孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン  デモ隊強制排除で混乱拡大 「アフリカの天安門事件」とも

2019-06-05 22:51:15 | アフリカ

(スーダンの首都ハルツームを走行する治安部隊の車両(2019年6月4日撮影真)【6月5日 AFP】)


【統制のとれた抗議行動でいったんは合意成立】

アフリカ・スーダンでは、約4カ月間の市民の大規模反政府デモの結果、30年に及ぶ独裁支配を続けたバシル大統領(75)が411日、軍部のクーデターによって失脚しました。

 

その後、従来同様の軍による統治を目指す暫定軍事評議会と、文民統治を求める市民勢力の綱引きが続いていることは、510日ブログ“スーダン バシル失脚後の今も続く軍と市民の緊張 抗議行動の前面に立つ女性たち”で取り上げました。

 

上記ブログでは、市民勢力の抗議行動が(失礼ながら)アフリカ・スーダンのイメージとは異なり、市民自身のコントロールがよく機能して、秩序が維持されていること、また、これもイスラム国のイメージとは異なり、女性が前面に出た抗議行動が展開されていることを取り上げました。

 

こうした民主化を求める市民勢力の、軍部の介入を招かない秩序だった、粘り強い交渉が奏功して、一時は“成果”を出すかのようにも見えました。

 

****民政移行期間3年で合意、スーダン軍事評議会とデモ指導者ら****

スーダンで長期政権を崩壊させた軍事クーデター後に設置された暫定軍事評議会と、文民政権への速やかな移行を求めてきた反政府デモの指導者らは15日、完全な民政移管まで3年の移行期間を設けることで合意した。

 

一方で、新たな暫定統治機構をめぐる交渉はまだ終わっていない。
 
オマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領の失脚により、30年間続いた強権支配に終止符が打たれた。デモ側は文民主導の体制移行を求めているが、前大統領を打倒した軍事評議会が統治する状況が続いている。

 

軍事評議会メンバーのヤセル・アタ中将は、新たな暫定統治機構となる統治評議会の構成などで権力を分担するとの最終合意書が、デモを主導する民主化勢力の一派「自由・変革同盟」との間で今日中に締結されると述べた。

 

また、3年とされる移行期間の初めの6か月間で、ダルフールや青ナイル、南コルドファンといった紛争地の反政府勢力と和平協定を締結するという。

 

当初、軍事評議会は移行期間を2年とすることを強く主張し、一方、デモ側は4年を要求していた。

 

移行期間の年数についてはこれで合意に至ったものの、統治評議会の構成に関する重要な交渉は残ったままだ。軍事評議会は軍主導の評議会を主張しているが、デモ指導部側は過半数を文民とすることを求めている。

 

民政移行への流れとしては、現在の軍人のみから成る暫定軍事評議会に代わり、新たな暫定統治機構として統治評議会が発足された後、さらに暫定文民政権が発足されて国務を行う。

 

移行期間の終わりには、バシル前大統領失脚後初の選挙が実施される予定で、暫定文民政権はこれに向けて準備を進めていく。 【515日 AFP】AFPBB News

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“軍事評議会は移行期間を2年とすることを強く主張し、一方、デモ側は4年を要求”というのは、通常とは逆のような感じもしますが、軍部としては民主化勢力の選挙態勢が整わないうちに、軍部の影響力が及ぶ勢力が主導する形で“見せかけの”文民統治へもっていこうという思惑でしょうか。

 

【軍主導を譲らず、混乱状態へ】

しかし、結局は文民統治に消極的な軍部の考えを覆すことはできなかったようです。交渉はこの合意直後に暗礁に乗り上げます。

 

****スーダン軍事評議会、民政移行の協議を中断***

先月長期政権が崩壊したスーダンで、反政府デモの指導者らと民政移行について協議していた軍事評議会は16日、交渉を成立させるためにはさらに時間が必要だとして協議を中断した。この間、首都ハルツームでは治安状況が悪化している。

 

スーダンを長年、強権支配してきたオマル・ハッサン・アハメド・バシル前大統領の失脚後、文民政権への移行に伴う新たな暫定統治機構の構成は最も厄介な問題となっている。

 

