孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インド  最悪洪水被害にも外国救援金を断るプライド 一方で、中国との関係改善を進める実利追求

2018-08-23 22:57:24 | 南アジア(インド)

(インド南部ケララ州コジコーデ地区近郊で、冠水した道路に浮かべた浮き輪で人を運ぶ住民ら(2018年8月17日撮影)【8月18日 AFP】 インド・ケララは、水とヤシの木が織りなす、私のお気に入りの景色でもあるのですが・・・)

過去100年で最悪の洪水被害
日本でも豪雨・台風による被害が相次いでいますが、6月にモンスーンに入ったインドも大雨が続き、全国で死者900人を超える大きな被害が出ています。

下記は1週間前の記事で、“今後も1週間ほど大雨が続くとみられる”とあり、また、被害の実態確認にはしばらく時間を要することから、被害規模はさらに拡大するのではと推察されます。

****大雨続くインド 死者900人に 救援に部隊出動****
インドで続いている大雨による洪水や土砂崩れの被害は、さらに拡大して死者が900人に上り、インド政府は、軍の部隊を出動させて住民の救助や支援を急いでいます。

インドの気象当局によりますと、ことしの雨季はところによって平均の30%を超える雨量となっていて、国内の広い範囲で断続的に激しい雨が降り、大規模な洪水が発生したり、山岳地帯で土砂崩れが発生したりして被害が広がっています。

地元州政府によりますと、南部のケララ州では、およそ90年ぶりの大雨による洪水となっていて、濁流に住宅が流されるなどして15日までに217人が死亡しました。

国内第4の規模のコチ国際空港は滑走路が水没したため、現在、閉鎖されています。

ケララ州では、数千の住宅が濁流によって倒壊したとみられ、およそ15万人の住民が避難を余儀なくされています。

インド政府は陸海空軍の部隊をインド南部を中心に派遣し、取り残された住民の救助や支援を急いでいます。

また、北部のヒマチャル・プラデシュ州の山岳地帯では14日、大規模な土砂崩れが発生してふもとの村が巻き込まれ、20人が死亡しました。

インド内務省によりますと、大雨の被害で死亡した人は、この1か月半ほどで9つの州の900人に上り、気象当局は今後も1週間ほど大雨が続くとみられることから警戒を呼びかけています。【8月16日 NHK】
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特に被害が大きいのが、南部ケララ州で、90年ぶりとも、過去100年で最悪被害とも言われる大雨で、上記記事では“15日までに217人が死亡”とありますが、“6月からの死者数は合わせて410人以上”とも。

南インド・ケララは一度観光したことがありますが、バックウォーターと呼ばれる水郷地帯で、普段でも水路と水田の区別が判然としない“美しい景色”を見ることができる地域ですので、大雨になれば大きな被害が出ることは容易に想像できます。

(2005年に観光したケララ州のバックウォーター 手前は水路 ヤシの並木の向こうは水田)

****インド・ケララ州の大洪水、避難者が100万人超える****
インド南部ケララ州を襲ったモンスーンによる壊滅的な洪水で、計410人以上が死亡、100万人以上が避難している。当局が21日、発表した。
 
水が引くにつれ、被害の規模が明らかになってきた。ケララ州議員によると、家屋約5万軒が損壊し、住民が避難キャンプに押し寄せているという。
 
陸海空軍の兵士数千人が同州各地に出動し、遠く離れた丘陵地帯に取り残された人々の救助に当たっている。
 
州政府の報道官はAFPに対し、州内にある約3200のキャンプへの避難者は計102万8000人に達したと明かした。
 
20日には新たに6人の遺体が見つかり、モンスーンが始まった6月からの死者数は合わせて410人以上になったという。【8月21日 AFP】
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また、最近ではSNSによる偽ニュース拡散という、新しいタイプの危機も生まれています。

****大洪水で偽ニュース拡散 不安広がる インド****
インド南部ケララ州で起きた大洪水で、「人気サッカー選手のクリスティアーノ・ロナウドさんが災害救助基金に1100万ドル(約12億円)の寄付をした」や「主要ダムにひびが入った」といったフェイク(偽)ニュースが拡散し、混乱と不安を広げている。(後略)【8月23日 AFP】
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インドではスマートフォン用対話アプリ「ワッツアップ」を通じ、「誘拐事件が起きた」などという偽情報が拡散され、「犯人」と勘違いされた無実の人が集団暴行を受け死亡する事件が相次いでいます。

「部外者」を信頼せず、排除する閉鎖的な体質が根強いインド農村部に、情報化の波が急速に押し寄せていりことが、こうした事件を生んでいると思われます。現代社会の新たな問題です。

