孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トランプ大統領の対メキシコ関税 両国間でぎりぎりの交渉 与党・政権内部にも異論

2019-06-07 23:42:04 | ラテンアメリカ

(国境を越え米国に入国したテキサス州エルパソで、息子を抱きしめる男性(2019516日撮影)【527日 AFP】 親子は、ひと月かけてグアテマラからメキシコを移動しこの地にたどり着いたそうです。)

 

【ぎりぎりの交渉が続く】

あちこちにケンカを売りまくっているトランプ大統領、中国・イラン・北朝鮮だけでは物足りないのか(あるいは、国民の注意を外にむけさせたい事情があるのか)、今度の相手はメキシコ。その影響は日本企業にも。

 

****不法移民対策でメキシコに関税 米政権、最大25%まで上乗せも****

トランプ米政権は30日、メキシコ国境から流入する不法移民を抑制する対策をメキシコに促すため、同国からの全ての輸入品に610日から5%の関税を課すと表明した。メキシコが有効な対策を取らなければ10月までに最大25%まで引き上げるとしている。

 

国境の管理についてトランプ政権はメキシコ側の対応に不満を募らせているが、不法移民対策として通商面で制裁的な関税を課すのは極めて異例。

 

導入されれば、両国経済だけでなく、メキシコで事業展開するトヨタ自動車や日産自動車など自動車大手を中心に日本企業にも大きな影響がありそうだ。【531日 共同】

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「タリフ(関税)マン」を自称するトランプ氏は531日、不法移民と麻薬の流入について「関税が止めてくれる!」とツイッターに投稿し、自信を示しています。

 

両国間で交渉は行われていますが、その進捗についてトランプ大統領は強い不満を表明しています。

 

****米メキシコ、移民巡る協議を6日続行へ トランプ氏「進展は不十分」****

トランプ米大統領は5日、移民や制裁関税の問題を巡りこの日行われたメキシコとの高官協議について、不法移民対策に関して十分な進展が得られなかったとの認識を示した。6日もワシントンで協議を続行する見通し。(中略)

欧州訪問中のトランプ大統領はツイッターに「移民問題を巡るメキシコ代表団とのきょうの協議は終了した。進展しているが、十分と言うには程遠い!」と投稿した。(後略)【66日 ロイター】

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トランプ大統領はフランス訪問中に「われわれは関税を発動するとメキシコに伝えたし、私は本気だ」とも。

 

最大の貿易相手国アメリカが関税を・・・・というのはメキシコ経済にとって死活問題にもなりますので、610日のタイムリミットを控えて、6日には移民流入防止のための2件の対応策が発表されています。

 

****メキシコ、米への不法移民支援した疑いで26人の銀行口座凍結****

メキシコは6日、対米国境で移民集団を組織した疑いのあるグループの銀行口座を凍結したと発表した。対象となったのは26人で、移民らの米国不法入国を支援した疑いがかけられている。(後略)【67日 AFP】

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****メキシコ、米との協議でグアテマラ国境に治安部隊派遣提案=関係筋****

メキシコは米国との協議で、移民流入阻止に向けてグアテマラとの国境に最大6000人の治安部隊を派遣することを提案した。関係筋が明らかにした。この情報は最初に米紙ワシントン・ポストが報じていた。(後略)【67日 ロイター】

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6日時点で、メキシコのロペスオブラドール大統領は「米国側の対応は非常に良い。彼らは対話を閉ざしていない。今日にも合意に達すると望んでいる」と、関税を回避できることを期待していると語っています。

 

ただ、今現在は何らかの合意が得られたという報道はまだ目にしていません。

 

アメリカ側の対応についても、異なる報道が。

 

****米国、メキシコ輸入品への関税適用の先送りを検討=通信社****

米国は、トランプ大統領が表明したメキシコからの輸入品への関税適用を先送りすることを検討している。ブルームバーグが6日、匿名の関係者の話として報じた。メキシコとの協議に時間をかけるためという。(後略)【67日 ロイター】
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また、“ホワイトハウスのナバロ大統領補佐官(通商製造政策局長)はCNNに対し、対メキシコ関税の予告だけで「メキシコの注意を引きつける」のに十分だったため、関税は発動されない可能性があるとの認識を示した。”【66日 ロイター】とも。

 

ホワイトハウスはこうした動きを否定しています。

 

*****対メキシコ関税、10日から適用という立場に変更ない=米報道官****

米ホワイトハウスのサンダース報道官は6日、メキシコが中米から米国に向かう移民を抑制するための措置を講じなければ10日から関税を適用するという米政権の立場は変わっていないと明らかにした。

サンダース氏は声明を発表し「現時点では、われわれは関税(の発動)に向かっている」と説明した。(後略)【67日 ロイター】
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両国とも、ぎりぎりの交渉中というところです。

 

【与党共和党・政権内部からも強い異論】

この問題が興味深いのは、対メキシコ関税が発動されればアメリカ経済に大きな影響を及ぼす「もろ刃の剣」になるとみられ、与党共和党でも異論が広がっていることです。

 

