孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ロシアにおける非民主的メディア統制と抵抗 世界では「民主主義の後退」が進行

2019-06-11 23:03:34 | 民主主義・社会問題

(【116日 SPUTNIK】 英経済誌『ザ・エコノミスト』誌による民主化度調査 濃い緑ほど民主主義、濃い赤褐色ほど独裁的傾向)

 

【ロシア プーチン支配体制でのメディア統制 ジャーナリストからは抵抗も】

豊かさ、幸福度、暮らしやすさ、男女平等・・・等々は、様々な要素が複雑に絡み合った結果ですから、それを数値化することにはもとより無理があります。

 

ただ、無理は承知の上で、一定の条件のもとで抽象的概念の状況を簡単な数値で表すということは、ひとつのアプローチとしては一定に有用でしょう。

 

そこで、英経済誌『ザ・エコノミスト』誌による世界各国の「民主化度」に関する調査です。

 

****昨年の民主化度 ロシアは中国やアフリカ諸国より下、日本は韓国より低く、米国より上に****

英経済誌『ザ・エコノミスト』誌は、2018年の民主主義の水準での世界各国の指数を公表した。

 

世界167カ国での指数は、「選挙と多元主義」「市民の自由」「政府の活動」「政治参加人口」と「政治文化」の5つのカテゴリーにもとづいて算出された。その結果、ロシアは中国やアフリカ諸国より低く、日本は韓国より低いことが判明した。(冒頭グラフ参照)

 

『ザ・エコノミスト』誌の評価に基づき、各国はそれぞれ「完全な民主主義」「不完全な民主主義」「ハイブリッド体制」そして「独裁体制」の4タイプの民主主義に分類されている。

 

このランキングでロシアは、ジブチとアフガニスタンの間に位置し、カザフスタンと同じ144位を占め、「独裁体制」と規定された。

 

その結果、ロシアは、中国やトーゴ、エスワティニ(旧スワジランド)、ジンバブエ、カメルーン、ルワンダ、ニジェール、モザンビーク、ベネズエラ、カンボジア、その他の国々を下回った。このランキングでウクライナは84位で「ハイブリッド体制」となった。

 

日本は22位で、21位の韓国を下回った。米国は25位だった。これらの国々は「不完全な民主主義」に分類された。

 

「完全な民主主義」の国々には、ノルウェーやアイスランド、スウェーデン、ニュージーランド、カナダ、アイルランド、フィンランド、オーストラリア、スイス、 英国、ドイツ、ウルグアイ、モーリシャス、コスタリカ、スペイン、オーストリア、ルクセンブルク、 オランダが選ばれている。【116日 SPUTNIK

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あくまでもひとつのアプローチですが、ロシアの民主化度が低い評価となったこと自体は、妥当性のある結果でしょう。

 

米中覇権争いのなかで、異質な政治体制のもとで成長を続けてきた中国、従来の民主主義の旗手であったアメリカ社会を内部から荒廃させ、変質させるトランプ政治が、世界の民主主義を考える際の問題として強く意識されるようになったため、その陰に隠れる形にはなっていますが、ロシアにおけるプーチン大統領を頂点とする似非民主主義も欧米的民主主義とは異なるものの代表事例です。

 

 

そのプーチン大統領の求心力も、年金改革以来、かつての輝きを失っていますが、その結果、欧米的民主主義の方に近寄るかと言えばそうでもないようで、ロシア独自のいささか屈折した方向に向かっているようです。

 

****独裁者スターリンの胸像設置 ロで新設異例、高まる肯定評価****

ロシア西シベリアのノボシビルスクで9日、第2次大戦での対ナチス・ドイツ戦勝74周年に合わせて、旧ソ連時代の独裁者スターリンの胸像設置式典が行われた。

 

1953年の死後に始まったスターリン批判を受けてロシアでほぼ撤去された像が公共の場で新設されるのは異例。背景には近年高まる肯定的評価がある。

 

胸像の設置は、スターリンを「戦勝に導いた英雄で、戦後の経済復興も実現した」と評価する共産党が推進。公道に面した同党の地元委員会の敷地に設けられた。しかし市民の反対署名が1万人以上集まるなど論争を呼んだ。【510日 共同】

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ロシアの民主主義の危機、プーチン体制の非民主的支配を語る際に常に指摘されるのが、政権側に都合が悪いジャーナリスト(アンナ・ポリトコフスカヤ氏など)や野党指導者(プーチン政権を批判していた野党の指導者ボリス・ネムツォフ元第一副首相など)、政敵、あるいは(政権にとっての)“裏切り者”が次々に暗殺されて消えていくという恐怖です。

