孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ  反格差デモ「ウォール街を占拠せよ」 世界中に拡大するも「終着点」見えず

2011-10-16 22:34:43 | アメリカ

(アメリカン・ドリームの国での「1%の金持ち、99%は貧乏」「富裕層に課税を! 貧困層に食べ物を!」といった格差批判はしっくりこないところもありますが、やはりアメリカですので、明るく健全な雰囲気も感じます。“まるでお祭り”といった批判もありますが。 “flickr”より By cxny http://www.flickr.com/photos/76393110@N00/6248148560/

欧州、アジア・太平洋の80カ国以上にまで拡大
9月17日にアメリカ・ニューヨークで始まった反格差デモ「ウォール街を占拠せよ」は、1か月近く経過して今も続いています。

ここまでの経緯については、
“抗議が始まったのは、テロ10年の記念日から間もない9月17日。参加者らによると、8月ごろからネット上で有志による呼びかけが始まり、初日は約1500人が集まった。だがその後は500人前後で推移していた。
潮目が変わったのは9月24日。デモ行進中に公務執行妨害などの容疑で80人が逮捕され、その模様が動画サイトに投稿されてからだ。若者の反発が広がり、参加者は千人規模に膨れた。10月1日にはブルックリン橋をデモ隊が占拠、約700人が逮捕される事態になった”【同上】という状況です。

きのう10月15日は、ニューヨークのデモ主催者らが「世界一斉行動日」と位置づけ、インターネットの交流サイト、フェイスブックなどを通じてデモ実施を呼びかけ、インターネットサイト「世界変革のための連帯」によると82カ国・地域の951カ所で抗議行動が行われました。
運動の発火点となったアメリカや欧州だけでなく、アジアや中東でもデモや集会が実施されています。

****反格差デモ:NYで5万人参加 70人逮捕****
米ニューヨークで始まった反格差デモ「ウォール街を占拠せよ」は15日、欧州、アジア・太平洋の80カ国以上にまで拡大し、一部で暴徒化した参加者が逮捕され、負傷者も出た。

ニューヨーク最大の繁華街、タイムズスクエアでは約5万人(提唱者発表)のデモ参加者があふれ、通行妨害などの容疑で市内で約70人が逮捕された。イタリアの首都ローマでは過激グループによる放火や商店の破壊があり、警察との衝突で70人以上が負傷、12人が逮捕された。

この日、ニューヨークでは正午ごろから市内各地でデモ行進が始まった。タイムズスクエアでの集会開始予定は午後5時だったが、30分前には人々の間で「ウォール街を占拠せよ」「我々は99%」の大合唱が始まった。午後6時ごろには大みそか並みに人であふれ、歩行も困難に。「ハッピー・ニューイヤー」と叫ぶ人々もいた。
掲げられたプラカードは「戦争をやめろ」「自由と正義を皆に」から、「沈黙をやめよう」「我々は幸福になる権利がある」までさまざまだ。

一方、金融危機が続く欧州ではイタリアのほか、スペイン、ポルトガルの各首都で数万人規模のデモ隊が街に繰り出した。(後略)【10月16日 毎日】
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イタリア・ローマでは、過去にも反サミットデモなどで破壊行為を行っている無政府主義者グループが暴徒化し、70人の負傷者が出る混乱となっています。

****ローマの反格差デモ、70人負傷 過激派紛れ警官と衝突****
ローマでも15日、若者らが大規模な反格差デモを実施した。そこに紛れ込んだ過激派が車両に火を付けるなどし、放水や催涙ガスで排除を試みる警官隊と衝突して市内は一時混乱。地元メディアによると、暴動を止めようとしたデモ参加者や警官ら70人が負傷し、12人が拘束された。

過激派は「ブラック・ブロック」と呼ばれる無政府主義者の集団で、過去にも反サミットデモなどで破壊行為を繰り返してきた。ベルルスコーニ首相は「暴力行為は罰せられなければならない」と強く非難した。
一方、イタリア中央銀行総裁で欧州中央銀行(ECB)総裁に就任予定のマリオ・ドラギ氏は「暴力は受け入れられない」とする一方で、デモ参加者に向けて「私たち大人も危機に苦しんでいる。20代、30代の人が金融機関をスケープゴートにしているのも理解できる。対立は残念だ」と話した。【10月16日 朝日】
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経済成長を支えてきた中間層の社会離反を示唆
世界に飛び火した抗議行動の中心は、経済格差や高い失業率に異議を唱える若者らで、「1%の金持ち、99%は貧乏」「富裕層に課税を! 貧困層に食べ物を!」といった主張を掲げています。
「どれだけ長い間、金持ちが貧困層から搾取してきたことか。いまの社会はおかしい。気づいていない人たちの目を覚ましたい」といった参加者の声もあります。【10月5日 朝日より】

****ウォール街デモ拡大の一途 就職難が火種 夢失った米中間層「SOS****
米ニューヨークで発生した反経済格差デモ「ウォール街を占拠せよ」が全米の大都市に広がり、米国の社会現象として定着し始めた。参加者の中心は白人男性の学生や失業者ら。デモの拡散と長期化は、これまで経済成長を支えてきた中間層の社会離反を示唆しており、保守系草の根運動「ティーパーティー(茶会)」に対抗するリベラル運動にも発展しそうな勢いだ。(中略)

 ◆高学歴20~30代
発起人はカナダの反企業活動団体「アドバスターズ」。その後に米環境保護団体「タイムズアップ」、コンピューター・ハッカー集団の「アノニマス」などが加わり、先週からは米サービス従業員国際労組(SEIU)といった代表的な労働組合も協力し始めた。

参加者には、高等教育を受けた20~30代の白人男性が目立つ。本来なら米経済を支える中間層予備軍だが、デモに参加した理由を聞くと、就職難など将来の生活への不安を口にする。
「大学を出ても仕事がないし、学費が値上がりして学生ローンを返せるか分からない」と大学生のジョナサン・ヘルナンデスさん。「経済格差など米国は問題ばかり」と無職のマイルズ・ウォルシュさんも嘆く。

「ウォール街を占拠せよ」と並ぶスローガンは「99%」。国民の1%を占める超富裕層以外の一般市民を代弁する意味を込めた。1970~80年代初頭にかけて「99%」の一般市民は、米国の富の70%台後半を保有していたが、住宅価格低迷や高失業率で今や60%台前半に落ち込んでいる。財務面で見る限り、米国の中間層は崩壊が始まった。

 ◆大企業にも矛先
一方、富の3分の1を押さえる超富裕層が支払う税率は所得の31%程度で、国民の6割を占める中間層の25%前後とそう変わらない。しかも、一連の金融緩和による株高の恩恵を受けたのは、株式など金融証券の6割を保有する超富裕層だ。
11日には、企業の最高経営責任者(CEO)が住む高級住宅地で知られるパーク街で数百人規模のデモが繰り広げられた。CEOの所得が一般労働者の300倍を超え、納税回避のテクニックばかりが重宝される。そんな大企業の体質にも矛先が向いている。

「主義主張は完全符合するわけではないが、雪だるま式に参加者が増えている」とイスラエルからの移民男性は話す。デモは保守派に対抗した単なるリベラル運動ではなく、均等に与えられた機会と自らの努力によって成功と富をつかむというアメリカン・ドリームを見失った中間層とその予備軍の「SOS」なのだ。【10月14日 産経】
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背景には立ち直れないアメリカ経済、広がる経済格差、9.1%と高止まりしている失業率・・・という現状があります。
****2010年の貧困比率、93年以来最悪の15.1% 米国****
米国勢調査局は(9月)13日、2010年の米国の貧困比率が前年の14.3%から急激に伸びて15.1%となり、1993年以来最悪になったとする統計を発表した。08年の景気後退終了後も、経済の低迷が続いていることを強く示している。

