孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

今も続くフクシマの悪夢 原発対応に揺れる中国、アメリカ、フランス

2012-02-12 22:06:23 | 原発


(1月7日 町の全域が福島第一原子力発電所から半径20キロ圏内の「警戒区域」内にある福島県双葉町。 役場機能と町民の多くが埼玉へ避難しています。国は2年以内に汚染地域の放射線量をおよそ半分に減らす基本方針を打ち出していますが、除染によって安全に暮らしていける場所になるのかはよくわかりません。
“flickr”より By osaprio http://www.flickr.com/photos/osaprio/6773986313/ )

揺らぐ「冷温停止状態」 温度計故障?】
福島第一原子力発電所事故については、野田首相が昨年12月16日、政府の原子力災害対策本部の会合で「冷温停止状態に達し、事故そのものは収束に至った」と宣言しました。

これについては、“「冷温停止」などの言葉が本来とは異なる意味で使われており、これで問題がなくなったといった誤った印象を与えるのではないか”(NPO法人環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長)などの批判が内外からありましたが、私を含め事故地域外の多くの人にとっては、危機感・恐怖心が日重生活のなかで次第に薄れているのも事実です。

しかし、今日報じられた福島第一原子力発電所2号機の温度上昇のニュースは、フクシマの問題が何ら解決した訳ではないことを改めて思い起こさせます。

****2号機温度、80度超す…「再臨界の恐れない*****
東京電力は12日、上昇傾向を示している福島第一原子力発電所2号機の圧力容器底部の温度が同日午後2時20分に約82度に達し、保安規定で温度管理の上限として定める80度を超えたと発表した。
これを受け、午後3時30分には、原子炉に注入する冷却水を毎時約3トン増やし、計17・4トンに変更する作業を完了した。

ただ、温度が上昇しているのは、圧力容器底部の温度計3個のうち1個だけで、ほかの温度計は35度前後で安定しているという。原子炉の気体の分析でも、核分裂で発生するキセノン135は検出されておらず、東電は再臨界の恐れはないと説明している。

昨年末に政府と東電が宣言した「冷温停止状態」は、原子炉の温度が100度以下であることなどが条件で、東電では、20度程度の測定誤差を考慮して、80度以下に維持すると定めている。【2月12日 読売】
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温度計の故障の可能性も指摘されていますが、内部で何が起きているのか未だによくわかっていないことが問題でしょう。
また、冷却水を大量に増加させて冷却を加速することについても、汚染水の処理が定まっていない現状で、汚染水を増やす事態は避けたいとする東京電力は消極的だとか。汚染水を含めた事後処理も手つかずの状態です。

【「最悪シナリオ」で問われる情報公開の在り方
一方、昨年の事故当時、首都圏を含む避難処置に言及した「最悪シナリオ」が政府に報告されていたことも話題となっています。

****福島事故直後に「最悪シナリオ」 半径170キロ強制移住*****
福島第一原発の事故当初、新たな水素爆発が起きるなど事故が次々に拡大すれば、原発から半径百七十キロ圏は強制移住を迫られる可能性があるとの「最悪シナリオ」を、政府がまとめていたことが分かった。首都圏では、茨城、栃木、群馬各県が含まれる。
菅直人首相(当時)の指示を受け、近藤駿介・原子力委員長が個人的に作成した。昨年三月二十五日に政府は提出を受けたが、公表していなかった。

シナリオでは、1号機で二回目の水素爆発が起きて放射線量が上昇し、作業員が全面撤退せざるを得なくなると仮定。注水作業が止まると2、3号機の炉心の温度が上がって格納容器が壊れ、二週間後には4号機の使用済み核燃料プールの核燃料が溶け、大量の放射性物質が放出されると推定した。
放射性物質で汚染される範囲は、旧ソ連チェルノブイリ原発事故の際に適用された移住基準をあてはめると、原発から半径百七十キロ圏では強制移住、二百五十キロ圏でも避難が必要になる可能性があると試算した。

事故の拡大を防ぐ最終手段にも言及、「スラリー」と呼ばれる砂と水を混ぜた泥で炉心を冷却する方法が有効とした。スラリーの製造装置と配管は、工程表にも取り入れられ、実際に福島第一に配備されている。

