孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

香港 若者たちの抵抗 「今回が最後のデモ活動だ」 台湾では、中国批判を避ける国民党候補

2019-06-12 22:40:27 | 東アジア

(立法会の敷地に突入し、警官隊(左側)と衝突する若者ら【612日 共同】)

 

【「今回が最後のデモ活動だ」】

香港の「逃亡犯条例」改正案に関しては、519日ブログ“香港 「逃亡犯条例」改正案で岐路に立つ「一国二制度」・高度な自治”でも取り上げたところです。

 

香港では2014年「雨傘運動」の挫折以来、香港政府および中国に対する抗議行動・民主化運動は低調になっていましたが、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案をめぐる市民の抗議行動がこれまでになく拡大し、9日に主催者発表で100万人を超える抗議デモが起きたこと、一部若者らと警察との間で衝突が生じていることは報道のとおりです。

 

****香港デモ、帰ってきた若者たち 雨傘運動思わせる光景****

香港で9日にあった「逃亡犯条例」改正案に反対する大規模なデモでは、学生をはじめ若者の参加が目立った。2014年の民主化デモ「雨傘運動」が挫折した後、民主化運動から遠ざかっていた世代が再び政治意識を高めつつあるようだ。

 

デモ行進のゴール地点となった立法会(議会)。9日夜になっても多くの若者が立ち去ろうとせず、路上に座り込んで友人たちと雑談していた。雨傘運動の再現を思わせる光景だった。

 

ある男子学生(22)は、デモに加わった理由について「こんな悪法は撤回させないといけない。みんなで力を合わせて立ち上がる必要がある」と話した。

 

香港では雨傘運動の2年前の12年、学校現場で愛国心を育てる「国民教育科」導入が撤回された。そのとき、反対運動の一角を担ったのは中高校生だった。

 

今回、初めてデモに加わったという中学3年生の男子生徒(15)は、同級生4人と参加。「改正案に不満を持っている人が多いという事実を政府に伝えることが大事だ」と語った。

 

雨傘運動で活動した元学生団体幹部の羅冠聡氏は「社会の雰囲気が雨傘運動の前の状況に似てきた」と指摘する。

香港政府トップの行政長官を民主的な選挙で選べるよう若者らが求めた雨傘運動は、結局、要求が何も実現されないまま封じ込まれた。

 

1989年の天安門事件などを経て、香港の民主派は長年、中国本土の民主化を掲げて活動してきた。しかし、雨傘運動を経験した若者たちは香港の民主化が優先だと主張。民主派の中核を担っていた中高年層との溝や対立が深まり、民主化運動が勢いを失う要因になっていた。

 

しかし、今回の条例改正を座視すれば、民主化の進展どころか、香港の高度な自治を保障する「一国二制度」が骨抜きにされるとの危機感が若者たちを動かしたとみられる。

 

雨傘運動の中心メンバーの一人、周庭(アグネス・チョウ)さんは10日、都内の日本記者クラブでの会見で、条例が改正されれば「香港が完全に中国になってしまう」と訴えた。

 

「日本政府、意見表明して」雨傘運動メンバー周庭さん

2014年に香港であった民主化デモ「雨傘運動」の中心メンバーの一人、周庭(アグネス・チョウ)さんが10日、東京都日本記者クラブで会見した。刑事事件の容疑者を香港から中国本土に引き渡すことを可能にする「逃亡犯条例」改正案をめぐり、成立すれば「香港が完全に中国(の一部)になってしまう」と危機感を表明した。

 

周さんは会見で、中国の司法制度について「恣意(しい)的で不透明」などと批判。条例改正は事実上、中国の法律が香港市民に適用されることにつながるとして、「(高度な自治を保障した『一国二制度』ではなく)一国一制度に近づく」と懸念を示した。

 

周さんは9日に香港であった大規模デモにも参加。若い人々が多く参加していたといい、「(条例改正への)関心が広がっている」と話した。

 

