孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

対シリア強硬姿勢のサウジなど湾岸諸国 宗派間の主導権争いの側面も バーレーンで再び反政府運動

2012-02-15 21:46:03 | 中東情勢

(2月14日 バーレーン 道路を封鎖して抵抗する住民 “flickr”より By Friends of Bahrain http://www.flickr.com/photos/75379274@N04/6880140377/

アサド政権への圧力強化は、「シーア派勢力への絶好の牽制になる」】
シリアでは武力弾圧が続いていますが、国連総会でアメリカのディカルロ国連次席大使は、昨年3月からのシリア人の犠牲者数が「6000人以上」との見方を示しています。

安保理におけるロシア・中国の拒否権行使で、国連機能の限界も言及されていますが、そうした中で、湾岸アラブ諸国のシリア批判が高まっています。
サウジアラビアやカタールが中心となって、拒否権行使がない国連総会でのシリア非難決議の採択や、国連とアラブ連盟による「共同平和維持軍」構想などが提起されています。

****アラブ諸国、シリア非難決議案を国連総会に提出****
アラブ諸国は14日、シリアのアサド政権による反体制派の弾圧を非難する決議案を、国連総会に提出した。
4日の国連安全保障理事会でシリア非難決議案に拒否権を行使した露中に対する圧力を高める狙いだ。

決議案は、市街地からの治安部隊の撤退などアラブ連盟による調停案の即時実施を要求し、4日の安保理決議案をほぼ踏襲する内容。アラブ連盟が12日に提案した連盟と国連の「共同平和維持軍」構想については明示していない。

総会決議には安保理決議のような法的拘束力がないが、アラブ諸国は圧倒的多数の賛成で総会決議を採択、国際社会の総意を印象づけた上で、改めて安保理決議案を提出し、露中に譲歩を迫りたい意向とみられる。【2月15日 読売】
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こうした湾岸アラブ諸国の対シリア強硬論の背景は、民主化支援と言うよりは、イスラム教スンニ派のこれらの国々とシリア・イランのシーア派勢力圏の主導権争いという側面が強いように見えます。

****対シリア 湾岸6カ国、強硬姿勢鮮明 シーア派勢力圏に楔****
駐在大使を追放、対立先鋭化の恐れ
市民弾圧が続くシリア問題で、湾岸アラブ6カ国は7日、それぞれの駐シリア大使を一斉に本国へ召還するとともに、各国に駐在するシリア大使を追放すると発表した。同国に対する強硬姿勢をいっそう鮮明にした形だ。イスラム教スンニ派が支配層を形成する湾岸諸国には、今回のシリア危機を利用し、シーア派の勢力圏に楔(くさび)を打ち込む狙いがあるとみられる。

アラブ連盟は1月、シリアのバッシャール・アサド大統領に対し、シャラ副大統領への権限移譲を迫った。表向き、これを主導したとされるのは、対シリア強硬派のカタールとサウジアラビアだ。
だが複数の外交筋によれば、この案はもともと、混乱長期化による域内の流動化を恐れるイラクが、事態収拾に向け水面下で根回しを進めていたものだった。

アサド大統領の父ハフェズ・アサド前大統領(2000年に死去)の政治顧問だったジョージ・ジャッブール氏(73)は「(大統領退陣後の)権力配分などの問題を解決できれば、政権が受け入れる可能性はあった」と話し、同案を軸に騒乱を軟着陸させるシナリオもありえたと指摘する。
しかしアラブ連盟が、カタールなどの主導で、準備不足のまま一方的に発表したことで、外圧に屈したとの構図を嫌う政権側は同案を拒否、シリアの孤立が深まった。
ジャッブール氏は「政権を徹底的に追い詰めたいカタールやサウジが、(同案を)潰すため連盟に持ち込んだ」とみる。

カタールやサウジは、一連の騒乱の発生前はシリアへ活発に投資してきた。この2国がシリアへの圧力を強める立場に転じた背景には、「シーア派三日月地帯」と呼ばれる、イランからレバノンに至るシーア派人口の多い地域で、同派勢力の結びつきが強まっていることへの警戒心がある。

スンニ派が多数を占めるシリアでも、シーア派の一派とされるアラウィ派が権力を握る。そのアサド政権は、イランと盟友関係にあるほか、西隣のレバノンでシーア派組織ヒズボラを支援。東隣のイラクでは近年、シーア派主導のマリキ政権がイランとの関係を深めている。
そんな中、デモや反体制派との戦闘で弱体化したアサド政権への圧力強化は、「シーア派勢力への絶好の牽制(けんせい)になる」(外交筋)というわけだ。

