孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベラルーシ  ロシアのルカシェンコ支持を背景に、抗議デモへの強硬姿勢を強める

2020-08-31 23:24:49 | 欧州情勢

(ベラルーシの首都ミンスクで30日、反政権派のデモを阻むように整列した警察の鎮圧部隊の前にひざまずく女性【8月31日 朝日】 やや芝居がかった感じもしますが・・・・)

 

【ウクライナと異なり反ロシア感情は表面化していないベラルーシ】

旧ソ連のベラルーシにおける大統領選挙後の混乱、「欧州最後の独裁者」ルカシェンコ大統領に対する国民の抗議行動は、やはり旧ソ連のウクライナにおいてヤヌコービッチ元大統領が国民の抗議行動で国を追われたカラー革命をも連想させます。

 

ただ、現在のベラルーシと当時のウクライナでは、ロシア・EUとの関係で大きく異なる事情があることも指摘されるところです。

 

ウクライナでは抗議行動は反ロシア・親EU路線と一体となっていましたが(ロシアからすればアメリカが背後で画策したということにもなります)、ベラルーシではロシアへの批判・親EUの声というは大きくありません。

 

*****2020年のベラルーシと2014年のウクライナはこんなにも異なる*****

(中略)

上述のように、2013年から2014年にかけてのウクライナ国民の抗議デモで、彼らを突き動かしていたのは、ヤヌコービッチ体制への拒絶反応でした。EUとの連合協定の問題は、きっかけにはなったものの、それが核心的な争点というわけではなかったのです。

 

ただ、脱ヤヌコービッチを求める動きは、最初から欧州統合路線とセットになっていたことも事実です。

 

ヤヌコービッチはEUとの協定を棚上げし、ロシアのプーチンと結託しようとしている。このままでは、ロシアの支援により、邪悪なヤヌコービッチ体制が永続化することになりかねない。我々は、その対極にある欧州統合路線を選ぶのだ。反ヤヌコービッチ派の野党・市民側には、そのような論理があったと思います。

 

かなり以前からウクライナの民主化運動にはEU旗が付き物になっていましたが、2013年暮れから2014年にかけてのユーロマイダンでもそれが目立っていました。

 

実際、2014年2月にヤヌコービッチ政権が崩壊したことは、欧州統合路線の勝利を意味しました。その後に成立した暫定政権、ポロシェンコ政権は、必然の流れとして、EUと連合協定を結び、EUとの一体化を軸とした国造りを目指すことになります。

 

それに対し、2020年のベラルーシ。筆者がデモの様子を観察していて気付いたのは、EUの旗を振っているような人がほとんどいない事実です。

 

ベラルーシでも過去の民主化デモではEU旗が掲げられたりしたのですが、今回に限ってはそれが見られません。市民が振る旗は、白赤白の民族主義的な国旗(1995年にルカシェンコによって廃止されてしまったもの)に、ほぼ限られています。

 

これが意味するのは、2020年のベラルーシで問われているのは、あくまでもルカシェンコ体制存続の是非であり、「EUか、ロシアか」という東西地政学的な含意はきわめて希薄であるということです。

 

もちろん、反ルカシェンコ運動参加者の中には、ヨーロッパの一員としてのベラルーシの未来を思い描いている人も少なくないでしょう。

 

しかし、現時点でそれを前面に打ち出すと、戦いの焦点がぼやけてしまい、路線対立が生じる恐れもあります。今はとにかく、なるべく広範な国民を巻き込んで、ルカシェンコ体制に終止符を打つことが肝要。将来的なことは、事を成し遂げた後に考えよう。そのような意識が支配的なのではないかと思います。

 

今回の選挙でルカシェンコに挑戦しようとしたチハノフスカヤ(およびその夫のチハノフスキー)、ババリコ、ツェプカロらの政策を見ても、「EUか、ロシアか」という東西選択に関する明確な立場は示されていません。

 

チハノフスカヤの選挙公約で、「対外関係」の項目を見てみたら、具体的な主張としては「ベラルーシは独立国である」という点しかなく、驚かされました。

 

確かに、上記3名は、過度に政治化されたロシアとの連合国家条約は見直しが必要であるといった発言はしていますが、ロシアと決別してEUとの関係構築に向かうといった立場は特に示していません。

 

したがって、ベラルーシの反ルカシェンコ運動の結果、旧体制が崩れても、それが直ちに欧州統合路線の勝利を意味するわけではないのです。この点はウクライナとの大きな違いです。ロシアがポスト・ルカシェンコの新政権と良好な関係を築くことも、可能なはずです。

 