 

結果、ロシア国内のメディア、ジャーナリズムはプーチン支配体制に飼いなされたような状況にあり、政権批判などはほとん表に出てこない・・・・と、欧米側には理解されていますが、ロシア国内ジャーナリストに中にあっても、そのようなロシアの現状に対する不満はあるようです。

 

****ロシア有力紙コメルサント、政治部デスクが全員退職 ベテラン記者2人の解雇に抗議****

ロシアの有力日刊紙コメルサントで20日、ベテラン記者2人が解雇されたことへの抗議として政治部デスク全員が退職した。同国のメディア産業では、ほぼすべての新聞社が政府の規制に従っており、今回のような抗議は異例。

 

これに先立つ同日、同紙のグレブ・チェルカソフ副編集長は、経営陣がスクープ記事を書いたベテラン記者2人を退職に追い込んだことを受け、自身を含むコメルサントの政治部デスクの11人が退職すると発表していた。

 

スクープ記事を書いたのは、同紙在籍10年を数えるイワン・サフロノフ、マキシム・イワノフ両記者。記事は先月書かれたもので、ロシアの上院議長が現職のワレンチナ・マトビエンコ氏からセルゲイ・ナルイシキン対外情報局長官に交代する可能性があるとしていた。

 

コメルサントのレナタ・ヤムバエワ副編集長は両記者の解雇について、同紙の編集部員らに対する最近の圧力の一例にすぎないと語っている。

 

反政府活動家らは、ウラジーミル・プーチン大統領は権力の座に就いてからの20年間で批判者を抑圧し、ロシアメディアの大半を政府の管理下に置いたとして同大統領を非難している。(後略)【521日 AFP】AFPBB News

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****ロシア世論、独立系記者逮捕に異例の反発 三大紙が1面に共同声明****

調査報道で知られるロシアの独立系メディアの記者が先週、麻薬密売容疑で逮捕されたことに対し、独立系だけではなく親政権派のジャーナリストらからも釈放を求める声が上がり、当局は世論の異例の反発に直面している。

 

逮捕されたのは、独立系ニュースサイト「メドゥーザ」のイワン・ゴルノフ記者。合成ドラッグのメフェドロンやコカインを「大量に」売ろうとしていた疑いが掛けられており、有罪となった場合には最高20年の禁錮刑が科される可能性があるが、弁護団は事件は仕組まれたものだと主張している。ゴルノフ記者自身は、葬儀業界の疑惑を調査していたために拘束されたと考えている。

 

今回のゴルノフ記者逮捕に対し、ほとんどのメディアが政権筋の見解に従うロシアにしては珍しく、報道関係者らの連帯が生じている。

 

10日にはロシア三大新聞のコメルサント、ベドモスチ、RBKが一斉に1面トップに巨大な文字で「私は/われわれはイワン・ゴルノフ」というメッセージを掲載。政権に対し公然と抵抗する行動に出た。(中略)

 

1面に共同声明を掲載した3紙は、ゴルノフ記者の逮捕は脅迫行為に当たると主張し、同記者を拘束した警官に対する捜査を要求した。

 

新聞を売るモスクワの売店の多くで10日午後の早い時間帯までにこの特別版が売り切れた。3紙はすべて民間企業だが、このところ政権による報道統制の圧力がますます強まっていた。

 

■「一度に一人ずつ」の抗議行動も

(中略)ゴルノフ記者の逮捕については、他のジャーナリストや記者の支援者の間に激しい憤りをもたらしている上、政権に極めて忠実なテレビジャーナリストの中にも同記者を支持する動きが出ている。また米国や欧州連合など国際的にも懸念が広がっている。

 

モスクワ市内の裁判所前には数百人の支援者が集まった。勾留されていたゴルノフ記者は先週末、自宅拘禁に移された。

 

モスクワの警察本部前では7日以降、一度に一人ずつ参加する抗議行動が行われている。これは当局から事前の許可を得る必要がない唯一の抗議方法だ。12日にはゴルノフ記者支援のデモ行進も行われる予定だ。

 

一方、ロシア政府は「過ちを認め」繰り返さないことは重要だと述べたが、警察当局を擁護する姿勢を示している。(後略)【611日 AFP】AFPBB News

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政権に忠実なジャーナリストの心中にも良心の断片は残っている・・・ということでしょうか。

 

