孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン  危うい米軍撤退・治安権限移譲への道筋

2011-10-31 22:59:58 | アフガン・パキスタン

(10月20日 カブールを訪問したクリントン米国務長官とカルザイ大統領の共同記者会見の様子 クリントン米国務長官はこの日午後にはパキスタンを訪問しています。 タリバンとの戦闘にしろ和解にしろ、タリバンに強い影響力を持つ隣国パキスタンとの協調が不可欠ですが、苛立ちを募らせるアフガニタン・アメリカとパキスタンの関係は最近よくありません “flickr”より By DTN News http://www.flickr.com/photos/dtnnews/6273746715/in/photostream

【「米国と国民はより安全になった」】
アフガニスタンの旧タリバン政権が9.11の首謀者ウサマ・ビンラディン容疑者の引き渡しを拒んだことからアメリカは2001年10月7日、不朽の自由作戦(Operation Enduring Freedom)を開始しました。
攻撃開始から数週間でタリバン政権は崩壊し、順調に運ぶかのように見えたアフガニスタン情勢は再三取り上げているように、タリバンが復活し、“ベトナム化”とも言われるような出口が見えない状況に至っています。

開戦から10年が経過し、これまでにアフガニスタンと諸外国の軍、民間人、武装勢力などの少なくとも3万3877人が死亡したとも言われています。(米ブラウン大学の研究者)
アメリカ国防総省は、米軍では1788人が死亡し、1万4342人が負傷したとしています。【10月8日 AFPより】

アメリカ・オバマ政権はこうした泥沼からの脱出を目指して撤退計画を発表していますが、米軍撤退後の青写真は定かになっていないのが実情です。

****アフガン10年:米大統領、対テロ戦争の成果を強調*****
01年9月の米同時多発テロを機に米国が始めたアフガニスタン戦争から10年を迎えた7日、オバマ米大統領は声明を発表し、国際テロ組織アルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者らの殺害によって「我々は、これまでにないほどアルカイダとその凶悪なネットワークの打倒に近付いている」と述べ、対テロ戦争の成果を強調した。

大統領は声明で、10年に及ぶ戦争で犠牲になった米兵約1800人のほか、同盟国やアフガニスタンの犠牲者にも哀悼の意を表明。捜査機関などの労もねぎらい、「彼らの貢献に感謝する。米国と国民はより安全になった」と謝意を表した。

09年1月のオバマ政権発足時に約3万2000人だったアフガン駐留米軍は増派を繰り返し、最大時には約10万人に達した。大統領は今年6月、年末までに1万人、来年夏までに総計3万3000人を撤収させる計画を表明し、14年までのアフガン治安部隊(軍・警察)への治安権限移譲を目指している。
大統領は声明で「我々は責任ある形で戦争を終わらせる」と述べ、自らが定めた撤退計画の着実な遂行を改めて強調した。【10月8日 毎日】
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故マスード司令官の拠点でも自爆テロ
米軍撤退後の治安維持を担うアフガニスタン治安部隊(軍・警察)への信頼を失墜させるべく、タリバン側のテロ攻撃が首都カブールやISAF施設で頻発しています。

10月15日には、「国内で最も安全な場所の一つ」とされてきた、北部パンジシール州で自爆テロが起きています。
パンジシール州は、タリバンの宿敵だった北部同盟の故マスード司令官の故郷で、これまでタリバンの活動はほとんどなく、今年7月にアフガニスタン側に治安権限が移譲された地域です。


****アフガン:タリバンが自爆攻撃 「安全な場所」で初****
アフガニスタン北部パンジシール州の北大西洋条約機構(NATO)軍が管理する地方復興チーム(PRT)事務所の入り口で15日、車などを使った連続自爆攻撃があった。ケラム州知事によると、事務所に物資を運ぶ途中のトラックのアフガン人運転手1人が死亡、事務所内にいた米兵は無事だった。死者は2人との情報もある。旧支配勢力タリバンのムジャヒド報道官が攻撃を認めた。

パンジシールは、かつてタリバンと内戦を展開した軍閥集団「北部同盟」のマスード将軍(01年に暗殺)の拠点で、「国内で最も安全な場所の一つ」とされる。北部同盟を支援した米国の01年のアフガン侵攻以来、初の自爆攻撃となった。【10月15日】
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【「50%か、あるいは40%なのか、まだわかる段階にはない」】
そうは言っても、アメリカとしてはアフガニスタン治安部隊に権限移譲していかないとアフガニスタンからの脱出ができません。
10月20日にはクリントン米国務長官がカブールを訪問し、カルザイ大統領と会談、「出口戦略」を確認しています。

クリントン米国務長官は、「和解への努力は続けねばならず、隣国の協力が不可欠だ」と述べ、カルザイ政権とタリバンとの和解を重視する姿勢を示しています。

しかし、“アフガン高等和平評議会の議長だったラバニ氏が先月、タリバーンの使者を名乗る男に殺害され、カルザイ氏はタリバーンとの直接交渉へ向けた努力を打ち切る意向を表明。さらに、アフガン政府はタリバーンに影響力を持つパキスタンの関与を疑い、和解に不可欠な二国間の協力関係は急速に失われている。”【10月21日 朝日】といった現状での和解は困難とも見られています。

クリントン国務長官は27日、アメリカ議会下院外交委員会のアフガニスタンとパキスタンに関する公聴会で証言し、アフガニスタンでは反政府武装勢力に対し、戦闘と話し合い、国家建設という3方法同時進行の戦略で対処していると述べながらも、なお混乱が多いことを認め、現在の紛争の政治的解決の成算は五分五分だとも証言しています。

****アフガン紛争 政治解決50%****
米国務長官、戦闘・対話・国家建設3戦略に混乱

・・・議会では与党の民主党側からも、オバマ政権のアフガニスタン政策が米軍縮小を進めながらも、国際テロ組織アルカーイダと結んだタリバンなど反政府武装勢力の攻撃が絶えないことへの批判が高まっていた。
クリントン長官の証言は議会側のこうした動きに答えることが目的で、オバマ政権がタリバンやその分派とみられるハッカニ・ネットワークに対しまず戦闘によって帰順を目指す戦略をとっていると述べた。長官の証言によると、同ネットワークはパキスタン領内から軍事攻撃をかけることが多く、その方法が米軍やアフガン政府軍を困惑させているという。

だがクリントン長官は、米国代表がごく最近ハッカニ・ネットワークの代表と会合を持ったことを認め、戦闘と交渉を同時に進める混乱があることも認めた。同長官は米国が第2の方法としてタリバンや同ネットワークと話し合いによる政治和解をも目指しているとして、その前提条件はタリバン側が武力攻撃を全面放棄することだと強調した。

同長官は米国が対アフガン戦略の第3として国家や社会の構築を進めていると述べ、通学児童の数の増加などを指摘した。しかし議員側から紛争の平和的な政治解決への可能性を問われると、同長官は「50%か、あるいは40%なのか、まだわかる段階にはない」と答えた。【10月29日 産経】
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「50%か、あるいは40%」という数字は、かなり“希望的”なもののように思えます。
29日には、再び首都カブールでISAFを標的にしたテロが発生しています。
カルザイ大統領は、これまでの7地域に加え、11月初旬にも、新たに治安権限を受け継ぐ地域を発表すると言われていますが、首都で頻発するテロは、こうした撤退計画の危うさを示しています。

****アフガニスタン:自爆テロ 米兵ら17人が死亡****
アフガニスタンの首都カブールで29日、駐留する国際治安支援部隊(ISAF)に対する自爆攻撃があり、ISAFや内務省によると、同隊員13人と市民3人、警官1人の計17人が死亡した。AP通信は隊員13人全員が米兵だったと伝えた。反政府武装勢力タリバンが犯行を認めた。

爆弾を積んだ車がISAFの車列に近づいて爆発した。南部カンダハルでも同日、アフガン国軍の制服を着た男が国軍兵士やISAF隊員に向かって発砲し、同隊員2人が死亡した。東部コナル州でも同日、女が地元当局の事務所への自爆攻撃を仕掛けたが死傷者はいなかった。【10月29日 毎日】
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死亡したISAF隊員13名は、兵士5人と民間の契約要員8人。
この13人のうち兵士1人はカナダ人。契約要員は2人がイギリス人で、残りはアメリカ人とみられています。

オバマ大統領の米軍撤退計画は、大統領選挙を睨んで、有権者へのアピールを狙った色彩が強く、現場の米軍トップの意見とはギャップがありました。よく言えば“政治的決断”でしょう。
マレン前統合参謀本部議長は6月のアメリカ議会証言で「私が勧めた撤退案に比べ(米部隊への)危険度は高い」とも発言しています。

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