孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベトナム  中国とは対立しながらも協調も 麻薬密輸摘発と映画「芳華」に見る中越関係

2018-08-24 22:22:05 | 東南アジア

(中国からの帰国機内で観た映画『芳華』より 最初は「新手の文革礼賛映画だろうか?それにしても美しすぎるし、セクシーすぎるのでは・・・」と思ったのですが、違ったようです)

反中の国民感情はあるものの、軍事・経済で中国との協調も
歴史的に中国の圧力にさらされてきた(中国からすれば侵略の脅威を受けてきた・・・というところか)ベトナムは、1979年には同じ社会主義国同士で中越戦争を戦い、国民感情に強い反中感情があることは間違いないでしょう。

そうした反中感情を背景に、近年では南沙諸島・西沙諸島の領有権をめぐる南シナ海での対立が厳しくなったことで、ベトナムk屋内では時折反中デモが行われています。

****中国は出ていけ」=​ベトナム各地で反中デモ―米華字メディア****
2018年6月11日、米華字メディア・多維新聞によると、ベトナム各地で大規模な反中デモが発生し、現地の中国大使館が注意を呼び掛ける声明を出した。

ベトナムの中国大使館は10日、「ホーチミン、ニャチャン、ハノイ、ダナンなどで不法なデモが行われている。国会が近ごろ審議している『バンドン、バクバンフォン、プークオック特別行政経済単位法』草案の一部内容に反対するもので、反中的な内容も含まれている。中国国民は外出時の安全に気を付けるように」との声明を発表した。【6月13日 レコードチャイナ】
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下記のような不祥事の背景にも、単に中国人がカネを持っているという認識だけでなく、増加する中国人観光客に対する複雑な思いもあるのかも。

****中国人観光客?チップ払って」=ベトナムの税関で頻発―中国紙****
2018年7月25日、北京青年報は、ベトナムを訪れた複数の中国人観光客から「現地の税関職員にチップを要求された」との声が寄せられたことを報じた。

記事によると、ある女性は団体客として中部ダナンを訪れた24日、税関職員からチップを要求された。このツアーには約200人が参加しており、女性と他の3人を除く全員がパスポートに10元札(約160円)を挟んで渡したという。支払わなかった4人は列の最後に並ばされ、ガイドから「時間を無駄にした」と小言を言われたそうだ。(中略)

8日には中国人男性がホーチミンの空港で100元(約1600円)を要求されたことを紹介。男性は「列の前の方にいた外国人観光客はスムーズに通れたのに自分がパスポートを見せると中国語で100元払うよう言われた。(後略)【7月27日 レコードチャイナ】
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実情はよくわかりませんが、下記のようなトラブルもベトナム側の神経を逆撫でするものです。

****ベトナム漁船、中国船に追い払われる=荒天の南シナ海で*****
ベトナムのタインニエン紙(電子版)は19日、中越両国が領有権を争う南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島の周辺海域で18日、荒天のため島沿いに待避していたベトナム漁船20隻が中国漁船によって追い払われたと伝えた。ベトナム政府は、同国漁船の安全確保に努めるよう中国側に申し入れた。
 
記事によれば、強風と高波を避けるために停泊中のベトナム漁船を、現場海域に現れた複数の中国漁船が追い払った。【6月19日 時事】 
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南シナ海問題では、カンボジア・ラオスなどのコアな親中国に加え、フィリピンやタイなどもチャイナマネーになびくなかで、ベトナムは対中批判の先陣に立っていますが、形勢はあまりよくありません。

****中国の思惑、着々 南シナ海「行動規範」初案に合意 ASEAN「懸念」は明記****
東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国は(8月)2日、シンガポールで開いた外相会議で、南シナ海問題について同海域での活動を規制する「行動規範」の初案に6月に合意していたと明らかにした。

ASEAN側は、中国との会議に先立つ外相会議の共同声明で、中国を念頭に「懸念」を明記した。だが、融和ムードを演出しつつ、南シナ海の軍事拠点化を図る中国の思惑通りに事態は進んでいる。(中略)