UAEからの救援金を断る “いかなる緊急事態も自国で対処できる”】
18日にケララ州を視察したモディ首相は、復旧のために日本円にしておよそ77億円の支援を約束しましたが、州首相は「過去100年で最悪の洪水に直面している」と述べるなど、被害はさらに拡大する恐れもあります。【8月19日 日テレNEWSより】

そうした大災害に見舞われているインドですが、インド政府は22日、被災地の救援基金に1億ドル(約110億円)を寄付するとのアラブ首長国連邦政府の申し出を断ったそうです。

****インド、UAEからの洪水救援金1億ドルを拒否****
インド南部ケララ州で400人以上の死者が出ている未曾有の洪水で、インド政府は22日、被災地の救援基金に1億ドル(約110億円)を寄付するとのアラブ首長国連邦政府の申し出を断った。
 
ケララ州のピナライ・ビジャヤン州首相は、インド政府の支援だけでは足りないとして、UAEが21日に申し出た寄付を受け入れるよう政府に求めていた。
 
しかし、インド外務省は「現行方針にのっとり、政府は国内の努力を通じて救援・復興の要求を満たすよう全力を注いでいる」との声明を発表した。同省の説明によれば、海外からの寄付金はインドにルーツを持つ個人・法人を通じてのみ受け付けるという。
 
インドはこれまでにもたびたび海外からの災害援助を拒否してきた。2004年のインド洋大津波でも、海外からの援助の申し出を断っている。専門家によれば、いかなる緊急事態も自国で対処できると証明したいインド政府の姿勢の表れだという。
 
インドは今回も、特にUAEを名指しして支援を拒否したわけではない。モルディブも洪水への援助を表明しており、政府の声明は「外国政府を含め、複数の救援・復興支援の申し出に深く感謝している」と述べている。

しかし、ケララ州側は支援の受け入れを求めていたことから、政府の対応をめぐっては政治的な論争も起きそうだ。
 
UAEの申し出た支援金額は、インド政府の約束額を9700万ドル(約108億円)上回る。

ビジャヤン州首相は、州内の被害は30億ドル(約3300億円)超に上るとして、政府に3億7500万ドル(約416億円)の一括援助を求めている。
 
モンスーンの豪雨に伴う今回の大洪水では、6月以降これまでに420人以上が死亡し、134万人が今も避難生活を送っている。【8月23日 AFP】
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“インド政府の約束額を9700万ドル(約108億円)上回る”というのは事実誤認(あるいは誤訳)があるようにも思えますが、いずれにしても30億ドル(約3300億円)超に上るとも見られる被害を前に、資金はいくらあっても足りない状況でしょう。

“いかなる緊急事態も自国で対処できると証明したい”というのは、言い換えれば、被害者救済より面子を優先したともとれます。

孤高の非同盟主義の名残でしょうか。

中国との関係を急速に改善する「バランス外交」も
一方、インドは、パキスタンや周辺国への影響で利害が相反する中国が推進する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」への参加を一貫して拒絶しつつ、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の融資は歓迎しています。

“「バランス外交」でしたたかに利益狙う”【6月26日 産経】とも。

****AIIB、インドに集中投融資 背景に中国との関係改善****
インドのムンバイで開かれたアジアインフラ投資銀行(AIIB)の3度目の年次総会が26日、閉幕した。膨大なインフラ需要があるインドはAIIBにとって最大の投融資先になった。インドと、AIIBを主導して設立した中国の関係改善も背景にある。

 「アジアには大きな格差が存在する。AIIBは課題を解決していく中心的な役割を果たすことができる」。開幕式で演説したインドのモディ首相はAIIBをこう持ち上げた。

13億人の人口を有するインドは年約7%の実質成長を続けているが、電力や道路などのインフラ整備は遅れ、投融資が爆発的に伸びる可能性がある。

AIIBによる投融資は、87ある加盟国のうちインド向けが約3割を占め、突出している。24日の理事会でも、インド政府系投資会社が運営するファンドに2億ドルを出資することを決めた。

もともとインドには、AIIBを主導する中国への警戒感があった。中国が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」には、インドとパキスタンの係争地であるカシミールでの事業も含まれている。スリランカやモルディブなどインド周辺国のインフラ整備を中国が支援していることにも、インドは不快感を募らせていたとみられる。

それでもインドは、AIIBを自国のインフラ開発を進めるための「資金の供給源の一つ」(インド政府関係者)と考えている。AIIBの創設メンバーとして中国に次ぐ出資国となったのも、組織内から運営に関与して自国に有利に動かしたい思惑があるからだ。
 
モディ氏は総会での演説で「旺盛なインフラ需要に応えるには、いまの投融資額40億ドル(約4400億円)でも足りない。2020年までに400億ドル、25年までに1千億ドルに拡大することを望みたい」と、具体的な金額を挙げてさらなる投融資を呼びかけた。(後略)【6月27日 朝日】
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そうしたチャイナマネーへの期待もあって、一時期緊張が高まった中印国境も“雪解け”ムードのようです。

