(自身の暗殺計画が発覚したことについて、そのようなことは日常茶飯事だと一蹴した「タフガイ」プーチン首相ですが、選挙直前のタイミングの良さを疑う声もあるようです。 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6791699382/ )
【「プーチン氏の一発当選が最も現実的なシナリオ」】
プーチン首相が大統領への返り咲きを図るロシアでは、今週末3月4日に投票が行われます。
もとより、プーチン首相の勝利は確実視されてはいたものの、昨年12月の下院選後に不正選挙疑惑で支持率が低迷し、一時は第1回投票での「一発当選」を危ぶむ声も出ていました。
しかし、ここにきて、やはり「安定」を求める固い支持基盤に支えられる形で、支持率も6割をうかがうほどに回復、その強さを見せつけています。
なお、候補者は、与党「統一ロシア」党首のプーチン首相(前大統領)、共産党のジュガーノフ党首、極右・自民党のジリノフスキー党首、左派「公正ロシア」のミロノフ党首、そしてロシア第3の富豪で投資ファンド創業者のプロホロフ氏です。
****露大統領選:プーチン首相一発当選濃厚に 集会に13万人****
3月4日に大統領選を控えたロシアでは、返り咲きを目指すプーチン首相の支持率が伸び、第1回投票で当選する可能性が高まってきた。首相陣営は23日に首都モスクワで約13万人参加(警察発表)の集会を開くなど動員力を見せつけている。集会に出席したプーチン氏は「23日は祖国防衛者の日」と強調し、愛国心の高揚を呼びかけた。
全ロシア世論調査センターは20日、最新調査に基づき、プーチン首相が58.6%を獲得し、2位のジュガーノフ共産党委員長(14.8%)に大きく差をつけるという予想を発表。「世論基金」もプーチン氏が58.7%を獲得するとの予想を出した。カーネギー国際平和財団モスクワセンターのペトロフ研究員は「プーチン氏の一発当選が最も現実的なシナリオ」と指摘する。
プーチン氏の支持率は昨年12月の下院選後に40%台前半まで落ち込み、一時は第1回投票で過半数を得られず、決選投票にもつれ込む事態も想定されていた。
大統領選には野党・独立系の4候補も出馬しているが、いずれも「体制内野党」と見られる向きが強い。そのため抗議運動の中心となる大都市中間層が、支持候補を見つけられず、プーチン氏を利する格好になっている。
また首相陣営は1月中旬から毎週、主要紙にプーチン氏の政策論文を掲載させるなど、主要メディアを利用した選挙戦を展開している。【2月23日 毎日】
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【「中流層の政党を打ち立てるリーダーがいない」】
個人的には、強面のプーチン首相が慌てる場面なども期待したのですが、いまのところは余裕の「一発当選」といった情勢です。
プーチン首相の強さは、90年代の混乱を収めて「安定」に導いた同氏への国民の信頼が強いことの他、成長する都市中間層を中心とした現状批判の受け皿となる候補・政党が育っていないこともあるとされています。
現状批判の内容は、民主化云々より、汚職が蔓延する社会不正への批判が中心と言われています。
****育ちゆく中流層どこへ ロシア大統領選****
「中流層の政党は必要だと思う。でも、その政党を打ち立てるリーダーがいない」
反プーチン集会に毎回参加してきた大学生のニコライさん(21)はそう嘆いた。初めて投票する3月4日の大統領選では、誰に投票するか困っている。
与党「統一ロシア」が薄氷の過半数を維持した昨年12月の下院選。不正があったと街頭に出たのが、社会の安定の中で育ちつつある都市中流層だった。中流層の怒りが爆発したのは、投票の受け皿がなかったのが一因と指摘されている。
政権側は、早くからその必要性を認識していた。昨年春、メドベージェフ大統領は当時のクドリン財務相にリベラル右派政党を率いることを打診した。下院に議席のない小政党「正義の事業」を活性化し、中流層を取り込む構想だった。しかし、クドリン氏は拒否。その後、投資ファンドを率いる大富豪のプロホロフ氏が党首に就いたが、内紛が原因で解任劇が起き、政権側のシナリオはついえた。
プーチン首相とメドベージェフ大統領の「ポスト交換」構想が公表された昨年9月、これに異を唱えたクドリン氏は財務相を解任される。プロホロフ氏は、政党推薦ではない唯一の候補として大統領選に挑んだ。
2人は反プーチン集会にも姿を見せた。中流層の取り込みが狙いなのは明らかだ。クドリン氏は「民主とリベラルを統合して新政党を作る協議が進んでいる」とツイッターで発言。プロホロフ氏は今月21日、新党結成の意向を表明した。
だが、クドリン氏は長年仕えたプーチン氏との関係は固いとされる。プロホロフ氏も含め政権側の意向で動いているのではないか。そんな疑念が、中流層の支持をためらわせている。