****トランプの対メキシコ関税、共和党「我慢の限界」****

<関税という警棒をむやみやたらと振り回す大統領に見識を示す時だ。今なら大統領の拒否権を覆すのに十分な票が集まるだろう>

ドナルド・トランプ米大統領が、メキシコ国境から不法移民が流入し続けていることに対する制裁として打ち出した対メキシコ関税は、議会共和党にとって「我慢の限界」になると、民主党のクリス・クーンズ上院議員は65日の朝、CNNで語った。大統領の言動については、以前から共和党議員も公式・非公式に懸念を表明していたという。

「共和党の多くの上院議員が内々に重大な懸念を表明している。大統領の行動、ロシア疑惑に関する特別検察官の報告書でわかった疑惑、大統領の司法妨害、などに関してだ」

クーンズによれば、共和党議員が「公然と」危機感を露わにした事件もある。昨年、サウジアラビアの反体制ジャーナリストだったジャマル・カショギが惨殺された事件でトランプがサウジアラビア政府の肩を持ったときは、共和党内からも批判の声が上がった。

 

また密接な関係にある同盟国の鉄鋼製品に関税をかけたことや環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明したことにも、十数人の共和党議員が「懸念なり疑念を表明した」という。

だが残念ながら、これまではトランプの暴走を「減速させることも、止めることも」できなかった、とクーンズは言う。

共和党は見識を示すべきだ
批判の多い対メキシコ関税の発動が「我慢の限界」となり、「関税という警棒をむやみやたらと振り回し、親密な同盟国さえ殴ってしまう大統領に、上院共和党が何らかの見識を示し、落ち着かせる」ことを期待していると、クーンズは述べた。

共和党の有力議員は、メキシコに関税の脅しをかけるトランプを強く批判している。(中略)


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日付けのニューヨーク・タイムズによれば、メキシコへの制裁関税の発動について、ホワイトハウスから説明を受けた共和党の上院議員はほぼ全員、反対を表明した。

テッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出・共和党)はホワイトハウスの弁護士チームに「賛成の声は1つもないと、(大統領に)伝えてほしい」と言ったという。メキシコへの関税は、実質的にテキサス州の企業と消費者に300億ドルの税負担を強いるに等しいと、クルーズは訴えた。

共和党のランド・ポール上院議員(ケンタッキー州選出)は4日、CNNに対し、関税発動を阻止するのに必要な共和党議員の票が集まる見込みだと語った。「たった1人の人間にこんな決定をさせてはならないと多くの議員が考えており、この件では大統領の拒否権をくつがえすのに十分な票が集まるだろう」

アイオワ州選出の共和党上院議員で、上院財政委員長を務めるチャールズ・グラスリーは先週、いち早く関税発動に異議を唱えた1人だ。「貿易政策と国境警備は別個の問題だ」と、グラスリーは述べた。「これは大統領の関税権限の乱用であり、議会の意思を踏みにじる暴挙だ」

こうした批判にもかかわらず、トランプは4日、関税発動を阻止しようとする共和党議員の動きは「ばかげている」と語った。

移民と貿易をごっちゃにするな
反対派は、関税を課せば輸入企業はコスト増に耐えきれず、製品の値上げに踏み切り、結局はアメリカの消費者にツケが回ることになる、と警告している。

 

NAFTA(北米自由貿易協定)の下で、多くの米企業がメキシコとの国境をまたいでサプライチェーンを構築した。そのため製品によっては、消費者の手に渡るまでに、何回も国境を行き来し、そのたびに関税がかかることになりかねない。

トランプ政権は目下、NAFTAに代わる新協定「米国・メキシコ・カナダ協定」の批准手続きを進めている。新しい自由貿易協定の成立を目指す一方で、関税を課すのは矛盾した決定であり、非生産的だと指摘されている。

 

トランプの脅しは協定を傷つけ、議会での批准をさらに難航させかねないと、共和党議員は警告している。

グラスリーとポールらは、大統領の職権乱用も問題にしている。貿易と移民政策は切り離して考えるべきで、トランプが国境における「危機」とみなす状況に対して関税カードを切るのは誤りだ、というのだ。

 

大半の共和党議員は、トランプの強硬な移民政策の多くを支持しているが、まったく異なる問題で制裁関税を課すことには強く反発している。【66日 Newsweek

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異論は政権内部にあるとも報じられています。

 

****トランプ氏の対メキシコ関税、主要2閣僚「蚊帳の外」=関係筋****

トランプ米大統領の対メキシコ関税は、ライトハイザー通商代表とムニューシン財務長官の主要閣僚2人が導入に難色を示したが、トランプ氏が両者のアドバイスを無視する形で計画を発表していたことが分かった。事情に詳しい複数の関係者が31日明らかにした。

ライトハイザー氏は、メキシコとカナダとの新協定について議会で承認を得るのが難しくなるとして、対メキシコ関税の導入に懸念を示していた。

 

