孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ東部地震  政府対応の遅れの背景にクルド人問題があるとの批判  アルメニアとの不協和音も

2011-10-28 20:55:13 | 中東情勢

(トルコ東部ワン(Van)県のエルジシュ(Ercis)での救助活動 少数民族クルド人が多く暮らす地区であったことから、政治的な問題も派生しています。 “flickr”より By PicHunting http://www.flickr.com/photos/ny-insurance/6286565712/

クルド独立派にとどめを狙うエルドアン首相
トルコのクルド人問題については、10月20日ブログ「トルコ  和解の兆しがあったクルド人問題、夏以降対立激化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20111020)で取り上げたように、10年10月のエルドアン首相とクルド労働者党(PKK)アブドラ・オジヤラン党首(服役中)との交渉開始、今年6月12日に行われた総選挙での少数民族クルド人勢力の躍進など和解の兆しが見えたのですが、このところはPKKによるテロ、それに対するトルコ軍の報復など、対立が激化しています。

****トルコ軍がクルド人にとどめの一撃か****
トルコ政府はついに、長年トルコからの分離独立を求めてきたクルド人武装勢力を追い詰め始めたようだ。トルコ軍は先週、非合法組織クルド労働者党(PKK)に対し、この3年半で最大規模の攻撃を仕掛けた。直前のPKKによる襲撃で少なくとも24人のトルコ兵が死亡した事件への報復とみられる。

トルコ軍は1万人近い兵力を動員し、イラク領内にあるPKKの拠点に対して地上攻撃と空爆を実施した。「政府は現在、少数民族の権利拡大を盛り込んだ新憲法を起草している。このタイミングで攻撃したのは、クルド独立派にとどめを刺すためではないか」と、米ニューヨーク・タイムズ紙は評した。

ロシアのテレビ局の報道によれば、今もかなりの人数のトルコ兵がイラクに駐留し、トルコ南東部のディヤルバクル空軍基地から戦闘機が数十回にわたって出撃したという。

トルコのエルドアン首相は「越境追跡作戦を含め広範囲に及ぶ攻撃が続いているが、国際法は遵守している」と記者会見でコメントした。この一件に関しオバマ米大統領は、PKKによる攻撃をテロ行為と非難。今後もトルコ政府を支持していくと表明した。【11月2日号 Newsweek日本版】
******************************

クルド人居住区への外国援助隊立ち入りを嫌う?】
このクルド人問題と、トルコ東部ワン近郊で23日にあったマグニチュード(M)7.2の地震による被害が絡んでいるようです。
全容があきらかにつれて、地震犠牲者の数も増加し、現在のところ550人ほどの死者がでていると報じられています。

****トルコ地震:死者550人に 少年108時間ぶり救出****
トルコ政府は27日夜、東部で発生した大地震の死者が550人、負傷者は2300人に達したと発表した。28日未明にはエルジシュで13歳の少年が崩壊したアパートから108時間ぶりに救出された。被災地は冬季に入っており、テント支給などが緊急の課題となっている。

トルコのアナトリア通信によると、27日午後にもエルジシュで、生き埋めになっていた18歳の男性が救出されるなど、地震発生後に救出された人は約190人になる。
AP通信などによると、約2000棟の建物が崩壊、これとは別に約3700棟で居住が難しくなっている。また与党・公正発展党(AKP)の幹部は、被災者は70万人に上り、最大で11万5000張りのテントが必要としている。

23日の地震発生後、トルコ政府は一部の国以外からの支援を断っていたが、テント不足などに批判が高まったことを受け、25日に30余りの国からの支援を受け入れを決めた。【10月28日 毎日】
********************************

被災地は標高1600メートル前後の高地にあり、厳冬期が迫っています。自宅が全半壊した被災者の多くが屋外で避難生活を送っていますが、テントや毛布などの防寒用品が絶対的に不足しており、行政がテントを配ろうとして奪い合う騒ぎも起きていることが報じられています。

