孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

レバノン これまでも機能不全の政府 首都ベイルートの大爆発で懸念される復興・新型コロナ・食糧

2020-08-07 21:43:55 | 中東情勢

(ベイルート爆発現場を視察するフランス・マクロン大統領(中央)を取り囲む住民【8月6日 AFP】)

(住民と抱き合うマクロン大統領【同上】)

 

【復興・新型コロナ・食糧問題・・・機能不全の政府が担えるか不透明】

中東レバノンで港に保管されていた大量の硝酸アンモニウムが大爆発し、死者は137人超、負傷者は約5000人という大惨事となったことは報道のとおり。

 

命には別条はなかった住民も多くが住む家を失い、今後の食糧不足も懸念されています。

医療施設も被害を受け、拡大する新型コロナ対応も懸念されます。

 

****レバノン爆発、30万人が家失う 首都の半分で被害****

中東レバノンの首都ベイルートで起きた爆発によるすさまじい爪痕が明らかになってきた。被害は人口240万の大都市の半分に及び、港は壊滅。6日時点で死者は137人、負傷者は5千人を超えた。(中略)

 

市内では、数キロ先の建物でも窓が割れ、いたる所で市民ががれきの片付けに追われている。住めなくなった住宅もあちこちにある。ベイルート当局は「被害は首都の半分以上に及ぶ。30万人が家を失った」と発表した。

 

街の中心部にある複数の医療機関も被害を受けた。AP通信などによると、爆発現場から南東へ1キロ余りにあるセントジョージ病院では、爆風で天井が落ち、窓が粉々になり、職員や患者ら計16人が死亡。首都の基幹病院として多くの新型コロナウイルス感染の患者を受け入れてきたが、病院自体が業務停止に追い込まれた。

 

現場から西へ3キロの病院でも一部の病室の天井が崩れ、医師らが犠牲になった。機能している病院も救急対応でパンク状態で、ハッサン公衆衛生相は6日、地元メディアに「医療資源が足りず、コロナ感染拡大が現実になりつつある」と危機感を示した。

 

硝酸アンモニウムが爆発か、保管責任を押し付け合い

レバノン政府は、ベイルート港に6年前から保管されていた2750トンの硝酸アンモニウムが爆発したとの見方を示している。

 

船舶のトラブルを扱う団体の資料などによると、問題の硝酸アンモニウムは、黒海沿岸のジョージアからアフリカのモザンビークに向かうモルドバ船籍の船舶の積み荷だったとみられている。

 

船は2013年に技術的なトラブルを起こして、ベイルート港に入り、検査の結果、出航を禁じられた。その後、所有者が船を放棄したため、港湾当局が安全のために硝酸アンモニウムを港の倉庫に移し替えたという。

 

爆発原因の調査に携わる政府当局者はロイター通信に「危険物の撤去を命じる部署や司法の怠慢があった」と語った。政府は5日にベイルートを対象にした2週間の緊急事態宣言を出し、硝酸アンモニウムの管理に関わった複数の港湾当局者の自宅軟禁を命じた。

 

一方で、港と税関の責任者らは地元メディアに、硝酸アンモニウムの危険性を把握していたが、倉庫での保管は裁判所の命令だったと説明。「裁判所には何度も撤去を要請したが、何の措置も取られなかった」と訴え、責任の押しつけ合いとなっている。

 

4日時点で米軍高官の見方として、「爆弾による攻撃の可能性」を示唆していたトランプ米大統領は、5日の記者会見では「事故とも、爆発物とも聞いた」とし、発言を修正した。

 

経済危機に追い打ち、食料不足加速か

今回の爆発は、深刻な経済危機にあえいでいた人々の生活に追い打ちをかけると懸念される。ロイター通信によると、ベイルートの県知事は5日、「被害総額は100億~150億ドルにのぼる。小麦も足りず、国際支援がなければ危機に陥る」と語った。

 

レバノン経済は昨年から、悪化の一途をたどってきた。若者を中心に失業率が高まり、世界銀行によれば国民の45%が貧困層だ。政府の推計では、2011年以降に戦闘が続くシリアから150万人が逃れてくるなど難民も多い。加えて新型コロナウイルスの影響も、貧困層の収入を奪うなど状況を悪化させている。

 

物価の上昇も深刻だ。国連世界食糧計画(WFP)によると、昨年10月からの半年間で食料の価格は56%も上昇した。専門家からは「今後数カ月のうちに、飢餓による死者が出る事態もありうる」との指摘も出ていた。

