孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ギリシャ  3月デフォルトは回避 EU側・ギリシャ国民の相互不信で問題再燃も

2012-02-21 22:13:07 | 欧州情勢

(2月12日 アテネ 追加緊縮策の議会承認への抗議行動のなかで、一部は放火なども “flickr”より By comzeradd  http://www.flickr.com/photos/comzeradd/6869602423/

【「これ以上の時間の浪費は許されない」】
延び延びになっていたギリシャ第2次支援がようやく正式決定しました。
この支援によって、ギリシャは3月下旬に控えていた大量の国債償還の資金手当てが可能となり、当面の債務不履行(デフォルト)は回避されました。

****ギリシャ支援:ユーロ圏が正式決定 債務不履行を回避*****
欧州連合(EU)でユーロを採用するユーロ圏諸国(17カ国)は20日夕、ブリュッセルで財務相会合を開き、総額1300億ユーロ(約13兆6000億円)のギリシャ第2次支援を正式決定した。国際通貨基金(IMF)も参加する。ロイター通信が報じた。これによりギリシャは、3月下旬に控えていた国債償還(借金返済)の資金手当てが可能となり、債務不履行(デフォルト)回避が決まった。

EUは昨年10月、第2次支援を決定したが、相次ぐ歳出削減により、ギリシャの実質経済成長率が、当時の予想以上に落ち込んだため、20日の会合でも支援策の取りまとめに手間取り、会合は21日未明まで続いた。
ユーロ圏議長のユンケル・ルクセンブルク首相は、会合前に「今日の会合で決めなければならない。これ以上の時間の浪費は許されない」と述べるなど、市場の混乱を避けるため、早急な決着を目指す構えを示していた。

支援は、まず10年5月に第1次支援に参加したEUとIMFが総額1300億ユーロを支援する。さらに、ギリシャ国債を保有する民間金融機関が、将来受け取る利子を含めて約7割の債務削減に応じ1000億ユーロを支援する枠組みだ。

ギリシャは支援で得た資金を、国債償還などのほか、金融機関の資本増強などにあてる。実施を約束した財政再建策と、支援による効果で、累積財政赤字を国内総生産(GDP)比で、現在の160%から2020年には管理可能な水準である120%に下げることを目指していた。

EUは支援実施の条件として(1)追加緊縮策をとりまとめる(2)ギリシャ国債を保有する金融機関が、債務削減に応じる--ことなどを求め、交渉を続けてきた。【2月21日 毎日】
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【「支援を引き出すためのポーズ」との疑心暗鬼
ギリシャをデフォルトから救うためにはどうしても必要な支援であるにもかかわらず、支援の決定がここまで持ちこされてきたのは、EU側のギリシャに対する不信感が根底にあります。

追加緊縮策が今月12日にギリシャ議会で承認されたあとも、EU側は(1)年金改革の見送りにより生じた3億2500万ユーロの穴埋め策(2)追加緊縮策実行を約束する文書に、与党各党の党首が署名する--ことを、ギリシャ側に求めていました。

もはや“口約束”では信用できない、文書で確約しろ・・・という訳です。
これまでギリシャが約束してきた公務員削減などが反故にされてきたことによる不信感です。
ギリシャ危機も、ギリシャによる財政赤字隠し、数字の糊塗が発端でした。

与党党首が追加緊縮策の実施を約束する文書に署名してもなお不信感はぬぐえておらず、20日の会議でも、オランダの財務相は、EUとIMFがギリシャの歳入と歳出を「永続的に」管理することを求めています。

****対ギリシャ EU消えぬ疑心暗鬼 2次支援また延期 20日に財務相会合****
・・・・ギリシャの与党党首らは15日、支援の条件となっている緊縮策の実行を確約する書面をEUや国際通貨基金(IMF)に送付した。
EUは4月に予定されている総選挙後に発足する新政権が緊縮策をほごにすることを懸念し、書面での確約を求めていた。世論調査で優勢な与党第2党の新民主主義党(ND)のサマラス党首は書面で「総選挙で勝利しても約束は守る」と強調した。

支援決定の先送りが続いている背景には、EU各国のギリシャへの根強い不信がある。緊縮策は国会で承認されたが、「支援を引き出すためのポーズ」との疑心暗鬼は消えない。

逆にギリシャではEUへの反発が強まる一方だ。賃下げや増税などの緊縮策に反発する抗議デモが拡大しており、「政治家も選挙を意識しEUに反発してみせざるを得ない」(SMBC日興証券の嶋津洋樹シニアマーケットエコノミスト)のが実情だ。

