(バイクで移動するタリバン戦闘員 “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6888293043/in/photostream )
【撤退を急ぎたい派兵国】
アフガニスタンでは依然として多くの民間人が戦闘の犠牲になっています。
****アフガンの民間人死者、3千人に 11年、過去最悪****
アフガニスタンで昨年1年間、テロや戦闘に巻き込まれて死亡した民間人が3021人にのぼり、2001年に米軍などがタリバーン政権に対する軍事作戦を始めてから最悪となった。治安の改善が進まない現実が改めて浮かび上がった。
国連アフガン支援団(UNAMA)が4日、報告書で明らかにした。11年の民間人の死者は前年より8%(231人)増えた。死者数の増加は5年連続だ。このうちタリバーンなど反政府武装勢力によるテロや攻撃での死亡が2332人と全体の77%を占めた。【2月5日 朝日】
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軍事的な出口は未だ見えない状況ですが、アフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)に派兵している48カ国は、14年末までにアフガン当局に治安維持権限を移譲することで合意しており、オバマ米大統領は昨年6月、約10万1000人の駐留米軍を12年9月までに3万3000人撤収させる方針を表明しています。
残る約6万8000人の任務や撤収時期はこれまで明示されていませんでしたが、今月1日、パネッタ米国防長官が米軍の戦闘任務を13年後半に終えたい意向を表明しました。なお、現在の駐留米軍は9万人になっています。
また、サルコジ仏大統領が1月27日、仏兵士殺害事件もあって、当初の計画より1年早い13年末に仏軍を完全撤退させる考えをカルザイ大統領に伝達しています。
このように、アフガニスタン派兵諸国は、早期撤退に向けて動き出しているように見えます。
ただ、今月2,3日に開催されたNATO国防相会議に参加したラスムセンNATO事務総長は記者会見で「目標はアフガン国軍が14年末までに全土に対する治安を担うことだ」と述べ、従来の方針に変更がないことを強調しています。
“パネッタ長官は2日の理事会終了後、米国の方針について「同意があった」と述べたものの、決定ではないと指摘。AP通信によると、理事会では異論も出たという”【2月4日 産経】
****アフガン撤退急ぐ欧米 財政難響き計画前倒し****
アフガニスタンの安定化を目指す北大西洋条約機構(NATO)諸国が、早期撤退に傾いている。各国とも財政難で、巨額の費用がかかる軍事作戦から早く手を引きたいためだ。今後の治安を担うアフガン軍を養成する資金も不足しており、日本などに支出を求める圧力が高まっている。
NATO主体の国際治安支援部隊(ISAF)は、アフガン政府に治安権限を完全移譲する2014年末まで、治安の責任を担う計画だ。だがブリュッセルで2、3の両日に開かれたNATO国防相会議を前に、米仏が前倒しに動いた。
まずフランスのサルコジ大統領が1月27日、当初の計画より1年早い13年末に仏軍を完全撤退させる考えを、アフガンのカルザイ大統領に伝達。続いて9万人を派遣している米国のパネッタ国防長官は、NATO国防相会合に向かう専用機中で、米軍の戦闘任務を13年後半に終えたい意向を表明した。
サルコジ氏の表明は、アフガン兵にフランス兵4人が殺害されたことがきっかけ。だが、4月の大統領選を控え、不人気な軍事作戦から手を引いて国民にアピールする狙いもあったとみられている。オバマ米政権は、財政赤字削減の一環として、今後5年間で2590億ドル(約20兆円)を削減する方針。戦闘任務の早期終了で駐留兵の撤退を進め、年間880億ドル(13会計年度)の戦費負担も減らしたい考えだ。
債務危機に見舞われている欧州各国も、早く軍事負担を減らしたいのが本音。AFP通信によると、国防相会合で撤退方針を各国に伝えたロンゲ仏国防相は「私は批判されなかった。どの国も同じ問題に直面しているからだ」と語った。
これに対し、NATOのラスムセン事務総長は3日の会見で、「フランスも訓練活動は続けると聞いている」としたうえで、「ISAF参加の全50カ国が従来の計画どおりに進めることを約束している」と繰り返し、治安権限の移譲の時期に変わりがないことを強調した。ただ、ISAFの任務はアフガン軍の訓練や後方支援に変わっていくとし、今年5月に米シカゴで開かれるNATO首脳会議で、権限移譲の具体的な計画を決める方針を示した。
NATO撤退後の治安を担うアフガン軍の育成も急務だ。だが、現在、約30万人の要員を増やし、維持していく費用は、NATO加盟国だけではまかなえない見通しだ。パネッタ長官は、日韓、中東諸国などNATO非加盟の同盟・友好国に資金協力を求めていく考えを示している。(後略)【2月4日 朝日】
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【協議開始 交渉の前段階としての信頼醸成を図る】