その陰で、中国は南シナ海の実効支配と軍事拠点化を着々と進めている。
 
こうした動きにASEANで最も反発しているのが、南シナ海の領有権をめぐって中国と対立するベトナムだ。外交筋によると、ベトナムは外相会議の共同声明の作成過程で、懸念表明の表現に「軍事化」という言葉を盛り込んで中国を牽制(けんせい)するよう求めた。
 
だが、中国は近年、経済協力によるASEAN諸国の懐柔を進めており、ベトナムはこの問題で孤立しつつある。「軍事化」の表現も結局、共同声明には盛り込まれなかった。(後略)
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ただ、これまで何度もベトナム・中国関係で触れてきたように、ベトナムという国は非常に現実的な国であり、隣の大国である中国とことを構えるような事態にならないように常に留意もしています。

冒頭のような反中デモも当局のコントロール下にあると推測され、一種の“ガス抜き”であり、中国に対するアピールでもありますが、過熱して大きな問題にならないように統制もされています。

南シナ海問題で対立する一方で、中国との協力関係にも配慮しています。

****ベトナム・中国防関係の強化*****
ベトナム人民軍政治総局のルオン・クオン主任を率いる代表団は、中国中央軍委政治工作部の苗華主任の招きに応え、22日から26日にかけて、中国友好訪問を行いました。

中国を訪問中の24日、ルオン・クオン主任は苗華主任と会談を行いました。席上、双方は「現在の複雑な背景の中で、両国の軍隊は、協力活動や友好交流を頻繁に行うと同時に、両国の党、国家、軍隊の友好関係と団結の深化のために適切で具体的な貢献をする必要がある。」ことで一致しました。

また、両氏は、両国のハイレベル指導者が達成した合意に基づいて、あらゆる対立を平和措置で解決してゆくとの見解でも合意しました。

続いて、25日、中国中央軍事委員会の張 又侠副主席は、ベトナムの代表団と懇親しました。ここで、張 副主席は「中国は、ベトナムとの関係を重視しており、両国関係、とりわけ両国防省の関係を培う為に尽力してゆく。」と明らかにしました。【7月26日 VOV5】
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経済的にも関係を強めており、そのことは両国ともに認識するところです。

****ベトナム、ASEAN内で中国の重要な相手国****
先ごろ、在ベトナム中国大使館により開催された記者会見で、在ベトナム中国大使館の胡鎖錦貿易参事官は「現在、ベトナムはASEAN=東南アジア諸国連合で中国の最も大きな貿易パートナーである。」と強調しました。

また、胡鎖錦貿易参事官は、「今年の上半期において、両国の貿易総額は660億ドルにのぼる見込みである。ベトナムへの中国の輸出成長率は23.5%と、ASEAN諸国の中で一番高くなっている。ベトナムは中国の最大輸出市場の中でトップテンに入っている。一方、中国へのベトナムの輸出成長率は37.4%に達し、ASEANの中で1位に立っている。」と明らかにしました。

投資分野について、胡貿易参事官は、2017年、中国企業によるベトナムへのFDI=外国直接投資額は史上最高となる21億ドルを超えてきたと明らかにし、「今年の初め以降、中国企業によるベトナムへの投資プロジェクトは167件で、その投資総額が3億3千万ドルにのぼっている。」と述べました。

また、現在、中国はベトナムに投資している国と地域の中で、6位に立っているとしています。【7月27日 ベトナムフォトジャーナル】
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密輸などやろうと思えばいくらでもできるのでは・・・とも思える国境地帯
上記のような両国の協力関係のひとつが下記の合同麻薬取締りです。

*****中国 ベトナムと麻薬取締り 480人以上拘束*****
麻薬のまん延が大きな問題になっている中国は、東南アジアからの密輸ルートの摘発を強化し、ベトナムの捜査当局と協力して、ことし6月までに、取り引きに関わった480人以上を拘束、ヘロインなどの麻薬260キロ余りを押収したと発表しました。

