孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ジンバブエの経済・政治を破綻させた黒人化政策・人種対立扇動 同じ轍を踏む懸念の南アフリカ

2018-08-08 22:46:09 | アフリカ

(1日、ジンバブエ・ハラレの野党、民主変革運動(MDC)の本部前で、支持者をたたきつける兵士ら【8月2日 共同】)

【「結局、クロコダイルはクロコダイルでしかなかった」】
アフリカ南部・ジンバブエの大統領選挙は、独裁者ムガベ退陣後の初の選挙として注目されました。

ただ、これまでも選挙が公正に行われず、暴力で選挙結果が覆されるような過去があること、今回選挙の事前予測で与野党候補が接戦を演じているだけに、どちらに転んでもすんなりとは結果が受け入れられそうにないことから、選挙後の混乱も懸念されていました。
(8月1日ブログ“ジンバブエ  大統領選挙の開票進む 混乱の可能性もぬぐえず、緊迫した状況に”)

結果は周知のように、現職ムナンガグワ氏が50.8%、対立候補で最大野党「民主変革運動」のチャミサ議長は44%と、ムナンガグワ氏勝利が発表されています。

しかし、野党・チャミサ議長側はこの結果発表を「ウソだ」として受け入れず、懸念されていたように抗議行動が激化、これに対し当局側が“ムガベ時代”と同じように厳しく鎮圧、デモ隊への兵士の発砲により6名の死者を出すところとなっています。

“チャミサ氏側は、ムナンガグワ氏側が選挙の不正を行ったとしてこれを強く非難、あらゆる手段に訴え戦っていく旨公言している。野党側は選管による記者会見の席上、法律の規定に反し野党側が開票作業を検証することができなかった、と非難したが、これを報じるテレビ番組は直ちに中国映画の放映に切り替えられた。”【8月8日 WEDGE】

“選挙の不正はこれから徐々に明らかになっていくだろうが、例えば今回、23名の候補者を名簿に記載するに際し、15番目のムナンガグワ氏の名前が「偶然にも」第二列目トップに記載され、有権者の目につきやすいよう工夫された、投票済用紙を軍が開票所まで運んだが、正しく運搬されたかどうか疑問だ、等と指摘されている。”【同上】

また、大統領選挙の結果発表が非常に遅れたことも、野党側の「結果を不正に操作している」との疑念を深めることにもなっています。

勝利したムナンガグワ大統領は、国民融和を訴えてはいますが・・・・。

****ジンバブエ大統領が会見「一致団結しよう****
アフリカ南部・ジンバブエの大統領選挙で勝利したムナンガグワ大統領が3日、当選後初めての会見を開き、国民に対し一致団結するよう求めた。

ムナンガグワ大統領「落ち着いた行動をとり、一致団結しよう」

さらに、ムナンガグワ大統領は、選挙で不正があったと訴える対立候補だった野党のチャミサ党首に対し、「国の現在と将来に重要な役割を担っている」と協力を求めた。

一方のチャミサ党首は、これに先立ち開かれた会見で、選挙の結果は受け入れられず、不正の証拠があるなどとして異議申し立てを行う構えを見せている。

チャミサ党首の会見場では、警察が集まったメディアを一時排除するなど、首都・ハラレでは緊張も続いていて、イギリスメディアは政情不安が今後も続く可能性を指摘している。【8月4日 日テレNEWS24】
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一方で、政権・当局は野党側への弾圧を強めています。

****ジンバブエ大統領選後に「公の場で暴動」、野党メンバー24人を起訴****
ジンバブエの大統領選挙で敗れた野党のメンバー24人が4日、投票に不正があったと訴えるデモの最中に「公の場で暴動」を起こした罪で起訴された。(中略)
 
ムナンガグワ氏は(最大野党)MDCが暴動を扇動したと非難しているが、デモ参加者らの殺害について第三者委員会を立ち上げ、調査する意向を示している。
 
(与党)ZANU-PF事務所の窓を壊し、車両に火を付けたとして「公共の場での暴動」の罪で起訴された男性16人と女性8人の野党メンバー24人は4日、裁判所に出廷。メンバーらは6日に行われる保釈聴聞まで再拘束されるという。