その一方、改正案が成立すれば、デモに参加したことが罪に問われて中国に引き渡される恐れもあることから、「今回が最後のデモ活動だ」と話す参加者もいたという。

 

条例は香港に滞在する外国人にも適用される。周さんは「日本も無関係ではない。日本政府は国民の安全を考え、意見を表明して欲しい」と訴えた。【611日 朝日】

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“改正案が成立すれば、デモに参加したことが罪に問われて中国に引き渡される恐れもあることから、「今回が最後のデモ活動だ」と話す参加者もいた”・・・・この言葉が、今回の「逃亡犯条例」改正案の重要性を物語っているように思われます。

 

香港政府は条例が改正されても、中国からの「政治犯」移送の要請は拒否するとしているようですが、中国が気に入らいない人物に関して“あること、ないこと”言い立てて、非政治犯として引き渡しを求めるという懸念、そうした中国の要請に香港当局は唯々諾々と従うであろうとの懸念は当然のことのように思われます。

 

そうなると、香港において反中国的な活動はもはやできなくなります。まさに「今回が最後のデモ活動だ」ということにも。

 

今日(12日)午後には警官隊がデモ隊の排除に動き、双方に負傷者が出ています。今日現在の状況は以下のようにも。

 

****香港デモ、数万人道路占拠 警察は催涙弾発射、けが人も****

刑事事件の容疑者を香港から中国本土に引き渡すことに道を開く「逃亡犯条例」改正案に反対する若者らが12日、香港中心部にある立法会(議会)周辺の道路を占拠した。

 

警察とデモ隊が衝突し、負傷者が出た模様だ。若者が道路を封鎖する大規模な抗議は、2014年の民主化デモ「雨傘運動」以来となる。

 

12日予定されていた条例案の審議を阻止しようと、立法会には11日夜から数千人の若者が集結。12日朝には数万人規模に達し、近くの幹線道路を数百メートルにわたって占拠。この日の審議は延期に追い込まれた。

 

午後には警官隊が催涙弾を相次いで発射するなどしてデモ隊の排除に動き、双方に負傷者が出た模様だ。同日夕現在、数百人規模の若者が現場にとどまり、警官隊とのにらみ合いが続いている。

 

条例改正案をめぐっては9日に主催者発表で100万人を超える抗議デモが起きたが、政府はあくまで改正案の成立を目指す考えを強調。立法会も20日に採決する構えで、緊張と混乱が今後も続きそうだ。【612日 朝日】

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香港政府トップの林鄭月娥行政長官は声明を発表し、若者らのデモについて「公然と暴動を起こした」と非難しています。

 

【「(中国の)狙いは、香港市民にとって誰が『大ボス』なのかを知らしめることだ」】

若者らの香港の将来に対する悲壮な思いも伝わりますが、政治的には香港は中国の主権下にあって、「高度な自治」を“認めてもらっている”立場にすぎないこと、何より経済的には完全に中国経済に取り込まれており、長期的な抵抗運動で中国側の締め付けが強まると、抵抗運動への風当たりが香港でも強まることなどからして、今後の見通しは非常に暗い・・・としか思えません。

 

中国指導部にとって思いのほか激しい抵抗運動が起きたことで、“香港の人権団体・中国人権民主化運動情報センターによると、中国政府の高官が12日、香港に隣接する広東省を訪問。香港側に改正案の撤廃を指示したという情報も香港では流れたが、真偽は分かっていない。”【612日 時事】といった情報もあるようですが、この状況で習近平指導部が譲歩することはあまりありそうにも思えません。

 

****香港デモへの「譲歩」あり得ず、習氏の狙いは?****

中国は、香港で9日に大規模な市民デモが発生したにもかかわらず、犯罪容疑者の本土送還を可能にする「逃亡犯条例」の改正を断固として進める方針だ。

 

中国の国営メディアや当局者は10日、香港特別行政区政府による条約改正の取り組みを引き続き支持するとの立場を表明。デモは、地元の反体制派が外国勢力と共謀して市民の怒りをあおっていることが要因との見方を示した。

