(米ニューヨークで21日に開かれた民間会議にミャンマーからの生中継で参加したスーチーさん 民主化の進展に関して「真の変化の兆候をすぐに目にできると期待している」と語っています。“flickr”より By Clinton Global Initiative http://www.flickr.com/photos/cgiphotos/6169634150/ )
【「テインセイン大統領は前向きな変革をもたらすと信じる」】
民政移管したミャンマーで、新政権の意外な柔軟姿勢、民主化への寛容な対応については、
8月25日ブログ「ミャンマー 民主化勢力との関係改善図る姿勢を見せる政権側」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110825)
9月18日ブログ「ミャンマー 「変化」をアピールする新政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20110918)
で取り上げてきました。
こうした新政権側の対応は、米欧による経済制裁解除や14年の東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任など、国際社会への本格復帰を目指したい思惑もあってことと言われていますが、「彼ら(新政権)は国のために良いことをやっていると見られたがっている。そしてなにより、文民政府であることを示したいのだ」(タイのシンクタンクVahu Development Instituteのアウン・ナイン・ウー氏)といったこともあるように思われます。
民主化運動の象徴的存在であるアウンサンスーチーさんとの関係改善も急速に進展しています。
テインセイン大統領との会談を行ったスーチーさんは、20日、「テインセイン大統領は前向きな変革をもたらすと信じる」と、その姿勢を評価する発言をしています。
****スーチーさん:テインセイン大統領の姿勢評価****
ミャンマー民主化運動指導者、アウンサンスーチーさん(66)は20日、最大都市ヤンゴンにある国民民主連盟(NLD)本部で毎日新聞と単独会見した。「(3月の民政移管で就任した)テインセイン大統領は前向きな変革をもたらすと信じる」と述べ、8月以降、スーチーさんとの直接会談など国民和解や改革を進めている大統領の姿勢を評価した。
ただ、政権が求めている米国や欧州連合(EU)の経済制裁解除については「米欧は政治犯の釈放などを強く求めている」と強調。現段階の解除は時期尚早だが、米欧が解除を決めた場合には反対しない考えも示唆し、政治犯の早期釈放を改めて求めた。
政権側の民主化勢力への柔軟姿勢を受け、会見ではスーチーさんにも政権側に歩み寄る姿勢が目立った。NLDがボイコットした昨年11月の総選挙に関しても「選挙結果を変更せよと主張したことはない」と結果を否定せず、新国会を注視する姿勢を見せた。
国内には「スーチーさんは、国際社会に民主化進展を強調したい政権に利用されている」との懸念もある。スーチーさんは「利用されているとは思わないが、たとえそうでも、国のためになるならば構わない」と語り、「満足していないが、確かに(政権側に)変化が起きている」と述べた。(後略)【9月20日 毎日】
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また、スーチーさんは、ニューヨークで21日に開かれた民間会議にミャンマーからの生中継で参加し、「真の変化の兆候をすぐに目にできると期待している」とも語っています。
****スー・チーさん「変化の兆候期待」 NYの会議で中継****
ミャンマー(ビルマ)の民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが、米ニューヨークで21日に開かれた民間会議にミャンマーからの生中継で参加した。同国のテイン・セイン大統領との8月の初会談などを踏まえ、民主化の進展に関して「真の変化の兆候をすぐに目にできると期待している」と述べた。
スー・チーさんは、国民和解の実現には「双方が妥協の用意をしなければならず、非常に難しい状態にある」と説明。ただ、「私は慎重ながら楽観的だ」とし、「国民は常に何か具体的なものを求めるし、対話は決して十分ではない。だが、変化の第一歩が始まったところだ」と粘り強く取り組む考えを強調した。
国際社会に対しては「まずは国民の声に耳を傾けるべきだ」と述べ、政府だけでなく広範な国民の意思を尊重するよう促した。【9月22日 朝日】
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【「もし(スーチーさんが)議会に参加するのなら歓迎する」】
先の総選挙をボイコットして解党処分となっているスーチーさん率いる最大民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)についても、新政権側は政党としての再登録を認める方針を示唆しています。
スーチーさん自身の議員立候補の可能性についても浮上しています。
****ミャンマー:「スーチーさんの議会参加を歓迎」上院議長****
ミャンマー上院のキンアウンミン議長は、米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア」の電話インタビューに応じ、民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんについて「もし議会に参加するのなら歓迎する」と語った。同放送(電子版)が報じた。
米国や欧州各国は約2000人の政治犯釈放とともに、スーチーさんの政治活動の自由を求めている。議長の発言は、スーチーさんを議会内部に取り込み、国民和解や、経済制裁解除など米欧との関係修復につなげたい政府側の思惑を反映したものとみられる。