ベニゼロス財務相は15日、「もはやギリシャは(ユーロ圏に)いらないという国もいくつかあるが、われわれはとどまる」と述べ、ユーロ圏残留の決意を強調した。これに対し、ドイツのショイブレ財務相は同日、独ラジオで「ギリシャを助けるためあらゆることをしたいが、底なしの穴に金を注ぐつもりはない」と突き放した。
交渉は度胸試しの“チキンレース”の様相を呈し、デフォルトの崖っぷちが迫っている。【2月16日 産経】
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高まる国民の反発 「緊縮策よりデフォルトやユーロ圏離脱が望ましい」】
ギリシャでは4月末に総選挙が予定されており、与党第2党の新民主主義党(ND)が政権の座につく公算が大きいとされています。
“NDのサマラス党首は、追加緊縮策の実施を約束する文書に署名したものの、選挙戦を意識して、緊縮策に反発する姿勢を見せている。また、NDが政権を取っても単独過半数を持たない不安定な国会運営が続くため、EU諸国からは新政権が緊縮策を本当に実行するか不安視する声もある。反発する国民による大規模なストライキ、デモの頻発も予想され、市場にはびこる不安感は消えそうにない”【2月17日 毎日】ということで、先行きは不透明です。

“不透明”と言うよりは、ギリシャ危機再浮上は時間の問題でしょう。
ギリシャの一般国民はギリシャ危機ですでに苦境に立たされていますが、今回の緊縮策は、最低賃金の22%カット(25歳未満は32%カット)や、解雇を行いやすくする労働市場の規制緩和、税制・年金改革が定められており、国民生活は一層の痛みを負担せねばなりません。

大きな痛みを強いられるギリシャ国民には、EU、特にドイツ・フランスによって無理やり緊縮策をのまされたという被害者意識が強く、そうした“民意”を背景に、総選挙後、ギリシャで緊縮策がスムーズに実施されるとは思えません。
ギリシャ議会が緊縮財政案を盛り込んだ法案を可決した際、街頭ではデモ隊と機動隊が激しく衝突し、首都アテネでは建物が放火され炎上しました。

****債務不履行の方がまし」ギリシャ国民に強まる****
ギリシャは13日、ユーロ圏などから第2次支援を受ける前提条件だった財政緊縮策を議会承認し、「突然の債務不履行(デフォルト)」回避へ前進した。

だが、国民には政府・与党不信が強まり、「緊縮策よりデフォルトやユーロ圏離脱が望ましい」との主張が勢いを増している。抗議活動の激化にもつながりそうだ。
「月給は2年前の約1200ユーロ(約12万円)から約700ユーロに減り、今回の緊縮策で22%減る。増税で物価は上がった。こんな政策なら、デフォルトやユーロ圏離脱の方がましよ」。12日の国会議事堂前の抗議デモ。女性会社員グバル・ミルトさん(32)の訴えに、周囲の参加者が賛同した。
デモに加わったヨット製造会社社長コスタス・ゴルフィノプロスさん(45)も「デフォルトは不可避だ。ユーロ圏を離れ、独自通貨に戻って物価などを調整した方が、長期的にはプラスになる」と主張した。【2月13日 読売】
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ギリシャがここに至った経緯は、ギリシャの社会・経済のルーズさにあり、これまで不当に利益を享受してきたとも言えますが、明日の生活もままならない者にそれを言っても仕方がないところもあります。
これまでユーロ圏の信用で低利の借入れを行い、公務員・年金などの国民生活にばら撒いてきたギリシャがユーロ圏を離脱すれば、国民生活への短期的な衝撃は今回以上のものになるように思えます。
昨年10月、ギリシャのシミティス元首相は「ユーロ圏から追い出されたら通貨の価値は半分ほどになり、かつて無い貧困と失業に見舞われる」と警告しています。

【“120%”は「神聖にして犯すことのできないEUの幻想だ」】
国民に大きな痛みを強いる施策を、民意を基盤とする民主主義で実現できるか?という問題にもなります。
仮に国民の反発をしのいで、総選挙後新体制で緊縮策を実施したとしても、ギリシャ財政が立ち直る保証はありません。

“ギリシャは支援で得た資金を、国債償還などのほか、金融機関の資本増強などにあてる。実施を約束した財政再建策と、支援による効果で、累積財政赤字を国内総生産(GDP)比で、現在の160%から2020年には管理可能な水準である120%に下げることを目指していた”【前出 毎日】とのことですが、相次ぐ緊縮財政のあおりで11年10~12月期のGDP(国内総生産)は前年比7%減に落ち込んでおり、13年まで5年連続のマイナス成長に陥るとのギリシャ政府の予測もある状況で、“管理可能な水準”を達成できるか危ぶまれます。