 

中国外務省の耿爽報道官は定例会見で、条例改正への政府の支持を改めて表明した上で、「一部が無責任な発言を行っている」と指摘。「香港の立法への外部介入に断固として反対する」と述べ、名指しは避けながらも、中国に批判的な海外勢力による介入の可能性をほのめかした。

 

香港のデモに対する中国当局の強硬姿勢を踏まえると、香港を含め、中国内の反体制派を容赦しない習近平国家主席の方針が揺らぐことはなさそうだ。

 

香港中文大学のウィリー・ラム非常勤教授は「中国当局が折れることはない」とし、「狙いは、香港市民にとって誰が『大ボス』なのかを知らしめることだ」と述べた。

 

習氏にとっては、中国内の反体制派をいったん黙認すれば、他でも反政府の動きを促しかねないリスクがある。また、同氏が進める徹底した腐敗撲滅運動や中国景気の減速、米中貿易摩擦の激化に不満を強めている向きから批判にさらされかねない。

 

ラム氏は、海外の勢力が香港のデモをあおったとする中国当局の主張は米国を念頭においたもので、反米感情を利用する狙いがあると指摘する。

 

とりわけマイク・ポンペオ米国務長官が先月、条例改定案について、香港の「法の支配への脅威」と批判したことを踏まえると、「習氏には(香港について)譲歩できないもっともな理由がある」(ラム氏)という。(中略)

 

香港では返還以来、中国当局との間で多くの摩擦が生じている。学歴も職務能力も備えた香港中間層の多くは、行政長官や議員の大部分を直接選挙で選ぶべきだと主張し、自治権拡大を訴えている。2003年には「国家安全条例」に反対する大規模なデモが発生。中国当局は計画を断念し、最終的には行政長官を交代させた。

 

だが、中国当局が今回、譲歩する公算は小さいもようだ。習氏の許容度は下がっている。中国当局者は2014年の民主化デモ以降、香港議会から野党政治家を排除するとともに独立支持派の政党を違法とし、デモ参加者を投獄した。

 

.香港のキャリー・ラム行政長官は10日、条例改正案を進める方針を改めて表明した。改正案の審議は12日に再開される予定。

 

ただ、中国の専門家は、ラム長官が改正案の成立に失敗したとしても、中国当局が直接介入できると話している。深圳大学の香港・マカオ基本法センターのソン・シャオズアング教授によると、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)は香港の基本法について解釈を発行することが可能で、身柄引き渡しに関して香港の議会や司法の決定を覆すことができるという。

 

そのような強硬措置を講じれば、本土支配に反対する香港市民の反発を強める恐れがあるが、習氏にとって譲歩する代償はこれを上回るかもしれない。

 

ソン氏は、2003年のデモを巡る動向は、政府の信用を傷つけた「過ちだった」と指摘。「中国当局は同じ轍(てつ)は踏まないだろう」と述べる。【611日 WSJ】

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もっとも、今回の香港側の激しい反発は、中国指導部にとっては予想外だったとの指摘も。

 

****中国の「指示」誤算か 建国70周年に香港混乱****

香港で中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正について、中国政府は「揺るぎない支持」(外務省報道官)を表明している。ただ実際は習近平指導部が香港政府に改正を「指示」したとの見方が支配的だ。

 

建国70周年の祝賀式典を10月に控える中、香港の混乱が長期化すれば、米中貿易戦争に加えて「内憂外患」のタネをまた一つ抱えることになる。

 

北京の政治学者は「香港を厳しく統制するのが現指導部の方針だが、誤算があった」と指摘する。

 

2014年に香港行政長官選挙の民主化を求めた大規模デモ「雨傘運動」は、政府側の譲歩を得られないまま強制排除され、以降は民主派の動きが低調になった。「こうした状況の中で条例改正も問題ないと判断したが、これほど大きな反響があるとは予想していなかった」(政治学者)という。