【世界における民主主義の後退】

日本を含めた西欧的民主主義国家では、民主主義は問題点は多々あるものの、独裁や強権支配体制より“良い政治体制である”と信じてきましたが、世界的に見た場合の深刻な問題は、非民主的な国々が次第に民主化を進めているというよりは、ロシアに見られるような非民主的な政治が、世界全体で増加しているように思えることです。

 

****世界的に民主主義離れの傾向 崩れ落ちる平和の礎****

9月15日の国際民主主義デーに際し、スイスの政治学者クロード・ロンシャン氏は「現在、世界中でオートクラシー化(独裁化)が広がっている」と警鐘を鳴らす。

 

支配者が権力を独占し、思いのままに行使するこの支配形態は、必ずしも独裁政治に直結するわけではないが、民主主義の崩壊が始まっていることには間違いない。(中略)

 

民主化と相反する「オートクラシー化(独裁化)」という言葉は最近まであまり知られていなかった。しかし研究プロジェクト「バラエティー・オブ・デモクラシー」(V-DEM)がまとめた年次報告書「万人のための民主主義?」の中では、この概念が重要なキーワードになっている。(中略)

 

「オートクラシー化」が急に浮上してきた理由は、2017年に行われたこの調査で178カ国中、24カ国に民主制度の縮小傾向が見られたためだ。これは民主制度が拡大している国の数と同じだった。

 

停滞する民主化の波

ソビエト連邦崩壊後、民主化の波が起こり、東欧の共産主義諸国は自由な市場経済と政治競争が保障される自由民主主義の道を歩み出した。

 

しかし自由は得たものの、多くの国では経済が思うように発展しなかった。明るい未来への展望は、この先に立ちはだかる問題への悲観へとすり替わり、新たに「強いリーダーたち」に希望を求めるようになった。

 

民主制度の拡大・縮小化があった国々を人口の比率で表すと、縮小化が進んだ国の割合の方が高い。この傾向は2016年以降2年連続で見られ、今回は特にその傾向が顕著だ。1970年からの民主主義の発展を表すグラフでも同様の動きが読み取れる。

 

オートクラシー化は弱小国だけに見られる傾向ではないとゲーテブルク大学の調査に参加した民主主義の専門家は言う。2017年には、世界各国の中でむしろ人口の多い国々でこの傾向が強かったという。

 

ナレンドラ・モディ首相が率いるインド、ドナルド・トランプ大統領が率いる米国、ミシェル・テメル大統領が率いるブラジル、そしてウラジーミル・プーチン大統領が率いるロシアがその例だ。これはオートクラシー化がアジア、アメリカ、欧州で広がりつつあることを意味する。

 

独裁政治と隣り合わせ

オートクラシー政権(独裁政権)の典型的な特徴は、自由の抑圧、メディアの監視と制限、そして反対派の弾圧だ。

 

オートクラシー化とは、民主主義の原則に従った国を独裁傾向の政府幹部が統治するようになること意味する。

 

V-DEMの年次報告書には、具体的な調査結果が記載されている。それによると、2017年、最も抑圧されたのは「公の場で個人の意見を述べる自由」だった。「集会の自由」は広範囲で制限され、アンケートに答えた専門家らが最も危惧しているのは、科学分野での規制が出始めていることだった。

 

またそれに並行して、オートクラシー主義者は法治主義を縮小する傾向にある。そうなると裁判所の独立性や国際法の考慮といった側面が危ぶまれることになる。この二つは民主主義制度の中でも特に重要、かつデリケートな構成要素だ。

 

選挙は改善するも民主主義には至らない

選挙の発展に関して言えば、年次報告書の著者らはそこまで悲観的に見ていないようだ。国際的な研修制度や監視活動が実を結び、選挙は以前と比べはるかに公正に行われるようになった。

 

問題は、メディアに自由が許されていない点だ。メディアは上から圧力を掛けられるか、意見の形成が人為的に操作されてしまう。

 

選挙を正しく行うだけでは民主的な環境を保障できないことはよく指摘されている。そのためには憲法で守られた市民権と議会が政府を監視できる枠組みが欠かせない。

 

だが正にこれがネックになっている。その結果、最悪の場合には民主的な権利を持つオートクラシー政権か、あるいは専制君主を持つ民主主義が台頭することになる。

 

自由民主主義から完全な独裁制へ

同報告書では専門家が世界178カ国を均一に評価し、4段階に分類した。

 

完全な民主主義:選挙制度が整い、自由と平等が保障され、市民が積極的に政治に参加し、社会がうまく機能している状態。39カ国(世界人口の14%)はこの条件を完全に満たしていた。