軍事評議会と反政府デモの指導者らは、今後3年間の暫定統治機構に関する最終合意書を15日に決定する予定だった。

 

しかし、ハルツームの軍本部前で行われているデモ隊の座り込みのそばで発砲があり、少なくとも8人が負傷したとの情報が入り、暫定軍事評議会の議長を務めているアブデル・ファタハ・ブルハン大将は交渉を72時間休止すると発表した。

 

ブルハン大将は交渉再開の余地を残した一方で、反政府デモの参加者らに対し、ハルツーム市内のバリケード撤去や首都に出入りする橋や鉄道の再開を要求。さらに「治安部隊との衝突を誘発しないよう」求めた。さらに「反政府デモの中に武装した参加者が紛れ込んでおり、治安部隊に発砲している」と付け加えた。 【516日 AFP】

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“デモ隊の座り込みのそばで発砲”というのが、どのような勢力によって行われたのかは定かではありませんが、これを契機(あるいは口実)として軍部は反政府デモ勢力を力で排除する方向に動きます。

 

****軍がデモ隊に発砲、13人死亡=首都に治安部隊展開―スーダン****

軍事評議会が統治するスーダンの首都ハルツームで3日、治安部隊が軍本部前で座り込みを続けるデモ隊排除のため発砲し、現地の医療団体によると、市民13人が死亡した。(中略)

 

デモを主導する団体は「血なまぐさい虐殺だ」と軍を非難。軍政側と民政移管に向けて続けてきた協議を今後は打ち切ると表明した。

 

これに対し、軍事評議会は「強制排除の事実はない」と反論。「座り込みの隣に集まっていた反社会集団を捕らえようとしたら、座り込みの方へ逃げた。座り込んでいた若者たちが自分の考えで立ち退いた。テントはまだある」と主張した。【63日 時事】

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【暫定軍事評議会 合意破棄、9か月以内に選挙 重武装政府系民兵組織配置で死傷者拡大】

暫定軍事評議会は515日の合意を破棄し、自らの主導で9か月以内に選挙を実施することを発表。

デモ参加者30人が死亡するなど混乱も急速に拡大しています。

 

****スーダン暫定軍事評議会 「デモ指導部との合意破棄、9か月以内に選挙実施」****

スーダンのアブデル・ファタハ・ブルハン暫定軍事評議会議長は4日、民政移行を求めるデモ指導部との合意を破棄し、9か月以内に選挙を実施することを決めたと述べた。

 

首都ハルツームでは3日、軍本部前で数週間前から座り込みを続けていたデモ隊が強制排除され、デモ参加者など少なくとも30人が軍による発砲などで死亡した。

 

ブルハン議長は4日未明に国営テレビで放送された声明の中で、「軍事評議会は、民主化勢力の一派『自由・変革同盟』との交渉をやめ、これまでの合意を破棄するとともに、9か月以内に総選挙を実施することを決めた」と述べ、選挙は「地域と国際社会の監視」のもとで行われると付け加えた。

 

スーダンでは、オマル・ハッサン・アハメド・バシル大統領の強権政治に対する抗議が数か月間続いた後、暫定軍事評議会が4月にバシル大統領を失脚に追い込んだ。

 

その後暫定軍事評議会は、文民政権を樹立するため3年の移行期間を設定し、定数300の議会を設けて議席の約3分の2をデモ実施勢力から、残りをそれ以外の政治勢力から選ぶことで合意していたが、交渉は520日から中断していた。

 

3日にデモ隊から死者が出たことを受けて、自由・変革同盟は「クーデターを起こした暫定軍事評議会とのすべての政治的接触と交渉の終了」を発表した。

 

ブルハン議長は、デモ隊の強制排除で死者が出たことについて暫定軍事評議会は検事総長に調査を依頼すると述べた。 【94日 AFP】

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こうした混乱を、欧米メディアのなかには、同様に民主化要求を軍事的に排除して多数の犠牲者を出した中国の天安門事件になぞらええて「アフリカの天安門事件」と呼ぶものもあるようです。

 

この混乱について、暫定軍事評議会は強制排除実施時の不手際によるものだとして遺憾の意を表していますが・・・

(数日前までは「強制排除の事実はない」とも言っていましたが・・・)

 

****反政府デモのスーダン専門職組合、暫定軍事評議会の選挙プランを拒否 緊張続く****

スーダンの暫定軍事評議会が、3年間の民政移行期間を設けるとした反政府デモ指導部との合意を破棄して9か月以内の選挙の実施を決めたと4日に発表したことに対し、反政府デモを主導してきたスーダン専門職組合は同日これを拒否した。

 

同組合は「全面的な市民的不服従」によって暫定軍事評議会を打倒しようと支持者に呼び掛けた。

 

首都ハルツームでは3日、軍本部前で数週間前から座り込みを続けていたデモ隊が強制排除された際に多数の死傷者が出た。死者の数はこれまでに40人近くに上っている。

 

この事態について、暫定軍事評議会は強制排除実施時の不手際によるものだとして遺憾の意を表したが、スーダン専門職組合は「虐殺」に当たると主張している。

 

ハルツーム全域では緊迫した状態が続いており、重武装した政府系民兵組織「即応支援隊」の要員が多数動員されている。3日の強制排除の背後で動いたのは主に即応支援隊だったと考えられている。

 

ハルツーム一帯で治安対策が強化され、インターネットも利用できなくなっているにもかかわらず、一部地域の住民らはイスラム教の断食月「ラマダン」明けの祭り「イード・アル・フィトル」を1日早く祝い、また抗議デモをするために屋外に出ている。

 

スーダン専門職組合は、イード・アル・フィトルの祈りを4日に行って、デモで亡くなった人たちを追悼するとともに平和的な抗議行動をしようと呼び掛けていた。 【65日 AFP】AFPBB News

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“重武装した政府系民兵組織”・・・・軍の直接関与を避けながら、力の行使する際の常とう手段です。

正規の軍でないだけに、残虐行為がほとんど不可避的に発生します。(軍はそれを黙認することで、力による排除が進行します)

 

200万人の死者、400万人の家を追われた者、60万人の難民が発生している【ウィキペディア】とも言われ、「世界最悪の人道危機」とも称されたダルフール紛争で虐殺を行ったのもアラブ系民兵組織でした。

 

デモ隊を軍が強制排除した際の死者は少なくとも60人に上るとも。【65日 CNNより】

混乱は首都ハルツームだけでなく、全国に拡大しているようです。

 

****スーダン治安部隊が組織的に病院襲撃、レイプも 医師らが訴え****

スーダンの医師らは4日、同国の治安部隊が各地で病院や医療従事者を襲撃していると非難し、首都ハルツームの軍本部周辺では複数の女性がレイプされたと主張した。

 

スーダン医師連合に所属する医師の一人は、英ロンドンの王立病理学会で記者会見を開き、「彼ら(治安部隊)は権力を掌握して以来長年にわたり、スーダン各地で病院を襲撃してきた」「病院は組織的な襲撃を受け、医療従事者が容赦なく殴られてきた」と明らかにした。

 

特にダルフールやヌバ山地、青ナイルといった地域で被害が大きいという。

 

この医師はさらに、「この状況を継続させるわけにはいかない。現在スーダンで起きていることを食い止めるため、国際社会のレベルで圧力をかけるか、行動を起こすことを求める」と述べた。 【65日 AFP】

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病院襲撃、レイプ・・・(失礼ながら)いかにもスーダン的な様相を呈しています。

 

“(暫定軍事評議会議長の)ブルハン氏は3日に死亡したデモ参加者らを「殉死者」と呼び、「遺憾」の意を表したが、軍の責任には直接言及しなかった。検事総長による捜査を約束する一方、市民に「許しの精神」を示すよう呼び掛けた。” 【65日 CNN】

 

軍が「遺憾」の意を表している分、むき出しの暴力が横行したダルフール紛争当時からは“進歩した”、“軍も変わった”と考えるべきなのでしょうか?

 


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