孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  温家宝首相、改めて改革開放の必要性強調 安定維持重視の保守派との路線対立か

2012-02-06 23:02:50 | 中国


(1989年5月19日 天安門広場でハンガーストライキに入った学生たちに、「我々は来るのが遅すぎた。申し訳ない」と、声を詰まらせながら絶食をやめるよう呼びかけた趙紫陽元首相 「学生たちの理にかなった要求を民主と法律を通じて満たさなければならない」「わが国の法制度の欠陥と民主的監察制度の不備が腐敗をはびこらせてしまった」と学生たちに理解を示した趙紫陽元首相は、最高実力者小平と対立する形となり、動乱を支持し、党を分裂させたとして失脚しました。 “flickr”より By treasuresthouhast http://www.flickr.com/photos/74568056@N00/4947361080/

今年秋には習近平体制へ
今年は3月にロシア、4月にフランス、11月にはアメリカで大統領選挙が行われますが、中国では今年秋に開かれる第18回中国共産党大会において、胡錦濤国家主席・温家宝首相の現体制から習近平体制へ権力移譲が行われる予定です。首相については李克強第1副首相が有力視されていますが、欧米の選挙とは異なり、こうした人事は共産党内部における厳しい権力闘争の結果です。

****習近平・次期国家主席を待つこれだけの難題****
中国でも2012年から首脳が交代するが、次のトップがほぼ確定している点が米国やフランスと異なる。
現在、国家副主席の立場にある習近平(シージンピン)氏が胡錦濤(フージンタオ)国家主席の後を継ぐことは確実視されている。2012年秋の第18回中国共産党全国代表大会(18大)で党総書記に選出され、翌2013年春の全国人民代表大会(全人代)で国家主席に就任すると予想されている。

「習近平国家主席」の誕生には、江沢民(ジャンズーミン)・前国家主席の強い後押しがあったというのが定説だ。胡氏が後継に指名したかったのは同郷(安徽省)の後輩である李克強(リークァチャン)・第1副首相だった。胡氏と李氏は共産党エリートの集まりである中国共産主義青年団(共青団)出身という共通点もあり、経済成長よりも格差是正を重視する考え方で一致していると言われている。

しかし、江氏が率いる「上海閥」が強力に推したのが元上海市共産党委員会書記の習氏だった。また、習氏の父は副首相まで務めた習仲勲(シージョンシュン)氏で、党幹部の師弟グループで構成する「太子党」も習氏支持の流れに乗った。
その結果、2007年秋の共産党大会(17大)で、習氏は党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員に2階級特進で抜擢された。2010年秋には党中央軍事委員会で、胡氏に次ぐ副主席の座も獲得した。

依然残る、江沢民の影響
次期の国家主席がほぼ確定したことで注目されるのが、温家宝(ウェンジャーバオ)首相の後を誰が継ぐかということ。
順当に行けば胡氏が推す李氏となるが、最近になって存在感を増しているのが王岐山(ワンチーシャン)副首相だ。中国人民銀行や中国建設銀行の総裁を歴任するなど経済政策に詳しく、米中経済交渉ではティモシー・ガイトナー米財務長官のカウンターパートナーも務めている。

王氏は江氏の下で成長重視の政策を進めた朱鎔基(ジューロンジー)前首相の直弟子。重病説が噂される江氏の影響力を疑問視する向きもあるが、江氏は王氏の手腕を高く評価していると言われている。首相レースの行方は混沌としてきた。

だが、国家主席だけでなく首相人事も江氏の意向が働いたとなれば、胡氏にとっては面目丸つぶれだ。中国は共産党が事実上独裁しているが、党内は様々な勢力がせめぎ合っている。上海閥や太子党が一方的に勢力を増せば、共青団などからの反発が強まるのも確実。党内の融和を図る意味からも、李氏の首相就任が濃厚と言えそうだ。(後略)【1月12日 日経ビジネス】
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【「問題解決のカギは依然として改革開放にある」】
中国現指導部にあって温家宝首相は、災害被災地で国民に直接に言葉を交わす場面や改革への前向きな発言などで、比較的ソフトなイメージもあります。
その温家宝首相の改革路線を強調する発言が注目されています。

****温首相が「南巡講話」絶賛=改革訴え、路線に違いか―中国****
中国の温家宝首相は6日までに広東省を視察し、「20年前、トウ小平同志は80歳を超える高齢にもかかわらず、広東を訪れ、歴史的意義のある講話を行った」と述べ、トウ氏が改革・開放加速へ大号令を出した「南巡講話」を絶賛した。さらに「われわれが直面する挑戦と困難は少なくないが、問題解決のカギは依然として改革開放にある」と訴えた。

