孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  コーラン焼却事件の混乱拡大 反米感情と相互不信

2012-02-26 21:18:20 | アフガン・パキスタン

(2月21日 バグラム米空軍基地の門前での抗議行動で、群衆に示される一部燃えたコーラン “flickr”より By hooterburg http://www.flickr.com/photos/69071395@N04/6917469583/

【「故意ではなかった」】
アフガニスタンの駐留米兵がイスラム教の聖典コーランを燃やしたことへの住民の抗議と混乱が、なかなか収まりません。

事の発端は、首都カブール北方のバグラム米空軍基地で20日、米兵らがコーランを含むイスラム教関連書籍を焼却しているのを基地で働くアフガン人従業員が目撃、焼却を止めさせ、燃えたコーランを手に基地外に飛び出し、兵士らの行為を非難したというものでした。
燃やされたコーランは、基地内に拘束されたイスラム教徒のためのものだったとみられています。

事件発覚後、国際治安支援部隊(ISAF)のアレン司令官は「アフガン国民に心から謝罪する」との声明を発表、この中で、不適切な方法での廃棄を認めつつ、「故意ではなかった」とし、調査を命じていますが、その後の混乱の拡大は周知のとおりです。

アフガニスタン駐留米軍を巡っては、米海兵隊員4人が1月、タリバン戦闘員の遺体に放尿する場面を撮影した映像がインターネット上に流出する問題が起きたばかりでしたので、“またか・・・”という感がありました。
今回は、「故意ではなかった」とは説明されていますが、度重なる失態に、日頃からの反米感情に火がついた形となっています。
“カブールでは、抗議デモ参加者が「米国に死を」「カルザイ(大統領)に死を」などと連呼。参加者は、外国人が利用している宿泊所に放火し、カブールの米国大使館職員は施設内に閉じこもった状態という”【2月22日 毎日】

【「謝罪外交」】
アメリカ側は現地の治安情勢や、タリバンとの和平交渉、今後の撤退計画への影響を懸念し、「謝罪外交」とも言える政権を挙げた謝罪によって事態の早期収拾を図ろうとしています。

“パネッタ長官は(21日の)声明で「国際治安支援部隊(ISAF)のアレン司令官と私はアフガンの人々に謝罪する」と表明。カーニー米大統領報道官も21日の記者会見で「極めて残念な出来事だ」と述べ、再発防止へ向けた措置を講じる考えを強調した。アレン司令官は指揮下の兵士を対象に、イスラム教に関する新たな教育を2週間以内に実施すると約束した。”【2月22日 毎日】

オバマ大統領もアフガニスタンのカルザイ大統領に書簡を送り謝罪しています。
****米兵の安全に懸念=コーラン焼却でオバマ氏謝罪****
カーニー米大統領報道官は23日の記者会見で、アフガニスタン駐留の国際治安支援部隊(ISAF)の兵士がイスラム教の聖典コーランを焼却し、抗議デモが激化している問題を受け、同国のカルザイ大統領にオバマ大統領が書簡を送り、謝罪したことを確認した。現地に駐留する米兵らの安全が保たれない恐れがあることを懸念し、謝罪したと説明している。
カーニー報道官は、コーランを焼却したのは米兵だったことを認め、「不注意」によるものだったと釈明した。書簡は3ページにわたるという。【2月24日 時事】
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住民側、アメリカ側双方に犠牲者も
抗議のデモは全国各地に拡大、アフガニスタン警察の発砲により住民側に多数の死者を出す状況となっています。

****アフガン暴動、長期化懸念 米兵のコーラン焼却問題****
アフガニスタンの駐留米兵がイスラム教の聖典コーランを燃やしたことに抗議する住民のデモが、アフガン各地に広がっている。24日もイスラム教の金曜礼拝後に抗議デモが起こり、首都カブールと西部ヘラートなどで少なくとも計10人が死亡した。米国はオバマ大統領までが謝罪を表明したものの、沈静化の兆しは見えない。
デモは4日連続。地元報道によると、24日までに住民ら30人近くが死亡した。

23日には、東部ナンガルハル州でデモに加わっていたアフガン兵が、アフガンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)の兵士に向けて発砲、米兵2人が死亡した。反政府武装勢力タリバーンはこの日、コーラン焼却への報復として、駐留外国軍を攻撃するようアフガン国民らに呼び掛ける声明を出していた。

オバマ大統領は23日、アフガン国民に「心から謝罪する」と記した3ページの書簡をカルザイ大統領に渡した。焼却は「故意ではなかった」と釈明。ISAFのアレン司令官やパネッタ米国防長官も相次いで謝罪を表明した。

アフガンでは昨年4月、米国のキリスト教会でコーランが焼かれたことに抗議するデモ隊が暴徒化し、国連事務所が襲われる事件も起きていた。今月上旬には米軍の戦闘任務を2013年後半に終結させる方針が示されているが、今回の問題が治安権限移譲の時期などに影響する可能性も指摘されている。【2月25日 朝日】
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ISAF兵士やアメリカ人を標的した襲撃も起き、情勢が悪化しています。
東部ナンガルハル州では23日、デモに加わったアフガン兵がISAF兵士に発砲し、ISAF兵2人が死亡。
更に、25日には内務省で外国人顧問2人が射殺されました。

