(ウルムチでの中国当局によるウイグル人虐殺事件から9年となる7月7日、日本ウイグル連盟が行った東京・六本木で追悼と抗議のためのデモ行進【7月9日 Viewpoint】参加者がマスクで顔を隠しているのは、身元が当局に知れると、中国にいる家族が再教育収容所に入れられるためとか)
【難民に厳しい独バイエルン州 行政ミスで亡命ウイグル人を中国に強制送還?】
1週間ほど前に下記のニュースが。
****亡命申請したウイグル人男性、行政ミスで中国に強制送還 ドイツ****
ドイツで、亡命申請していたウイグル人男性を行政側のミスにより中国に誤って送還していたことが6日、地元メディア報道によって明らかになった。
地元ラジオ局「バイエルン放送(BR)」によると4月3日、当局は亡命申請していた22歳のウイグル人男性の審査を行うことになっていた。
だが、男性の審査を知らせるドイツ連邦移民難民局からのファックスが地元当局に届かなかったとみられ、男性は同日の早い時間帯に中国の首都北京行きの飛行機で強制送還されてしまった。
バイエルン州当局者はBRに対し、亡命申請が有効に行われたにもかかわらず男性が強制送還されたことを非常に遺憾に思うとした上で、送還によって影響を受けるこの男性の権利を侵害したことは、バイエルン州の移民当局の意図したところではないと強調した。
一方、BAMF(連邦移民難民庁)は個々のケースについての詳細は明らかにしていないが、このような状況での送還は「容認できない」とBRに対して述べている。
送還されたウイグル人男性の弁護人を務めていたレオ・ボルグマン氏は、男性からは送還後、なんの連絡もないとBRに語った。「生きているかどうかも分からない。中国当局に身柄を拘束されたのではないかと心配している」【8月7日 AFP】
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「行政側のミス・・・・本当だろうか?」という疑念も。
根拠もなく疑うのはよくないことですが、バイエルン州といえば移民・難民政策に厳しい対応を求める中道右派政党のキリスト教社会同盟(CSU)の地盤で、CSUは州議会の過半数を制しています。
キリスト教社会同盟(CSU)はメルケル首相が率いるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党であり、CSU党首のホルスト・ゼーホーファー内相は、欧州内で移民の流入抑止に向けた取り決めを見いだすことができなければ、国境警察に移民らを追い返すよう命じる構えを示してメルケル首相に反逆。
メルケル氏がEUの首脳会談を経て難民申請者の入国制限方法を打ち出さなければ、内相を辞任する(あるいはメルケル氏に更迭させる)と脅していた・・・というのはつい先日のことです。
送還を求める中国側と、難民を厄介払いしたい州当局の間で何らかの・・・というのは根拠のない疑念です。
【米中貿易戦争の絡みか、中国のウイグル族対応への批判を強めるアメリカ・トランプ政権】
まあ、“ミス”と言うのですからミスなのでしょう・・・ただ、中国に強制送還されたウイグル人にとってはミスではすみません。
ウイグル人反政府組織による分離独立運動を警戒する中国が新疆ウイグル自治区でウイグル族の文化・宗教を否定するような極めて強圧的な統治をおこなっており、同自治区は究極の“監視社会”の最先端を行く状況にあること、当局に目をつけられた大勢のウイグル人が再教育目的の収容施設に拘束されているという話は、これまでも再三取り上げてきました。
最近の話題では、以下のような記事も。
****中国政府の監視の目、メッカ巡礼イスラム教徒にも****
少数派のイスラム教徒を厳しく監視する中国政府は、見張りの目を海外の行動にまで拡大しつつある。国内の一部地域からサウジアラビア西部の聖地メッカに巡礼(ハッジ)に出かけるイスラム教徒に、追跡用装置を身に着けさせている。(中略)
彼らの首に掛けられた青いひもには、カスタマイズされた「スマートカード」がぶら下がっていた。同協会によれば、このカードは携帯者の安全を保証するためのもので、衛星利用測位システム(GPS)装置と個人データが組み込まれているという。