そもそも、目標値としての“120%”にどういう根拠があるのかも疑問ですし、ギリシャ債務に関するこれまでのIMF予測ははずれてきた実績もあります。

****むなしく響くギリシャの債務削減目標*****
2020年までに120%。国際通貨基金(IMF)、欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)が受け入れ可能としている対国内総生産(GDP)比でのギリシャの債務削減目標だ。
ギリシャと3機関は2020年の段階で債務がこの水準を超えれば、ギリシャは債務の返済を続けることができないとの見方で一致している。

しかし、多くのエコノミストは、120%という水準は何か特定の経済原理に基づいたものではないと指摘している。どこからこの数字が出たのかもはっきりしているわけではない。

確かに、120%という水準は達成可能な目標であり、債務問題を抱える他の欧州諸国に債務圧縮による問題が生じないことを示唆する数字でもある。しかし、過度に楽観的だったことがのちに判明した短期の見通しとは異なり、2020年までの見通しが正確だったとしても、ギリシャがこれほど高い水準でさえ維持できないと理由は十分にある。

例えば、緊縮財政措置で成長率が抑えられる可能性があるし、債務削減措置そのものに関わる問題、さらには計画に含まれていないことが問題であるものもある。
トリニティ・カレッジ(ダブリン)の経済学者Constantin Gurdgiev氏は120%という目標について、「神聖にして犯すことのできない欧州連合(EU)の幻想だ」と述べ、「経済学的な根拠がわからない」と指摘した。

支援する側も、目標の達成に疑念を抱いていることを明らかにした。ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のユンケル議長(ルクセンブルク首相)は今週、ギリシャが目標を達成するにはなすべきことが多いと述べ、17日にも同様の発言を繰り返した。(中略)

ギリシャのパパデモス首相は目標を達成して支援を確保しようと、予算の削減を推し進めている。
関係者全てが救済策に合意すれば、あとは2020年までの見通しを信頼するしかないが、これまでの経験でギリシャの債務は予測が難しいことが分かっている。最新の年間のデータが入手可能な2010年の段階で、ギリシャの債務は対GDP比で145%だった。2009年にIMFが示した見通しは116%だった。IMFは2005年の年間報告で、2010年のギリシャの債務は対GDP比で100%を下回るとしていた。

米シンクタンクのピーターソン国際経済研究所(ワシントン)の研究員ジェイコブ・カークガード氏はこれまでの予測について、「予測は将来について数えきれないほどの前提に極端に依存しており、その精度は幻想と呼べる程度のものだ」と述べた。(中略)

ギリシャの目標である120%という数字がどのようにはじき出されたかは正確にはわからない。IMFは昨年12月、民間の債権者がギリシャの債務について50%の元本削減を受け入れれば、120%の目標をクリアすることができると報告している。(中略)
 
しかも、徴税の範囲や有効性、金融政策に対する国家の支配力、債務の変化率といった要因次第で、こうした予測は国によって大きく異なる可能性がある。
これらの要素のどれを見ても、ギリシャの未来は明るいとは言えない。コロンビア大学の経済学者、マイケル・ウッドフォード氏は債務の対GDP比率は「かなり不完全な基準」だと言う。ウッドフォード氏はギリシャの問題は比率で議論できる範囲を超えており、税制の非効率性や政治の意思に対する疑念に目を向ける段階にまで達していると述べた。

国際決済銀行(BIS)の3人のエコノミストが昨年作成した報告書は、1980年から2010年まで18カ国を研究した結果に基づいて、持続可能な債務の水準は対GDP比で平均約85%とした。
米国など他の先進国と同様、ギリシャは人口の高齢化によって、財源が確保されていない債務を抱えている。経済学者によると、人口の高齢化が進み、退職者に対する労働者の比率が下がれば、過去の実績に基づく債務の水準は将来の経済状況には当てはまらないかもしれないという。(中略)

トリニティ・カレッジのGurdgiev氏はギリシャの実際の債務の最大値は他国より低いかもしれないと言う。ユーロ圏に属している小国として、域内の金融政策をコントロールすることはほとんどできないからだ。しかし、Gurdgiev氏は、目標を84%とするのはギリシャにとって政治的に実行可能ではないと指摘、イタリアやアイルランドなど債務危機の不安が和らいだ欧州の他の国の債務水準も持続不可能な方向に進んでいるとの印象を与えることになると述べた。 【2月21日 ウォール・ストリート・ジャーナル】
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単なる財政・経済的な問題であれば、いくらでも支援・救済の方策はありますが、EU側とギリシャ国民の間に根付いた相互不信は解消することは困難です。
今回支援策で3月デフォルトを回避できても、遅かれ早かれ、ギリシャ危機は再燃すると見ていた方がよさそうです。
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