孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チュニジア  23日議会選挙投票 台頭が予想されるイスラム主義政党 女性の地位は変わるのか?

2011-10-24 22:06:24 | 北アフリカ

(チュニジア・ケロアン(ケルアン、Kairouan)10月20日 壁に書かれた世俗主義批判の前を歩くチュニジア女性 “flickr”より By European Parliament http://www.flickr.com/photos/european_parliament/6265562223/

イスラム政党「アンナハダ(復興)」が第一党に躍進する公算
ジャスミン革命(1月)でベンアリ政権が崩壊した北アフリカのチュニジアで23日、憲法制定議会(定数217人)選挙が実施されました。新議会は1年かけて新憲法を制定します。
中東の民主化要求運動「アラブの春」で独裁者を追放した国では初めての国政選挙で、その結果はこれから順次民主化・選挙に着手するエジプトやリビアなどにも影響するものとして注目されています。

投票は23日の午後7時(日本時間24日午前3時)に締め切られましたが、選挙管理委員会によると、目だった騒動の報告はなく、投票率も予想を大きく上回り、事前に投票登録をした410万人中、90%以上が投票したとのことです。【10月24日 AFPより】

****制憲議会選 チュニジア、民主化先陣 217議席に1万人超****
 ■イスラム勢力躍進か
今年1月にベンアリ前政権が大規模デモで崩壊した北アフリカのチュニジアで23日、制憲議会(定数217)選が実施された。
「アラブの春」と呼ばれる民主化運動の発端となった同国に続き、政権が倒れたエジプトやリビアでも今後、議会選が予定される中、自由で公正な選挙を実現し民主化プロセスの「モデル」を示せるかに注目が集まっている。

ロイター通信などによると、首都チュニスの投票所ではこの日、投票開始の午前7時前から有権者が数百メートルの列を作った。
同日夜の投票終了後、即日開票され、24日にも大勢が判明する見通し。
世論調査によれば、前政権下で非合法化されていたイスラム政党「アンナハダ(復興)」が第一党に躍進する公算が大きい。

もともと世俗主義的な傾向が強いチュニジアではここのところ、イスラム勢力が急速に台頭。一部の急進派はシャリーア(イスラム法)の導入を求めるデモを行って当局と衝突するなど、緊張も高まっていた。
こうした状況に危機感を強める世俗派の主要政党、民主進歩党(PDP)は、他の世俗派政党と連合を組みアンナハダなどのイスラム勢力に対抗するとしているが、アンナハダが議会での主導権を握るのは確実な情勢だ。

2月にムバラク政権が崩壊したエジプトでは11月28日に人民議会(下院に相当)選が始まるほか、かつての最高指導者カダフィ大佐が死亡したばかりのリビアも8カ月後に制憲議会選を予定している。両国でもチュニジア同様、イスラム勢力の伸長が目立っており、その意味からも今回の選挙は、地域の行方を占う試金石となりそうだ。

制憲議会は、新憲法制定のほか、近く退任するメバザア暫定大統領の後任の選出、新たな暫定政府発足に向けた協議などを行う。
選挙は、国内の27選挙区、在外チュニジア人の6選挙区の計33選挙区で、各党や会派が提示する立候補者名簿を選ぶ比例代表制。100以上の政党が登録し、約1万1千人の立候補者のうち約半数は女性という。有権者登録をした18歳以上の約720万人に投票資格がある。【10月24日 産経】
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【「近代体制とイスラムのバランスを追求する」】
上記記事にあるように、政治と宗教の関係が選挙の主な争点となっています。
****チュニジア:23日、憲法制定議会選挙実施*****
・・・・チュニジアはイスラムが国教だが、世俗主義をとってきた。しかし「革命」の中核を担った世俗派の中間・低所得者層は「革命」後に組織化が進んでいない。一方でイスラム主義勢力が台頭しており、世論調査によると穏健派イスラム政党「アンナハダ」が最大の20%の議席を獲得し議会の主導権を握りそうだ。

アンナハダは89年に非合法化されたが、今年1月に合法化され、指導者のガンヌーシ氏は亡命先の欧州から22年ぶりに帰国した。英BBC(電子版)によると、ガンヌーシ氏は「近代体制とイスラムのバランスを追求する」と訴え、男女平等の尊重を公約した。ただアンナハダはイスラム原理主義組織ムスリム同胞団を母体としており、世俗派からは、「イスラム国家を目指している」と批判もある。

逆にベンアリ前大統領が率いていた最大与党の「立憲民主連合(RCD)」は解党された。ベンアリ氏の有力後継者とみられたモルジャネ元外相は、RCD元幹部たちを中心に新党「進取」を結成し、経済成長の実績を訴えている。しかし、旧体制に対する有権者の反発は強く苦戦している。【10月21日 毎日】
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【「このままでは、革命が盗まれてしまう」】
そうしたなかで、ジャスミン革命を担った若者たちには当時の熱気・高揚感はない・・・とも報じられています。
有権者登録は55%にとどまったとも。
革命後、新たな体制の受け皿としての若者たちの組織化が進展せず、結局、イスラム主義勢力と旧与党関係者など旧勢力の間で選挙戦が戦われた・・・という状況です。

****アラブの選挙、デモの高揚感なし チュニジア・エジプト****
「アラブの春」の先駆けとなったチュニジアで23日、制憲議会選挙が行われる。11月にはエジプトでも総選挙がある。しかし、長期独裁政権を崩壊させた大規模デモの中心にいた若者たちに当時の熱気は感じられない。躍進しそうなのはイスラム政党だ。

■若者「革命が盗まれる」
チュニス市内では各地に選挙ポスター掲示場が設けられ、市民がのぞき込んでいく。1月の「ジャスミン革命」後、初めて実施される民主的な選挙だ。だが、市民に高揚感はうかがえない。

「部族関係者や旧与党関係者が看板を書き換えて立候補し、イスラム主義者と争っている。投票したい政党がない。私たちは自由な新しい社会をつくろうと立ち上がったのに、このままでは、革命が盗まれてしまう」
逮捕を覚悟でベンアリ政権への批判をネットで発信し続け、今年のノーベル平和賞候補者として名が挙がったリーナ・ベンムヘンニさん(28)はそう語り、選挙から距離を置く。選挙は棄権を考えているという。
 
ュニジアでは、若者たちが「政権打倒」の一点で団結し、デモの中核を担った。だが政権崩壊後、若者たちは求心力を失って分裂した。有権者登録はすでに締め切られたが、登録を済ませたのは選挙権のある18歳以上のうち55%にとどまった。

11月28日から3段階に分かれて総選挙が行われるエジプトでも分裂は進んでいる。デモの中核を担った若者グループは、選挙に立候補しようとするものや、市民団体として政府の監視を続けようとするものに分かれた。さらに「政治参加組」も路線対立でいくつもの新党に細分化した。
若者グループの一つ「4月6日運動」の共同創設者アフマド・マヘルさん(30)は「みんな、ムバラクという共通の敵がいたから団結できたが、ムバラクを倒した後にどうするか、考え方はバラバラだった。分裂が起きるのはある程度、仕方ない」と話した。【10月19日 朝日】
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モデルとするのはトルコ
新議会の主導権を握ることが予想されている穏健派イスラム政党「アンナハダ」のめざすモデルは、穏健イスラム主義で現実路線をあゆみ、欧米とも協調する形で経済成長を実現しているトルコ・エルドアン政権です。
そのあたりの状況はエジプトとも共通しています。

****伸びるイスラム政党****
チュニジアでは、政党などがつくる「候補者リスト」に投票する仕組みの比例代表制で制憲議会選が行われる。111の政党が認可されるなか、9月下旬にチュニジアの地元紙とドイツの研究機関が合同で行った世論調査で25%の政党支持率を集めて1位となったのは、イスラム政党のナハダだった。

ナハダは穏健派イスラム政党で、ベンアリ政権時代は非合法化されていた。政権崩壊後に合法化され、英国に亡命していたガンヌーシ党首が帰国した。政治ジャーナリストのカマル・アビディ氏は「弾圧に耐えたという庶民の評価が高いうえ、活動家を各地に抱える政党はナハダのほかにない」と語る。

エジプトでも、ムバラク政権時代に最大の野党勢力だったムスリム同胞団が結党した系列の「自由公正党」が第1党に躍り出る勢いだ。支持率は複数の世論調査で首位に立つ。

両党が今、モデルとするのは、穏健派イスラム系政党「公正発展党」が与党となり、順調な経済発展を続け、中東外交で強い影響力を発揮しているトルコだ。両党はそれぞれ、現実路線を強調し、欧米のほか国内にも根強い、イスラムの政治への介入に対する警戒感を振り払おうと躍起になっている。