軍事的な出口が見えないなかで、タリバンとアメリカの和平交渉に向けた協議がスタートしています。
今のところは“成果”云々の段階ではなく、信頼醸成の段階です。
早く泥沼のアフガニスタンから撤退したいアメリカとしては、何とか和平交渉で撤退へ向けた形を整えたいところでしょう。
****タリバンと米国、和平交渉に向けてカタールで協議****
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンが、10年におよぶ米国との戦争を終結する和平交渉に向けた米国側との協議を、カタールで始めたことが明らかになった。
元タリバン幹部のマウラビ・カラムジン氏が29日、AFPに語ったところによると、タリバンと米国側は交渉の前段階としての信頼醸成を図っており、このプロセスにはしばらく時間がかかるという。(中略)
タリバンは今月に入り、米国との和平交渉に向けた一歩として、カタールに事務所を設置する計画だと発表していた。【1月30日 AFP】
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タリバン側からは、オマル師の側近と言われる人物や、タリバン政権時代に駐サウジアラビア大使だった人物などがカタールに入っているそうです。
タリバン側は「交渉相手はあくまで米国」と、現アフガニスタン政府・カルザイ政権を“アメリカ傀儡政権”として無視する姿勢も見せていますが、“蚊帳の外”に置かれる状況に危機感を持つカルザイ政権も交渉に参加していることを明らかにしています。ただ、和平交渉におけるアフガニスタン政府・カルザイ政権の位置付けははっきりしません。
****アフガン政府も交渉参加=対タリバン、大統領が明言―米紙****
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は15日、アフガニスタンのカルザイ大統領とのインタビュー記事を掲載し、同大統領は反政府勢力タリバンと米国の和平交渉にアフガン政府も参加していることを明らかにした。
タリバンはカルザイ政権について、「米国のかいらい」だとして交渉を拒否してきた経緯から、カルザイ政権は米国がタリバンと交渉を進め、取り残されることに焦燥感を抱いていた。【2月16日 時事】
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【「銃はタリバンの美であり、力でもある」】
こうした協議に関する情報の一方で、アフガン・イスラム通信は1月30日、“タリバンの最高指導者オマル師の下にある意思決定機関が政権とは交渉しないことを決めたと報じた。”【1月31日 産経】ということで、タリバン内部の状況は不透明です。
前線で闘うタリバン兵士の間では、不倶戴天の敵アメリカとの交渉の情報に、混乱も広がっているとも伝えられています。
タリバン側が交渉に出てきた背景には、軍事的にタリバンの勢いが失われていることがあるようです。
“2年前に米軍が増派された当時ほどの勢いが今のタリバンにないことも事実だ。タリバンが和平協議に応じた最大の理由は、南部、東部、北部の戦線で守勢に立だされていることにあると考えられている。
「重要なヘルマンド州とクンドゥズ州内に、タリバンが支配している地域はまったくない」と、和平協議を支持する前出の補給担当将校は言う。「爆弾を仕掛けたり自爆攻撃を行ったりしても支配地域を維持できず、(敵の)勢力拡大を阻止できない。すべてを失う前に、誰かがオマル師を説得して、柔軟な姿勢に転じさせるべきだ」”【2月22日号 Newsweek日本版】
****和平協議の開始でタリバンが崩壊する****
指導部がこっそりアメリカと和平協議 現実派は和平路線にこそ未来があると言うが、現場の戦闘員たちは動揺と反発を強めている
アーメド・ジャマルはこれまで15年余り、ずっとムハマド・オマルの忠実な支持者だった。
20歳だったジャマルがオマル率いるタリバンに加わったのは96年。このイスラム原理主義勢力が首都カブールを制圧し、アフガニスタン全土の掌握に大きく前進した年だ。それ以来、アメリカ軍とアフガニスタン政府軍との戦いに身を投じてきた。
しかし、中東のカタールでタリバンの指導部がアメリカと極秘に和平協議をしているという噂を問いて、気持ちに変化が生まれた。敵がこちらを動揺させるために流した偽情報だと最初は考えたが、不安は募る一方。「頭の中に疑問が渦巻いて、昼も夜も頭を離れなくなった」と、ジャマルは言う。
やがて、現実を受け入れざるを得なくなった。「イスラムの最悪の敵であるアメリカ人とタリバンが直接話し合いをしていると知ったとき、ジハード(聖戦)への私の夢は砕け散った」
ジャマルは、それまで思ってもみなかった行動を取ることを決意した。戦いを放棄することにしたのだ。
昨年のある日、4年にわたり一緒に戦ってきた弟のアーマド・ビラル(25)にその意思を伝えた。「一部のタリバン指導者が大統領宮殿に入って、アメリカの傀儡の(ハミド・)カルザイ(大統領)と権力を共有するのを助けるために、私は4人の子供を孤児に、妻を寡婦にする危険を冒すつもりはない」