人権問題活動家らは、この追跡装置について、先進の監視手段を利用して少数派イスラム教徒の動きを監視しようとする中国の異例の試みの一例だと主張している。
中国の人権問題の専門家であるロンドン大学キングスカレッジのエバ・ピルス氏は「これは、イスラム教徒が犯罪容疑者や執行猶予中の者のように監視されるべき存在だと示唆することで、宗教の教えを実践するイスラム教徒を迫害する新たな手段だ」と述べている。(後略)【8月1日 WSJ】
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中国イスラム協会は、「巡礼参加者の安全な海外渡航を確実にする」ことが目的であるとしており、昨年、道に迷ったある巡礼者を連れ戻すことができた・・・とも。
****ウイグル族への弾圧、世界は注視すべし****
中国ではウイグル族の人々が次々に姿を消している。
中国当局はこの2年間に、国際的にはほとんど注目されることなく、同国北西部に住む何十万人もの少数派イスラム教徒を拘束してきた。
家族に残されるのは、どこに連れて行かれたのか、なぜターゲットにされたのかという疑問だけだ。
この問題を研究する専門家アドリアン・ツェンツ氏は、各地に設置されている収容所に何十万人もの人々が収容されている可能性があると指摘するが、中国当局はこうした施設の存在を否定している。
だが今、徐々に情報が漏れ伝わっている。収容所から解放された少数の人々は海外に逃亡し、虐待の状況を語っている。
看守らは、収容者に再教育を施し、イスラム信仰の放棄と、共産党の信奉を迫っている。反抗する者は虐待されたり、独房に入れられたりしている。
拘束された人々の多くは、国外に出たことのある者や、親族が国外にいる者だ。無差別に拘束されているようにみえる人もいる。数週間で解放されることもあるが、無期限に拘束されている人もいる。
こうした気まぐれな手法による拘束が恐怖を増幅させている。
著名なウイグル族の民族学者ラハイル・ダウット氏は、昨年12月にウルムチから北京に向かう途中で姿を消し、その後消息不明となっている。同氏は、忍耐が必要と説き、政治にはかかわっていなかった。
こうした強硬手段は、中国北西部の新疆ウイグル自治区に対する広範な締め付け策の一環である。
新疆ウイグル地区では、ウイグル族とそれより少数派のカザフ族が人口の過半数を占めている。昨年には、同地区の治安関係予算はほぼ倍増され、都市部に配備される警察官が3万人増員された。
中国治安当局はまた、公共の場に顔認証カメラを設置している。住民は自家用車に追跡装置を装備し、携帯電話にはモニタリング・ソフトウエアを搭載することが義務付けられている。
強制的な「健康診断」で採取された血液サンプルを基に、同地区全体を網羅するDNAデータベースの構築が進んでいる。
当局は、イスラム原理主義を撲滅しようとしていると主張する。過激派「イスラム国(IS)」や国際テロ組織アルカイダに感化されたグループによる小規模なテロ攻撃が何件か起きているようだ。またシリア政府は、ISとともに5000人のウイグル族が同国の内戦で戦っていたと主張する。
しかし、ウイグル族は総じて、穏健な形態のイスラム教を信仰しており、長年、過激化には抵抗してきた。
これが変わりつつあるとすれば、それは、イスラム信仰のどんな表現をも処罰するという中国政府の方針が主因だ。
例えば当局は近年、ウイグル族がラマダン(断食月)に飲食を絶ち、あごひげをたくわえ、自分の子にイスラム式の名前を付けることを禁止した。
また、宗教関連の文書などがないかどうかウイグル族の自宅を捜索し、多くのモスク(イスラム寺院)が取り壊された。
フロリダ州選出のマルコ・ルビオ上院議員(共和)は10日、このような弾圧について本紙に寄稿したばかりで、責任ある当局者に制裁を科すよう米政府に求めている幾人かの議員の1人だ。
またマイク・ペンス副大統領は中国によるイスラム教徒の扱い方を糾弾した。さらに10日、中国による人権弾圧が国際規約に違反しているとする証拠を国連の人種差別撤廃委員会が検証した。
ウイグル族の窮状には大きな意味がある。中国の最高指導者・習近平氏は毛沢東以降みられなかったようなプロパガンダ戦術、監視、拘束といった手段を駆使している。