今年1~2月は1992年の南巡講話から20年の節目だが、共産党・政府は記念行事を行っていない。党最高指導部で公に同講話に言及したのは温氏が初めて。政治体制も含めてたびたび改革推進を主張する温氏と、社会の安定維持を重視する保守派指導者の間で、改革をめぐる路線に違いが出ている可能性も指摘されている。【2月6日 時事】
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トウ小平氏の「南巡講話」については、先月も、中国紙が大きく取り上げたことが今回同様に改革派のアピールではないかとの憶測を呼びました。

****中国「改革開放」に光、再び トウ小平氏「南巡講話」20年、異例の報道****
中国の最高指導者だったトウ小平氏(1904~97年)が87歳のとき、国内の保守派の反発で停滞していた改革開放路線で不退転の決意を示した「南巡講話」が始まって18日で20年を迎えた。

同日付の中国紙、東方早報は関連記事を48ページにわたって掲載する異例の報道ぶりで、「現在の中国にもトウ氏が残した言葉を当てはめて『再改革』が必要だ」などと主張。人民日報系の環球時報は社説で「政治改革の継続」に踏み込んだ。

国内体制の改革と経済の対外開放策は、トウ氏の指示で78年12月に打ち出されたが、89年の天安門事件の影響や、国内で「改革開放は資本主義的だ」と反発した保守派が権力闘争に挑んだことにより一時ストップした。トウ氏は92年、「講話」のため、湖北省武漢を皮切りに広東省深センや上海などを1カ月以上かけて列車で回った。
トウ氏は、「発展こそ絶対的道理だ。改革開放に反対するものは誰であろうと失脚する」などと保守派を攻撃。改革開放の再加速に執念を燃やした。

改めて中国紙が相次ぎ南巡講話を持ち出したのは、指導部交代を決める今年秋の党大会に向けた権力闘争で、トウ氏の威光を借りたい改革派の意向が働いた可能性もある。【1月19日 産経】
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温家宝首相 「アラブの春」に理解示す
温家宝首相や中国紙が改めてアピールする「改革開放」が、政治・社会における民主化や人権重視といった概念とどのように関係するのか、あるいは関係しないのか・・・そのあたりはよくわかりません。
ただ、中東民主化運動の波及を極度に警戒していると思われている共産党指導部にあって、温家宝首相は先月、「アラブの春」に理解を示す発言を行っています。

****アラブの春」を支持=民衆の変革尊重、国内に波紋も―中国首相*****
中東歴訪中の中国の温家宝首相は18日、カタールで記者会見した。現地からの報道によると、温氏はデモ弾圧が続くシリア問題に触れ、「変革や利益に対する幅広い人民の要求は尊重されなければならない」と強調、民衆の民主化要求に理解を示した。
温首相は訪問したサウジアラビアやアラブ首長国連邦でも「人民の変革要求を支持・尊重する」と繰り返しており、中東の民主化運動「アラブの春」を支持する方向を鮮明にした。

一党独裁体制が続く中国では昨年2月、チュニジアなどの民衆蜂起に触発され、民主化を求めてネットで集会を呼び掛ける「ジャスミン革命」騒動が起きた。共産党大会を今秋に控え、党・政府が民衆の決起に神経をとがらせる中での温氏の発言は異例と言えるもので、中国の政治改革を求める知識人や市民に波紋を広げそうだ。【1月19日 時事】
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もっとも、温家宝首相のこうした姿勢は、共産党指導層の中では主流とは言い難いのでは・・・とも思われます。温家宝首相も任期終わりに近づき、言いたいことは言っておこうというところでしょうか。あるいは、水面下で行われている権力闘争の一環でしょうか。

「アラブの春」を巡っては、今日開かれたミュンヘン安全保障会議で、アメリカ大統領をオバマ氏と争ったマケイン上院議員と中国外交部の間で、激しい応酬があったようです。

****中国でもアラブの春」は幻想、中国外交部副部長が米議員に反論―ミュンヘン安保会議****
2012年2月6日、ドイツで開催された第48回ミュンヘン安全保障会議で、中国と米国が一触即発の事態となる場面がみられた。シンガポール華字紙・聯合早報が伝えた。

きっかけは、ジョン・マケイン上院議員が北アフリカ・中東の民主化運動「アラブの春」が中国に飛び火することは避けられない、と発言したこと。これに中国外交部の張志軍(ジャン・ジージュン)副部長が「いわゆる『中国でもアラブの春が起きる』という見方は幻想に過ぎない」と反論した。

張副部長は「中国の平和的発展に対する決意を見くびるな」と牽制。「中国は今後、地域平和と世界の平和・安定にさらなる貢献を果たす。独り勝ちするつもりはないし、排他的な地域秩序を構築するつもりも能力もない」と強調した。中国共産党機関紙・人民日報はこの時の様子を「中国と米国が価値観問題で矛を交えた。会場の雰囲気は火薬臭でいっぱいになった」と報じた。

また、張副部長は「アラブの春」が中国に飛び火する可能性について、「彼らとは政策が異なる」と一蹴。「西側の機関が実施した政府に対する満足度調査でも、中国政府は70%を超える高い満足度で1位を獲得している。これほど支持されている理由は簡単だ。改革開放から30数年の成果を見て欲しい。そうすれば『中国でもアラブの春』という見方が幻想に過ぎないことが分かるだろう」と胸を張った。【2月6日 RecorsChina】
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マケイン上院議員も簡単に「アラブの春」が中国に飛び火するとは思っていないでしょうが、“ジャスミン革命”を必要としている現在の共産党一党支配体制への批判としての物言いでしょう。

【“異例”の成果、広東省烏坎村
“改革開放から30数年の成果”とのことで、再び“改革開放”ですが、中国の政治・社会面において山積する問題点は今更言うまでもないところです。

最近、共産党の指導ではなく、住民側の戦いで異例の成果を勝ち取ったとされるのが広東省烏坎村のケースです。
****民主的選挙に向け第一歩、中国・烏坎村****
中国で昨年12月、地元の共産党当局に対する抗議行動が全国規模の注目を集めた広東省烏坎村で1日、住民が「この村で初めて」と呼ぶ公正で民主的な選挙へ向けたプロセスの鍵となる一歩が踏み出された。

烏坎村の住民は12月、地元共産党当局の土地をめぐる汚職に対し、1週間以上に及ぶ抗議行動の末、中国では珍しく地元当局の譲歩を勝ち取った。その際に住民たちは、当局から自由な村民選挙を実施する約束も取り付けた。

一党独裁の中国では国民が指導者を選ぶことはできないものの、全国の村民委員会に限って、住民の投票による代表者選出を認めている。だが烏坎村では、その村民委員会の選挙もきちんと行われたことがなく、村の指導者たちが非公開で委員たちを選んできたと住民は訴えていた。

しかし今回初めて、烏坎村の住民は3月に予定している村の選挙へ向けて、それを監視する独立選挙委員会の委員を村民投票で選出した。
地元自治体に近い村民は1日の選挙委員会選出について、「透明性の高い、開かれた、公正な選挙を実施するプロセスの一環だ」と歓迎した。(中略)【2月5日 AFP】
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抗議行動を受けて行われた広東省による汚職調査の結果、政府は住民の不満が妥当であると認め、2011年に実施された同村幹部の選挙は無効とされています。

広東省烏坎村のケースが話題となるのは、これが“異例”だからです。
中国の政治システムの現状は下記記事の状況です。

****封じ込められた「独立候補」=市民政治、進展の声も―北京で直接選挙投票・中国****
中国の北京市で8日、市の下部行政単位である区・県の人民代表大会(人代)代表(議員)選挙の投票が行われた。今年は共産党や政府系団体の支持を受けない「独立候補」が急増したが、当局によって徹底的に封じ込められ、当選どころか最終候補者にも残らなかった。しかし独立候補を後押しした関係者は「今回の選挙を通じて市民の政治への参加は進展した」と解説した。

中国の末端人代代表は住民の直接選挙で選ばれる仕組みで、北京市ではこの日、区・県の代表として4349人を選出。特に今年はミニブログ「微博」などで立候補を宣言したり、選挙活動を報告したりするケースが急増したのが特徴で、北京の独立候補は50人以上に達した。

共産党・政府は人代代表選挙について、表向きは「一人ひとりが手にある貴重な民主権利を大事にしよう」(7日付中国紙・北京日報)と呼び掛ける。しかし独立候補に関しては、市民が団結して一党独裁体制を突き崩す動きととらえ、警戒を強めた。独立候補を拘束したり外出禁止にしたりしたほか、微博での発信を削除し、選挙活動を妨害し続けた。【11月8日 時事】
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「独立候補」が急増していることは、中国の政治体制に変革が迫られている結果とも思えます。いつまで共産党指導部がこうした動きを抑え込むつもりなのか・・・。

【「正常でない陳情行為を処罰することは、社会の秩序を維持するものであり、正しいことだ」】
最近目にした記事で、暗澹たる印象を残したのが、地方からの陳情者を“さらし者”として処罰している地方政府の実態を紹介したものです。
地方からの陳情者が北京に多く集まり、なかなか当局に取り上げられない実態はよく聞いていますが、“さらし者”とは・・・・。まるで、悪徳代官の不正を糾弾した直訴首謀者が処刑される江戸時代以前の話のようでもあります。

****陳情したら、さらし者 中国、「秩序乱した」と糾弾****
取材を始めたきっかけは1枚の写真だった。
広場でスーツ姿の男性がマイクを前に演説をしている。その後ろの横断幕にはこう書かれていた。
「陳情に関する違法行為の公開処理大会」

一昨年3月、中国西安市郊外の富平県で撮影された。県政府への不満を訴えようと北京に陳情に行った女性2人を、公開の場で糾弾する集まりだった。
集会は県政府庁舎前の広場で開かれ、地元の司法当局幹部がずらりと顔をそろえた。大勢の住民が集まる中で2人は「さらし者」にされ、地元テレビはその模様を放映。写真は政府のホームページに掲載された。(中略)

集会では2人の「違法行為」の内容が読み上げられた。「違法陳情で秩序を乱した。天安門広場での陳情ビラ散布を計画していた……」。40分にわたり責め立てられた。オレンジ色のジャケットを着た段さんは警察官に両腕をつかまれ、群衆の中で、ぼうぜんと立つしかなかった。

段さんは友人とその1カ月ほど前から北京に行き、区画整理で収用された農地の補償を求め、最高裁や最高検に陳情を繰り返していた。中国語で「上訪(シャンファン)」と呼ばれる中央への陳情は、法的に認められたものだ。

集会の前夜、宿泊先のホテルに北京の警察官が踏み込んできた。連行された派出所で県の司法当局に引き渡された。そのまま地元に連れ戻され、広場に引きずり出されたという。
段さんは集会後、「行政警告」との処分を受け、釈放された。しかし、屈辱感は癒えない。「私は何も間違ったことをしていない。あまりにも非人道的だ」
     ◇
1960~70年代の文化大革命を思い起こさせる公開批判集会。中国には「公開批判」による処罰の規定はなく、中央政府は80年代から開催禁止を再三呼びかけている。それでも地方では「司法の公開」などとして後を絶たない。以前は強盗や殺人、薬物犯などが対象だったが、ここ数年は反政府的な行為をとる人々への手軽な「見せしめ刑」として広がりを見せている。
(中略)

■指導者、出世への影響意識
地方当局が公開批判集会を開くのは、つるし上げることで、陳情を繰り返すのをやめさせるためだ。北京の人権派弁護士は「多くの市民に北京への陳情を踏みとどまらせる効果もある」と波及効果も指摘する。

北京市南部に陳情を受ける政府機関「国家信訪局」がある。庁舎前はいつも地方からの陳情者であふれる。中央への陳情は、当局者が絶大な権力を持つ中国で、市民がその間違いを正す数少ないチャンネルだ。「この世に正義はないのか」。道路沿いの壁には陳情者たちが書いた訴えの文字が並ぶ。
幹部の腐敗問題を扱う規律検査当局には、年間140万件前後の訴えが寄せられる。中央政府は「適切に解決し、社会の安定維持に努めるべきだ」(最高人民法院常務副院長)と積極的な対応を求める。不満を解消し、大規模な政府批判の芽を摘み取る狙いだ。

地方の指導者は全く別の発想だ。陳情者が北京で騒動を起こせば、自らの政治的な業績に傷がつく。汚職などにからんだ場合はなおさらだ。しつこい陳情は連行して封じ込める方が手っ取り早い――。
北京大学法学部の姜明安教授は「地方指導者は大きな圧力を受けている。問題が起これば出世できない」と説明する。連行正当化のため、独自の規定を設けて北京への陳情を制限しようとする地方政府もある。(中略)

一昨年に公開批判集会を開いた富平県当局は、人民日報系のサイト「人民網」で、集会の正当性をこう訴えた。「正常でない陳情行為を処罰することは、社会の秩序を維持するものであり、正しいことだ」
北京のある司法関係者は言う。「違法陳情というだけで何年も刑務所に入れておくわけにもいかない。陳情常習者に対し『面倒をかけやがって』との思いが地方役人にあるのは間違いない」【1月30日 朝日】
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温家宝首相が強調する“改革開放”は、こうした現状に変革をもたらすものなのでしょうか。

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