孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ マスク狂騒曲 「米国人としての責任だ」VS「米国人には自由が必要だ」

2020-08-14 18:45:28 | アメリカ

(12日、米デラウェア州でともに黒いマスクを着用して登場したバイデン前米副大統領(左)とハリス上院議員【8月14日 朝日】)

 

【実際のコロナ死者20万人超? それでもマスクを拒否する人々】

全世界の新型コロナ感染者2060万人の中で最多はアメリカの526万人ですが、そのアメリカは直近の1日の新規感染者数で約5万人、死者累計で16.7万人、1日あたりで千人を超えています。

 

アメリカに限らず、混乱がひどい多くの国でみられる現象ですが、「超過死亡」で推測すると実際の死者数は公式の統計数字よりさらに多いのではとの指摘もあります。

 

****米、実際のコロナ死者20万人超か=集計より6万人多く―報道****

米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は13日、疾病対策センター(CDC)のデータに基づく分析として、新型コロナウイルスに関連する3月以降の米国の死者数が少なくとも20万人を超えている可能性があると推計した。新型コロナ感染に直接起因する死者数より約6万人多いという。(後略)【8月14日 時事】 

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どっちにしても、日本だったらどれほどのパニックになるのか・・・という状況ですが、大騒ぎしつつも平常の生活が続くアメリカと日本のメンタリティの違いは非常に興味深いところです。(おそらく、このあたりの分析が本来は一番面白いところでしょう)

 

アメリカにとってやや救いとなるのは、新規感染者数が7月後半には多いときは7万人を超えるレベルだったのが、最近は5万人前後にまで「減少」してきていることでしょう。

ある程度減少したら、おそらくトランプ大統領は「自分の政策の成果だ!」と誇るのでしょうが・・・。

 

感染拡大防止に効果的とされるのがマスクの着用ですが、アメリカではトランプ大統領はじめとして、マスク着用を忌避する風潮があるのは周知のところです。

 

マスクの効果に関しては、ウイルスを吸い込まないという意味での直接の予防効果は、(両脇から空気が漏れるような)一般的なマスクにはほとんど期待できないと思いますが、感染者を含めて全員がマスクをすることで、飛沫の拡散が抑制され、結果的に感染者以外の感染予防に効果ある・・・と、個人的には理解しています。

 

ですから、誰もいないところでのマスク着用など、日本の過剰な「マスク信仰」みたいなものには、ややついていけないような感じもありますが、何よりいわゆる「同調圧力」みたいな社会の雰囲気に息苦しさを感じます。

 

一方で、アメリカのマスク嫌いも・・・何考えてるんだか・・・という感じ。

マスク着用を拒否することが、生活スタイルの象徴にもなっているようです。

 

****遊園地でマスク着用促した17歳従業員、男女に顔面殴られ大けが 米****

米ペンシルベニア州の遊園地で、入場者にマスク着用を促した17歳の従業員が顔面を殴られて負傷する事件があった。

 

ミドルタウン・タウンシップ警察によると、フィラデルフィア郊外にある子ども用テーマパークのセサミ・プレイスで9日、17歳の従業員が、女1人と男1人から顔面を激しく殴られる暴行を受けた。

 

CNN系列局のWPVIによると、この2人に対して従業員が最初にマスク着用を促した時点では抵抗はされなかったが、2度目に促した際に暴行された。

 

同パークは7月下旬、公共の場でのマスク着用を義務付けたうえで、営業を再開した。ウェブサイトでも、マスク着用規定に従わない場合はパークへの入場や滞在を禁止すると通告していた。(後略)【8月13日 CNN】

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マスク未着用のバイク愛好家の数十万人規模のイベントも。

 

****コロナの懸念よそに世界最大級のバイクイベント、米スタージス****

米国の新型コロナウイルスの感染者数が500万人を超えた中、米サウスダコタ州の小さな町スタージスで先週末から世界最大規模といわれるバイク愛好家のイベントが行われている。

 

10日間の日程で行われるこのイベントには毎年数十万人のバイク愛好家が訪れ、酒を飲み交わしたりパーティーに参加したりと交流の場になっている。しかし今年は、地元住民の間で新型コロナウイルスの感染が拡散する懸念が広がっている。

 

サウスダコタ州政府の保健当局によれば、今のところ開催地スタージスが位置するミード郡では新型コロナウイルス感染症による死者は1人しか出ていない。しかしイベントにはこの病気のパンデミック(世界的な大流行)に苦しむ遠くの他州からの訪問客もいる。

 

サウスダコタ州は、これまでロックダウン(都市封鎖)やマスク着用の指示が出されなかった米国で数少ない州の一つ。スタージスのイベントでは参加者へのマスク着用が推奨されているが、義務ではないため、マスクを着けている人はほぼいない。

 

町の主要道路はバイクで埋め尽くされ、バーはイベント参加者で混雑している。ソーシャル・ディスタンシング(対人距離の確保)が実行されているところはほとんど見当たらない。80回目となる今年のイベントに訪れた人はすでに、スタージスの居住者人口(約6000人)を大きく上回っている。

 

スタージスにとってこのイベントの経済効果は非常に大きく、9日は業者らがこの機会を最大限に生かそうとしていた。

 

地元住民の一部から懸念が上がる一方で、ドナルド・トランプ大統領の熱烈な支持者であるクリスティ・ノーム知事(共和党)は、「偉大なわが州が提供するものを訪問客が見てくれるのを私たちは楽しみにしている」とツイッターに投稿し、訪問者を暖かく迎えた。 【8月10日 AFP】

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【アメリカ社会分断を鮮明に示すマスク着用義務化是非】

アメリカが、トランプ支持と反トランプに代表されるように、社会における「分断」が顕著になって、対立が先鋭化しているのは周知のところですが、マスク着用への対応、特に「義務化」についても、この「分断」のひとつの側面となっています。

 

****(2020米大統領選 分極社会)マスク義務化、対立の火種****

 7月初め、米南部ノースカロライナ州シャーロット中心部の街頭で、自動車セールスマンのマルコ・アマヤさん(25)と妻のジャネスさん(24)が拡声機を使って叫んでいた。

「我々は、政府の奴隷ではない。違法なマスク着用義務で息ができない」

 

同州のクーパー知事(民主党)は新型コロナウイルスの感染再拡大に伴って6月末、飲食店や公共交通機関でのマスク着用を義務化する知事令を出した。2人は、白人警官に首を押さえられて亡くなった黒人男性の最後の言葉「息ができない」にひっかけながら、マスク着用義務への反対運動を続けている。

 

「奴隷だなんて、何を言っている。(知事ではなく)トランプ(大統領)を追及しろ」

星条旗柄のマスクを着けた、通りかかった男性がマルコさんに怒鳴った。

 

マルコさんは「我々は政府の持ち物ではない。我々には(武器所持の権利を認めた)憲法修正2条がある」と反撃する。マルコさんの腰には拳銃がぶら下げられている。

 

抗議活動は州都ローリーでも続く。外出制限に反対し、経済再開を求めて作られた団体「リオープンNC」のメンバーは8万人超。7月、マスク着用義務化への反対や知事の弾劾(だんがい)を求める請願を議会に提出した。

 

創設者の1人アシュリー・スミスさん(33)は「ウイルスより暴政のパンデミックこそ、我々の生活を脅かすものだ」と訴える。コロナ危機自体に懐疑的だ。「死者数が水増しされているという多くの証拠がある。検査も不正確。偽情報ばかりだ」

 

同州では知事と副知事が別々に選ばれ、フォレスト副知事(共和党)はマスク着用の義務化に反発。11月の大統領選と同時に行われる知事選にも立候補しており、コロナ対策の是非が争点となる。

     ◇

新型コロナの感染者が約500万人確認された米国では、ウイルスをめぐる認識や対策も政治的な争点となっている。背景には、科学と政治をめぐる長年の対立構図も指摘されている。【8月10日 朝日】

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【「懐疑派にとって、科学を疑うことは信条に近い」】

マスク着用義務化への反発は、アメリカ特有の「銃所持」にもみられる極端なまでの「自由」の主張の側面と同時に、温暖化議論でもみられたような一般的な「科学的見解」への反発という側面もうかがえます。

 

****(2020米大統領選 分極社会)不都合な科学、拒絶の動き 対コロナの最前線、脅迫メール****

(中略)収束の兆しも見えないなか、保健当局への脅迫と抗議運動は各地で続く。職員が自宅で集団から抗議を受ける様子もSNSに投稿されている。

 

全米郡市保健当局協会(NACCHO)によると、6月上旬の時点で、地方の保健当局トップが辞職に追い込まれるなどした例が少なくとも27件ある。ロリ・フリーマン最高経営責任者(CEO)は「科学でさえ、政治化してしまった」と頭を抱える。

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科学が政治的な対立点となって社会の分断を招くことは、米国でこれまでもあった。共和・民主の二大政党の対立が進むことも影響している。

 

典型は、地球温暖化をめぐる議論だ。民主党は対策に積極的だが、共和党では懐疑的な意見が幅をきかせ、「人の活動が温暖化につながっている」かどうかも政治的な対立点だ。4年前の大統領選では、トランプ大統領が国際的な温暖化対策パリ協定からの離脱を公約として掲げ、17年に離脱を表明した。

 

環境学者で、科学に対する懐疑主義の研究をするダナ・ヌッチテリさんによると、科学への懐疑論は次のような5段階を経て進行する。

 

まずは、「地球温暖化はない」などと、否定から始まる。次に「中国の方が温室効果ガスの排出が多い」などの責任転嫁が始まる。

 

しかし、これでは問題が解決せず、「気候はいつか戻る」という矮小(わいしょう)化につながる。危機が認識されても「温暖化対策には巨額の増税が必要だ」などと、代償が大きすぎるという批判が起き、最終的には「すでに対策は手遅れだ」という悲観論に行き着く。

 

「否定」→「責任転嫁」→「矮小化」→「対策の代償の批判」→「手遅れの悲観論」という進行は、新型コロナをめぐっても起きているが、地球温暖化などと比べるとスピードがはるかに速い。「以前は何年もかけて広がった懐疑論が、数カ月で起きている」とヌッチテリさんは話す。

 

地球温暖化やオゾン層の破壊、たばこの健康被害など、従来の科学論争では、関連する産業界が資金力を活用して影響力を与えてきた。新型コロナでは、産業界の動きは目立たないが、保守系の政治家や団体が引き続き懐疑論を主導している。

 

ヌッチテリさんは「米国では全てが政治化している。右と左の対立の中で、市民はどちらかを選ばざるをえない」と指摘し、過去の対立の延長線上に新型コロナがある、とみる。

 

トランプ氏も、新型コロナについて当初は楽観論を語り、感染が深刻になってからもマスクをめったに着けていない。

 

その一方、効果が未知数の治療薬を何度も取り上げ、徹底した対策を求める政権の対策チームの専門家については「たくさんの間違いを犯した」と批判を展開している。

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科学や専門家を疑う動きは保守系メディアなどにも広がる。FOXニュースのコメンテーターは「選挙で選ばれていない専門家にこの国の未来を任せていいのか」と主張。下院保守強硬派の議員は、接触者追跡について「全米国人を監視する口実にすることが目的だ」と反対する。

 

科学者にも、「事実が伝わらない」という危機感が募る。ヘルスコミュニケーションが専門のビシュ・ビスワナス・ハーバード大教授は「懐疑派にとって、科学を疑うことは信条に近い。特に科学が日々進展する中では、政治的イデオロギーのフィルターを通してとらえられる」と話す。

 

だが、科学的データに基づいて対策が取られるかは、人命に直結する。「党派対立でお互いを責め立てても、機能しない。科学者は事実を積み上げ続けるしかないが、政治の指導力も求められる」とビスワナス氏は語る。【同上】

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【「米国人としての責任だ」と訴えるバイデン氏に対し、「米国人には自由が必要だ」と応戦するトランプ大統領】

こうした「懐疑派にとって、科学を疑うことは信条に近い。政治的イデオロギーのフィルターを通してとらえられる」という状況にあって、大統領選挙におけるトランプ・バイデン両候補のスタンスの違いから、マスク着用の是非が政治的踏み絵に近いものにもなりそうな雰囲気です。

 

****米大統領選、バイデン氏が全州知事にマスク着用義務化呼びかけ****

11月の米大統領選で野党民主党の大統領候補指名が確定したバイデン前副大統領は13日、全州の知事に対し、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するためマスク着用を義務化するよう呼びかけた。米国では、新型コロナで16万5000人以上が死亡、感染者は520万人以上に達している。(中略)

同氏は、「今後3カ月間、屋外ではすべての米国人がマスクを着用すべきであり、全州知事がマスク着用を義務付けるべきだ」と述べ、先にマスク着用の呼びかけが遅れたことで無用な死者を出したと指摘した。

トランプ大統領が長期間にわたり公共の場でのマスク着用を拒否したことから、マスクは政治的な象徴となり、共和党選出の当局者や一部のトランプ氏支持派が着用を拒否するなど、全米で火種となっている。

公衆衛生当局者らは、公共の場でのマスク着用は感染拡大の抑制につながるとの見解で一致している。【8月14日 ロイター】

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外出時のマスク着用を義務付けるよう呼び掛け、「米国人としての責任だ」と訴えるバイデン氏に対し、「米国人には自由が必要だ」と応戦するトランプ大統領。

 

****大統領選、マスク義務化で論戦 積極的なバイデン氏に「非科学的」とトランプ氏****

11月の米大統領選で野党・民主党の候補指名を固めているジョー・バイデン前副大統領(77)は13日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため「すべての米国民が今後少なくとも3カ月間、屋外ではマスクを着用すべきだ」と述べ、全国の州知事に着用義務化の実現を呼びかけた。

 

再選を目指す共和党のドナルド・トランプ大統領(74)は「バイデン氏の考え方は後ろ向きで非科学的。我が政権は違うアプローチを取る」と批判した。

 

バイデン氏は地元、東部デラウェア州で演説し、専門家の試算に基づいて、3カ月間のマスク着用を義務づければ「4万人の命が救われる」と説明。「着用することで同胞を守ってもらいたい。正しいことをしよう」と述べた。

 

これに対しトランプ氏はホワイトハウスでの記者会見で「着用は愛国的な行為だ」と述べる一方、「州によって置かれた状況や環境が違う」と述べ、一律義務化には反対の意向を表明した。

 

そのうえで「大統領が国民一人一人に顔を覆うように命令する力を持つのなら、他にどんな権力を行使するのか」とバイデン氏を批判した。

 

現在、米国では35州や自治体レベルで「公共の場」や「ソーシャルディスタンスが確保できない空間」でのマスク着用が義務づけられている。

 

バイデン氏は今春に国内での感染が拡大した直後から、国民にマスク着用を呼びかけている。トランプ氏は「着用による悪影響もある」などと主張。7月に方針転換するまで、専門家からの着用奨励の要請を拒否してきた。

 

米国内の感染者数は13日現在、約525万人で、死者は16万7000人に達している。【8月14日 毎日】

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トランプ大統領の考える科学的なもの・・・オルタナティブ・ファクトでしょう。

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