中国の警察は、まず新疆(ウイグル自治区)で新技術や監視技術を先駆的に導入し、その後、こうした技術を全国的に展開しつつある。
米国は中国政府との間で多くの重要な争点を抱えているが、組織的なウイグル族弾圧は、習政権の本質をあらわにしている。【8月13日 WSJ】
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上記【WSJ】にもある、ペンス副大統領等によるアメリカ側のウイグル族対応に関する中国批判は以下のとおり。
****<米政権>「ウイグル、数十万人を拘束」 中国当局を批判****
中国新疆ウイグル自治区のイスラム教を信仰する少数民族ウイグル族をめぐり、トランプ米政権が「中国当局がテロ対策を名目に数十万人を拘束している」と批判を強めている。中国側は「内政干渉だ」と強く反発している。
ペンス副大統領は(7月)26日、ワシントンで講演し、ウイグル族の住民について「数十万、あるいは数百万とみられる人たちが、再教育施設に移され、政治教育を強いられている。宗教的な信条が脅かされている」と懸念を示した。
米政権で人権問題を担当するカリー国連経済社会理事会大使も同日、議会の公聴会で、習近平指導部が昨年4月以降、テロや過激主義者に対処するとの目的で、イスラム教徒への抑圧を強めていると指摘。
自治区内ではイスラム教徒の食生活や名前、宗教教育にも当局の介入が続いているとし、「中国にこうした政策をやめるよう求めた」と述べた。
中国外務省の耿爽(こう・そう)副報道局長は27日の定例会見で、「中国政府は信仰の自由を十分に保障している」と表明。「米国は中国の民族政策を中傷している。宗教を利用した内政干渉をやめるべきだ」と反論した。【7月28日 毎日】
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中国のウイグル族弾圧は今に始まった話でもないのに、およそ人権問題に関心がないと思われる米トランプ政権が、どうしてここにきて中国に人権弾圧を批判するのか・・・おそらく米中間の貿易戦争絡みの側面攻撃でしょう。
まあ、トランプ政権の思惑はともかく、この問題に焦点があたるのはよいことでしょう。
【国連人種差別撤廃委員会での中国批判と、中国側の反論】
スイス・ジュネーブで開かれた国連人種差別撤廃委員会では、「中国のウイグル族ら100万人以上が新疆ウイグル自治区の再教育施設に強制的に収容されている」と米人権活動家らが指摘し、中国側が13日、「完全な捏造(ねつぞう)だ」と反論しています。
****中国、ウイグル人100万人拘束を否定 国連人種差別撤廃委****
ジュネーブで開かれた国連人種差別撤廃委員会の会合で、中国政府が少数民族のウイグル人ら100万人を新疆ウイグル自治区で拘束しているとの批判に対し、中国側は13日、「全くの嘘だ」と回答した。
中国高官は、ウイグル人は十分な権利を享受していると述べた一方、「宗教的過激派に染まった人物は(中略)移住と再教育の補助を得る」と話した。(中略)
中国は2日間ある人種差別撤廃委員会の会合に50人強の代表団を送り込んだ。
10日の会合では米国のゲイ・マクドゥーガル委員が、中国政府が「ウイグル自治区を大規模な収容キャンプのようなものにしている」との報告を受けて懸念を表明した。
これに対し中国共産党中央統一戦線工作部のフー・リャンヘ副部長は「ウイグル人を含む新疆の市民は平等な自由と権利を享受している」と答えた。
同氏は移住や再教育プログラムの存在を認めた上で、「ウイグル人100万人を再教育センターに拘束しているという議論は全くの嘘だ」と付け加えた。
BBCの特派員によると、中国政府が新疆の状況への解決手段について公の場で説明するのはまれだという。
一方、中国国営の英字紙グローバル・タイムズは、新疆での厳しい治安対策は同自治区を「中国のシリア」や「中国のリビア」にしないためのものだと擁護した。同紙は社説で「新疆の治安状況の改善は大きな悲劇を回避し数え切れない命を救った」と述べた。
しかし、マクドゥーガル委員はより明確な説明を求めた。
「100万人という人数が間違っているというなら、一体何人なのか? 教えてほしい。そして、どの法律によって収容されているのか?」