そう考えると、クレムリンがチハノフスカヤを欧米の息のかかった存在という色眼鏡で見たり、ベラルーシの民意を無視して何やら工作に動こうとしたりしていることは、ロシアの国益という観点から見てもどうなのかなと思います。

 

せっかく、現時点でベラルーシには強い反ロシア感情はないのに、プーチンは盛大に墓穴を掘りに行っているように思えてなりません。

 

ただし、現時点でベラルーシの民主化運動で欧州統合路線が主たる要因ではないとはいえ、それが勝利したあかつきには、自然な成り行きとして、親EU的な方向性が強まるということは、大いに考えられます。そして、プーチンがベラルーシ国民の想いを踏みにじるような行動に出たら、その流れはさらに決定的になるでしょう。【8月25日 GLOBE+】

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【経済的にもロシア・ベラルーシは不可分の関係 野党指導者も認識】

現在、反ロシア感情は表面化しておらず、「ロシアがポスト・ルカシェンコの新政権と良好な関係を築くことも、可能なはず」・・・・更に言えば、経済的にロシアとベラルーシは不可分密接な関係にあり、ロシアからの分離が現実的に可能だとはベラルーシ国民の多く、反ルカシェンコ勢力の野党指導者も考えていません。

 

****苦境ベラルーシ、ロシアの呪縛逃れられず****

仮に大統領が失脚してもロシアの影響力が強まるだけとの懸念も

 

ベラルーシはアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の長期政権の下で経済的に困窮し、ロシアへの依存を強いられてきた。総じてソ連時代の過去にとらわれており、今後も長年にわたってロシアとの関係に縛られ続けることになりそうだ。

 

26年間にわたってベラルーシ大統領の座にあり、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と緊密な関係にあるルカシェンコ氏は、経済の大半を国家が支配する体制の中、自身の強力な統制の下でトップダウン型の政治・経済システムを運営してきた。

 

ルカシェンコ氏に対する大衆の怒りは、今や大規模な抗議行動を引き起こすほど沸騰している。しかし、経済が弱体化しているベラルーシの現状では、仮に大統領が失脚しても、ロシアの影響力が強まるだけではないかと懸念する者もいる。

 

ミンスクのシンクタンク、ベロクのアカデミックディレクターを務めるカテリーナ・ボルヌコバ氏は「ロシアはこれまで常に最後の貸し手だった。ベラルーシには他に頼るところがないため、今回もロシアの言いなりにならざるを得ないだろう」と語った。

 

他の大半の旧ソ連圏諸国と比べ、ベラルーシは過去と決別するペースが遅い。一部の重要産業は国が管理している。2018年の世界銀行の報告によれば、国営企業が国内総生産(GDP)の50%、鉱工業生産の75%を占めている。

 

1カ月当たりの平均賃金は約400ドル(約4万2000円)で、ポーランドやリトアニアなど近隣諸国の水準を大きく下回っている。

 

今月の大統領選挙で勝利を宣言したルカシェンコ氏に対し、何十万人もの市民が街頭で抗議行動を繰り広げたが、彼らの怒りはこうした経済的苦境によって強められている。批判勢力によれば、今回だけでなくこれまでの多くの選挙も不正にまみれていたという。

 

ロシアがベラルーシの経済において果たす役割は大きい。ベラルーシの昨年の輸出の42%はロシア向けだった。その大半は農産物とトラックだ。ベラルーシは天然ガスの100%と石油の大半をエネルギーが豊富なロシアから得ている。

 

ロシアは長年、関税および安全保障に関する両国間の合意の拡大を試みてきた。両国はロシアが「連合国家」と呼ぶ、より緊密な政治的統合に向けて取り組んでいるが、ベラルーシが完全に吸収されることにルカシェンコ氏が抵抗していることから、交渉は停滞している。

 

現在の混乱により、ベラルーシの外国資金へのアクセスはおおむね絶たれている。ベラルーシ・ルーブルは対米ドルで過去最安値の水準に下落。債務のおよそ90%が外貨建てであるため、返済がより困難になっている。

 

ベラルーシ国営通信社ベルタ(BELTA)の報道によると、ルカシェンコ氏は27日、同国にとって最大の債権国であるロシアとの間で10億ドルの債務の借り換えについて政府が交渉中であることを明らかにした。

 

影響力を強めるチャンスだと感じているロシア政府は、この要請について協議中だと述べた。プーチン氏は今回の事態に介入しないよう欧州諸国に警告したほか、ベラルーシ政府が崩壊の危機にひんした場合に備え、支援するための特別な治安部隊を招集した。

 