 

爆発があったベイルート港は、国内の輸入の6割を担う玄関口。レバノンは食料の8割を輸入に頼っており、食料不足が加速する恐れがある。爆発ではベイルート港にあった穀物貯蔵庫も破壊された。ロイター通信によれば、ネーメ経済相は穀物の備蓄は「1カ月分に満たない」と話したという。

 

復興に向け、政府がどれだけ機能を果たせるかも不透明だ。AFP通信によれば、街中での復旧作業を主に担うのはボランティアで、政府の動きは鈍い。各国から支援の申し出が相次いでいるが、政府への国民の不信感は強く「腐敗した政府を通さない援助を」と求める声もあるという。

 

レバノンは3月に初の債務不履行(デフォルト)に陥るなど財政危機が深刻。エリート層が支配する政治体制に対しては、昨年から大規模なデモが起きており、国民の信頼を失っている。(エルサレム=高野遼)

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【フランス・マクロン大統領にすがる住民】

この大惨事に国際社会も支援を表明していますが、いち早く現地に入ったのがフランスのマクロン大統領。

その様子が冒頭写真ですが、いくつかのことを感じます。

 

まず第一に、いくらフランスがレバノンの旧宗主国という立場にあるにせよ、その指導者が現場に単独で入るという異例さ。レバノン政府の責任者はこれまでも、ほとんど姿を見せていないとも。

 

昨年10月、スマートフォンのアプリを使った無料通話への課税を政府が提案したことが引き金となり若者たちの政治エリートへの不満が爆発、激しい反政府デモが起き、コロナ拡大で一時中断したものの、最近ではデモが再燃する状況。

 

また、3月には債務不履行(デフォルト)に陥るというように、今回大惨事以前の問題として、レバノン政府は機能不全に陥ています。

(7月8日ブログ“レバノン デフォルト、コロナ禍で深刻化する経済危機 路上に“捨てられる”外国人労働者も”)

 

その政治の機能不全は、レバノン内戦の反省から生まれた各宗派のバランスをとるという政治体制がもたらした硬直性・非効率・腐敗によるものです。

 

冒頭写真で印象的な2点目は、マクロン大統領を取り巻くレバノン国民が、マクロン大領の周囲に押し寄せ、窮状を訴え、助けを求めてすがる様子。

 

1点目のレバノン政府の機能不全から、住民は自国政府ではなくフランスに助けを求めるしかない・・・との雰囲気も。

 

****レバノンで反政府デモ、治安部隊と衝突 爆発で不満高まる****

大規模爆発で多数の死傷者が出たレバノンの首都ベイルートで6日、反政府のデモがあり、参加者らと治安部隊が衝突した。

 

デモは国会近くで行われていた。治安部隊は参加者らに向け催涙ガスを使用した。(中略)多くのレバノン市民は、政府の腐敗や怠慢、管理のまずさが爆発を引き起こしたと訴えている。

 

レバノン政府は2週間の非常事態を宣言している。

 

マクロン仏大統領が視察

フランスのエマニュエル・マクロン大統領はこの日、ベイルートを訪問。レバノン指導層に「大きな変化」が必要だと述べた。外国首脳が被災したレバノンを訪れるのは初めて。フランスはかつてレバノンを委任統治していた。

 

マクロン氏は、被災状況を「現在のレバノンの危機の象徴」と表現。支援を表明したが、まずレバノン指導層が改革を実行する必要があるとし、「新たな政治秩序」が求められていると述べた。

また、「隠ぺいや疑惑を防ぐため」として、爆発に関して国際的な調査を求めた。

 

ミシェル・アウン大統領はこれまでに、2750トンの硝酸アンモニウムが倉庫内に危険な状態で保管されていたことが爆発の原因だと述べている。

 

国営報道機関は、捜査の一環として、当局が16人を拘束したと伝えた。

軍事裁判所の政府代表を務めるファディ・アキキ判事は、港湾関税当局者や倉庫の保守担当従業員など18人以上に、事情を聴いていると述べた。

 

マクロン大統領の発言

マクロン氏はベイルートで、近日中にレバノン支援の会議が召集されるとの見通しを表明。フランス政府は、支援が現場の救援組織に直接届くようにすると述べた。

 

また、「中央銀行に監査がないままなら、数カ月のうちに輸入がなくなり、燃料や食料品の不足が生じるだろう」として、監査の必要性を強調した。

 