****<中印国境>軍にらみ合い一転雪解け 交易再開、観光客戻る****
インドと中国の国境地帯で、昨年6月から両国軍が2カ月以上にらみ合い、「中印国境紛争(1962年)以来の緊張」と指摘された。

だが、今年に入り両国関係は急速に改善している。舞台となったインド北東部シッキム州の国境地帯を今月中旬訪れると、住民による中印の交易が再開し、観光客も戻るなど以前の風景を取り戻していた。

両国は当面、領土問題などは棚上げした形で関係改善を図るとみられている。

シッキム州は、中印両軍が昨年にらみ合ったブータンのドクラム高地から約16キロに位置する。

標高3000メートル超で気温は20度を下回り、過ごしやすい。ヒマラヤ山脈や美しい湖があり、人気の観光地だが、ここにも1万人を超えるインド軍兵士が派遣された。住民によると、昨年は軍の車両が山道をひっきりなしに通過し、観光客もまばらだった。現在は観光客が乗るミニバスに交じって軍用車両は時折通る程度だ。

「昨年は悪夢だった。国境貿易は年々拡大していたのに完全にストップしてしまった。でも今年は過去にないくらい好調だ」。地元貿易団体幹部のラジェシュ・ライさん(30)は満足げだ。国境地帯では中印合わせて約300人の貿易商が両国を行き来し、衣服や食糧などを市場で販売する。

危機当時、中印政府は貿易商の渡航を禁止した。両政府は激しく非難し合い、地元メディアも「一触即発の危機」と大々的に報じた。しかし、インド軍兵士や地元住民に話を聞くと、緊張は限定的だった様子も浮かぶ。

「どの兵士も本気で武力衝突が起こるとは考えていなかった。上官からは中国の兵士を刺激するなと言われていた」。現地に駐屯するインド軍兵士はこう話し「中国が撤収しないから、我々も撤収できなかった。メンツの問題だった」と振り返る。(中略)

印シンクタンク「国防研究分析所」のカリャナラマン氏は「昨年は両国が最初から落としどころを探り、武力衝突に発展させないよう努力していた」と指摘した。一方で「最悪のシナリオは、偶発的な衝突をきっかけに両国が引くに引けなくなり、昨年のような事態がさらにエスカレートしてしまうことだ」と話した。

 ◇急速に関係改善
中国とインドは今年、急速に関係を改善させた。貿易を巡り米国との緊張が高まる中、周辺国との安定した関係を望む中国と、来年の総選挙を前に中国との経済関係を強化したいインドの思惑がある。
 
中国の習近平国家主席は4月、湖北省武漢市にインドのモディ首相を迎えて会談し、対立の雪解けを演出した。6月には中印が共に加盟する「上海協力機構」の首脳会議が山東省青島市であり、両首脳は再び会談した。

習近平指導部は2012年の発足後、「大国外交」を掲げて南シナ海などで海洋権益の確保を図り、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の構築を進めた。一方でインドや日本、東南アジア諸国など周辺国との激しいあつれきも招いた。

米中関係もトランプ米政権によって不確実性が増す。米国は対中強硬策を次々と打ち出して貿易戦争が激化、南シナ海や台湾の問題でも摩擦が強まる。中国は周辺国との関係再構築が急務となった。

インドでは、モディ氏が首相再選を目指す総選挙が来年に迫っており、中国との経済関係強化をアピールしたい狙いがある。インフラ整備を進めるため、中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)から融資を引き出したい思惑ものぞく。

両国には対立の火種も残る。「中華民族の復興」を掲げる習指導部は、領有権問題で弱腰姿勢を国内に見せることはできない。

一帯一路は、インドとパキスタンが領有権を主張するカシミール地方を含むことからインドは反発。スリランカやモルディブなどインド洋でも中印の勢力争いは激しくなっている。【7月22日 毎日】
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日本・安倍政権としてはアメリカとともにインドを取り込んだ「自由で開かれたインド太平洋戦略」で、中国に対抗する・・・・というのが外交基軸でしたが、上記のようなインドの「バランス外交」「是々非々」で、思いどおりには進んでいません。

もっとも、日本としても、上記のようなインドの事情に加えて、自動車関税を持ち出すなどのアメリカ・トランプ政権の“同盟国”への対応についても不安がありますので、アメリカとの緊張が高まり、日本との関係改善を求める中国との間で、急速に日中関係改善の機運が高まっていることは周知のところです。

各国がそれぞれの立場で、自国の利益を追求する・・・当然の流れではあります。

なお、インド国内では、北東部アッサム州のイスラム系住民400万人から市民権を事実上剥奪し、大量のイスラム教徒が国外追放される懸念が生じていますが、その件はまた別機会に。
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