****トルコ地震:被災者テント争奪 10時間待ちも****
トルコ東部で起きた地震の被災地エルジシュでは26日、被災者が政府配給のテントの列に殺到、奪い合いに発展して混乱した。中には10時間以上待つ人もおり、被災者の厳しい境遇を象徴している。(中略)

テントの配布場所はエルジシュの軍駐屯地。外の道路沿いに一時、300メートルを超す行列ができた。付近を警戒していた軍や被災者の話によると、政府は25日、配布ルールも決めないままテントを積んだトラックを被災地に送り、奪い合いのけんかが起きるなど大混乱した。このため、各世帯に1張りずつ身分証明書を確認しながら配ることにしたといい、軍の部隊長は「自宅が壊れていなくても、怖くて中に入れない人がいるので全世帯に配る」と説明した。(後略)【10月27日 毎日】
*******************************

被害者救済が急がれるなかで、24日にはイスラエルがトルコに支援を申し出たところ、トルコ政府が断ったという報道がありました。
昨年5月、地中海でパレスチナ・ガザ地区支援船をイスラエル軍が強襲し、乗船していたトルコ人9人を死亡させて以来、両国関係は悪化していますので、そうした絡みかと思ったのですが、トルコはイスラエルだけでなく他の国の支援も断っていたようです。

その背景には地震のあった地域がクルド人居住区であり、そうした政治的に敏感なエリアへの外国人立ち入りを嫌ったのでは・・・と見られています。

****外国の震災支援、トルコ消極姿勢 クルド問題の影****
トルコ東部を襲った地震をめぐって、外国からの救援隊の受け入れにトルコ政府が消極的な姿勢を見せている。被災地やその周辺には、少数民族クルド人が多数住んでいるが、救援が遅れれば、クルド住民の不満にもつながりかねない。

これまでに支援を表明したのは日本のほか米国や英国、中国など20カ国以上。しかし、ロイター通信は「いまのところ断っている」という匿名の外務省高官のコメントを伝えた。
トルコ側が受け入れたのは、飛行機で医療チームを派遣したアゼルバイジャンや、陸路で救急車を派遣した東隣イランなどに限られているようだ。

「支援の申し出をありがたく思う。だが、我々は自分たちで対処できる」。エルドアン首相は24日未明、被災地の視察後に記者団に語った。トルコは地震国で救援態勢も充実しているため、周辺国に限って最小限受け入れるという構えのようだ。

その一方、受け入れに消極的な理由として、自治拡大をめざし、被災地に近い山岳地帯で武装闘争を続ける「クルド労働者党」(PKK)との関連も指摘されている。
PKKはクルド人の独立国家を目指し1978年に結成された。84年からの武装闘争で数万人の犠牲者が出た。近年は要求を「自治拡大」に引き下げたが、軍や治安機関に対するテロは継続。18~19日にはトルコ兵24人が死亡する攻撃もあり、軍は掃討作戦に乗り出し、緊張が高まっていた。(後略)【10月25日 朝日】
******************************

しかし、救援物資の不足が深刻化している被災地の状況を受けて、トルコ政府は25日、関係が悪化しているイスラエルを含む外国からの援助受け入れを決めています。

【「地震の対応に銃は必要ない。一体、何を警戒しているんだ」】
こうした対応を含め、クルド人側からは、政府の災害対応が遅れた背景には「少数民族に対する民族差別がある」との批判があります。

****トルコ地震:民族差別で対応遅れ クルド系国会議員訴え****
トルコ東部の地震被災地ワンで27日、地元選出の国会議員で少数民族クルド系の野党「平和民主党(BDP)」副代表、ナズミ・ギュル氏(46)が毎日新聞の単独インタビューに応じた。ギュル氏は最大15万戸のテントや仮設住宅が必要な「危機的状況」を強調、国際社会の支援を呼びかけた。また、政府の災害対応が遅れた背景には「少数民族に対する民族差別がある」と述べ、トルコ政府を批判した。
(中略)
また、クルド人の多く住むトルコ東部の救助活動が「政府の差別的対応により遅れた」と主張。地震当日、エルジシュでは大量の軍兵士が配備されたが、「治安維持活動をしただけで、救助活動を手伝っていなかった」と述べた。99年のトルコ北西部地震では、兵士が直後から救助活動に当たっていたという。