ロシアは長年、米カンザス州ほどの面積のベラルーシを、自国と西側諸国との間の重要な緩衝地域だとみなし、ロシア政府が制御下に置かなくてはならない地域だと考えてきた。ナポレオンもヒトラーも、ベラルーシからロシアの侵略を試みた。

 

ベラルーシは、ロシア産の天然ガスや石油を同国最大のエネルギー市場である欧州に運ぶ主要な輸送ルートの1つになっている。ベラルーシの肥沃(ひよく)な平野は、穀物の重要な供給源だ。

 

プーチン氏は27日、テレビのインタビューで、ロシアの農産物輸入のほぼ90%はベラルーシからのものだと指摘し、「そこで起きていることにわれわれは無関心ではない」と述べた。

 

ルカシェンコ政権は市街での抗議デモ参加者に対し、貿易・融資の両面でロシアからの経済支援を失うリスクを冒すような行き過ぎた行動をとらないよう警告している。

 

 

ルカシェンコ氏の側近で金融・信用供与関係を担当するバレリー・ベルスキー氏は先週、国営ベルタ通信に対し、「ロシアとの協力によってGDPの50%超が形成されていることを考慮すると、そのうちのほぼ半分が直ちにわが国のバランスシートから抜け落ちることになるだろう」と述べ、「生活水準も少なくともほぼ同じ比率だけ低下するだろう」と付け加えた。

 

政治アナリストらによれば、ロシアの影響力の大きさからみて、ベラルーシでいかなる新政権ができても2014年のウクライナのように西側に過度に傾斜する公算は小さい。

 

8月9日の大統領選で反政権派候補だったスベトラーナ・チハノフスカヤ氏は、抗議は反ロシアを意味するものではないとし、この危機はベラルーシ国民が解決すべきものであると繰り返し訴えている。

 

元官僚で現在は反政権勢力の「国家調整評議会」のメンバーであるパベル・ラトゥシュコ氏は先週、ミンスクで記者団に対し、「ロシアと最良の関係を持つことは、極めて現実主義的な対応だ」と述べた。また、「ベラルーシとロシアの間に壁を作る」余裕のある政治家はいないとした。【8月31日 WSJ】

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【ロシアはルカシェンコ支持を明確化 そのロシアの後ろ盾で強硬姿勢に転じたルカシェンコ大統領】

上記のような状況を考えると、ロシアとしては別に厄介者のルカシェンコ大統領を支えなくても、ルカシェンコを切り捨てて、他の親ロシア指導者を選択するという道もあったように思うのですが、現実にはプーチン政権が、欧州の影響力行使を強くけん制しつつ、ルカシェンコ支持を明確に打だす流れになっているのは報道のとおり。

 

やはり、民意で生まれる新政権の不確実性が怖いのか。なんだかんだあっても、プーチン政権としてはルカシェンコ大統領の強権支配体制は安心できるのでしょう。そこらがロシア民主主義の限界でもあります。

 

あるいは、極東で続く反政府デモや野党指導者の毒殺未遂騒動などから、ベラルーシの政変がロシア国内に飛び火するのが怖いのか・・・

 

“プーチン氏、ベラルーシに治安部隊派遣も 混乱が「制御不能になれば」”【8月28日 BBC】

“露、ベラルーシ首脳会談へ 続く大規模デモ 「選挙は正当」と支援用意”【8月30日 産経】

 

新型コロナ対策でも、いち早く実用化したことで国際的に話題になっているロシア製ワクチンを、さっそくベラルーシに試験供与して、関係強化を図るようです。

 

****ベラルーシでロシア開発のワクチン投与、外国で初の試験****

 ロシアとベラルーシ両国は27日までに、ロシアが独自開発し世界で初めて承認した新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験をベラルーシ内で実施することで合意した。

 

このワクチンの外国での試験はベラルーシが初めて。3段階ある臨床試験のうちの最終試験となる。ただ、試験への参加は各個人の自発的な判断に委ねられる。(後略)【8月27日 CNN】

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ロシアの支持を得たことで、ルカシェンコ政権の抗議デモへの対応も強硬姿勢に転じています。

 

****強硬なベラルーシ政権、デモで140人拘束 露の後ろ盾背景か****

ルカシェンコ大統領の再選が発表された大統領選への抗議が続くベラルーシの治安当局は8月30日、首都ミンスクで同日起きたデモの参加者140人を拘束した。最近は拘束を控えてきた治安当局が再び圧力を強めた形。

 

隣国ロシアのプーチン大統領がルカシェンコ政権への支援を強める一方、デモ側を支持する欧米諸国が直接介入に否定的なことも政権側の強硬姿勢を後押しした可能性がある。

 