反プーチン集会の主催者会議には、未登録のリベラル政党「国民自由党」を率いるネムツォフ元第1副首相のほか、「人民大統領」の異名をとる人気ブロガーのナバリヌイ氏らが顔をそろえる。だが、中流層の受け皿となる政党に結集していく動きは見えない。
その一方でメドベージェフ氏は20日、ネムツォフ氏ら未登録野党の代表らと会い、政党登録要件の緩和など政治改革を約束。プーチン氏も新聞各紙で相次ぎ発表した論文で、「中流層は社会の多数派であるべきだ」など、集会参加者を意識した内容を盛り込んだ。
だが、26日にも「人間の鎖」の反プーチン行動が展開された。育ちゆく中流層をそれで納得させられるかどうか。戦略研究センターのドミトリエフ所長は「次の下院選を前倒しし、中流層を代表する政党の形成を進めなければ、階級闘争という最悪のシナリオになる」と指摘している。【2月28日 朝日】
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【「もはや人々は喜んでいない。だが、彼はその点に注意を払っていない」】
当選は確実とされるプーチン首相ですが、毎度繰り返される「タフガイ」演出には、国民の間でもいささかうんざりした受け止め方が出ています。
そうした空気が読めないあたりに、長く権力の座にある人物が次第に国民から離反していく様が窺われます。
****プーチン首相の「タフガイ」演出、もう古くさい?大統領選前にかすむ効力****
そこには、ウラジーミル・プーチン首相のトレードマークたる「タフガイ」を演出するためのあらゆる要素が備わっていた――スピード、危険、そして興奮。だが、プーチン首相を乗せた2人乗りボブスレーはゴールまで猛スピードで駆け抜ける代わりに、なんとも恥ずかしいことに、そしてある意味危険なことに、傾斜を上り切る速度を得られずスタート地点まで逆走してしまった。
2月16日のこの出来事について、ロシア政府は「1回目、首相を乗せたボブスレーはゴールまで到達しなかった。2回目には成功し、ウラジーミル・プーチンはゴールにたどり着いた」と簡潔な声明を発表しただけだった。けれどそれは、3月4日の大統領選で返り咲きを狙うプーチン氏が12年間にわたるロシア統治で駆使してきた「タフガイ」演出が、かつての魔法めいた効力を既に失ってしまったことを示す象徴的な出来事だった。
■色あせる「タフガイ」
プーチン氏は大統領在任8年間と首相在任4年間で、紛争中のチェチェン共和国に戦闘機で乗り付け、ホッキョクグマを優しくなで、トラに麻酔銃を撃ち込み、F1用レースカーに乗り、小型潜水艇で世界最深の湖底に潜り、上半身裸でシベリア地方を乗馬した。
しかし、プーチン氏に対する抗議運動が国内各地でわき起こり、本人も60歳になろうとする今、同氏の一挙一動にロシアのインターネット・ユーザーは批判的な検証の目を向けており、「タフガイ」パフォーマンスは効力を失いつつある。
露シンクタンクCPIの、オルガ・メフォジェワ氏はこう語る。「プーチン氏は、カリスマ性と支配的な男らしさを全面に押し出してきた。だが、このイメージはだんだん古くさくなり、現実と接点を失って惰性と化した。過去の業績を生かそうにも、新たな創造性がなければ、何もかもが繰り返しと再生産になってしまう」(中略)
■「やらせ演出」「格闘技試合でブーイング」
しかし前年の夏は、パフォーマンスが裏目に出てしまった。ロシア南部の海底遺跡を探査したプーチン氏は、奇跡的に古代ギリシャのつぼを「発見」し、ウェットスーツ姿で岸に戻るなり記者団に「宝だ!」と告げた。ところが後になって、つぼはそこに意図的に置かれたものだったことをプーチン首相の報道官が認め、反プーチン派のブロガーたちは一斉にプーチン氏に嘲笑を浴びせた。言葉あそびを使ったあるスローガンは「われわれは正直なつぼ(選挙)を要求する!」というものだった。
11月20日には、モスクワで行われた総合格闘技の試合で、勝利者を祝福するために登場したプーチン氏が自分の支持層と信じていた満員の格闘技ファンからブーイングを浴びせられた。この突発的な出来事は国営テレビで放映されてしまい、今では12月4日の総選挙後の抗議デモのさきがけとなったと見られている。
■過去のイメージ引きずるプーチン氏
元ロシア政府顧問で、「効果的な政策のための基金」を率いるグレブ・パブロフスキー氏は、プーチン政権初期は前任のボリス・エリツィン元大統領の変人ぶりとの比較から、プーチン氏の行動派のイメージが好意的に受け止められていたと指摘する。「当時は強い権力を求める声、強く活動的な大統領の姿を求める声があった。プーチン氏は慎重に、かつ意図的にこの欲望を満たしたのだ」
「今もプーチン氏がこの手法を続けているのは、過去にそれが成功をもたらし、また自分がそのイメージを気に入っているからだ。もはや人々は喜んでいない。だが、彼はその点に注意を払っていないのだ」と、パブロフスキー氏は分析した。【2月27日 AFP】
