの関係強化は経済面のメリットにとどまらず、南西アジア、さらにはペルシャ湾への進出の足掛かりを得ることになる。

 

中国は一帯一路計画の西進を図っており、イランは重要なパートナーとなりうる。また、中国はイランのChahbahar港を支配下の置くかもしれないと報じられている。

 

Chahbahar港はインドが開発したものだが、米国の圧力で手放したものである。中国は、西アジアに足場を築くことは、この地域及びさらにはペルシャ湾での影響力行使に欠かせないと考えているようである。

 

ただ、イラン国内では、経済が低迷する中では不利な条件で協定を結び、中国の影響下に立たされるとの懸念も聞かれるとのことで、イラン特有の慎重さも見られるとのことである。イランの内閣は協定案を承認したが、まだ国会には提出されていないと報じられている。

 

イランと中国の協定は両国にとってのみならず、中東情勢、中国の外交に大きな影響を与えるものである。中国が乗り気であることは間違いないが、何事にも慎重なイランが最終的にどう対処するか注目される。【8月20日 WEDGE】

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11月の米大統領選挙の結果をみないと、うかつには動けない・・・というのは当然のことでしょう。

 

ただ、話はそういうところにとどまらず、そもそも中国と上記のような条件で連携することについて、イラン国内には強い不満もあるようです。

 

****米大統領選を前に中国と〝急接近〟するイランの真意****

「嘘つきに死を!」

イラン・ザリーフ外相に強烈なヤジが飛び、演説はたびたび中断した。7月5日に開かれた国会での外交方針説明での出来事だ。特に槍玉にあげられたのが中国との関係だった。

 

発端は、6月21日にロウハニ大統領が閣議で承認した、中国との間の25年間に及ぶ包括的な協力に関する計画だった。

 

この計画について国内外のメディアは、イランは中国から4000億ドル(約43兆円)相当の投資を受ける見返りとして、ペルシャ湾に浮かぶキーシュ島を25年間リースする、イラン産原油を割引価格で売却する、中国施設を警備する目的で中国人民解放軍5000人がイランに駐屯することを許可するなどが合意に含まれると報じたのだ。

 

「国民には何も知らされていない!」とアフマディネジャド前大統領が噛みつき、国民の間でも、「25年間も中国に隷属するのか?」、「新たな植民地政策である中国の一帯一路計画にイランが飲み込まれてしまう」といった懸念の声が上がった。

 

このようにイラン国民が反発する心の奥底には、西側へのあこがれとコンプレックス、その一方で自らもアジアに属しながら東方世界を下に見る傾向がある。

 

筆者はこれまでイラン・ペルシャ語専門の外交官として彼らと交流し、分析してきたが、彼らは、地域の大国として世界に認められ、西側諸国と対等に向き合いたいと強く渇望している。

 

一方、この中国との長期計画は、ハメネイ最高指導者と革命防衛隊からの支持を得ているようだ。ハメネイ師は早速国会に対して、政府に対する侮辱や敵対は許されないと釘を刺し、イランは今、国内で一体となる必要があると訴えた。

 

国難の時期にあるイラン

元来「アメリカはもとより欧州諸国は信用できない」というのはハメネイ師の常套句であり、またイランにおいて「LOOK EAST」(東方政策)は目新しいものではない。

 

2005年にEU3(英仏独)との核交渉が暗礁に乗り上げたときには、ラリジャニ国家安全保障最高評議会書記(当時の核交渉責任者)が交渉を有利に進める策として提唱し、中国との関係強化に動いている。

 

そして、イラン核合意(包括的共同作業計画、JCPOA)が行き詰まりを見せた18年10月、ハメネイ師は、西側諸国に留学経験のある知識層に対して「西ではなく、発展を遂げようとしている東を見るべき」と説き、その東方志向を端的に示している。

 

今や「経済マフィア」とも呼ばれる革命防衛隊にとっても、中国との接近によってもたらされる港湾、道路、鉄道などの国内インフラの整備は、自らの利益につながると考えているのだろう。

 

では、なぜ、今、このような長期計画が浮上したのか? 