ベイルート市内の状況を徒歩で視察した際には、マクロン氏は多くの市民に囲まれた。

市民らは、「助けてください。あなただけが望みだ」、「腐敗した政府にはお金を送らないでください」、「もう限界だ」などとマクロン氏に訴えた。

 

フランスはすでに、航空機3機でレバノンに支援物資を送っており、4機目がまもなく到着する。来週にはフランスの調査団と追加支援物資が、軍の輸送用ヘリコプターでレバノンに運ばれる予定。

 

フランスの救助隊はベイルートで活動しており、爆発から2日たった今も、生存者が見つかる可能性は十分あるとしている。(後略)【8月7日 BBC】

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【状況悪化が懸念される新型コロナ感染】

冒頭写真で感じる3点目は、「マクロン大統領、コロナは大丈夫だろうか?」という点。

大統領に窮状を訴える人々はマスクなしの大声で叫び、大統領は住民と抱擁し・・・コロナの観点からすれば、感染しない方がおかしいような状況。

 

まあ、マクロン大統領も、「仮に感染しても死ぬことはないだろうし、政治的にはフランスの支援を世界的にアピールできて、国内求心力を高めるためにもプラス・・・」と判断しているのかも。

(あれほどの「密」の状況になったこと自体は、大統領も事前には想定していなかったでしょうが)

 

そのコロナに関しては、過去最多の感染者を記録し、状況悪化が懸念されています。

 

****レバノン、医療・衛生悪化の懸念=大爆発後、コロナ感染者最多に****

レバノンで新型コロナウイルスの新規感染者が6日に255人確認され、1日当たりの数としては過去最多を記録した。

 

4日に発生した首都ベイルートでの大規模爆発と感染拡大との因果関係は不明だが、爆発で推計約30万人が家を失い避難生活を余儀なくされている。被災した市民は生活再建が最優先で、コロナ感染防止にまで手が回らず、医療や衛生面での状況悪化も懸念されている。

 

レバノンでは、感染拡大が深刻化し始めた3月中旬から、予防措置の徹底や違反者への罰則を定めた「総動員」が発令され、これまで繰り返し延長されている。いったんは落ち着いた新規感染者数は7月下旬以降再び増加傾向に転じ、累計感染者は約4600人、死者は約70人となっている。

 

AFP通信は、市民の多くが爆発被害によりマスク着用を怠り、他者との距離が近いまま同じ車両に乗って病院に駆け込んでいると伝えた。

 

さらに、爆風や衝撃で主要な病院の大半が被災。コロナ禍に加えて負傷者治療も追い付かず、医療は逼迫(ひっぱく)している。医療従事者に必須の防護服なども、多くは爆発で使い物にならなくなったとみられる。【8月7日 時事】 

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頭から血をながしている者、住む家を失い呆然とする者・・・コロナどころではない状況です。

 

【穀物サイロが破壊されて懸念される食糧不足】

コロナ以上に住民の生活を追い詰めそうなのが、食糧問題。

住民はこれまでも生活に困窮していましたが、爆発で小麦粉の備蓄設備が失われてしまいました。

 

現場写真で大きな壊れた壁のような建築物が目につきますが、あれが破壊された穀物サイロです。

 

****ベイルート爆発で穀物用サイロ崩壊 パン不足の懸念****

レバノンの首都ベイルートで、大爆発により破壊された穀物サイロ(2020年8月5日撮影)。(c)STR / AFP

 

レバノンの首都ベイルートで4日に起きた大爆発は、穀物用のサイロを吹き飛ばし、貴重な小麦はすすやがれき、セメント混じりになった。国内最大のサイロを失い、市民はパン不足を恐れパニックになっている。

 

大爆発で港も破壊されており、レバノンは食料の85%を輸入に頼っていることから、食料不足はさらに悪化するとの懸念も広がっている。

 

小麦を原料とする主食の薄いパンは現在政府の補助があり、900グラムあたり2000レバノン・ポンド(約140円)で販売されている。

 

小麦、トウモロコシ、大麦が約1万5000トン貯蔵されていたサイロの他に、近くの製粉所も破壊された。また、爆発時に少なくとも1隻の船から小麦の積み下ろしが行われていたが、この小麦も使い物にならなくなってしまった。

 