中国公安省は23日、ベトナムに隣接する広西チワン族自治区の南寧で、麻薬の密輸摘発の状況について記者会見を開きました。

それによりますと、中国公安省は、ベトナムの捜査当局と協力して麻薬犯罪を摘発した結果、ことし6月末までに、麻薬取引に関わったとして483人を拘束し、ヘロインや覚醒剤などの麻薬、合わせて263キロ余りを押収したということです。

麻薬のまん延が大きな問題になっている中国は、ラオスやミャンマーなどで密造され、ベトナムを経由して密輸される麻薬が増えているとして摘発を強めています。

記者会見を行った中国公安省の安国軍副局長は「中国は、ベトナム側と密接に情報交換を行い、大きな事件など数多く検挙した」と述べました。

中国とベトナムは、南シナ海の領有権をめぐって対立が続いていますが、23日の記者会見はベトナムの捜査当局の代表も同席して行われ、麻薬捜査での両国の協力をアピールしていました。【8月23日 NHK】
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この記事が印象に残ったのは、つい先日、中国・ベトナム国境にかかる徳天瀑布を観光したばかりであるためで、記事にもある広西チワン族自治区の南寧NHKにも宿泊しました。

徳天瀑布は向かって左側がベトナム滝、右側が中国滝です。


中国側を観光していたのですが、滝に至る通路にはベトナム側から大勢が小舟やってきて、柵の外から身を乗り出す形で中国人観光客相手の小商いをやっていました。柵を超えると国境侵犯で問題になるのでしょう。


また、宿泊したホテルのほんの150mぐらい先にある小高い場所に上がると、ベトナム側の検問所が見渡すことができました。(赤い鳥居みたいなものが国境、手前の建物はベトナム側国境管理事務所)


地元住民は国境から一定距離の範囲内ならフリーパスで国境を行き来できるとか。
そうしたこともあって、中国側の街の食事メニューには、ベトナム風春巻きなど、ベトナム料理が並んでいました。

検問所を通らなくても、山ひとつ、川一本越えれば行き来できる“国境地帯”ですから、密輸などやろうと思えばいくらでもできるのでは・・・とも感じた次第です。

中越戦争・文革 体や心に深い傷を残したまま、歴史の中に置き去りにされた人々
今回旅行でもうひとつ、中国・ベトナム関係で印象に残ったのは、帰りの機内(四川航空)で観た映画です。

各座席ではなく3.4列にひとつの割合で天井にぶら下がった小さな画面で、しかも音声なしの中国語字幕状態で観るともなく観ていましたので、内容はよくわかりません。

なにやら文化大革命のころの前線兵士を慰問する文芸工作団を舞台にしたもので、最初は若い女性の登場人物が美しく明るすぎるのが(非常にセクシーでもあります)、泥臭い文化大革命のイメージにそぐわない感もありました。

これは近年の習近平政権下における文革再評価の動きだろうか・・・なんて思いながら観ていると、工作団内部のいじめみたいなものもあって、そうでもなさそうです。

印象が一変したのが、リアルな戦闘場面になってから。何かの戦争が起き、登場人物たちも戦場へ赴きます。

敵は一切描かれず、戦果をあげる人民解放軍もなく、ひたすら敵の攻撃で苦戦する中国軍兵士が描かれています。

兵士たちは、閃光を放ちながら飛び交う銃弾と泥のなかでのたうち回り、男性登場人物は片腕失うことに。
負傷者であふれる野戦病院では、看護師として働く女性登場人物はパニックに襲われ、精神に変調をきたします。

非常に陰惨で暗いシーンが続きます。

戦争も終わり、文化大革命も終わったものの、腕を失った男性も、精神を病んだ女性も、何事もなかったように動き出す社会から取り残されて・・・。

「一体何の戦争だろうか・・・?」と考えながら観ていたのですが、文化大革命のころ中国が直面した大規模戦争といえば、中越戦争ぐらいしか思いあたりません。

帰国後、ネット情報で確認したところ、この映画は『芳華』というタイトルで、いったんは上映が許可されていなかったものの、その後上映許可がおりて2017年年末に大ヒットした映画のようです。
そして戦闘場面はやはり中越戦争のようです。

