孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ・プラユット政権 下院での基盤は脆弱なるも、権力維持システムは周到に準備済み

2019-06-28 22:19:03 | 東南アジア

(新未来党のタナトーン党首【66日 時事】)

 

【「軍政の作ったルール」によってプラユット氏、首相に】

ロシア・プーチン大統領によれば、欧米的自由主義は「意義を失い、時代遅れとなった」そうです。

 

****プーチン氏、自由主義は時代遅れ 強権正当化か、英紙の取材に****

ロシアのプーチン大統領は、米国や欧州でポピュリズム(大衆迎合主義)が広がっており、第2次大戦後に米欧社会が重視してきた自由主義的な思想は「意義を失い、時代遅れとなった」との認識を示した。英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)が27日、単独インタビュー記事を掲載した。

 

ロシアに約20年君臨するプーチン氏は西側の自由主義を否定することで、自らの強権的な体制を正当化する狙いがありそうだ。

 

プーチン氏はシリアなどから難民受け入れを決めたドイツのメルケル首相の決定を批判する一方で、メキシコからの移民の流入阻止を目指すトランプ米大統領を称賛した。【628日 共同】

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「時代遅れ」かどうかはともかく、そのプーチン大統領が称賛するのが、自由主義の守護者とされてきたアメリカのトランプ大統領、安倍首相の盟友でもあります。このあたりが、現在の国際政治状況の問題点です。

 

トランプ大統領が、即断即決が可能でディールがやりやすい独裁者や強権支配者が大好きで、小うるさい民主主義指導者が大嫌い・・・というのはいつも指定されることです。

 

でもって、今日の話題はプーチン大統領も擁護する非自由主義的軍事政権を形を変えて引き継ぐことになった、タイのプラユット政権。(別に、反軍政のタクシン派政党が自由主義・民主主義だという話でもありませんが。)

 

****タイ国会、プラユット氏を新首相に選出 政権運営は困難との予想も****

民政復帰に向けた3月の総選挙を受け、タイ国会は5日深夜(日本時間6日未明)、上下両院の投票で軍事政権のプラユット・チャンオーチャー暫定首相(65)を新首相に選出した。

 

だが、予算案などを審議する下院(定数500)で、親軍政派は計254議席と、反軍政派の計246議席をわずかに上回っているだけで、政権運営は困難も予想される。

 

プラユット氏はワチラロンコン国王の承認を得た後に正式に首相に就任。親軍政派19党による連立政権は6月中に発足する予定だ。

 

投票は、議員が1人ずつマイクの前で支持する候補の名前を言う形式で実施。親軍政派の連立政権加入を決めた党の方針に従えないとして、5日に議員辞職を表明した「民主党」のアピシット元首相らを除く744人が投票した。

 

タクシン元首相派の中核政党で下院第1党の「タイ貢献党」や、第3党の新党「新未来党」など反軍政派7党は、若い世代に人気のタナトーン新未来党党首を首相候補とした。

 

結果は、プラユット氏の500票に対し、タナトーン氏は244票。上院議員(定数250)は軍政に任命されており、プラユット氏が圧倒的に優位な状況下での投票だった。

 

タナトーン氏は、選挙違反についての判断が出るまで憲法裁判所に議員資格の停止を命じられており、投票に参加できなかった。結果判明後の記者会見では「軍政の作ったルールの下での戦いだった。落胆することはない。我らの時代は来る」と強調した。

 

投票前の討論で、親軍派の「国民国家の力党」の議員は、2014年5月のクーデター後、暫定首相を務めてきたプラユット氏について「国を安定に導いた」などと評価した。軍政の強い影響を受ける上院が投票に参加したことについて「これは国民投票で承認された憲法に基づく方法だ」と正当化する議員もいた。【66日 毎日】

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プラユット首相にとって、政権維持の防波堤となる上院については、「お手盛り選任」に非難も出ていますが、どういう形にしろ、「茶番」だろうが何だろうが、軍事政権中枢の傀儡に過ぎないことは最初から分かっていた話で、「今更」の感も。

 

****議員を選ぶ委員、半数超が自ら議員に タイ上院「茶番」****

2014年のクーデターを主導した軍事政権のプラユット暫定首相が新首相に選出されたタイで、上院議員選任の「お手盛り」ぶりに批判が噴出している。

 

事実上、軍政が任命したことに加え、選考委員の半数以上が自身も上院議員に就任していたことが発覚。反軍政派は、憲法に定められた選考委員の政治的中立が守られていないとして、法的手段に訴える構えだ。

 

上院議員250人の名簿は5月に発表され、軍政の元閣僚や軍政幹部の親族ら軍・警察の関係者が数多く含まれていた。

 

選考委員はトップのプラウィット副首相兼国防相だけが明らかにされていたが、批判を受けて今月12日に公表。いずれも軍政関係者で、半数以上が自ら議員になり、残る委員のほとんども親族が議員になっていた。

 

上院議員は5日、3月の総選挙で選ばれた下院議員とともに首相指名選挙に参加。慣例で棄権した議長を除く全員がプラユット氏に投票し、民政移管後の同氏の「続投」に貢献した。

 

タイの英字紙バンコク・ポストは15日、「上院の選任は茶番だ」とする社説を掲げ、一連のプロセスを厳しく批判した。【619日 朝日】

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【政権維持に抜かりはない新政権 強権的安定で経済発展を目指す】

冒頭【毎日】にもあるように、下院での優位がほんのわずかで、しかも19党の連立ということで、プラユット首相の議会運営の今後の困難さが指摘されていますが、プラユット首相・軍部がその気になれば議会運営などどうにでもできる・・・いろんな対処が可能な仕組みにもなっているようです。そのあたりに抜かりはないようです。

 

****タイ親軍政権、基盤固め着々 月内にも組閣、懸念少ない議会運営 ****

軍事クーデターの後、5年余り続いたタイの軍政が6月中にも幕を下ろそうとしている。

 

支持を表明する親軍政党「国民国家の力党」が計19党による多数派工作に成功。国会での首相指名選挙で勝利し、ワチラロンコン国王が承認をしたためだ。月内にも組閣を終え、晴れて「民政復帰」の新内閣がスタートする。新政権に不安材料や弱点はないのかを検証した。

 

数々の布石

2017年の新憲法制定に基づく経過措置として、上下両院の合同会議で選出されたプラユット新首相(前暫定首相)。非議員を首相に選ぶための要件である上下全議員(総定数750)の3分の2のちょうど500票を得て、24年ぶりとなる非民選首相に就任した。

 

軍政が事実上選出した上院(定数250)は、全議席が軍の息のかかった関係者だ。一方、民選で定数500の下院総選挙では、タクシン派のタイ貢献党が単独政党として最多議席を獲得し、連立与党が占めるのは過半数をわずかに超えた程度にすぎない。

 

このため下院の議席数だけを見れば、「薄氷の勝利」「脆弱(ぜいじゃく)な政権基盤」との安易な印象を受けがちだ。

 

だが、政権率いる国民国家の力党のスポークスマンは「選挙違反が事実上野放しになっているこの国で、(タイ貢献党などの)ポピュリズム政党に選挙で勝つのは現状ではまずありえない」と解説し、結果は織り込み済みだったと強調。そして実際に軍政は予防線を幾重にも張り、布石を打ってきた。

 

例えば、政権運営の基礎である予算案について定めた新憲法第143条。下院に先議権がある(同133条)としながらも、上程されてから105日以内に審議を終えなければ下院が承認したとみなす規定を設けた。

 

下院は前党首が軍政に批判的だった民主党のチュワン元首相が議長を務めるが、第1副議長は国民国家の力党。議会運営に懸念は少ない。

 

両院の見解が分かれるなどの場合には院ごとの審査を行わず、上下合同会議に送付できる規定もある(第137、156、271条)。上院の全議席を事実上有する国民国家の力党にとって、仮に連立与党から造反が出たとしても過半数には十分あり余る計算となり、政権運営に不安はないといえる。

 

政権を批判する野党議員を個別に追い落とすことも可能だ。憲法98条は下院議員の失格要件を詳細に定めている。その中には、マスコミ関連企業の株式を持つ者は議員になれないという規定もある。

 

首相指名選挙でプラユット氏と争った新未来党のタナトーン党首は今、まさにこれにより査問を受けている。「有罪」となれば議員の身分を失う。

 

単に蓄財を行ったり、下院議員の倫理に違反したという曖昧な基準だけで、議員の地位剥奪に向けた手続きが行える規定も存在する。国家汚職防止委員会はこうした告発を審査し、最高裁判所政治識者刑事訴訟部に起訴できるほか、憲法裁判所に審査を要請することが可能だ。有罪となればもちろん失職する。

 

あらゆる争訟の終着点に存在するのが、タイの憲法裁判所だ。憲法裁には政党の解党や身分の失職を命じることもできる強い権限が与えられており、仮に異議があったとしても判決は覆せない終審判断となる。

 

先の選挙期間中に、ワチラロンコン国王の姉、ウボンラット元王女を擁立しようとしたタクシン派のタイ国家維持党が、いとも簡単に解党処分を受けたことは記憶に新しい。

 

経済発展か混乱か

さらに、プラユット新内閣を側面から支えているのが、同じ軍人出身の顧問官が過半数を占める枢密院の存在だ。

 

枢密院は法律案や憲法改正案の認可権限を持つ国王に対し、意見を付して奏上できる唯一の機関。法律案などが国会を通過し、90日を経過しても国王が認可しない場合、当該法案などは再審理を求められることになり、ここでも軍出身の政権与党の意向はくまれやすい。

 

プラユット新首相は国王の任命を受けて臨んだ演説の中で、汚職撲滅と格差是正を進める一方で、「国の経済的社会的発展に邁進(まいしん)する」と力強く語った。

 

念頭にあるのは、タイの産業高度化政策「タイランド4.0」や、東部3県の経済特区「東部経済回廊」建設があることは想像に難くない。そしてそれは、万全な政権運営体制の中でさらなる混乱か経済発展かの選択を国民に突きつけ、牽制(けんせい)しているようにも映るのである。【624日 SankeiBiz

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強権支配的な安定のもとで経済発展を・・・という考え方は、プラユット首相やプーチン大統領などに見られる最近の発想という訳でもなく、東アジア・東南アジア諸国の発展の基礎をつくったとの評価もある「開発独裁」に見られる昔からある発想です。

 

いずれにしても、準備万端・・・というか、解党・議員失格も思いのままという状況で、野党側も攻めるのが難しそうにも思えます。

 

【新未来党のタナトーン党首  「軍政を継続させるための憲法」の改正を求める】

その野党、冒頭でも触れたように、反軍政のタクシン派政党は相当にポピュリズム的な政党で、必ずしも自由主義・民主主義だという話でもありませんが(強権支配の親軍政権に比べれば、自由主義・民主主義的とも言えますが)、そうした欧米的価値観に一番近いのは新党ながら第3党に躍進した新未来党でしょう。

 

反軍政側が首相候補にタクシン派貢献党からではなく、新未来党のタナトーン党首を担いだのは意外でした。

タクシン派も、敢えてタクシン派の色合いを出さないようにとの配慮でしょうか。

 

そのタナトーン党首は、軍政側から目をつけられて、マスコミ関連企業の株式を持っているとして議員失格の査問中です。(タナトーン氏は「立候補前に株は売却した」と主張)

 

****「反軍政」へ改憲訴え タイで躍進の新未来党首****

タイの総選挙で反軍事政権を掲げ、新党ながら第3党に躍進した新未来党のタナトーン党首(40)がこのほど、朝日新聞のインタビューに応じた。軍政下で定められた憲法や選挙制度では「民意を反映できない」として、改正を目指して全国で訴えていく意向を明らかにした。

 

同党は、民政移管に向けた3月の総選挙(下院、定数500)で81議席を獲得した。タナトーン氏は6月5日の首相指名選挙で、反軍政派7党の統一候補として軍政のプラユット暫定首相と争ったが、軍政が事実上任命した上院議員250人も投票に加わり、プラユット氏が選ばれた。

 

タナトーン氏は、今回の選挙制度は「いかに軍政を(事実上)継続させるかだった」と指摘。有権者に選ばれていない上院議員の首相選出への関与が問題だとして、これを定めた条項の改正を最優先に位置づけ、改憲を求めていくとした。

 

議会は親軍政派が多数を占めるため、「おそらく議会は通過しない」としながらも、「有権者に何が障害かを示したい」と述べ、全国を巡って憲法改正の重要性を訴える考えを示した。

 

新未来党が支持された理由については「軍政下で抗議行動すら禁じられた状況に人々は怒っており、チェンジ(変化)を求めた」と分析した。

 

一方で、総選挙で親軍政政党も一定の支持を集めたのは「プロパガンダ」によるものだと指摘し、ファクトチェックをする独立した団体をつくる必要があると主張した。さらに「軍の改革をしない限り、軍は(政治に)関与し続ける」として、軍のあり方を変えていく必要性を訴えた。【628日 朝日】

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「チェンジ」はいいのですが、タナトーン党首が失格となれば、変革を求める勢いもトーンダウンしてしまうでしょう。

 

なお、タナトーン党首に対しては、2015年に実施された反軍事政権デモにかかわったとして、総選挙直後に国家平和秩序評議会(軍政)から扇動罪など三つの容疑で告訴されてもいます。

 

プラユット政権側としては、タナトーン党首が邪魔になればいかようにも処分できる・・・というところでしょう。

ただ、それは自由主義でも民主主義でもありません。もっとも、プラユット政権はそんなものは目指していないということでしょう。

 

コメント (1)
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