政府関係者は「起こる可能性が低いことをあえて仮定して作ったもので、過度な心配をさせる恐れがあり公表を控えた」と説明。近藤委員長は「当時、4号機のプールは耐震性に不安があり、そこにある大量の核燃料が溶けたらどうなるか把握しておきたかった」と話している。【1月12日 東京】
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当然に想定されるべきシナリオであると思いますが、この報告の公表が控えられてきたことの是非が、情報公開の在り方として問われています。
政府側は、過度の、必要でない心配・不安を煽りたくなかったので公表しなかった・・・との立場です。
メディアの取り扱い次第では、首都圏住民にパニックを引き起こすことも考えられます。

そうした心情はよく理解されますが、一方で、都合の悪い情報は伏せる・・・という対応では、今後の政府情報への信頼性を損なうことも事実です。なかなか判断に迷う問題です。

中国:原発建設推進に地方政府が中止要求
魔法のように巨大なエネルギーを生みだす原発は、ひとたび事故を起こすと制御不能な事態をも引き起こします。それが生み出す廃棄物の処理さえままならないのが現在の技術です。
こうした原発の取り扱いについては、フクシマ以後、日本だけでなく各国がそれぞれの事情で迷っています。

先日、原発建設に関する話題が中国とアメリカからありましたが、中央政府が進める原発建設に対し隣接地方政府が建設中止を求めたのが中国で、スリーマイル島原発事故後34年ぶりに建設再開を決めたのがアメリカというのも、面白いところです。

****中国東部の原発建設「即時中止を」、隣県政府が国に求める****
中国東部に建設中の原子力発電所の立地が地震多発地域にあたり住民の安全が懸念されるとして、安徽省望江県政府が中央政府に建設の即時中止を求めたと、国営紙新京報が9日、伝えた。
経済発展に伴い大量のエネルギー確保が急務の中国では、国内25か所で原発の建設計画が進んでいる。こうした状況のなか、地方政府が国に原発計画の中止を要求するのは極めて異例だ。

新京報によると望江県政府は、隣接する江西省彭沢県で進められている原発建設計画について、今週初めに公表された環境アセスメント結果が、建設予定地から半径10キロ圏内の住民の人数を実際より少なく見積もっているなど信頼性に欠けると主張。また、予定地で2006年にマグニチュード(M)5.7、前年9月にはM4.6の地震が起きているなど、地震多発地域である点を指摘している。
望江県政府関係者らは、「原発が放出するガスや有毒液体」によって風下の住民が深刻な被害を受ける恐れがあるとの懸念を口にしているという。

これに対し、彭沢県政府は「全く根拠のない主張だ」と反論しているという。
彭沢県の原発建設計画は2010年に承認され、既に初期工事も始まっているが、新京報は建設計画の評価報告書を公明正大に公表すべきだとの論評を掲載した。

中国では現在、14基の原子炉が稼働中。世界原子力協会によれば、中国当局は2020年までに原発稼働能力を現在の5~6倍に増強したい考えだ。東日本大震災に伴う福島第1原発の事故を受け、中国も前年4月、国内全原発の総点検を実施している。【2月10日 AFP】
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アメリカ:34年ぶりの建設再開
****米で原発2基新設認可 34年ぶり 規制委員長は反対票****
米原子力規制委員会(NRC)は9日、南部ジョージア州で計画されている新規原発2基の建設・運転の申請について5人の委員による投票を行い、賛成多数で認可した。ただ、ヤツコ委員長は東京電力福島第一原発事故を受けた安全対策が規制に反映されていないとして反対票を投じた。

ボーグル原発に増設される3、4号機(いずれも110万キロワット級)で、2008年にNRCに申請が出されていた。東芝傘下の米ウェスチングハウスが開発した改良型加圧水型炉「AP1000」を採用、16年と17年の運転開始を目標にしている。1979年のスリーマイル島原発事故後、原発の建設が行われていない米国で建設が認可されるのは、78年以来、34年ぶりとなる。

反対票を投じたヤツコ委員長は「福島原発事故は無視できない」とする声明を発表。事故を受けた安全対策の規制強化が検討されている最中なのに「まるでこの事故がなかったかのように認可に賛成することはできなかった」と説明した。
オバマ大統領の指名で09年に委員長に就任したヤツコ氏は、原発に厳しい姿勢で知られる。昨年末には運営手法をめぐって他の委員との対立が表面化、米議会が調査に乗り出す事態になっている。