同委員は併せて、再教育を受けている人の人数についても質問を重ねた。(中略)
ここ数カ月、さらに多くのウイグル人やイスラム教徒が新疆で拘束を受けているとの報告があがっている。
アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチを含む人権団体が国連人種差別撤廃委員会に提出した報告書には、キャンプに集団で収監させられた人々が、中国の習近平国家主席への忠誠を強制的に誓わされているとの主張が掲載されていた。
世界ウイグル会議も、拘束された人たちは訴追なしで無期限で捕らえられ、無理やり中国共産党のスローガンを叫ばされていると報告した。食料は乏しく、拷問を受けたとの報告も広がっているという。
この報告書によると、収監された人々のほとんどは何の罪でも告訴されていず、弁護士を依頼することもできない。
中国側は、宗教的過激派に対抗するためと偽って拘束を行っているとされている。
1回目の会合のあった10日には、中国各地で宗教的対立の緊張が高まった。
北部の寧夏回族自治区では、モスクの破壊を阻止しようとした数百人のイスラム教徒が当局と衝突した。
当局は、最近建てられたこのモスクには正式な建設許可が下りていなかったとしている。しかし人権団体によると、政府が宗教活動を厳しく制限している中国では、当局のイスラム教徒への敵意が増しているという。【8月14日 BBC】
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「100万人という人数が間違っているというなら、一体何人なのか? 教えてほしい。そして、どの法律によって収容されているのか?」・・・・マクドゥーガル委員ならずとも、知りたいところです。
【中国のイスラム教への圧力】
中国は「中国政府は信仰の自由を十分に保障している」という公式見解にもかかわらず、イスラム教だけでなく、キリスト教への弾圧も強めています。宗教が政府批判に転じるのを恐れているのでしょう。
上記記事にある寧夏回族自治区のモスク破壊騒動については、以下のようにも。
****中国当局が解体命じたモスク、取り壊し延期に 住民の抗議受け****
中国政府が宗教活動の取り締まりを強化する中、北部・寧夏回族自治区の韋州で11日に予定されていたモスクの取り壊しが、イスラム系住民らによる抗議デモを受けて延期された。
中国を一党支配する中国共産党は、国内全土のイスラム教徒を党の規則に従わせようと信教の自由を制限するような動きを進めている。
韋州でも先週、市内の大モスクについて、正式な許可を得ずに改築工事を行ったとして当局から解体を命じる通達が出された。地元住民らによると、通達には8月10日までにモスクを解体しなければ政府がモスクを取り壊すと書かれていたという。
モスクの改築は政府もつい先日まで支持していたことから、納得しがたい思いを募らせた住民たちは大モスクの解体期限を目前に控えた9日に抗議行動を開始。
ソーシャルメディアに投稿された映像によると、暴徒鎮圧用の盾を手にした警官らが警戒に立つ中、大モスク前に集結した参加者たちは中国国旗を手にモスク前の階段や広場に座り込んで無言の抗議を行った。その後、参加者たちは金曜夜の礼拝に向かった。(中略)
政府資料によると、このモスクは直近の2年間に改築されたが、認可取得の手続きに不行き届きがあっため関係者数人が地元の懲戒委員会から「重大な警告」を受けている。
改築では、仏教寺院風の屋根などそれまで中国風だったモスクのデザインが、ドーム型の屋根や三日月など「アラブ風」のものに変更された。
イスラム教は中国政府が認める5つの宗教の一つで、国内には2300万人のイスラム教徒がいる。【8月12日 AFP】******************
全国に散らばる回族は、新疆のウイグル族などと並んで中国イスラム教徒の大きなグループですが、言語・形質等は漢族と同じで、イスラム教を信仰していることが漢族との差異になっています。
従来、回族は当局方針に従順で、ウイグル族のような当局との衝突はあまりなかったと思いますが、中国当局の圧力は回族にも及んでいるようです。