貧困層人口は4年連続の増加で、1959年にデータを取り始めて以来最多の4620万人となった。ただし、貧困比率は59年より7.3%低くなっている。
貧困層は、2010年の年収が4人世帯で2万2314ドル(約170万円)以下、単身世帯で1万1139ドル(約86万円)以下と定義された。
統計は、貧困層以外でも家計が苦しくなっていることを示している。年間世帯収入の中央値は、前年から2.3%減の4万9445ドル(約380万円)だった。【9月14日 AFP】
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【「運動体」としての目標は不明瞭
しかし、よく比較される「アラブの春」では、長期政権を倒すという分かりやすい目標があったのに比べ、ニューヨークでは誰から何を勝ち取ろうとしているのか、はっきりした目標がありません。秩序だった組織や指揮命令系統もできていません。労組メンバーなどが参加して運動が広がることで、「運動体」としての目標がさらに不明瞭なものになっているとも言えます。
デモの参加者は統一した政治要求を掲げてはおらず、「終着点」が見えないのが実情といった指摘もあります。

フラストレーション解消の“お祭り騒ぎ”(中国人留学生)との批判もあります。
“冷ややかに見る目もある。米名門私立大に留学中の中国人女性(30)は「民主主義は非効率だ。中国なら5分で決まることが、米国では1時間以上かかる」。集まった若者にも容赦ない。「中国のデモは命がけだが、ここはまるでお祭り。あれして、これして、と要求ばかり。米国では選ばなければ仕事もあるし、自由もある。甘えすぎだ」”【10月16日 朝日】

“5分で決まる”ことが良いことかどうかは異論がありますが、確かに中国などでのデモとは質の違う“お祭り”のような雰囲気も感じます。

ロンドン暴動の閉塞感とも異質
今年8月、イギリスで若者達の暴動があり、これまでと異なる動機や目的が不明瞭な「大義なき暴動」として大きな社会問題になりました。
背景に若者達のフラストレーションがあり、「ツイッター」などのソーシャルメディアを通じて拡大した経緯は共通していますが、ロンドンでの暴動の中心になった低所得者向け団地の若者達の
「怒りだよ。腹が立つことだらけだ。とにかく見るものすべてに腹が立つ。怒りの頂点だ。」
「俺はいつもムカつきながら育った。悪いことばかりさ。ジャージーぐらいただでもらって何が悪い?」
「みんな劣悪な環境でおかしくなりかけていた。腹が立つんだよ、誰でもいいからやっちまえ。そんな感じ」
「ロンドンじゃ、俺たちは壁の割れ目に押し込まれていきているんだ」【10月5日号 Newsweek日本版より】
といった、行き場のない怒りと今回ニューヨークの若者達の声は異質です。
ニューヨークの方が明るく健全性があります。年齢層も高く、社会階層もどちらかと言えば中間層です。まだ、現実を改革することへの期待感があります。

****英国:若者たち、大義なき暴動****
警官による黒人男性射殺に端を発した英国の暴動は13日、発生から1週間が経過し、ひとまず沈静化した。ロンドンを中心に約1600人の若者らが逮捕され、過去数十年間で最悪の事態となった暴動は、英社会に深い傷痕を残した。若者らはなぜ略奪、放火に走り、警察はなぜ有効に対処できなかったのか。背景を探った。【ロンドン笠原敏彦】

◇人種、階層バラバラ 共通項は閉塞感
「異なる(背景の)若者らが同じ行動を取るという新たな難題に直面している」
キャメロン英首相は11日の臨時議会で、事態を「新たなタイプの暴動」と位置づけた。今回の暴動は、英国が過去に経験した政治的不満や人種差別などを背景にした暴動とは異なり、動機や目的が不明瞭な「大義なき暴動」とも呼ばれている。