インタファクス通信によると、この日のデモには10万人以上が参加。9日の大統領選は不正だったとし、再選挙などを要求した。デモ隊の一部は武装した治安部隊が守る大統領官邸に接近した。

 

一方、ルカシェンコ政権は、自動小銃と防弾チョッキ姿の同氏の写真を配信し、デモ側を牽制(けんせい)した。同氏は再選挙やデモ側との対話を拒否している。

 

政権側はデモが発生した9日以降の数日間で6千人以上を拘束。数人の死者も出た。しかしその後、一定の融和姿勢に転じ、拘束者の大半を釈放するとともに拘束活動を控えていた。デモ弾圧への国際的な批判などが影響したとみられる。実際、23日に起きた同規模のデモでも一部が大統領官邸に近づいたが、政権側は拘束を行わなかった。

 

政権側が再び強硬姿勢に転じた背景には、ロシアの支持が得られたことがあるとみられる。

 

プーチン氏とルカシェンコ氏は30日に電話会談を行い、「数週間以内」にモスクワで会談を行うことで合意。これに先立ち、プーチン氏は露国営テレビのインタビューで「ロシアは選挙が合法的だったと承認する」と表明するとともに、デモが暴動などに発展した場合は「ルカシェンコ氏からの要請に基づき、ロシアの治安部隊を派遣する」とも述べていた。

 

ロシアは欧米圏との緩衝地帯として重要視するベラルーシの不安定化を懸念。同じ権威主義体制を取るベラルーシの混乱が、露国内の反体制勢力を勢いづかせる事態も警戒している。

 

一方、欧米側は直接的な介入に慎重だ。欧州連合(EU)は8月末、選挙不正やデモ弾圧に関与したベラルーシ高官約20人を対象にEU渡航禁止と資産凍結を行う制裁の導入で合意したが効果は限定的だとの見方が強い。

 

米国もデモを支持しつつも直接介入はしない方針。欧米側は自身の介入がロシアを刺激し、対抗的な軍事介入を招く事態を警戒しているとみられる。【8月31日 産経】

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“ベラルーシ、10万人超デモに強硬手段 軍装甲車も投入”【8月31日 朝日】

 

こうした強硬姿勢が国民の反発を強めて、混乱を一層拡大させ、政権崩壊に・・・ということになると、ルカシェンコ支持で動いたロシアもウクライナに続いて、もともと反ロシア感情の強くなかったベラルーシも失うという大きなリスクを負います。

 

【欧州の介入を警戒・けん制】

ルカシェンコ大統領は欧州の介入を警戒して、強くけん制しています。

 

****欧州が制裁なら輸送ルート遮断、ベラルーシ大統領が警告*****

大統領選の結果を巡り反政権デモが3週間続いているベラルーシのルカシェンコ大統領は28日、欧州が制裁を科せば、ベラルーシを経由する欧州への輸送ルートを遮断すると述べた。

 

ルカシェンコ氏は、欧州がベラルーシを通してロシア向けにモノを運ぶことを阻止するほか、ベラルーシが欧州連合(EU)の加盟国であるリトアニアの港を通して輸出している貨物を別の経路で輸送すると述べた。

 

ベラルーシを経由する物資は、リトアニアの鉄道と港を通る貨物量の3分の1近くを占める。ベラルーシはまた、欧州がロシアへの陸路輸送の主要経路。ロシア産原油を欧州へ運ぶパイプラインも通っている。

 

(中略)ルカシェンコ氏は抗議が西欧諸国の支持を受けていると主張し、北大西洋条約機構(NATO)が軍をベラルーシ国境に送り込んだと批判するが、NATOは否定している。

 

ルカシェンコ氏は軍の半分に対して戦闘準備に入るように指示したと表明。ロシアのプーチン大統領とは、西欧諸国の脅威にさらされた場合に両国の軍が団結することで合意したという。

 

隣国のリトアニアとポーランド、ラトビアは欧州に対して、ルカシェンコ氏に断固たる行動を取るよう要請。大統領選で2位だった反政権派のチハノフスカヤ氏は選挙後にリトアニアへ出国したが、同氏を受け入れたことでリトアニアはルカシェンコ大統領の怒りを買った。(中略)

 

西欧諸国は今のところ慎重に動いている。ベラルーシで始まったばかりの民主化運動を支持する一方、ロシアによる介入を懸念している。EU外相は27日、選挙の不正操作や抗議活動の取り締まりを巡り最大20人のベラルーシ人に制裁を科すことを協議した。【8月29日 ロイター】

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