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【大都市部にくすぶる反政権機運に神経質な反応】
一方、昨日ブログで取り上げたイランでも国会議員選挙を前に改革派封じ込めのためネット規制が取られていますが、そのあたりはロシアでも同様です。
勝敗には関係なくても、反政権的な言動には神経質なようです。
自分・政権への批判を封じ込めようとする姿勢・体質には、欧米・日本的な民主主義とは異質な強権的雰囲気を感じてしまいます。
****政権側 言論統制に焦りの色****
報道・ネット、圧力強まる
3月4日に予定されるロシア大統領選を前に、自由な報道や言論を続けてきた数少ないメディアや、大きな影響力を持つ反政権派ブロガーに対する政権側の圧力が強まっている。選挙ではプーチン首相(前大統領)の当選が確実とみられているにもかかわらず、政権側は大都市部にくすぶる反政権機運に神経質な反応を見せている形だ。
国営天然ガス独占企業「ガスプロム」のメディア持ち株会社は今月、傘下の人気ラジオ局「エホ・モスクブイ」のベネディクトフ編集長ら幹部に同局役員を退くよう要求。同局は国営企業の系列ながら独立した報道姿勢で定評がある。
著名リベラル紙「ノーバヤ・ガゼータ」についても今月、露中央銀行が、同紙に出資する事業家のレベジェフ氏傘下の銀行に大規模な調査をかけており、同紙への資金供給に支障が出ていることが明るみに出た。一方、中銀は、絶大な人気を誇る反政権派のブロガーで弁護士のナワリヌイ氏らが口座を持つ銀行の調査にも乗り出している。
プーチン氏は前回の大統領に就任した2000年以降、主要テレビ局を国や国営企業の傘下に入れて言論・報道統制を強めた。だが、ロシアではネット利用者が07年の2280万人から倍以上の5290万人に急増、1300万人がソーシャル・メディアのフェイスブックを利用するなどネット環境が激変している。
モスクワで昨年12月の下院選後、選挙不正疑惑に抗議する10万人規模の反政権デモが行われたのも、こうした変化があってのことだ。ナワリヌイ氏はネット上の汚職追及運動で広範な支持を獲得し、ツイッターの読者は20万人に迫る。
昨年12月の下院選に際しては、治安当局が人気ソーシャル・メディアの運営者に反政権派の排除を要求して拒否されるなど“攻防”があった。
ロシアでは中国式の大規模なネット統制は困難とみられているものの、旧来の言論統制が利かなくなった現実に政権側が焦りを募らせているのは間違いない。【2月29日 産経】
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【大統領選を前に暗殺計画が発表 懐疑的な見方も】
なお、27日には、チェンチェン武装組織とつながるプーチン首相暗殺計画の容疑者が拘束されたことが国営テレビで報じられましたが、大統領選挙直前というタイミングもあって、自らの強さとチェチェン独立派への勝利を誇示し、ロシア愛国心を鼓舞するプーチン首相の選挙戦略の一環ではないかとの疑念も反プーチン派の間にはあるようです。
****プーチン首相が暗殺計画を一蹴、大統領選前に強さアピール****
ロシアのプーチン首相は28日、自身の暗殺計画が発覚したことについて、そのようなことは日常茶飯事だと一蹴し、大統領選を5日後に控え、男らしいイメージをアピールした。
タス通信によると、プーチン首相は訪問先のアストラハン市で記者団に対し、「四六時中、恐れていたら生活できない」とし、1999年に最初に首相になって以来、このような脅威にずっとさらされてきたと語った。
ロシアの国営テレビは27日、イスラム系武装勢力がプーチン氏を狙った暗殺計画を企て、容疑者2人がウクライナの港湾都市オデッサで拘束されたと報じた。同国のメディアは、容疑者が、昨年1月にモスクワ郊外のドモジェドボ空港で37人が死亡した自爆攻撃事件の首謀者であるドク・ウマロフ容疑者が率いるイスラム系組織「カフカス首長国」と関連があると伝えている。
しかし、ロシアの野党勢力は、3月4日の大統領選を前に暗殺計画が発表されたことを、プーチン氏への同情を集めようと意図的に流されたものとして懐疑的に見ている。
大統領選に関する最新の世論調査2つによると、プーチン氏が58―66%の得票率で勝利する見通し。【2月29日 ロイター】
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プーチン首相の「強い指導者」のイメージは、99年のロシア高層アパート連続爆破事件、それをチェチェン独立派武装勢力のテロと断定してチェチェンへの侵攻を再開した強硬姿勢によって作られましたが、連続爆破事件へのロシア連邦保安庁(FSB)による関与の可能性を指摘する意見も存在します。