孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  政治犯釈放への評価と不満 日本はODA再開表明

2011-10-25 22:20:06 | ミャンマー

(8月19日 テイン・セイン大統領と会談したスー・チーさん “flickr”より By freeyouth99 http://www.flickr.com/photos/68877352@N08/6257935168/

【「多くを性急に求めすぎないように」】
ミャンマーでは民政移管した後も、国会議員の4分の1は軍人枠で、残りの8割も軍政が母体の連邦団結発展党(USDP)が占めることから、新政権は軍政路線を維持すると見られていました。
しかし、7月にスー・チーさんと新政権が対話を始めて以降、テイン・セイン大統領と民主化運動指導者スー・チーさんのトップ会談、動画投稿サイト「ユーチューブ」などが閲覧可能になるといったメディア規制の緩和、人権侵害の批判を受けてきたダム工事の5年間凍結など、“意外なほど”改革への動きを加速させています。

そうした動きについては、9月30日ブログ「ミャンマー 政治犯釈放の「恩赦計画」も協議対象に 経済制裁解除を求める動きも 」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110930)でも取り上げてきました。
テイン・セイン大統領との会談を行ったスー・チーさんも、9月20日、「テイン・セイン大統領は前向きな変革をもたらすと信じる」と、その姿勢を評価する発言をしています。

ミャンマー民主化を裏付けるものとして国内民主化運動勢力、国外の欧米諸国などが求めていたのが、上記ブログでも触れた政治犯釈放の案件です。
ミャンマー政府は、10月11日、6359人の受刑者を釈放すると発表、14日までにほぼその釈放が実行されましたが、このうち政治犯は300人程度にとどまるとみられますが、当初期待されていた著名な民主化運動指導者はほとんど含まれていませんでした。

一連のテイン・セイン政権の改革への取り組みは、経済制裁解除やASEAN議長国就任を目的としたアピールと見られていますが、理由は何にせよ、変革が実現することは評価すべきことです。

****釈放、制裁解除が狙いか ミャンマー、国民和解も模索****
ミャンマー(ビルマ)政府が11日、6359人の受刑者を釈放すると発表した。民主化活動家や少数民族の指導者ら政治犯の釈放が多数に及べば、政府側は欧米の経済制裁解除を目指すだけでなく、「国民和解」を視野に入れた改革を模索しているともいえる。

国営テレビは同日午後、「年長者や病人、道徳的ふるまいをしている受刑者らにテイン・セイン大統領が恩赦を与える」と、12日以降の順次釈放を伝えた。
国家人権委員会が、国連や諸外国が「良心の囚人」の釈放を求めていると指摘したうえで「国家の安定に影響を与えないものは釈放すべきだ」と政府に書簡を送っており、政治犯も釈放されるとみられる。

政治犯釈放は、日本や経済制裁を科す米国や欧州連合(EU)が強く求めてきた。2014年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国を実現するためにも改革姿勢を示す鍵と見られてきた。国内では民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんも第一の要求に掲げている。戦闘が続く少数民族の指導者らも投獄されており、「国民和解」(テイン・セイン大統領)をアピールするうえでも不可欠といえる。(中略)

米政府は新政府の最近の動きを「変化の風が吹いているのは明らかだ」(キャンベル国務次官補)と評価。ミッチェル特別代表兼政策調整官が9月だけでワナ・マウン・ルウィン外相と3回も会談して新政府の真意を見極める一方、民主化の意思を具体的行動で示すよう求めてきた。
米議会の反対が強い直接投資の解禁など経済制裁の緩和にはさらなる検討が必要としつつも、駐ミャンマー臨時大使の大使への格上げなど具体的な関係改善策で応じる可能性がある。

一方で、政治犯が釈放された場合「より急進的な改革を求める可能性がある」(民主化活動家)との見方もある。ただ、スー・チーさんは9月、AFP通信の取材に、「アラブの春」のような運動がミャンマーで起こることに否定的な考えを示した。反軍政誌イラワジのアウン・ゾー編集長は「民主化を求める人たちはスー・チーさんの意見を尊重するだろう。スー・チーさんは政府とも協力しつつ両者の間に立つ非常に難しい立場だ」と話す。

軍政は2000年代初頭にも軟化姿勢を示したが、その際は穏健派だったキン・ニュン首相(当時)が更迭され、改革路線はついえた。だが、今回は政府の改革を本物と評価して、海外から母国に戻って協力する知識人も出始めている。

