孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン国会議員選挙 改革派はボイコット 保守派内の争いで反大統領派伸長か

2012-02-28 21:27:28 | イラン

(テヘラン中心部 選挙ポスターの前を行きかう人々 “flickr”より By AJstream http://www.flickr.com/photos/61221198@N05/6933532819/

【「都市部を中心に大統領派候補が大敗する」】
イランと言えば、核兵器開発疑惑に関する関係国間の対立、イスラエルの核施設攻撃の可能性といった問題が焦点になる訳ですが、その話はひとまず置いて、3月2日に行われるイランの国会議員選挙の話題です。
この選挙結果は、核兵器開発疑惑による国際緊張の今後の方向性に大きく影響することにもなります。

09年6月の大統領選の不正疑惑では、ムサビ元首相やカルビ元国会議長などの“改革派”による反政府運動が展開されましたが、現在は民主化運動は完全に封じ込められた形で、両指導者とも自宅軟禁下にあります。
(最近、彼らの名前をニュースで見ることも殆んどなくなりました。)
今回の国会議員選挙では、改革派は「自由で公正な選挙が望めない」として正式候補の擁立を見送っており、アフマディネジャド大統領と反大統領勢力という、保守派内の争いとなっています。

****イラン:来月、国会議員選挙 事実上、保守派内の争いに****
核開発問題で欧米などの経済制裁下にあるイランで3月2日、国会(定数290)議員選挙が実施される。国際社会との対話を志向する改革派の大半は政府の弾圧を受けて不参加を決めており、事実上、保守派内の争い。選挙では、イスラム指導体制により忠実な反大統領派が勢力を伸長する可能性が高く、核問題でイランが選挙後、一層、強硬姿勢を取るとの見方も出ている。

イランでは、保守派のアフマディネジャド大統領が当選した09年6月の大統領選で、開票結果への疑念から、改革派が抗議デモを繰り広げた。政府はデモを徹底的に弾圧し、昨年2月以降、改革派指導者のムサビ元首相とカルビ元国会議長を自宅軟禁下に置いている。
このため、改革派は今回の国会選挙についても「自由で公正な選挙が望めない」として正式候補の擁立を見送り、市民に投票のボイコットを呼びかけている。改革派陣営では一部が「穏健改革派」などを名乗って立候補しているだけで、改革派の現有議席(全体の2割弱)をさらに減らす見通し。

一方、保守派内では最高指導者ハメネイ師とアフマディネジャド大統領の路線対立が熱を帯びている。聖職者でない大統領は宗教者層から「(思想が)イスラム体制を逸脱している」と非難を浴びており、「都市部を中心に大統領派候補が大敗する」(地元テレビ記者)との見方も強まる。ハメネイ師に近いラリジャニ国会議長ら反大統領派が圧勝すれば選挙後の国会で宗教色が強まり、核問題での政策転換はより難しくなるとみられる。

イランが「正統な民主国家」であると国際社会に印象づけたい政府は投票率(前回51%)の低下を警戒、「敵国が選挙を妨害している」と主張する一方、国民に選挙参加を促している。だが、首都テヘラン市民の関心は低く、雑貨店主のイブラヒムさん(57)は「経済制裁で景気は悪くなる一方だ。政府に近い仲間ばかりの選挙などばかばかしくて行けない」と不満を口にした。【2月28日 毎日】
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ボイコット戦術というのは、個人的にはあまり好きではありません。
「自由で公正な選挙が望めない」としても、可能な限り現行制度内での議席獲得に努める方が、発言権をできるだけ維持するうえでも、不正追及を今後の運動の基盤とできることでも、メリットが大きいように思えるのですが。
現実問題として、選挙運動ができない、逮捕拘束の危険が大きすぎる・・・ということでしょうか。

ネットによる反体制派の情報収集や抗議運動を警戒
イランでも近年はネットが情報伝達の中心になっていますが、改革派による投票ボイコットを警戒してか、政府はネット規制を強化しているそうです。

****イラン:ネット規制を強化 国会議員選を前に警戒****
イラン政府が2月初旬以降、インターネットのメール送受信を長時間止めたり、ネットを一時的に遮断するなど規制を強めている。3月2日の国会議員選挙を前に、ネットが反体制派の情報収集や抗議運動の呼びかけに利用されるのを警戒している模様だ。

イラン政府は通常から自国に批判的なニュースサイトやブログ、動画サイトの閲覧を禁止。規制対象に接続しようとすると、政府推薦サイトを列挙したページが現れる。
一部の市民は規制回避のための特殊ソフトを使い、交流サイト「フェイスブック」などに接続しているが、政府は最近、こうした回避手段の多くも使用不能にした。

また、11年1月に発足したサイバー警察も国民のネット利用監視を強化している。昨年の反政府デモに参加して一時逮捕されたテヘランの大学生(22)は先月、サイバー警察から電話を受け「運営している違法なブログを中止しろ」と脅されたという。【2月24日 毎日】
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大統領派敗退の場合、更に硬直化の懸念も
一方、イラン保守派内では、かねてよりアフマディネジャド大統領と、最高指導者ハメネイ師やラリジャニ国会議長らの反大統領派の確執・権力闘争が伝えられています。

****宗教界との摩擦が核を左右する〈リーダーたちの群像****
■アフマディネジャド・イラン大統領
「イランが今の発展の道から後戻りすることは決してない。科学技術は欧米だけが独占できるものではない」。イラン大統領のマフムード・アフマディネジャド(55)は今月15日、濃縮ウランの増産に踏み切ると宣言した。

背広にノーネクタイといういつもの姿ではなく、科学者のように白衣をまとっていた。イスラム革命33周年の11日に「核計画で大きな業績を示す」と自ら予告し、国内外の注目を引きつけた上での演説だった。
核兵器開発を国際社会に疑われ、制裁で国力が疲弊しても核開発中止の考えはみじんも見せない。なぜ、そんなに突っ張るのか。

透けて見えるのは、ローマ帝国と覇を競ったペルシャ帝国をルーツとし、さらにイスラム革命によって欧米とはまったく異なる国家を築き上げた「大国イラン」の自負と野心だ。

イランは、国民の直接選挙で選ばれた大統領よりイスラム法学者が高位に立つ「ベラヤティ・ファキーフ」体制を敷き、その最高指導者として君臨するハメネイ(72)が、国政全般の決定権を握る。「民生用」だとして核開発推進を主張する点で、アフマディネジャドとハメネイの間に大きな違いはない。
だが、この2人にいま、確執がささやかれる。

■覆される 人事も政策も
ハメネイを頂点とする体制下で、「行政府の長」にすぎないアフマディネジャドは、閣僚の人事すら思うようにならない。
アフマディネジャドは昨年4月、情報相を解任したが、ハメネイに覆された。アフマディネジャドは11日間にわたって閣議を欠席し、ハメネイに対する「反逆」と受け止められた。2009年には、12人いる副大統領の一人だった最側近を第1副大統領に登用しようとし、やはりハメネイに阻まれている。

宗教界との摩擦は絶えない。男子サッカーを女性が競技場で観戦できるように提案したが、宗教指導者の反発で撤回。女性に義務づけられたイスラム式の服装規定を軽視するかのような発言をしたこともある。
「(イスラム体制からの)逸脱勢力」。宗教指導者たちは昨夏ごろから、アフマディネジャドを支持するグループをこう呼びはじめた。これに対し、アフマディネジャドは昨年10月、国営テレビで「一部の者が政府を背後から攻撃しようとしている。政府のイメージを損なおうとする動きは激しくなるばかりだ」と漏らしている。

■基盤は革命防衛隊
地方の貧しい鍛冶(かじ)職人の家に生まれたアフマディネジャドは80年に始まったイラン・イラク戦争で、故ホメイニが創設した体制擁護の精鋭部隊・革命防衛隊に志願した。復員後はテヘランの大学で交通運輸計画の博士号を取得。大学教員、テヘラン市長などを歴任、05年の大統領選で初当選し非宗教者として最高ポストに上り詰めた。

アフマディネジャドが師事したとされる宗教指導者がいる。超保守派のメスバフヤズディ(78)だ。革命防衛隊が政治を主導することを望んでいるとされ、ホメイニ死去に伴って89年に最高指導者に就任した穏健派のハメネイとの対立もささやかれる。

メスバフヤズディの意を受けてか、大統領就任後、アフマディネジャドは革命防衛隊出身者を閣僚や政府要職に相次いで登用した。
総兵力12万5千の革命防衛隊は軍事組織にとどまらない。観光や通信などの経済分野にも進出、制裁で外国企業が撤退した石油・天然ガス田のインフラ整備も手がけ、肥大化の一途をたどる。

中東で唯一の核兵器保有国とされるイスラエルと対抗するためにも、革命防衛隊は核武装を望んでいるのではないか。そんな見方は根強い。欧米などが懸念を抱くのは、その革命防衛隊が核やミサイル開発を主導しているからでもある。

政治アナリストの一人は「革命防衛隊とアフマディネジャドは互いを必要としている」と指摘、さらに「アフマディネジャドは大統領こそが実権を握るべきで、最高指導者は『お飾り』でいいと考えている」と付け加える。
ハメネイは「イスラムに反する」として、核兵器開発の意図がないことを再三、強調している。そのハメネイは昨年10月、「行政府の長を国会が選ぶ方がいいのならば、変えても問題はない」と、大統領制廃止の可能性を示唆した。革命防衛隊を基盤とするアフマディネジャドを牽制(けんせい)した言葉とも受け止められた。

アフマディネジャドとハメネイの関係は、将来のイランのあり方とともに、核の行方を左右する可能性をはらんでいる。【2月26日 朝日】
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エキセントリックな反米発言などで知られるアフマディネジャド大統領ですが、その権力は宗教的権威や家柄ではなく、大統領選挙で選ばれたことに依っています。その意味で欧米の政治的指導者と、それほど大きな差異はないとも言えます。

上記記事にある、スポーツ観戦や服装においての女性に対する寛容な対応も、有権者の半数を占める女性票を意識してのことではないでしょうか。
また、経済制裁による生活苦を訴える国民の不満を無視しては、次期選挙での自派の勝利はありませんので、そうした不満に比較的敏感になります。
結果的に、国際社会へも現実的対応で臨む形にもなります。

今回選挙で大統領派が後退し、宗教権威を重視する反大統領派が伸長することになれば、大統領選挙などに反映される民意とか国民の不満に鈍感になり、政策がこれまで以上に硬直化することが懸念されます。



コメント (1)
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