「私が戦い続けてきたのは、祖国から異教徒を追い払い、イスラム政権を再建するためだ。理想を捨てるために戦ってきたわけではない」と、ジャマルは本誌に語った。「もう指導部を信用できない」
指導部がカタールで秘密交渉を進めていることが明るみに出たことで(その情報は、タリバンがカタールの首都ドーハに連絡事務所を設置したことにより裏付けられた)、前線の戦闘員の間に動揺が広がっている。
一枚岩だったタリバンの内部に亀裂が走り始めた。ジャマルのような忠実な戦闘員の多くが戸惑い、士気を弱めている。戦闘員の大量脱走は現時点でまだ報じられていないが、その可能性を案じる声もタリバン内部で聞こえている。「大量脱走が起きる危険性は非常に大きい」と、ある補給担当の将校は言う。
ベテラン司令官たちは、和平協議や指導部の方針について部下に説明できずにいる。タリバン関係者によると、ある幹部は部下に質問されてこう言ったという。「私もラジオで聞く以上のことは知らないんだ」
こんな言葉で、戦闘員たちの不安を取り除けるはずがない。過酷な戦いを続け、大きな犠牲を払ってきたのに、指導部に裏切られるのではないかと、多くの戦闘員が恐れている。
「戦闘員は納得いかない」
「戦って戦って戦い抜いて、米軍を撤退に追い込めと、オマル師は言い続けてきた」と、元タリバン戦闘員のラマトゥラは言う。「それなのに、一転してアメリカと協議を開始した。オマル師はどうして、18年間の抵抗の戦
いを無にできるのか。戦闘員は納得いかない」アフガニスタン中部のワルダク州のいてつく山の中で、ジャマルの弟のビラルはまだ戦い続けているが、将来に不安を感じている。
「(和平協議の)ニュースを知って愕然とした。和平協議は、私たちの銃口を沈黙させ、タリバンを破滅させるための陰謀なのではないか」と、ビラルは言う。「銃はタリバンの美であり、力でもある。銃を失えば、勝利は永遠にあり得ない」
戦いを続ける以外に選択肢はないと、ビラルは言う。「武器によってイスラム政権を再建すべきだ。異教徒と和睦を話し合うのではなく」
オマルが戦いの大義を裏切ることはないと、ビラルは自分に言い聞かせ続けている。「オマル師が殉教者の血を売り渡すことはあり得ない。オマル師の明確な指示がない限り、私たちはジハードをやめない」
オマルの声明はいつ?
司令官も戦闘員もオマルの言葉を待っている。01年末にタリバン政権が崩壊した後、オマルは本人と確認できる音声や映像による声明を一度も発していない。「誰もがオマル師の声明を待っている」と、ある情報担当将校は言う。「何らかのメッセージが必要だ。今すぐに」
未確認情報ではあるが、1月後半にオマルが口づてで数人の上級司令官にメッセージを伝達したとされている。ある上級司令冒によれば、そのメッセージはこんな内容だったという「私は諸君を裏切らない。諸君の血の犠牲を無駄にはしない。これまで厳しい戦いを続け、多くの犠牲を払ってきた。私の目標は、諸君全員の目標と変わらない」。
同じ頃、タリバンの最高意思決定機関であるクエッタ・シューラは書面で通達を発した。東部ラグマン州の副司令官によれば、ある会合でこの書簡が読み上げられたという。
その中で指導部はカタールに連絡事務所を開設することを認めた上で、「ジハードを継続するのと並行して、捕虜の返還交渉を行いたいと考えている」と説明。さらにこう述べた。「アメリカをアフガニスタンから撤退させるというジハードの最大の目標をないがしろにすることはないと、約束する」(後略)【2月22日号 Newsweek日本版】
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「銃はタリバンの美であり、力でもある。銃を失えば、勝利は永遠にあり得ない」・・・・随分と気のきいた言い様ですが、これまでの人生で戦闘しか知らない“戦闘依存症”という側面もあります。
そうした戦闘員に戦いを止めさせることができるのは、最高指導者オマル師の言葉だけでしょう。
しかし、“01年末にタリバン政権が崩壊した後、オマルは本人と確認できる音声や映像による声明を一度も発していない”という現実からは、すでにオマル師は存在しないのでは・・・と思ってしまいます。
上記記事にあるオマル師の口づてのメッセージというのも、かなり怪しげです。
タリバン指導層に和平交渉を指向する勢力があるのは事実ですが、最高指導者オマル師“不在”の状況で、どこまでその方針をタリバン内全体に徹底できるかには疑問もあります。
それも、アメリカとの間で一定の合意が出来ての話ですが、そこまで行くのも大変なハードルがありそうです。
“近い将来、和平協議が大きく進展することは考えづらい。捕虜の解放と停戦が実現する状況にはまだない。
その点は、和平協議の賛成派も十分に理解している。「カタールに連絡事務所を設置すると決めることにも、何カ月もの時間を要した」と、現在もタリバンと緊密な関係を保っている前出の元タリバン政権閣僚は言う。「すべては、まだ始まったばかりだ。この先に、長く険しい道のりが待っている」
それでも、タリバンの中にその道を歩もうとする人たちがついに現れたという事実は、極めて大きい。”【同上】