トルコ東部の住民の多くは貧困から、違法建築や安価な泥ブロック造りの住居に住んでおり、それが甚大な被害につながった側面が大きいという。
トルコのエルドアン首相は03年の就任以来、クルド人地域にも道路や大学、病院などを建設し、公共事業を通じて雇用創出を図ってきた。だが農業や酪農以外の産業は育っておらず、住民の政府にする不満は根強い。【10月27日 毎日】
***************************

“エルジシュの物資配給所では住民が長蛇の列を作る横で、ライフル銃を構えたトルコ軍兵士が警備に当たっていた。この様子を見た同市の運転手、ジェンギズさん(45)は「地震の対応に銃は必要ない。一体、何を警戒しているんだ」と皮肉っぽく語った。”【10月28日 産経】といった住民の声もあります。

エルドアン首相は26日、テレビ演説で「(震災発生から)最初の24時間に失敗があった」と認めた上で、「ワンやエルジシュには新しい都市計画を導入する」と、成長が著しい沿岸部に比べて遅れがちだった東部の開発を今後は積極的に進めるとの復興策を約束し、不満解消を図っています。

地震によるクルド人の不満が高まると、クルド人過激派勢力のPKKを一掃し、一方で少数民族の権利拡大を盛り込んだ新憲法策定で一般のクルド人を取り込んでいこうという、エルドアン首相の目論見にも支障が出てきます。

トルコ国内のアルメニア原発事故報道にアルメニア反発
トルコは隣国アルメニアとも長年の確執があります。
オスマン帝国末期、少数民族だったアルメニア人は敵国ロシアへの協力などを理由に迫害され、第1次大戦中に大勢が殺害されました。これを「ジェノサイド(集団殺害)」とするアルメニアに対し、トルコは「アルメニア人だけでなくトルコ人も多数死亡しており、こうしたことは戦乱の中で起きた不幸ではあるが、虐殺ではない」として虐殺を否定しています。

更に、アルメニアが隣国アゼルバイジャンのナゴルノカラバフ自治州の独立を求めて92年から紛争が激化した際、トルコが同じトルコ語系のアゼルバイジャンを支持し、アルメニアとの関係を断絶、93年には国境も閉鎖しました。

こうした「歴史的対立」を克服すべく、09年10月には、トルコとアルメニアの国交樹立をうたう合意文書への署名にこぎつけました。
トルコは、地域安定への寄与が、悲願のEU加盟を後押しすると期待。また、アルメニアは、トルコ国境の再開による経済発展を狙うという、「実利」を重視する両国政府の現実路線があると見られています。【09年10月10日 毎日より】

しかし、両国の溝は深く、10年4月には、アルメニアのサルキシャン大統領が「トルコは無条件で和解プロセスを進展させる用意がない」と非難、前年10月に結んだ国交樹立協定について、国会批准を凍結する大統領令に署名しています。その後どうなったのかは・・・わかりません。

いずれにしても、両国の冷えた関係は残っているようです。今回の地震についても、アルメニアの原発で放射性物質が漏れたとトルコ紙が報道したことで、アルメニア側は「政治的な目的がある」とトルコを非難しています。

****アルメニアがトルコ非難 「地震で原発放射能漏れ」情報****
・・・トルコ紙が24日、同国原子力庁の話として、アルメニアにあるメツァモール原発が地震で被害を受け、放射性物質が漏れたと報道。これに対し、アルメニア緊急事態省は同日、原発が9月中旬から修理で停止しており、「被害はない」と否定。震源から約160キロ離れている原発がある地域で観測された揺れと比べて十分に耐えられる設計だとした。同国内には地震で倒壊した建物もないという。【10月26日 朝日】
*****************************
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする