孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イタリアのEU懐疑派政権誕生で、EU・ユーロに迫る“骨抜き”“静かな崩壊”の危機

2018-08-05 22:09:28 | 欧州情勢

(移民排斥を訴える右派政党を率いるイタリアのサルビーニ内相【7月6日 WSJ】
同氏は「ベルリンの壁を壊すのは不可能だと思われていた。われわれはブリュッセルの壁を崩壊させる」とEUの行政の中心地に言及しています。)

難民問題の過大な負担を拒否するイタリア新政権誕生で、深まる難民問題を巡るEUの苦悩
イタリアでポピュリスム政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権が誕生したことで、EUの難民政策は今まで以上に難しい対応を迫られています。

****難民問題を何とか乗り切ったEU首脳会議****
地中海で629人の難民を救助したNGOの救助船がイタリアとマルタに入港を拒否され、漂流するという事件があった。

イタリアの動きは、新政権でマッテオ・サルヴィーニが内相に就任して初めての反移民の動きである。

しかし、EUが大きな難民問題の危機に目下直面しているわけではない。むしろ、難民の流入は 2015年10月のピーク時に比して96%減少している。

しかし、難民を巡る政治は全く別の問題というわけである。きっかけは他の加盟国で難民申請を済ませた難民のドイツへの流入阻止を巡る、ドイツのメルケル首相とゼーホーファー内相の対立にある。

メルケルは、国境閉鎖というゼーホーファーの一方的措置は各国による国境閉鎖の連鎖に繋がるとして反対した。この対立がメルケル政権の崩壊につながる危険すら指摘される状況で、いわばメルケルを窮地から救助すべき政治的要請があった。

他方、イタリアの新政権は難民の排除を公約とし、難民問題の過大な負担を一国で担うことを強硬に拒否する。

更には、難民数の加盟国への強制的割当てという形のEU全体としての解決を頑なに拒否するハンガリー、ポーランド、チェコ、スロバキアの 4ヶ国がある。

これでは物事はまとまらない。まとまり得るのは、域外国境の強化策である。これが、6月28−29日のEU首脳会議で合意された第1の提案である。

即ち、難民の密輸業者のビジネス・モデルを打破するためだとして、海上で救助された難民を収容し処理を担う施設を域外、恐らくは北アフリカに設けることを探求しようというものである。

つまり、難民の欧州行きの夢を断つことで抑止効果を期待したものである。しかし、この施設がどのように機能するのかに言及はない。そもそも、協力する国を見出し得るかは不明である。

イタリアが獲得したのが、EU首脳が合意した第2の提案である。即ち、EU域内の各所に管理センターを設けて、真の難民と経済移民を仕分ける作業の迅速化を図るとされている。

これによって、イタリアは難民問題の前線に位置するが、最早単独で負担を担うことはないと主張出来る。

しかしこのセンターの受け入れ及び保護の必要性を認められた難民の移転と再定住は、加盟国の自発的な協力によるとされており、何処まで実効性のある提案となり得るかは疑問である。

これによって、中欧諸国が拒絶してきた義務的受入れ難民数の割当てという形での解決策は葬られたということであろう。

EU首脳会議での議論の対象は、専ら上記の2つの提案であり、メルケル独首相の関心事である「二次的移動」は焦点ではなかったようである。

それでも、首脳会議の結論には、「二次的移動」は EUの難民システムとシェンゲン体制を危うくするとして「加盟国はそのような移動に対抗し相互に密接に協力するため、あらゆる必要な国内的な法的行政的措置を取るべきである」との文言が盛り込まれた。 

そもそも、メルケルは包括的な合意がEUレベルで直ちに可能とは思っておらず、有志の国との二国間の合意を目指した様子である。

その結果、会議の際に、別途、スペインとギリシャとは、既に自国で難民申請を行った難民については、ドイツからの送還を受け入れるとの合意に達した由で、メルケルは予想以上の成果と述べている。

イタリアとの合意はないが、スペインとギリシャは共に難民問題の前線の国であり、それなりの意義はあろう。これによってメルケルは、国内の政治危機を乗り切る手掛かりを得たのであろう。

難民問題を巡るEUの苦悩は深い。首脳会議は殆ど何も解決はしなかった。しかし、目下の政治的要請には応えた。

首脳会議の後の記者会見で、トゥスク大統領は、「成功を語るには著しく早過ぎる。合意には何とか到達した。しかし、履行に際して待ち受けることに比較すれば、それは最も易しい部分である」と述べた。正直な評価であろう。【8月1日 WEDGE】
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ユーロ圏離脱の是非を問う国民投票は現連立政権の計画にない・・・・とは言うものの
ポピュリスム政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」は、ともにいわゆるEU懐疑派という立場にあり、EUの統合深化を目指してきた独仏とは異なる立場にあります。

国内政治のうまくいっていない問題を「EUのせいだ」と責任転嫁するような姿勢も。

ただ、今すぐにEUやユーロから離脱云々という訳でもなさそうです。(そうしたら、便利な責任転嫁の相手がなくなってしまいますので)

****イタリア政府、ユーロ圏離脱巡る国民投票を行う計画ない=副首相***
(7月)29日付のイタリア紙コリエレ・デラ・セラによると、イタリアのディマイオ副首相は、同国のユーロ圏離脱の是非を問う国民投票は現連立政権の計画にないと語った。

連立政権を担うポピュリズム政党「五つ星運動」創設者のペッペ・グリッロ氏はこれに先立ち、経済状況次第でユーロ圏を離脱する案を用意すべきと発言。多数がユーロ離脱を望むか判断するために国民投票を行うべきとの考えを示していた。

「五つ星運動」の党首であるディマイオ副首相は、コリエレ・デラ・セラ紙のインタビューで国民投票について問われると、政府にとって「敏感な」テーマだとした上で、五つ星運動と極右政党「同盟」が結んだ連立合意に含まれるものではないと説明。「現政権は(国民投票の)実施を目指さない」と語った。

コンテ首相とトリア経済・財務相も、現政権にユーロ離脱の考えはないと表明している。【7月30日 ロイター】
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「五つ星運動」は従来、創設者のペッペ・グリッロ氏の言うようにユーロ圏離脱の是非を問う国民投票を掲げていましたが、昨年の選挙戦で“現実路線”とも言える方針転換を行い、“ディ・マイオ氏は国民投票が既定路線ではないことを示唆し、欧州連合(EU)から財政面で譲歩を引き出すための駆け引きの手段にすぎない”【2017年9発5日 ロイター】と言う姿勢に転じています。

「同盟」の方も、“イタリアの極右政党「同盟」の幹部議員は(5月)10日、ユーロ圏からの離脱は同党にとって優先課題の1つではないと述べた。経済成長を促すため、財政赤字の拡大を容認する考えも示した。”【5月11日 ロイター】と、現実対応の姿勢を示しています。

ただ、「同盟」党首のサルビーニ内相は、EUを敵視する欧州ポピュリズム政党との連携を提唱しており、EUとの関係は微妙です。

****イタリア内相、ポピュリズム勢力の「欧州連合」を公約 勢いに載る与党・同盟****
イタリアのサルビーニ内相は1日、党首を務める与党「同盟」の集会で演説し、欧州のポピュリズム(大衆迎合主義)勢力の結集を目指す考えを示した。「自由で国家主権を重んじる勢力による『欧州同盟』結成を考えている」と述べた。
 
発言の背景には、同盟の人気が急上昇する中、来年の欧州連合(EU)欧州議会選でも存在感を示したい狙いがある。
 
1日の集会は同盟の拠点であるイタリア北部ミラノ近郊で行われた。サルビーニ氏は「欧州議会選挙は、エリートと金融界が牛耳る欧州か、働く国民のための欧州かを選ぶ住民投票。(提案は)ポピュリストの国際連合と言ってもらって結構。我々は多数派として勝利する」と訴えた。
 
同盟はフランスの極右「国民連合」(国民戦線から改称)、ドイツで移民受入れに反対する右派「ドイツのための選択肢(AfD)」などと連携を強めており、これらの勢力と選挙協力を目指しているとみられる。
 
イタリアの最新の世論調査で、同盟の支持率は31%に達し、連立第一党の五つ星運動(29%)をしのいだ。同盟人気の急上昇は、サルビーニ氏が民間団体の移民救助船の寄港を禁止し、不法移民対策を強化したことが原因とみられる。ポピュリズム2政党の合計支持率は約60%だった。【7月3日 産経】
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イタリアEU懐疑派政権誕生で、EUの骨抜きも
主要国イタリアにEU懐疑派政権が誕生したことで、EUは今後大きく揺さぶられることにもなるでしょう。

****ユーロ懐疑派政権の不吉な予感****
ポピュリスム政党と極右の連立政権が難民問題を契機にEUの骨抜きを始める
ルクレツィア・ライクリン(ロンドン・ビジネススクール経済学教授)

イタリアでポピュリスム政党「五つ星運動」と極右政党「同盟」の連立政権が誕生してから2ヵ月。3月に行わ
れた総選挙後の連立父渉は長引き、一時は物別れに終わるかとも思えた。
 
新しい連立政権は、EU創設メンバーの国において、反ユーロや反EUを掲げる政党が権力の座に就いた最初の例でもある。

急進主義の台頭は20年に及ぶイタリア経済の低迷が招いた結果でもあるが、ヨーロッパのほかの国々でもポピュリスム政党が支持を集めている。
 
つまり、イタリアで起きている政治力学は異例なことではなく、多くのEU諸国を待ち受ける変化の前触れと言えるだろう。
 
イタリアは早速、難民問題で強硬姿勢を示している。同盟の党酋で内務相として入閣したマッテオ・サルビニは、
難民受け入れをイタリアだけで解決させようとしているとEUを非難。

何かにつけ差別主義的で扇動的なサルビニだが、難民危機はEU全体で解決するべきだという点は理にかなっている。
 
ドイツをはじめEUの中核メンバーは難民問題の協議に入らざるを得なくなったが、発展的な協力体制が整うのはかなり先だろう。

それまでは、サルビニの主張に共感する国々が一方的な政策を検討する可能性が高く、EU域内の通行の自由を定めたシェングン協定が脅かされかねない。
 
経済政策については、イタリアの新政権は、中道左派のレンツィ政権による労働市場改革の一部を撤回しようと
している。特にやり玉に挙げるのは、解雇の規制緩和だ。
 
イタリアの全国社会保障機関(INPS)は統計を基に、新政権の法案は雇用の減少を招き、国の財政にダメー
ジを与え得ると予想。

改革からの逆行や移民政策を批判された新政権は、INPSの総裁に公然と辞任を迫った。政府が独立行政機関の独立性を脅かすことは、今後の流れを予言している。

連立内のさまざまな対立は既に、EUの厳しい財政ルールの範囲内で、左派と右派向けの経済政策の公約をどのように調和させるかという問題を生んでいる。

所得保障や年金改革、減税などの公約の実現を進めれば、対立はさらに顕在化するだろう。
 
イタリアの当面の課題は国内政策だが、難民問題と同じように、可能な限りEUとの対立姿勢を強調すると考え
られる。五つ星も同盟も、EUに異を唱えることで支持を集めてきたのだ。

実際、イタリアだけでなくハンガリーやポーランドをはじめとする国々が、国内の失政をEUに転嫁することが効果的だと実証している。
 
イタリア政府の攻撃的な姿勢は、EUとの対等な交渉のためだと解釈することもできる。しかし一方で、来年5
月の欧州議会選挙に向けた政治的戦略とも言えるだろう。EUを緩やかな連合に変えて、主要な政策権限を各国政府の手に取り戻そうというのだ。
 
ただし、ユーロ圏にとって、そのような変化は今以上の不安定さにつながる。足並みを合わせた財政政策と共通
ルールがなければ、共通通貨は維持できない。

五つ星と同盟はユーロやEUからの離脱を主張しているわけではないが、彼らの表向きの国内政策は、EUの基盤を揺るがすものだ。
 
EUは覚悟を決めなければならない。私たちは今、主要な加盟国がEUとの対立を助長するような政策を推し進めたときに、どのようなダメージが生じるのかを目の当たりにしている。

「より緊密な連合」へと前進しない限り、静かな崩壊が追ってくる。【8月7日号 Newsweek日本語版】
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イタリア戦政権、アメリカ・トランプ大統領、そしてロシア・プーチン大統領の蜜月関係
一方、イタリアの厳しい難民政策を強く支援するのがアメリカ・トランプ大統領です。

****米伊首脳、国境強化で意気投合=EU懐疑派との蜜月アピール****
トランプ米大統領は30日、イタリアのコンテ首相とホワイトハウスで会談し、欧州連合(EU)の難民政策見直しを主張するイタリアを「正しいことをしている」と持ち上げた。

トランプ氏もメキシコ国境経由で流入する不法移民の摘発強化を掲げており、両首脳が「国境強化」で意気投合した格好だ。
 
トランプ氏は会談冒頭、難民対応で「他の欧州諸国も(イタリアと)同様にすべきだ」と主張。会談後の共同記者会見では、メキシコ国境への壁建設予算を措置できないなら「(予算失効による)政府機関閉鎖も辞さない」と持論を展開した。
 
トランプ氏はかねてEU懐疑論に同調する姿勢を見せ、コンテ氏率いるEU懐疑派政権との関係が、米欧関係の新たな軸となる可能性もある。

記者会見では、両首脳の初顔合わせとなった6月の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)に触れ「(G7首脳の)誰よりも、われわれは緊密に連携していたのではないか」と蜜月ぶりをアピールした。【7月31日 時事】 
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“トランプ氏は「イタリアは、米国と同じように不法移民の問題を抱えて緊張状態にあり、奮闘している」と指摘。コンテ氏も「米とイタリアは双子のような国だ」と応じた。”【7月31日 共同】とも。

そのイタリアでも、アメリカ同様に、サイバー上で不審な動きがみられていますが、「同盟」のサルビーニ内相はロシアの関与を強く否定しています。

****伊大統領辞任要求アカウント大量作成、対テロ部門が捜査へ****
イタリアが組閣をめぐる政治危機の真っただ中にあった5月、ツイッターに突如、セルジョ・マッタレッラ大統領の辞任を求めるアカウントが400個近く作成された件で、検察当局の対テロ部門が捜査を開始することが分かった。複数の伊メディアが4日、伝えた。
 
伊メディアが警察の捜査で判明した内容として伝えたところによると、組閣をめぐって伊政界が混乱に陥っていた5月27日夜、ツイッター内にマッタレッラ氏の辞任を求めるアカウントがわずか数分間で400近く作成され、数時間のうちに削除された。

この件について、ローマ検察当局の対テロ部門が来週にも捜査を開始するという。
 
マッタレッラ氏は当時、新首相に指名されていたジュゼッペ・コンテ氏から提案された欧州連合懐疑派パオロ・サボナ氏の経済財務相への指名に反対。反既成勢力を掲げる「五つ星運動」や極右政党「同盟」はこれに強く反発し、またコンテ氏も首相指名を一度辞退する事態となった。
 
同盟の書記長で伊内相のマッテオ・サルビーニ氏は日刊紙「イルフォグリオ」とのインタビューで、アカウントの大量作成について「全く気付かなかったし、少しも心配していない」と述べ、「ロシアが英国のEU離脱(ブレグジット)や米仏伊の選挙に影響を与えたという記事を数か月前に目にしたが、私に言わせれば全部でたらめだ」と指摘した。
 
サルビーニ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛していることで知られている。【8月5日 AFP】*****************

アメリカ・EUが対ロシア制裁を実施しているなかで、ロシア・プーチン大統領とアメリカ大統領、EU主要国イタリアの政権指導者が強く連帯するという“奇妙”な関係が出来ています。
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