 

選挙だけの民主主義:公正な選挙は行われているが、自由民主主義に特徴的な条件は一部しか満たしていない。56カ国(世界人口の38%)が該当。

 

選挙だけのオートクラシー: 選挙は行われているが、おおむね理不尽で不公平な社会を正当化するために利用されている。56カ国(世界人口の23%)がこの段階にある。

 

完全なオートクラシー: 選挙は行われるが、表面的な意味しか持たない。自由が保障されず、二大政党制のような民主主義的機構やメディアの独立性に欠ける。27カ国(世界人口の4分の1)がこの段階に分類された。

 

民主主義かオートクラシーの二つに大きく分けると、昨年の時点で95カ国が民主的国家に分類された。つまり世界人口の約半数強が民主主義と関係する国家で暮らしていることになる。(後略)【2018914日 swissinfo.ch

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****民主主義の後退正統性の礎を失う世界****

気がついたら、民主主義が後退していた。

まず、プーチン政権のもとのロシアでは、大統領選挙で選ばれるという外形こそ保っているものの、立法府による行政権力の統制が弱まり、司法の独立も損なわれた。政府の批判は弾圧され、ジャーナリストが暗殺された疑いも生まれている。ロシアの議会制民主主義は形骸化した。

 

エルドアン大統領のもとのトルコでも、やはり大統領選挙や議会選挙が行われているとはいえ、憲法改正によって大統領に権力が集中し、立法と司法の役割は低下した。ロシアと同様にトルコでも、民主政治は形だけのものとなった。

 

民主化が後退する一方で、権威主義体制における社会統制は強化された。中国では長期拘禁が繰り返され、中国出身の国際刑事警察機構(ICPO)前総裁孟宏偉は行方不明となったまま国家監察機関の取り調べを受けていると伝えられている。

 

新皇太子のもとで専制支配が強まったサウジアラビアでは、現体制に批判的な報道を続けたジャマル・カショギはイスタンブールのサウジ総領事館に入ったまま行方不明となり、総領事館のなかで殺害された疑いが持たれている。

 

スタンフォード大学のラリー・ダイアモンド教授がその著書「民主主義の精神」において民主主義が世界的に後退していると指摘したのは2008年のことだった。

 

この指摘を受けて英「エコノミスト」誌は民主化指標を毎年発表してきたが、2017年のデータも含めた最新版でも民主主義の後退を指摘している。(中略)

 

アメリカ政府の役割も変わった。ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、さらにバラク・オバマと、3代のアメリカ大統領はいずれも民主化支援をアメリカ外交の柱の一つに掲げてきた。

 

世界の民主化を進めるというアメリカの自画像は誇張と厚かましさがともなうとはいえ、たとえばミャンマーにおける民政移管においてアメリカの果たした影響は無視できない。

 

だがトランプ政権は、ドイツやカナダなど民主的な同盟国と衝突する一方で、ロシア、サウジアラビア、さらに北朝鮮などの民主主義とはほど遠い諸国との間では友好的な首脳会談を行っている。権威主義体制の支配者を外交の相手に敢(あ)えて選んだかのように見えるこの外交姿勢ほど民主化支援政策の後退を明示するものはない。

 

アメリカによる民主化支援政策の後退は、世界規模における民主主義の後退、さらに権威主義体制の相対的な安定という現実に対応した外交政策の転換であった。

 

理念ではなく実利に基づき、どのような国や政権が相手であっても、外交交渉を通じて自国にとって有利な成果を獲得することを目指す。際だってクラシックな国際政治の認識がここにある。

*

私は、民主主義の政治的な表現は、指標に集約しがたい多様性があると考える。世界各国の民主化がアメリカ外交のために達成されたとも思わない。それでもなお、民主主義の後退と権威主義体制の安定という国際政治の動向には懸念を持たざるを得ない。

 

それは民主主義が法の支配と国際関係の安定の基礎にあるからだ。どれほど多様であっても民主主義は政治権力の正統性の基礎であり、どれほど紛争を伴ったとしても民主主義を共有する諸国は国際体制のなかにおける紛争解決を模索してきたのである。

 

権威主義体制が優位となった世界では、そのような正統性も国際体制の安定も期待することはできない。権力闘争と力の均衡の支配する古風な国際政治の復活が、つい目の前に迫っている。【20181022日 藤原 帰一氏】

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多くの側面から論ずべき問題が多い「民主主義の後退」という現象ですが、とりあえず今日はここまで。

コメント (2)
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