****アフガン:内務省で米国人顧問2人が射殺される****
アフガニスタンの首都カブールにある内務省で25日、外国人顧問2人が射殺された。民放トロTVによると、いずれも米国人。内務省は警備が厳重で、内部のアフガン人による犯行の可能性が高い。

顧問2人は、内務省に設置された国際治安支援部隊(ISAF)とアフガン側の調整センターにいたという。アフガンでは23日、東部ナンガルハル州で国軍兵がコーラン焼却に抗議するデモに合流して米兵2人を射殺したばかり。今回の事件もコーラン焼却と関連がある可能性がある。【2月25日 毎日】
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この事件を受け、ISAFのアレン司令官は、カブール市内の省庁に派遣されている顧問団をすべて引き揚げる緊急措置を発表しています。
今後米国主導のISAFとアフガニスタン政府間で急速に不信感が高まることも懸念されています。

高まる反米感情 乗じるタリバン
現在のところ、アフガニスタン住民の怒りは収まらず、この混乱に乗じる形でタリバン側の扇動も行われています。

****アフガン米軍基地「コーラン」焼却 抗議デモ激化****
・・・・カブール市内で23日のデモに参加したバシル・ハイダリさん(28)は、「コーラン焼却は米国の意図的な行為だ。その証拠に、謝罪しても同じことが繰り返されてきた。米国はテロに対してではなく、アフガン人とイスラムを相手に戦っている」と、本紙通信員の取材に米国への怒りを爆発させた。

コーランの焼却は、昨年3月にも米フロリダ州のキリスト教会であり、アフガン各地で米国への抗議デモを引き起こした。アフガンでは、信仰心を傷つけられた市民に対し、イスラム教指導者が反米感情をあおる傾向が強く、同様の問題はたびたび大規模な反米デモに発展してきた。

アフガンは今年、15年ぶりとされる厳冬に見舞われ、各地の生活は積雪などでまひ状態に陥っている。物価の上昇など社会への不満も鬱積しており、コーラン焼却問題で市民の怒りが一気に噴き出した形だ。

イスラム原理主義勢力タリバンは早速、「単なる抗議で満足せず、侵入者を殺害せよ」とする声明を出し、混乱に乗じて勢力拡大を狙っている。政治アナリストのモハマド・ハッサン・ハキヤー氏は、「今回の出来事はアフガンでの親米感情を排除したいパキスタンやイランを利するだけだ」と指摘している。【2月25日 産経】
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米軍とアフガン治安部隊の現場レベルで、相互不信拡大も
住民の怒りの矛先はカルザイ政権にも向いており、“デモではタリバンのシンボルの白い旗を持つ参加者もいる。政権の腐敗に不満を抱いてきた国民にとって、聖典焼却は政権による「米国追随」の結果とも受け止められている。カルザイ大統領は「デモは住民の権利だ」と述べ、非暴力の抗議を容認して事態を沈静化したい意向をにじませた。”【2月25日 毎日】と、カルザイ政権も難しい対応を迫られています。

今回の事件では、米軍とアフガン治安部隊の現場レベルで、相互不信がまん延することが懸念されています。
もともと信頼感はなかった関係ではありますが、相互不信が表面化することで、タリバンに対して協調して対応することも、米軍撤退後の青写真を描くことも、いよいよ困難になってきています。

****相互不信まん延阻止に懸命=コーラン焼却、米軍人射殺―アフガン****
アフガニスタンで国際治安支援部隊(ISAF)の米兵によるイスラム教の聖典コーラン焼却に続いて、首都カブールの内務省で米軍人が射殺された事件が起き、米軍とアフガン治安部隊の現場レベルで、相互不信がまん延することが懸念されている。

コーラン焼却ではオバマ大統領が早々に書簡で謝罪を表明。米軍人射殺ではアフガンのワルダク国防相が25日に電話でパネッタ国防長官に謝罪した。2014年の治安権限移譲を控え、米、アフガン両政府ともに早期の事態収拾に懸命だ。

米国防総省のリトル報道官によると、ワルダク国防相はパネッタ長官に緊急対策を講じるためにカルザイ大統領が宗教指導者や国会議員、最高裁判所判事を招集していると説明した。パネッタ長官はISAF兵士を守り、暴力を阻止するために断固たる措置を講じるよう求めた。【2月26日 時事】 
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タリバン掃討作戦、米軍の撤退計画、タリバンとの和平交渉といった超大国の威信をかけた取り組みも、たった一冊のコーランの償却という思いもかけない出来ごとで大きく揺らぎかねない・・・現実と言うのはそういうものです。
もっとも、その危うさの背後には、反米感情とか相互不信という根本的問題が改善されずにきたという、厳然たる事実があってのこととも言えます。

コメント (1)
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