 

それは、イランを取り巻く国際的な、そして国内の状況が厳しいことに起因する。米国との対立激化、米国によるソレイマニ司令官の暗殺、形骸化するイラン核合意、制裁で疲弊した経済に追い打ちをかける新型コロナウイルス「第二波」の襲来、イスラエルなどの関与が噂される国内での不審な爆発事案の続発など、イランは今、イスラム革命以降、最大の国難の時期にあると言っても過言ではない。【8月25日 WEDGE】

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アフマディネジャド前大統領・・・久しぶりにその名前を目にしました。ご健在のようです。

 

以前は、革命防衛隊はアフマディネジャド氏の権力基盤でもありましたが、「経済マフィア」とも呼ばれる革命防衛隊が賛成している中国接近をアフマディネジャド氏が激しく批判するということは、彼と革命防衛隊の関係は以前とは異なるということなのでしょう。

 

ハメネイ最高指導者と革命防衛隊からの支持を得ている政府方針が国会で激しいヤジにさらされる・・・というのは、ある意味で、宗教権威に基づく特殊な政治形態とイメージされるイラン政治ですが、 “欧米民主主義”に近い側面もあるとも思えます。

 

少なくとも、中国はもちろん、ロシアなどでも見られない光景ではないでしょうか。

 

それにしても、「新たな植民地政策である中国の一帯一路計画」という見方がイランにあるというのは、非常に興味深いことです。

 

【困窮する市民生活 当局は抗議を厳しく取り締まる】

イランがアメリカの制裁、原油価格低迷で、その市民生活が著しく困窮しているのは周知のところで、治安当局は反政府抗議活動を厳しく取り締まっているとも。

 

****悪化する経済危機に抗議するイラン市民を警察が厳しく取り締まる****

イラン警察は7月17日、イラン南部で経済的苦境への抗議で「規範破壊」のスローガンを唱える群衆の抗議活動を強制的に追い払ったと述べた。

 

呼びかけに続いて7月16日午後9時に、少数のベフバハン市民が経済状況への抗議活動で集まった」とモハマド・アジジ・ベフバハーン市警察部長は述べた。

 

当初警察は群衆と話し合おうとしたが、「しかし彼らは立ち去ることをしなかったばかりか、規範破壊とのスローガンを大声で唱え始めた」と部長は述べた。イラン当局が反体制派のスローガンとして使う常套の文句だ。

 

治安部隊は抗議活動を「断固とした態度」で追い払ったと彼は述べ、犠牲者や物的損傷を出すことなく「平穏」を取り戻したと付け加えた。

 

イランの革命防衛隊は、7月16日に無数の「扇動者」を逮捕して「テロ集団」も崩壊させたと述べた。

 

マシュハド市で逮捕された者たちは「反革命集団との繋がり」を持ち、街の抗議活動を呼びかけていたという。

シラーズ市では、「反体制破壊活動」を阻止すべく、政府が狂信的テロ集団と認定して国外追放したムジャヒディンハルク(MEK)のメンバーたちを拘束したと革命防衛隊は発表した。

 

信憑性は確認されていないがSNSには、フゼスタン州の都市の通りに何十名もの市民が集まっているらしい画像や動画が投稿された。(後略)【7月18日 ARAB NEWS】

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【深刻な新型コロナ感染】

新型コロナの感染も深刻で、国民の3割が感染したとも。

 

****イランで国民の3割、2500万人が感染か…抗体検査で推計****

イランのハッサン・ロハニ大統領は18日、新型コロナウイルスの国内感染者数が累計で2500万人に達したとする政府の推計結果を明らかにした。イラン国民約8000万人のうち、3割程度が感染していたことになる。

 

イラン政府の公式発表によると、19日現在で国内で実際に確認された累計の感染者数は27万人超となっている。

 

イラン保健省の報道官は19日、推計はウイルスの感染歴を調べる抗体検査に基づくものだと説明した。米国では6月、感染が深刻だったニューヨーク市の住民の抗体検査で、約2割の人に感染歴があったとする結果が出ているが、イランでは、これを上回っている可能性がある。

 

ロハニ師は18日の政府の会合で、保健省からの報告書に推計が盛り込まれていたと述べ、「さらに3000万〜3500万人が感染する可能性がある」との見方を示した。

 

「我々には、団結して感染の鎖を断ち切るほかに選択肢はない」とも述べ、都市封鎖などを行わずに経済を回していく方針を改めて示した。失業対策を行う財源がないことを念頭に置いているとみられる。

ロイター通信によると、トルコ政府は19日、イランへの航空機の乗り入れを止めたと明らかにした。イランの感染状況を見極める目的があるとみられる。【7月20日 読売】

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ただ、マスク着用やソーシャルディスタンスに関する市民の対応にも問題があるようです。

 