ただ、被告側の弁護士は、24人が警察のMDCに対する「日和見的な捜査」によって拘束されたと主張している。
 
ムナンガグワ氏は先月30日の選挙について、「自由かつ公正で、信頼できる選挙」であり、ジンバブエの国際的な孤立に終止符を打つ新しいスタートだと称賛。国際監視団は投票が平和的に行われたと評価した一方、欧州連合の団体からは公共放送などでムナンガグワ氏に関する報道が偏って伝えられ、同氏が有利な立場にあったという声も上がっている。【8月5日 AFP】
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公共放送が与党側に有利に利用されるのは多くの国で見られることで、野党側にはその不利をはね返す力量が求められますが、集計が不正に操作された・・・という話になると論外です。ただ、そのあたりの真相はわかりません。

わかりませんが、ムナンガグワ氏がムガベ時代には“側近・右腕”として野党弾圧・不正選挙を指揮する立場にあった人物だけに、選挙後の強権的な鎮圧行動も含めて、「一致団結しよう」と言われてもなかなか・・・・。

****クロコダイルの異名を持つ男の「黒すぎる経歴****
(中略)他方、開票後、デモ隊の鎮圧にあたった軍の対応は凄惨を極め、投石する群衆に軍は容赦なく発砲を繰り返した。中には背後から撃たれ死亡した者もおり、軍が逃げ惑うデモ隊に向け銃を発射したことが窺われる。
 
何と言っても、ムナンガグワ氏はムガベ前大統領の下で37年にわたりその右腕として活躍した人物であり、副大統領、国防大臣、秘密警察長官等、常にムガベ政権の要職にあった。

ムガベ前大統領治世下において多くの虐殺事件や選挙の不正があったことが知られているが、その責任者がムナンガグワ氏であったことは疑いない。

その非情ともいえるやり方に国民は「クロコダイル」のあだ名を付け恐れた。欧米メディアは「大統領はムガベ氏からムナンガグワ氏に代わったがジンバブエの強権体質はそのままだ。結局、クロコダイルはクロコダイルでしかなかった」(南ドイツ新聞)という。
 
国連はジンバブエの人権侵害に対し制裁を行っているが、ムナンガグワ氏が盛んに「ニュージンバブエ」を強調するのも、制裁解除と資本流入を狙ったパフォーマンスと見られている。

しかし今回の選挙を通し、結局、ムナンガグワ氏の強権的、抑圧的体質が露呈することになった。【8月8日 WEDGE】
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ジンバブエを混乱に陥れた黒人化政策と人種対立扇動
ジンバブエの混乱の背景には、天文学的数字に及んだハイパーインレーションに象徴される経済破綻があります。
その失政を認めず、批判勢力を力で封じ込めようとするところからムガベ時代の政治混乱も起きています。

ムガベ時代の経済失政は、白人所有農園の強制的接収という強引な黒人化政策にあったとされています。

****ジンバブエ:煽られる人種対立 ****
ジンバブエはアフリカ南部の内陸国で、南アフリカの北、コンゴの南にある。この国はかつて、アフリカ有数の安定した国だった。現在まで大統領を務めているロバート・ムガベは、アフリカで最も希望が持てる指導者の一人といわれていた。

ジンバブエは今から110年ほど前、イギリスによる支配が始まった。その後、植民してきたイギリス人ら白人は、もともと住んでいた黒人から肥沃な土地を奪い、タバコ栽培や牧畜を行う農場にした。

人口のほとんどは黒人であるため、独立して黒人中心の国を作る運動が1960年代に起きた。宗主国イギリスは黒人国家の独立を認めようとしたが、農場を経営する地元の白人たちは武装して政権を手放さず、1965年に独立宣言をして「ローデシア」を建国した。
 
周辺国は次々と黒人国家として独立する中で遅れを取ったわけだが、それが後になってプラスに働いた。周辺国のうち、農場主や行政官だった白人を独立時に追い出したところは、独立後の政府が未経験なため、政策で失敗する場合が多かった。

反対に少数派の白人政権が黒人を弾圧し続けた南アフリカは、冷戦後になって白人が政権を手放さざるを得なくなった。
 
ジンバブエも1979年までの14年間は白人政権が続き、アパルトヘイト同様、黒人は抑圧されていたが、この間ゲリラ戦闘を続けていた黒人勢力は、イギリスの支援もあって、白人を追い出さないことを条件に政権を譲り受け、国名を「ローデシア」から「ジンバブエ」に変え、改めて黒人中心の国として独立した。

この時の指導者の一人がムガベで、その後20年間、実質的に最高権力者の座を維持してきた。
 
人口1200万人のジンバブエで、白人は1%以下の7万人しかいないが、農地の6割は今も白人の農場で、黒人就労人口の1割を白人農園が雇用している。

白人の農場を没収しなかったことで、独立後もタバコを中心とする農産物の輸出を順調に続けることができた。

ジンバブエは、アフリカで黒人と白人が和合している数少ない国の一つで、隣の南アフリカがアパルトヘイトから脱却するためのモデルと考えられていた。

▼権力を守るため人種対立を煽る
ところが最近ジンバブエでは、この特長が新たな対立の火種となっている。かつて模範的な指導者といわれたムガベの政策は今や失敗し、経済は破綻したが、それを批判する国民の目を他にそらすため、白人と黒人の対立をことさらに煽り、白人農園主が何人も殺されることになった。

国家運営に失敗したら、民族対立や地域格差を煽って政治生命を維持するという、指導者の「定石」が展開されている。
 
ジンバブエは独立時の取り決めで、白人農園主から政府が土地を市場価格で買い取り、それを黒人の貧しい人々に再分配する計画だった。

だが独立後、数年間の好景気時代が過ぎると、鉱物資源の相場が下がったり、政治家の人気取りのための無理な建設事業を続けたりしたため、財政が悪化し、白人から土地を買う予算がなくなってしまった。
 
政策のまずさを野党などから批判され出した1990年、ムガベは批判をかわすため、白人から黒人への農地の移転を加速すると表明し、イギリスやアメリカ、国際機関などから資金を借り、白人の農場を政府が購入して黒人に分配した。 (中略)
 
だが、土地の配分を受けた黒人農民の多くは、輸出できる水準の作物を作るにはどうしたらいいか、という営農技術を何も教えてもらえないまま、土地だけ与えられたため、土地利用の効率は下がった。農民自身が消費する作物を作るだけの土地が増え、農産物の輸出が減ることになった。
 
その後、優先的に土地の分配を受けた人の多くが、ムガベ大統領や政府高官の親族や関係者だったことが新聞で暴露された。これを機にイギリスなどは、ムガベ政権が白人の土地を買うための資金の融資を渋り出した。

▼生活水準は独立前より下がった
窮したムガベ大統領は「イギリスの植民地となり、黒人が先祖代々耕してきた農地を白人に奪われたとき、黒人は何の補償も受けられなかった。だから今、白人が独占する農地を没収して黒人に返しても、ジンバブエ政府は何も補償する義務はない。白人が補償を求めるとしたら、その相手はイギリス政府になるはずだ」という主張を始めた。
 
この問題は、ジンバブエの独立が承認された際、ムガベを指導者とする黒人勢力と、白人農場主の勢力、イギリス政府の三者間で、独立後に白人が所有する農場を没収せず、市場価格で買い取るという合意ができていた。それに反する主張だったため、英米はジンバブエに対する支援を打ち切った。
 
1997年には、国際金融危機の影響でジンバブエの通貨も急落して外貨が底をつき、ムガベはIMFに支援を求めたが、土地問題での譲歩を拒否したため、断られた。

外貨の裏付けがないままお札を刷り続けたのでインフレがひどくなり、失業率も7割に達した。国民の平均所得は、20年前の独立当時より3割も下がってしまった。
 
1999年後半、ムガベは憲法の改訂を提案した。「政府は白人の土地を没収できる」という条項を加えることが改訂の主眼だと宣伝されたが、本当の目的は別のところにあった。改憲には、大統領経験者が一生逮捕されない権利など、自らの権力を強化する項目が、いくつも盛り込まれていた。
 
(中略)ところが、2000年2月の国民投票で、憲法改訂は55%の反対で拒否されてしまった。国民は、土地を配分するというムガベの約束を、もはや信じなくなっていた。(中略)

▼暴徒と化した独立戦争の英雄たち
投票結果が判明した後、ムガベはテレビで敗北宣言をしたが、実はその裏で、次の策略が始まっていた。この後、黒人の農民たちが白人農場に押し掛けて占拠する事件が頻発したのである。
 
全ての白人農場の25%にあたる約1000ヵ所の農場に、黒人農民が押し掛けたが、群集を率いていたのは、白人政権時代の1970年代にゲリラ戦に参加していた黒人たち、つまり独立戦争の英雄たちだった。

彼らの登場には、テレビニュースを見る国民に「黒人国家ができたときの感動を思い起こし、白人の植民地主義者を追放しよう」という民族主義を煽るムガベの意図が見えていた。
 
彼らは自発的に農場を襲ったと見せかけていたが、乗ってきたトラックは与党の所有だったし、農場内に居座った後で食料を配りにきたのは軍のトラックだった。(中略〉

最初はクワや棒しか持っていなかった黒人農民たちの中に、何週間かすると銃を持った人々が混じるようになった。2月末に始まった農場占拠は、4月になって各地で殺傷事件に発展し、十数人の白人が殺されるに至った。 (後略)
【2000年5月1日  田中 宇】
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ジンバブエと同じ轍を踏むことも懸念される南ア
今、このジンバブエのたどった道と同じような選択をしようとしている国があるようです。
アフリカ最大の経済力を有し、故マンデラのもとで国民和解を実現しようとしていた、ジンバブエの隣国・南アフリカです。

****白人の農地を無補償収用 南アの土地改革は混乱必至****
憲法を改正してまで黒人への土地再配分を目指す 与党の動きに白人系野党の反発が高まっている

南アフリカにある白人農場経営者の土地を、補償なしで収用できるように憲法を改正しよう。
そんな南ア政府の姿勢に、白人系の野党・民主同盟(DA)が反発を強めている。
 
与党・アフリカ民族会議(ANC)はかねてから、少数派の白人が所有する土地を黒人に再配分する政策を進めている。しかしアパルトヘイト(人種隔離政策)終了から今日までに、白人から黒人に所有権を移転できた土地は全体の約10%。当初目標の3分のIにすぎない。
 
問題は、土地の再分配が現行の法律で認められるかどうかだった。ラマポーザ大統領は7月31日にこの点を明確にする必要があると語り、憲法第25条の改正を進めると発表した。「補償金なしで土地を収用することについて、憲法による明確な規定を国民が望んでいることは明らかだ」
 
隣国ジンバブエでは00年以降に白人の土地の強制収用が行われたが、暴力の連鎖と経済の破綻につながっただけだった。野党陣営は、南アも同じ轍を踏む恐れがあると懸念している。
 
DAに言わせれば、政府の方針は経済成長と雇用を損ない、「南アフリカ経済の行方を混乱させる危険な賭けだ」。(中略)

反白人政党は政府に賛同
ウェスタン・ケープ大学で貧困と土地と農業に関する研究チームを率いるベン・カズンズ教授によれば、ラマポーザがこの時期に憲法改正を発表した目的は、左派政党の「経済自由の戦士(EFF)」から主導権を奪い、国内の黒人の総意に沿う姿勢を示すためだ。

「ラマポーザが与党内、とりわけズマ前夫統領寄りの派閥から圧力を受けていることは明らかだ。実際、彼には他の選択肢がなかった」
 
白人の農場経営者らは、自分たちが暴力行為の標的になり、土地を追われようとしていると訴える。実際、EFFのジュリアス・マレマ党首は支持者に、土地を略奪するよう呼び掛けている(ちなみにEFFは大統領の憲法改正発言を、政府が「基本に立ち返った」ものとして歓迎している)。(中略)
 
カズンズによれば、土地の収用方法が劇的に変化するかどうかは改正憲法の文言次第だ。「現時点では、土地収用は法的な異議申し立てや調査が可能であることを条件に、ケースバイケースで行う必要がある。ANCの主張もその範囲だから、そのままなら大問題にはならない」と彼は言う。

「もしも一方的な土地収用の動きが出て、国がそれを抑えることができなくなったら、最終的に大混乱になりかねない。だが現時点ではそこまでの状況ではない。必要なのは法で明確に定めることだが、与党はそれができていない」(後略)【8月14日号 Newsweek日本語版】
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ジュリアス・マレマのような「黒人第一」を主張する扇動家に、南ア政治全体が押し流されていきそうな状況です。
ただ、マレマの主張が国民に受ける背景、人種間の経済格差が一向に改善しないという現実に対しては、改善のメスを入れる必要があります。

ちなみに、黒人化政策を強行したムガベも国際的批判にもかかわらず、南アでは大人気だったようです。
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