スーチーさん率いる最大民主化勢力「国民民主連盟」(NLD)は、昨年の総選挙をボイコットして政党登録を取り消された。しかし、3月の民政移管で発足した新政府のチョーサン報道官(情報相)は8月、政党としての再登録を認める方針を示唆。スーチーさんは今月20日の毎日新聞との会見で、再登録について「政府から正式な通知があったわけではない」としながらも、可能性を否定しなかった。
NLDが再登録すれば、今後行われる国会の補欠選挙への候補者擁立が可能になる。昨年3月に当時の軍事政権が制定した選挙法には、過去に有罪判決を受けたスーチーさんの立候補を認めない条文があるが、政府が法を改正するなどしてスーチーさん自身の立候補を認める可能性もある。【9月22日 毎日】
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軍治安部隊が反政府デモを武力鎮圧し、多数の死傷者が出た事件から丸4年を迎えた26日には、集会・デモは警察当局によって解散させられはしましたが、“警察側は比較的ていねいな口調で、逮捕者などは出ていない”とのことです。
民主化グループ側も警察の指示に従う形で、大きな混乱はなかったようです。【9月26日 毎日より】
【スーチーさん、新政権側と「恩赦計画」などについて協議】
こうしたなかで、スーチーさんや欧米が求めている2000人とも言われる政治犯の釈放問題についても、その可能性が現実のものとなってきています。
****ミャンマー外相、新たな恩赦を表明 国連総会で演説****
ミャンマー(ビルマ)のワナ・マウン・ルウィン外相は27日、ニューヨークで開会中の国連総会で一般演説し、「近く適切な時期にさらなる恩赦を与える」と表明した。ただ、国際社会が釈放を求める約2千人とされる政治囚を含むかなど対象には言及しなかった。
新政府は7月末までに2万人に恩赦を出したとしているが、対象は軽犯罪者が中心で政治囚はほとんど釈放されなかった。今回は経済制裁解除を狙って数百人規模の政治囚釈放が検討されているとの情報もあり、一定規模の政治囚が含まれる可能性がありそうだ。
外相は演説で、「国民の圧倒的多数に承認された憲法に従って、新しい民主国家としての姿を見せた」と述べ、「民政移管」で発足した新政府の正統性を強調。「経済制裁で国民の生活を改善する政府の努力が阻害されているのは残念だ」と制裁解除を訴えた。【9月28日 朝日】
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30日には、スーチーさんも政府の連絡役であるアウンチー労働相と会談、テインセイン大統領による「恩赦計画」を話し合ったとされています。
****ミャンマー:スーチーさん、「恩赦計画」など政府側と協議****
ミャンマー民主化運動指導者、アウンサンスーチーさんは30日、最大都市ヤンゴンで政府の連絡役であるアウンチー労働相と会談した。会談後、アウンチー氏が読み上げた声明によると、両者はテインセイン大統領による「恩赦計画」などについて協議した。
「恩赦計画」の内容は不明だが、国際社会はミャンマーに2000人以上とされる政治犯の釈放を求めている。ミャンマーの東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国就任が協議される11月のASEAN関連首脳会議を前に政治犯の釈放が実現する可能性が強まっている。
会談後、アウンチー氏は記者団に「(スーチーさんが率いる最大野党勢力)国民民主連盟(NLD)が法に基づいて政党として再登録するならば、政府はいつでも民主連盟と協力する」と述べた。これに対してスーチーさんも「再登録が可能ならば、私は民主連盟の中央委員会に再登録の是非について相談する」と表明した。
民主連盟は昨年、総選挙への参加を拒否して政党登録を取り消され、解党処分となった。政党として再登録されれば、補欠選挙などに候補者を擁立し、国会に議員を送ることが可能になる。
スーチーさんとアウンチー氏の会談は7月と8月に続き3回目。これまでの2回は8月のテインセイン大統領とスーチーさんの会談の準備会談的な意味合いが強かったとみられ、今回も、近くスーチーさんと大統領の会談が実現するとみられる。【9月30日 毎日】
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【外相、ワシントン訪問 関係改善を協議】
新政権側は「恩赦計画」の見返りに、経済制裁の解除を求めているようで、ルウィン外相が9月29日にワシントンを訪れ、アメリカ側との協議を行っています。
****ミャンマー外相、米首都訪問…制裁解除協議か****
米国務省は、ミャンマーのワナ・マウン・ルウィン外相が9月29日にワシントンを訪れ、カート・キャンベル国務次官補(東アジア・太平洋担当)やデレク・ミッチェル米政府ミャンマー担当特別代表・政策調整官らと会談したと明らかにした。
両国の高官級協議は9月に入り3回目で、対ミャンマー制裁解除も含めた関係改善が協議されたものと見られる。ミャンマー外相のワシントン訪問は異例。米政府は、民政移管したミャンマー政権がアウン・サン・スー・チーさんとの対話などに乗り出したことを歓迎しており、関係改善に向け、政治犯の釈放などの具体的行動を求めている。【9月30日 読売】
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“とんとん拍子”と言ってもいいような展開です。
新政権側の思惑はいろいろあるにせよ、現実問題として民主化へ向けた改善が少しでも進むのであれば、この機会をうまく利用して新政権の寛容な姿勢を更に後押ししていくのよいのではないでしょうか。