 

中国政府は2月、広東省沿岸部と香港、マカオに一体的な経済圏を築く「ビッグベイエリア(大湾区)構想」を正式に始動させた。北京の外交筋は「香港の一国二制度を骨抜きにする動きが強まっている」とし、条例改正が強行されれば中国が同制度の受け入れを求めている台湾でも反発が強まるとの見方を示した。【612日 産経】 

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そうした“予想外”だったことを踏まえて、なんらかの譲歩がなされる可能性もない訳でもないでしょうが、どうでしょうか・・・・難しいようにも。

 

【台湾 国民党で総統候補を目指す韓国瑜高雄市長は香港のデモについて「よく知らない」】

一方、上記記事にもあるように、総統選挙の予備選挙段階にある台湾も香港の動きを注視しています。

 

****台湾政界、香港デモに敏感反応 総統予備選意識****

香港で起きている「逃亡犯条例」改正案への大規模な抗議活動に、台湾でも関心が高まっている。主要メディアが大きく報道し、台北市内では抗議活動に同調する街頭運動も始まった。

 

一方、与野党の有力者は香港情勢に言及する際、現在行われている総統選の党内予備選を意識しており、デモの行方が総統選に影響を及ぼす可能性もある。

 

台北市内で香港政府の領事事務などを行う香港経済貿易文化弁事処が入る商業ビルの前では12日、香港からの留学生らが座り込みを始めた。200〜300人が雨の中、プラカードを掲げ、改正案に反対する演説を次々に行った。

 

発起人の大学4年生、何泳●(=杉の木へんを丹に)(か・えいとう)さん(21)は「改正案が通れば香港の国際的地位は急速に低下し、中国の地方都市と変わらなくなる。台湾に『お金のために中国に接近しよう』という人がいるのは恐ろしいことだ」と話した。

 

台湾の与党、民主進歩党の蔡英文総統は香港の「100万人デモ」にフェイスブックなどで支持を表明。翌10日には「蔡英文が総統でいる限り、一国二制度は受け入れない」と予備選での支持を呼びかけた。

 

これに対し、予備選の対抗馬、頼清徳(らい・せいとく)前行政院長(首相に相当)は「中国は暴行をやめるべきだ」と反中姿勢を強調、「台湾は第2の香港にならない。頼清徳だけが台湾を守れる」と訴えた。

 

野党、中国国民党で総統候補を目指す韓国瑜(かん・こくゆ)高雄市長は10日、記者団からデモの感想を問われ「よく知らない」と回答。批判を受けると11日に声明を発表したが、「香港政府は民衆を安心させる決定をすべきだ」などと中国への批判を避けた。

 

一方、国民党のもう一人の有力候補で中国当局との近さが指摘される鴻海精密工業の郭台銘(かく・たいめい)会長は「香港の一国二制度は失敗だ」と中国を批判してみせた。【612日 産経】

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注目されるのは国民党候補として最有力視されている韓国瑜高雄市長の対中国宥和姿勢です。

 

台湾の選挙状況は69日ブログ“台湾総統選挙・予備選  民進党は現職と前首相が接戦 10~14日の世論調査で決定”でも取り上げましたが、「民主主義で飯は食えない」といった趣旨の発言に見られる、中国とズブズブの関係にある郭台銘氏と対中国姿勢では大差ないようです。

 

国民党も、以前に比べると随分“本音”が前面に出てきた感もあります。最近のポピュリズム全盛の世界的流れの影響でしょうか。

 

「飯が腹いっぱい食えるなら、中国でも台湾でもどっちでもいいじゃないか。どうせ同じ中華民族なんだから」と言い出すのも時間の問題のようにも。

 

今の状況で中国に宥和的な姿勢を批判するのは簡単ですが、実際に中国による締め付けがきつくなったとき、パンをとるのか、自由をとるのか・・・という問題は簡単ではありません。

 

コメント (1)
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