ウ・タント元国連事務総長の孫で、歴史家のタント・ミン・ウー氏は米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、米国を始めとする国際社会に新政府の改革を支援するように訴える一方、「多くを性急に求めすぎないように。現在の変化の代替物は完璧な革命などではなく、昔の状態に戻ることだ」と性急な改革要求は強硬派の巻き返しを招きかねないと指摘した。【10月12日 朝日】
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【「何もしなければ、より大きなリスクを抱えることになる」】
今回の政治犯釈放については、人気コメディアンのザガナル氏ら数人を除き、民主化勢力や少数民族の著名な政治犯はほとんど釈放されませんでした。この点についての不満は当然に内外にあります。

****政治犯釈放は「1割」 ミャンマー、国内外に不満****
ミャンマー政府が恩赦により釈放した政治犯の数は、政府の発表がないまま、国民民主連盟(NLD)など民主化勢力、団体の調査から220~184人とされている。2千人といわれる全政治犯のおよそ10分の1にすぎず、12日の釈放以降は動きが止まっている。このため国内外には不満の声が高まり、政治犯全員の釈放を求める署名運動の動きも出ている。

釈放された政治犯の中には1988年8月の学生らによる民主化要求デモで逮捕、収監されたミン・コー・ナイン氏ら多くの活動家が含まれていない。また、2007年に最大都市ヤンゴンなどで、軍政に抗議する僧侶のデモを指導し今回、釈放されたとみられていたガンビラ師は収容されたままであることも分かった。

このため、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさん率いるNLDは「なお多くが収容されたままで、失望し、いらだちを覚える」と批判。ヤンゴンを拠点にするある団体は、全政治犯の即時釈放などを求め「署名活動を開始し、テイン・セイン大統領に提出する」としている。

海外でも、「まだ多くの政治犯が刑務所にいると確信している」(ヌランド米国務省報道官)として、「すべての政治犯の早期釈放」(国連の潘基文事務総長)を要求する見解が、相次いで表明されている。インドのニューデリーでは13日、ミャンマー人の民主活動家がデモを繰り広げた。

一方、フランス通信(AFP)によると、テイン・セイン大統領は14日までに、労働組合の組織、スト権を一部労働者に認める法律に署名した。新たな「民主化措置」で、これについてはNLDや国連関係者も「前進であることに疑いの余地はない」としている。【10月15日 産経】
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もともと政治犯が何名拘束されていたのか・・・については、上記記事は“2千人といわれる全政治犯”という数字をあげていますが、大統領首席顧問(政治担当)は19日、英BB放送のビルマ語サービスに対し、ミャンマー政府が政治犯と認定している受刑者は約600人で、うち半数は既に釈放されたと語っています。旧最大野党、国民民主連盟(NLD)も政治犯は600人程度と推定しているようです。【10月21日 産経より】

政権側の一連の対応、政治犯釈放をどのように評価するかについては、いろんな意見があります。
****欧米のミャンマー制裁緩和あるか****
・・・13日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は社説で、受刑者の釈放などを「変化は手厚く、速い」と歓迎した。昨年11月のスー・チーさんの解放や、議会のテレビ放送、検閲緩和などの改革が次々に行われてきたことを挙げて、「変化が続き、特にそれが法に盛り込まれるようなら、欧米はゆっくりと制裁緩和を検討すべきだ」と主張した。

ただし、欧米は「みせかけの民主化」にだまされるだけかもしれない。それでもFTは、「何もしなければ、より大きなリスクを抱えることになる。改革者たちは譲歩に対する何の報いも得られなければ、自分たちは孤立しており、強硬派の反撃にもろいと感じるだろう」と指摘した。

国際紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンは13日付の記事で、ミャンマーの現体制を「(軍事クーデターが起きた)1962年以来もっとも開かれた組織だ」と称賛する米識者や、「ここ数カ月の一連の変化に驚かされている」とする元米外交官の好意的なコメントを紹介している。

では、実際に制裁緩和へ向けた動きはあるのか。13日付のFTの記事は、「ヤンゴンの欧州連合(EU)高官は、いくつかの条項を緩和することを検討すると話した」と伝え、「米議会による制裁の緩和は困難だろうが、ミャンマーのテイン・セイン大統領(66)の支持者らは、バラク・オバマ米大統領(50)が改革の努力に対して少なくとも象徴的なジェスチャーは見せるだろうと期待している」と分析した。

制裁緩和には、慎重な意見も当然多い。「欧米の外交官らは、制裁緩和のような手段で対応するには、ミャンマーが変化しているというもっと多くの証拠を見たいと言っている」(13日付の米紙ウォールストリート・ジャーナル=WSJ)。弾圧を受けてきた民主活動家らは「ミャンマー政府は過去、政治犯を解放してもその後また逮捕を繰り返してきた」(WSJ)と話している。【10月18日 産経】
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アメリカ:慎重姿勢ながらも制裁解除に向けた協議も
スー・チーさんは、政権側への民主化要求圧力として、これまで欧米各国の経済制裁継続を主張してきました。
一方、経済制裁によって国民生活が困窮していることもあって、こうしたスー・チーさんの経済制裁にこだわる対応には国内では批判もあるようです。
スー・チーさんは今回釈放について「非常に価値がある」としつつ、20年以上も民主化運動を主導した「88年世代グループ」の主要メンバーらが釈放されなかったことから、改めて「全政治囚の釈放」を要求しています。

アメリカのクリントン国務長官は、政治犯釈放について、「改革の期待を高める兆候だが、反応するには時期尚早」と制裁解除に慎重な姿勢を崩しませんでした。

***米国:ミャンマーに全政治囚釈放を要求****
米国のミッチェル・ミャンマー担当特別代表は17日、米国務省で記者会見し、ミャンマー政府による政治囚の一部釈放について「明るい兆候」と述べる一方、現在の釈放規模では不十分だとして、すべての政治囚を無条件で釈放するよう求めた。

ミッチェル氏は、釈放された政治囚の人数について「調査中」とした。その上で、07年8~9月の民主化要求デモを主導したとして収監されたミンコーナイン氏ら主要な活動家の釈放が重要だとの認識を示した。【10月18日 毎日】
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ただ、上記記事のミッチェル・ミャンマー担当特別代表は、24日、9月に続き2度目のミャンマー訪問を行っています。
“ミャンマーのワナ・マウン・ルウィン外相が9月末に訪米し、特別代表らと会談するなど、このところ両国の高官往来が頻繁になっており、米国の対ミャンマー経済制裁解除に向けた協議が進展しているとの見方がある。”【10月24日 読売】と、“経済制裁解除に向けた協議”の動きも出ています。

上記産経記事にあるように、“「みせかけの民主化」にだまされるだけかもしれない”という不安はありますが、“何もしなければ、より大きなリスクを抱えることになる”というのが妥当な判断と思われます。
いたずらに疑いの目をむけたまま、何の譲歩も示さないでいると、せっかくの改革の兆しもしぼんでしまいます。
今後のより大きな改革を促す方向で、経済制裁の緩和など、これまでの改革姿勢に一定に応えるべきでしょう。

日本:「今日の会談を、日本とミャンマーの新しい関係の第一歩にしたい」】
日本政府は、大戦中の対イギリス独立運動への加担などの経緯もあって、従来よりミャンマーとは緊密な関係を維持してきました。軍事政権に対しても、欧米諸国の経済制裁とは一線を画し、要人往来や経済協力による援助を続けてきています。ただし、03年以降は欧米とも協調する形で、人道的な理由かつ緊急性がない援助は停止しています。

ミャンマー新政権の一連の改革姿勢を受けて、欧米諸国に先駆けて政府の途上国援助(ODA)の再開を表明する形で、野田政権はミャンマー支援を明らかにしています。
欧米の経済制裁のなかで、中国への傾斜を強めるミャンマーに対する焦りもあるようです。

****ミャンマーへODA再開を表明 玄葉氏、外相会談****
玄葉光一郎外相は21日、ミャンマー(ビルマ)のワナ・マウン・ルウィン外相と東京都内で会談した。玄葉氏は民主化を支援するとして、政府の途上国援助(ODA)の再開など協力強化を表明。欧米諸国に先駆けて、野田政権はミャンマー支援を鮮明にした。

ミャンマー外相の公式訪問は、1995年以来16年ぶり。玄葉氏は「今日の会談を、日本とミャンマーの新しい関係の第一歩にしたい」と強調した。
日本は「民政移管」で新政権が発足した3月以降に支援の姿勢を強め、数カ月前から水面下で外相来日を打診していた。

中国とミャンマーの関係が深まるなかで、親日国だったミャンマーとの関係を再構築する狙いもある。外務省幹部は「ミャンマーの政権内には中国の影響力が強くなりすぎることを懸念する勢力がある。手を差し伸べたい」と話す。会談では、ODAや貿易・投資など4分野で協力強化を確認。ODAでは、03年に中断したバルーチャン第2水力発電所補修計画など、2件の援助再開方針を示したほか、新規案件を検討する政策協議の開催でも合意した。

ただ新政権の民主化への取り組みは、評価が定まっていない。今月実施した政治犯を含む受刑者の恩赦では、「少なすぎる」という失望が民主化の活動家の間で広がっている。
日本のODA再開に対しても、国民の生活向上への期待がある一方、「早すぎる。さらなる民主化を求めるべきだ」(政治犯支援協会「AAPP」のボー・チー共同書記)との意見もある。
ワナ・マウン・ルウィン外相は会談で政治犯について「テイン・セイン大統領は引き続き適切な時期に恩赦を続ける」と述べた。【10月22日 朝日】
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