しかし関係筋の1人よると、ライトハイザー氏とムニューシン氏はトランプ氏が関税導入を決めた際に「蚊帳の外」に置かれていた。

関係者2人によると、トランプ氏は過去にも対メキシコ関税に言及し、側近が思いとどまらせてきた。しかし今回はトランプ氏が側近の声を受け入れずに関税導入を決めたという。(後略)【63日 ロイター】

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交渉がうまくいかず関税を実施するとなると、経済面だけでなく、アメリカ国内政治においても大きな問題を惹起しそうです。

 

もっとも、与党共和党はこれまでも大統領に対する異論があった問題で、結局は「トランプ人気」に屈する形で黙ってしまった経緯もありますので、今回の問題でどこまで主張を貫けるのかは定かではありません。

 

【移民・難民発生をもたらしている根源的問題に関する議論は深まらず】

アメリカ入国を目指す移民は、問題となっているメキシコではなく、中南米出身者が中心になっているのは周知のとおりで、メキシコはその移民らの国内通行を許しているとトランプ大統領の怒りを買っています。

 

****米国境で拘束の移民、5月は10年超ぶり高水準 中米出身家族が多数****

米税関国境警備局(CBP)によると、メキシコから米国への入国を試みて拘束された移民の数は5月に13万2887人に達した。前月から約30%増加し、2006年3月以来の高水準となった。当局は移民の数は「危機的な」水準にあると懸念を示している。

これまで不法入国者は単身のメキシコ人が多かったが、現在は、すぐに本国に送還できないグアテマラやエルサルバドル、ホンジュラスなど中米出身の家族連れが多く、当局は対応に苦慮しているという。

5月に拘束された人のうち63%以上は子供や家族連れだった。

入国に必要な書類を準備していたが却下された人や、亡命を希望していたが入国が許可されなかった人の数は1万1391人で、前月から12%増加した。

5月に拘束された子供の数は5万5000人を超えた。収容施設は不足しており、テキサス州エルパソの収容施設は定員オーバーで「危険な」状態にあるという。【66日 ロイター】

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アメリカ側は中南米からの移民をメキシコ国内にとどめることを求めていますが、メキシコからすれば中南米とアメリカの間の問題の“とばっちり”を受けるようにも思えるところでしょう。

 

****米、移民希望者をメキシコ国内にとどめるよう要請=関係筋****

米国がメキシコとの移民対策に関して行っている協議で、メキシコに対し、米国への移民希望者を自国内にとどめると同時に、人身売買に対する監視強化などを求めていることが複数のメキシコ側の関係筋の話で明らかになった。(中略)

関係筋によると、米政府は関税措置の発動回避に向け、メキシコに対し中南米諸国からの米移民希望者に対するプログラムを迅速に拡大させるよう要請。このほか、中南米諸国からのすべての移民希望者に米国内ではなく、メキシコ国内で移民申請を行うよう求めている。

ただメキシコのエブラルド外相はこれまでに、米国がメキシコを「安全な第三国」に指定し、米国への難民申請者を移送してメキシコで保護するという案を米国側が提示しても拒否する考えを示している。(後略)【66日 ロイター】

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なお、実際に関税がかけられると、メキシコ経済が景気後退を起こすことも考えられ、そうなるとメキシコからの移民も発生する事態ともなります。

 

そうこうしている間にも、あらたなキャラバンの動きも出ているようです。

 

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中米各国から米田を目指す新たな「キャラバン隊」が発生しそうな雲行きになっている。

 

国連が五月に発表したところによると、豪雨と口照りが交互に各国を襲ったことでグアテマラなど中米四力国では農作物収穫量が例年の半分に落ち込んだ。そのため困窮した農民などが各国に溢れている。

 

トランプ大統領はキャラバン隊を批判することで支持率に結びつけており、今回も追い風となりそうだ。【「選択」6月号】

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ぎりぎりの交渉は続いていますが、難民発生を引き起こしている中南米諸国の問題をどうするのかという本筋の議論は深まっていない(と言うか、アメリカ側があまり関心を払っていない)ようです。

 

“メキシコ政府筋によると、米国との協議でメキシコ側は、安全保障関連対策のために米国がメキシコに供与している資金をメキシコ南部やグアテマラの経済発展を推進するために使い、移民の根本的な原因の解決に取り組むことを提案している。”【66日 ロイター】といった話はあるようですが。

 

ついでに「壁」建設のための資金もその方向で使えば、もっと効果的かも。

 

単に壁やメキシコ側の対応で移民・難民を押しとどめればそれで問題解決という訳でもないでしょう。

その結果、行き場を失う大勢の人々が発生します。自国に戻っても職はなく、あるのはギャング支配だけ。

 

壁に囲まれた自分たちの楽園を守れれば、それでいいのか?という話も。

無秩序な大量流入は困るものの、アメリカ経済も移民労働を必要としている側面もあります。そのあたりで、折り合いがつく方策はないのでしょうか?

 

移民・難民にならざるを得ない人々の窮状にはあまり目が向けられることなく、単に移民の流れを押しとどめるという観点だけで議論が進んでいるようにも見えるのは残念です。

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