国内のパン製造業者と消費者は、貯蔵量12万トンのサイロがなくなったため、小麦不足が何か月も続き、パンを作るのが難しくなり、最終的にはパンが値上がりすると懸念している。レバノンは爆発前から深刻な経済危機に陥っており、市民の購買力は既に落ち込んでいる。

 

大爆発の翌日、ベイルートのハムラ商業地区にあるパン屋には、大勢の客が押し寄せた。店の従業員はAFPに対し「貧しい人が腹を満たすにはパンしかない。座ってナイフとフォークでステーキを食べているわけじゃないんだ」と述べた。

 

当局は懸念を払しょくするため、国内には1か月分の小麦の貯蓄があり、今週中に北部トリポリと南部サイダサイダ(シドン、Sidon)の港に、新たな小麦が到着する予定だと説明した。

 

だが、2014年から17年にかけてベイルートで穀物貯蔵施設を経営していた農業起業家の男性は、これらの港には貯蔵施設が足りないと指摘する。製粉所の経営者らは、小麦をトリポリから80キロ離れたベイルートまで移送するには、1トン当たり6ドル(約630円)余分なコストが発生すると計算している。

 

レバニーズ・フードバンクといった団体はここ数か月、困窮した家庭に食料を届ける活動を行ってきた。大爆発で現在大打撃を受けている製粉所やパン屋も、LFBに寄付をしていた。あるパン屋は大爆発の前には1日500袋のパンを寄付していたが、小麦不足から寄付をこれ以上増やすことはできないとLFB伝えてきたという。 【8月7日 AFP】

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【支援を表明する関係国 ただ、それぞれの思惑も】

新型コロナに食糧問題・・・これまでも立ち往生の様子だったレバノン政治はさらに混迷の度を深めそうです。

各国は支援を表明していますが、これもそれぞれの思惑があってのことですから、国内の対立が激化するかも。

 

****レバノン政情不安に拍車も 大規模爆発 周辺国、支援で影響力増大狙う****

4日に大規模爆発が起きたレバノンでは、経済低迷などで昨秋から反政府デモが相次いでおり、爆発をめぐる政府の対応次第では政情不安が強まりかねない。中東諸国の利害が絡み合う地政学的に重要な国でもあり、周辺国には支援を通じて影響力を増大させようとの思惑もうかがえる。(中略)

 

レバノンのアウン大統領によると、爆発現場とみられる倉庫にあった硝酸アンモニウム2750トンは過去6年間、保安措置を取らずに保管されていた。当局はテロの可能性を排除していないが、ずさんな管理が一因であれば、政権に批判が向かう可能性がある。

 

レバノンは3月、債務不履行(デフォルト)を宣言し、7月下旬には新型コロナウイルスの感染拡大でバーや映画館などの営業規制に乗り出した。英BBC放送によると、政府は爆発を受け、6600万ドル(約70億円)の緊急支援を行う方針だが、国民の痛みを和らげられるかは不明だ。倉庫が爆発で破壊され、レバノンの穀物備蓄は1カ月分を切ったとの情報もある。

 

一方、爆発を受け、イスラエルやイラン、サウジアラビアなど中東の周辺国はそろってレバノン政府に支援を申し出た。

 

イスラエルはレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラと敵対し、7月下旬にも、ヒズボラが潜伏しているとしてレバノンとの国境地域に迫撃弾を撃ち込んだばかりだ。

 

苦境のレバノンへの支援申し出には、ヒズボラが影響力を持つレバノン政界を揺さぶろうとの狙いがあるとみられる。

 

イランはヒズボラの後ろ盾で、イスラエルとは宿敵の関係にあり、レバノンへの支援にはヒズボラへのテコ入れの意味がある。スンニ派のサウジなども、レバノン国内でそれぞれ後押しする政治勢力を支援する思惑があるとみられる。【8月6日 産経】

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****EU、レバノン支援に41億円=国家再建も手助け****

欧州連合(EU)欧州委員会は6日、首都ベイルートでの大規模爆発で甚大な被害が出ているレバノンを支援するため、3300万ユーロ(約41億円)以上を投入すると表明した。医療や重要インフラの保護などの緊急対応に当てる。

 

フォンデアライエン欧州委員長が同日、レバノンのディアブ首相との電話会談で、こうした内容を伝えた。さらにレバノンの国家再建を手助けするためのEUのより長期的な支援についても協議。同国が抱える多くの課題解決に向け、「この悲劇を全政治勢力が結束する機会にすべきだ」と訴えた。【8月7日 時事】

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