ウェスチングハウスによると、AP1000は外部電源喪失などの緊急時に運転員が操作しなくても自動的に原子炉の冷却が維持される仕組みを備えている。中国の2カ所で建設が始まっている。米国でも南部サウスカロライナ州のサマー原発で2基の増設計画があり、近くNRCから認可が下りる見通しだ。

米国では104基の原発が稼働中だが、主に経済性の問題で新規申請は長年、控えられてきた。ブッシュ前政権時代に建設のための資金調達をしやすくする原発推進策が導入され、今回の2基を含む計26基の新規申請が出された。
だが、国内での天然ガス価格低下や建設コスト高騰などで、20年までに運転開始できる新規原発は4基にとどまるとみられている。このほか78年以前に認可を受け、長らく工事を中断していた南部テネシー州の原発1基の建設が07年以降、再開している。【2月10日 朝日】
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なお、アメリカの原発建設再開の多くを日本の東芝が受注しているとのことです。

****東芝「原発は今後も不可欠」 新設認可の米で次々受注****
米原子力規制委員会(NRC)が新規の原発建設を認可したことについて、米ウェスチングハウス(WH)を傘下に持つ東芝は10日、「温室効果ガス対策などの観点から、原発は今後も必要不可欠なエネルギーとして、継続的な需要が見込まれる。安全性向上のためさらに努力を続けたい」とコメントを発表した。

東芝によると、NRCには今回認可された2基以外にも、26基の建設を求める申請が出ており、うち12基がWH、2基が東芝の原子炉を採用している。
東芝は09年、15年度までに自社とWHをあわせて39基の原発を受注。年間売上高1兆円を達成する目標を掲げた。しかし、東京電力福島第一原発の事故を受け、達成が数年間遅れるとの見通しを示している。【2月10日 朝日】
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フランス:雇用確保と絡んで大統領選挙争点に
欧州では脱原発の動きがドイツ・スイス・ベルギーなど広まっていますが、原発大国フランスでは、4月の大統領選挙の重要な争点に浮上しています。

****仏大統領選:「国内最古の原発」存廃が争点に*****
フランスのサルコジ大統領は9日、独、スイス両国境に近い仏東部にある国内最古のフッセンハイム原発を訪れ、「この原発の閉鎖は問題外」と原発推進を強く訴えた。大統領選で社会党公認候補のオランド氏がフッセンハイム原発の閉鎖を公約に掲げており、老朽化した原発の存廃が、選挙の争点になってきた。

サルコジ氏は原発労働者を前に「政治家の下心のためにあなたたちの雇用を犠牲にするのは言語道断だ」と繰り返した。大統領選のライバルとなるオランド氏の社会党は昨年11月、「欧州エコロジー・緑の党」と選挙協定を結び、▽25年までに電力の原子力依存率を現在の75%から50%に下げる▽原子炉24基を段階的に閉鎖する--などの合意書を取り交わした。フッセンハイムは合意書で唯一「速やかな閉鎖」とされ、オランド氏は当選した場合の任期中の閉鎖を明言している。

東京電力福島第1原発より約6年遅れた77年に運転開始したフッセンハイム原発は老朽化が進み、特に福島原発事故後、安全性が不安視されてきた。脱原発を打ち出した独やスイスとも近く、両国でも閉鎖を求める運動が起きている。仏原子力安全機関はすでに、原発を運営するフランス電力に土台部分の改修などの措置を命じている。

今年1月、仏原子力安全機関が公表したストレステストの結果では、仏国内に「すぐに停止すべき原子炉はない」とする一方、安全確保のための追加改修費用が国内全体で約100億ユーロ(約1兆円)と見積もられた。フッセンハイム原発についてはコシウスコモリゼ環境相が閉鎖の可能性を排除できないと発言している。

大統領選では雇用対策が最大の争点となっており、サルコジ氏は「原発推進」と「雇用確保」を絡める形で支持を広げる戦略に出ている。【2月10日 毎日】
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現在の世論調査では、社会党オランド候補が支持率でリードしており、政権交代となれば、フランスの原子力政策も大きく舵を切ることになります。

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