****置き去りにされた中越戦争****
(中略)映画後半の圧巻とも言え、話題になっているのが中越戦争のシーンだ。

中越戦争を描いた中国映画としては、まだベトナムとの紛争が続いていた1984年、謝晋監督(日本でも公開された『芙蓉鎮』で有名)による「戦場に捧げる花」の戦闘シーンが生々しい。

だがそれから30年以上を経た本作は、ハリウッドの戦争大作『プライベート・ライアン』や『フューリー』のような映像効果が加わり、銃弾の閃光が飛び交う中、兵士が次々と血まみれになって倒れていく。

中越戦争は1979年、大量虐殺を起こしたカンボジアのポル・ポト政権に、ベトナムが軍事介入したのをきっかけに起こった。

ポル・ポト政権を支持していた中国は、元からソ連寄りだったベトナムと関係が悪化、中越戦争はベトナムへの「懲罰」として当時の最高指導者鄧小平が発動したが、実際はベトナム戦争を戦った百戦錬磨のベトナム軍の前に中国軍は多くの犠牲者を出し、軍事的には完敗を喫した。

このため多くの元兵士らは革命戦争のように英雄として賞賛されることもなく、多くは体や心に深い傷を残したまま、歴史の中に置き去りにされ、さらに改革開放後の経済の高成長に彼らの多くは取り残され、十分な補償も得られていない。

このため中越戦争などの退役軍人による抗議デモが各地で頻発している。

今回この映画は国慶節休暇の10月初めに公開される予定だったが、映画の内容が退役軍人を刺激し、10月に開かれた共産党の党大会に影響するのではとの懸念から、突如公開が延期となった。

今回改めて上映が認められたが、雲南省昆明では400人もの老兵が軍服を着て集団で鑑賞に訪れ、さらに一部の地区では映画館に万一に備え警察が配置されたという。

中国の傷は癒えない
(中略)(ネタバレしないように戦争・文革後のあらすじは省略します)

「初心を忘れなかった馮監督」というネット上の評論は、「中国では幸運なのは永遠に特権階級の子弟であり、運に恵まれないのは永遠に低層平民の子どもたちだ」として「馮小剛は劉峰や何小萍の低層の立場から物語を叙述している」と指摘し、「馮監督は成功し上流階級と付き合うようになったが、初心を忘れていない」と高く評価した。

この映画を見る多くの世代が「銀髪族」、つまりシルバー世代であり、彼らは映画を見て涙を流した。政治的動乱や戦争に短い青春を奪われた思いが共通するのだろう。

「映画『芳華』をどう理解したらよいか」という微信に載った評論は「(『芳華』)を見終わって、この映画は21世紀の『傷痕電影(傷跡映画)』と感じた。(文革の悲劇を描いた)1980年代の『傷痕文学』とはるか遠く離れて向かい合っているが、当時と比べて、より深い意味合いが込められている」として、「文革と毛沢東時代」「中越戦争」「改革開放がもたらした社会の激変」などが作品の構成要素として織り込まれていると指摘。

「この映画は非常に真実を描いている。人々が家や車、お金にしか関心がない現在、ノスタルジアの感情は魂の洗礼(汚れた心を洗い流す)となる」「若く美しい時は過ぎ去ったが、真、善、美なるものは失われることはない。劉、何の2人がホームで寄り添うシーンはいかに心あたたまるものだろう!」と結んでいる。(後略)【1月2日 古畑 康雄氏 現代ビジネス】
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中国にとってもベトナムとの戦争は、癒えない“傷”となっているようです。

それにしても、こうした中越戦争や文革の“影の側面”をリアルに描く映画が中国で公開され、大ヒットするというのは、従来のステレオタイプな中国イメージを再考する必要もありそうです。
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