アラブ連盟には、エジプトなど、本音では圧力強化に慎重な国も少なくない。ただ、弾圧を続けるアサド政権を支持しているとは受け取られたくはないため、強硬論に引きずられているのが現実だ。投資や援助が見込める富裕な湾岸諸国との関係を悪化させたくないとの事情もある。
連盟内での議論は、今後もカタールやサウジが主導する可能性が高いだけに、シリアと他のアラブ諸国との反目が先鋭化する恐れも指摘されている。【2月9日 産経】
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昨年のバーレーンの民主化運動には軍事介入
昨年来の弾圧を別にすれば、政治的には厳格な王制で(最近は内閣や国会に相当する諮問評議会、地方議会も設置されたようですが)、スンニ派の中でも女性の権利・社会進出に規制的なワッハーブ派支配のサウジアラビアが、強権的独裁体制とは言え、世俗主義的なシリアの社会より“民主的”かどうかは非常に疑問のあるところです。
膨大な原油を握っていますので、誰も強く抗議はできませんが・・・。

実際、湾岸諸国のバーレーンで多数派であるシーア派住民の民主化運動が起こると、サウジアラビアなどの湾岸諸国は軍事介入して、この運動を抑圧しています。

このバーレーンでの民主化運動弾圧と、現在のシリアの弾圧の間には共通点も指摘されています。
****シリア内戦への懸念高まる アサド政権、鎮圧作戦続行か****
・・・・アサド政権が狙うのは、ロシアの支持を背景に国際社会の介入を防いで反体制派を制圧し、限定的な改革を行って事態を沈静化させるというシナリオだ。バーレーンで昨年行われた戦術に近い。

バーレーンでは、自国へのデモの波及やイランの影響力増大を恐れたサウジアラビアなどの湾岸諸国が、ハマド国王を支えるため軍を派遣してデモを鎮圧。バーレーンに第5艦隊司令部を置く米国も黙認した。

シリアの場合、構図は逆転する。米国やサウジなどがアサド政権に退陣を求めるなか、政権側の生命線は近隣諸国ではなく、ロシアとイランだ。シリアにはロシア海軍が拠点とする補給基地があり、反米、反イスラエルで緊密な関係にあるイランはアサド政権を支援している。

さらに、バーレーンと違い、反体制派も銃を取っていることが事態を深刻化させている。政府軍を離脱した兵士らでつくる「自由シリア軍」などが政府軍に対しゲリラ戦を続けており、4日から5日朝にかけ、北部イドリブなどで政府軍の兵士9人を殺害した。・・・・【2月6日 朝日】
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バーレーンで再び反政府運動
そのバーレーンで、反政府デモが起きてから1年がたった14日、シーア派住民ら数千人が首都マナマ郊外で抗議デモを展開し、治安部隊が催涙ガスなどを使い弾圧するという事態になっています。

****バーレーン当局、記念デモを再び阻止 反政権デモ1年****
バーレーンで反政権デモが始まって1年となる14日、各地で「記念デモ」を行おうとした反体制派を治安当局が阻止した。反体制派は昨年のデモで中心地となった首都マナマの真珠広場を目指そうとしたが、当局側は要員や車両を配備して厳戒態勢を敷いた。

バーレーンでは昨年2月14日、人口の7割を占めるイスラム教シーア派市民らがチュニジアやエジプトのデモの影響を受け、スンニ派のハマド国王に対して権利の拡大などを求めるデモを始めた。マナマの真珠広場を占拠したデモ隊に、治安部隊が発砲。自国へのデモの波及を恐れるサウジアラビアなどもハマド国王の要請で出兵して介入し、デモを鎮圧した。

ハマド国王は議会の権限拡大など限定的な改革案を提示したが、シーア派の反発は強く、散発的なデモが続いている。反体制派は「真珠広場の奪還を目指す」と11、13両日にも広場に向かおうとしたが、治安部隊が催涙ガス弾などを撃って追い返した。【2月15日 朝日】
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政府が設置した調査委員会は昨年11月、「治安部隊が市民に過剰な武力を行使した」と報告し、当局側の過失を認めてはいますが、多数派であるシーア派住民を少数派スンニ派支配層が統治する構造が変わらない限り、住民の反政府運動は武力弾圧によらないと抑えきれない実情があります。

シリアの武力弾圧を強く批判しているサウジアラビアなどが、再度軍事介入を行うのも難しいでしょう。
それでも、湾岸地域におけるスンニ派支配体制維持のためには強行するのでしょうか。
コメント
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