****イラン、7分ごとに1人が新型コロナで死亡=国営テレビ****

イラン国営テレビは、同国では新型コロナウイルスにより7分に1人が死亡していると報じ、適切なソーシャルディスタンス(社会的距離)が取られていないと警告した。

保健省によると、3日に確認された過去24時間の新型コロナによる死者は215人。

国営テレビは保健省のラリ報道官の発言として、これにより累計死者数は1万7405人となったとした。3日の感染者数は2598人、累計は31万2035人となった。

国営テレビは、マスクを付けず、距離を取らずにテヘランの繁華街を行き交う人々の様子を伝えた。

一部専門家は、新型コロナ死者に関する公式発表の正確性を疑問視している。4月には議会の研究所が、死者数が保健省発表の2倍に達している可能性を示唆するリポートを公表。公式統計は病院での死亡例と検査で陽性となった人のみに基づいていると指摘した。

英BBCは、匿名筋によるデータでは、死者数が公式発表の3倍に達している可能性があると報じた。保健当局はこの報道を否定、数字の操作はないとしている。

4月半ばに感染拡大抑制のための規制が緩和されてから死者数が増加しており、保健当局は規制が順守されなければふたたび対策を講じるとしている。

同国では先月から、公共の場と屋内でのマスク着用が義務化されている。【8月4日 ロイター】

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【核合意は米大統領選挙までは維持 トランプ政権は無理筋の圧力】

こうした厳しい状況のもと、イラン政府は核合意に関してはとりあえず米大統領選挙までは様子見の姿勢です。

 

****イラン、米大統領選まで核合意維持の意向=外交筋****

複数のイラン当局者は、イランが2015年に国際社会と合意した核開発活動の制約が継続されるかは、11月の米大統領選挙の結果次第だとの認識を示した。

米国は先週、安保理がイランに対する武器禁輸措置の延長を定めた決議案を否決したことを受け、対イラン制裁を復活させる「スナップバック」を使うと表明。

またポンペオ米国務長官が20日にニューヨークを訪問し、イランに対する国連制裁の全面復活を求める見通しとなっている。

ただ、3人のイラン当局者はロイターに対し、イラン政府は11月3日の米大統領選でバイデン前副大統領(民主党)が勝利すると見込み、核合意を存続させる方針を決定していると述べた。(中略)。

バイデン氏は、イランの合意順守を条件に、米国が2018年に離脱した核合意に復帰する意向を示している。この合意は自身が副大統領を務めたオバマ政権下で行われた。(後略)【8月19日 ロイター】

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一方のアメリカ・トランプ政権は再選戦略の一環で、対イラン圧力を強めていますが、国際的には強引な“無理筋”とも見られています。

 

****イラン制裁復活手続き開始 米孤立「権限なく無効」****

ポンペオ米国務長官は20日、対イラン国連制裁の全面復活(スナップバック)を求める書面を国連安全保障理事会に提出し、手続きを開始したと表明した。ニューヨークの国連本部で記者団に語った。

 

イラン核合意を承認した安保理決議に基づく手続きだが、核合意を離脱した米国には手続き開始の権限がなく無効だとする見方が有力だ。

 

米国は孤立しており、制裁復活を主張しても各国が従わない事態も想定される。【8月21日 共同】

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****EU、米の権利否定=対イラン国連制裁復活で****

欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表(外相)は20日、米国が対イラン国連制裁復活の手続きに着手したことを受けて声明を出し、「米国は一方的にイラン核合意を離脱しており、当事国だとは考えられない」と指摘し、米国に制裁を復活させる権利はないとの立場を示した。【8月21日 時事】

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権利があろうがなかろうが、力でアメリカの方針を国際社会に押し付けようというのがトラン政権の方針ですが・・・・困ったものです。

 

イスラエルとの国交正常化に舵を切った対岸のUAEとは緊張が高まっています。

 

****UAE船が漁船に発砲 「漁師2人死亡」とイラン放送****

国営イラン放送は20日、ペルシャ湾で17日に、アラブ首長国連邦(UAE)の沿岸警備当局の船が複数のイラン漁船に発砲し、漁師2人が死亡したと報じた。UAEとイスラエルの国交正常化合意を受け、イランとUAEの関係は冷却化している。

 

イラン外務省は、在イランUAE大使館幹部を呼んで抗議した。

イラン放送などによると、これとは別にイラン領海で17日、違法な航行をしたとしてイラン当局がUAE船を拿捕し、乗組員を拘束した事件も起きたという。【8月20日 共同】

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