だが、イスラム政党がシャリーア(イスラム法)の導入や女性の地位などを巡って復古的な動きをしかねないとの警戒感は、宗教と政治の分離を求める層や若者らの間で強く、選挙結果によっては社会の緊張が高まる可能性もある。【10月19日 朝日】
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立候補者のうち約半数は女性
革命の高揚感の低下、進まない受け皿づくり、イスラム主義の台頭・・・は、これまでも報じられてきたことですが、冒頭【10月24日 産経】で一番印象に残ったのは、最後の“約1万1千人の立候補者のうち約半数は女性”という箇所でした。

チュニジアにおける女性の地位はアラブ諸国の中にあっては高く、社会進出も進んでいるということは以前から聞いていました。そうした女性の地位が高く、識字率も高いという社会状況が、「アラブの春」実現の背景にあったとも言われています。
“立候補者のうち約半数は女性”ということが、こうしたチュニジア社会における女性の地位を物語っているように思えました。

チュニジアでは1957年以来、女性の投票権が認められています。
女性の権利は、ハビブ・ブルギバ元大統領(87年、無血クーデターで、当時首相だったベンアリ前大統領にとって代わられました)のもとで着実に認められてきました。
例えば、家族計画における女性の権利が保証されるなかで、出生率は2.0ぐらいに低下してきています。

2007年の著書『文明の接近』で予言したとも言われているエマニュエル・トッド氏は、出生率の低下や識字率の向上という変化によって、アラブ革命は起きるべくして起きたと論じています。
むしろ、チュニジアのような国でなぜ今まで民主化が起きなかったのか・・・ということの方が疑問に思われるべきところで、その理由はチュニジアに多かった内婚制にあるとしています。

****チュニジア、エジプト、リビア アラブ革命が起きたわけ****
出生率が下がり、識字率が上がれば政治的な変化が起こる

私が分析をしたところでは、イスラム世界は2007年頃から既に非常に大きな変化が起こっていました。出生率が2.0を切る、3.0以下に落ちているという現象が見られたのです。チュニジア、エジプトなどです。かつてフランス植民地だったアルジェリアやモロッコでも、2.3とか2.4とか、3を下回っていました。また、旧ソ連のイスラム諸国でもやはり下がってきました。さらに中央アラブ諸国、すなわちシリア、ヨルダン、サウジアラビアなどは3~4ですね。それに対してイエメンは5〜6人の子供を一人の女性が生んでいたわけです。同じアラブ世界でも出生率にはばらつきがあります。そうした変化の中で、出生率が下がったところからメンタリティが変わり始めました。

出生率の低下は、人々の頭の中が急速に変化することを示しています。また識字率が上がったことの反映でもあります。特に女性の識字率の上昇というものが出生率の低下と結びついています。普通は男性の識字率の方が先に上がりますから、女性が上がれば当然男性も上がっている。出生率の低下は、結局、男性も女性も識字率の上昇を示しているのです。

次に私はこのイスラム世界における出生率の低下、そして識字率の上昇、そういったことが政治的な状況と比較した場合に、正常な動きをしているかどうかということを考えました。例えばチュニジアの場合、出生率が下がってきた、識字率が上がってきた、若者の識字率は90%近くになっていました。それは近代化や民主化が始まるとされる50%をはるかに超えているわけです。これほど識字率が高くなると、普通は政治的ななにかが起こるものです。識字率の上昇は民主化を牽引し、大衆が政治の世界に踏み込むことになるのです。

当時私は、チュニジアほど識字率の上がった国で何も起こらないのは何故かという疑問を持っていました。何故チュニジアの体制が維持され続けるのか。私がたどりついたのは、アラブ世界には近代化を阻害する要因が他にあるという結論でした。いわゆる内婚制の家族制度です。(後略)【ダカーポ http://webdacapo.magazineworld.jp/top/feature/62663/ より】

今回の選挙、イスラム主義政党の台頭によって、チュニジアの女性の地位が制約を受けることになるのか、あるいは、女性の地位という普遍的な価値観とイスラムがうまく融和できるのか・・・注目されます。
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