暴動が沈静化し、英メディアは「どんな若者が暴徒だったのか」と自問している。逮捕されて裁判所に出廷した容疑者らは、裕福な女子大生やグラフィックデザイナー、小学校の補助教員、11歳の少年など人種も含めて一般化が難しいからだ。(中略)
暴動に火をつけたロンドン北部トットナム地区や東部ハックニー地区などは失業者や貧困層の多い地域だけに、先進国・英国の中の「途上国」の反乱とも言える。

英・社会正義研究所のプール所長は「彼らは希望を持てず、失うものは何もないと感じている」と指摘する。キャメロン首相らは暴徒を犯罪者と断罪するが、暴動を生んだ全体状況として、社会階層の上昇の機会から取り残された若者らの閉塞(へいそく)感、失業、経済格差の拡大などの問題があるのは間違いない。

問題の根深さを示すのは、一般社会から断絶した若者らの不満を背景に広がるギャング(暴力的犯罪集団)文化だ。ロンドン警視庁の07年調査では、市内に250を超えるギャング組織が存在するといい、今回の暴動拡大でもギャング組織が中核的な役割を果たしたとの指摘もある。
また「新たなタイプの暴動」で目を引くのは、事態の展開の速さだ。暴動は中部バーミンガムなど各地に野火のように広がったが、ほぼ4日間で収束。ネットを介した「非政治的な暴動」は熱しやすく、さめやすいようだ。【8月14日 毎日】
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民主党側:参加者の主張に理解を示しながら、一定の距離感を保つ
今回のデモ参加者・支持者が、保守系のティーパーティー(茶会)の対抗軸として次期大統領選挙に影響するのでは・・・との見方もあります。
共和党側は「ウォール街や大銀行を責めるな。職がなく金もないなら、自分を責めろ」(黒人実業家のケイン氏)、「(デモは)階級闘争のようなものであり、危険だ」(ロムニー前マサチューセッツ州知事)と批判が相次いでいますが【10月6日 毎日より】、ニューヨークのデモ参加者は、オバマ大統領を08年の大統領選で当選させたリベラル派に属する人々が大半ということもあって、オバマ大統領・民主党側の反応は微妙です。

***ウォール街デモ 米政権、一定の距離 次期大統領選へ、つかみ切れない影響力****
来年の大統領選を揺るがす政治運動へと変貌するのか-。全米に広がるデモの行方を注視する米政界はその影響力をつかみ切れず、オバマ政権も一定の距離を置く。保守系のティーパーティー(茶会)の対抗軸として選挙の追い風になるとの期待が民主党の一部にあるものの、政策的な統一性がなく、際立った指導者も不在なためで、間もなく運動は尻すぼみに終わるとの見方も少なくない。

デモ拡大後、民主党側は参加者の主張に理解を示しながら、一定の距離感を保つ発言を繰り返している。
オバマ大統領は記者会見で、デモは「国民が感じる不満の表れ」と述べたが、茶会のような広がりを得ると思うか-との問いには明確な回答を避けた。
ペロシ下院院内総務も、参加者が発する「メッセージを支持する」と共感を示すだけで、デモの支持には言及しなかった。

背景には、反戦や死刑廃止などを掲げるリベラル色の強い団体が加わり、一部で多数の逮捕者も出すなど、極端な主張や行動をとる活動を支持すれば、大統領選のカギを握る無党派層の支持を失いかねないとの懸念があるためだ。政策的な統一感に乏しく、政治的な動機も不透明な印象は否めない。(中略)

世論調査会社ラスムセンが12日に発表した調査によると、回答者の41%はデモを「好感しない」としており、「好感する」の36%を上回った。ただ、高失業率や不況への不満は共通しており、経済状況が好転しなければ、共感が広がる可能性もある。
ジョージ・ワシントン大のリオ・リバフォ教授は、茶会のような政治運動に発展するには、全国的にデモを連携させる「組織」立ち上げとカリスマ性を備えた「政治指導者」の獲得が不可欠と分析している。【10月14日 産経】
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コメント (8)
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